一学年のクラスの挨拶回りだけで私は一時間目終了まで掛かってしまっていた。
原因はずばりブリュンヒルデこと織斑千冬、私達の姉の為だった。
どのクラスでも私が名乗る度に騒然とし、質問ぜめになるのだ。
つくづく我が姉の偉大さが分かる。世界最強は伊達ではないという事らしい。
だから次の学年に行く前に少し休憩しようとしていた私はちょっとしたテラスを見つける。
出来れば飲み物でもと思ったのだが、休み時間に自販機の側などに居たら生徒達の質問攻めに
合いそうだったので避けたのだ。
だが到着してから先客が居る事に気づく。見た所二人いるようだ、それも見知った顔が揃ってる。
一夏ちゃんと幼馴染の篠ノ之箒ちゃんだった。
彼女とは6年ぶりになる、二人ともよく遊んであげたものだ。
「6年ぶりとはいえ幼馴染なんだぜ、覚えているに決まっているだろう。」
「そ、そうか。」
「髪型も変わってないしな、そのポニーテール似合ってるぜ。」
箒ちゃんは嬉しさを隠すように髪を弄っている。
しかしはたから聞いてる口説いている様にきこえるが、まあ一夏ちゃんにそれは無いだろうな。
そう言う事を無自覚にしてしまう子なのだ、ある意味始末が悪いけど。
さて二人とも久々再会の様だし邪魔するのも悪いだろう、私は馬に蹴られたくないし。
他の所で休憩しようと方向転換したところで事態が変わったのだった。
「大体あれは一夏が悪い。オルコットが怒るのも当然だ。」
「そう言われてもなあ。俺イギリスの代表候補生なんて知らなかったんだし。」
「代表候補生自体知らなかったじゃないか、だからあんな事を仕出かすんだぞ。」
「いやあれは・・・そのちょっとした手違いで。」
何だか揉めだした一夏ちゃんと箒ちゃん、というより彼女が一方的に糾弾している。
一夏ちゃん何か仕出かしたのだろうか?あの子も結構大概だから。
本来なら仲裁に入るところだけれど、果たしてしてもいいところだろうか?
昔ならともかく現在じゃ立場がある、先ほど千冬姉は公私のけじめはつけると言っていたし。
そうやって躊躇しているうちに、私に一夏ちゃんが気づいてしまう。
「千秋姉じゃないか。そんな所でなにをしてんだよ。」
心底嬉しそうに私を呼ぶ一夏ちゃん。これでは立ち去ることも出来ないではないか。
良くも悪くも私は一夏ちゃんには幼い頃から懐かれていたものだ。
千冬姉に対しては・・・まあその事は触れない方がいいだろう。
「一夏話を・・・って千秋さん?」
話の途中で逃げられ激怒しかけた箒ちゃんも私に気付き驚いた表情を浮かべる。
「お久しぶりね箒ちゃん、一夏ちゃんも。」
こうなったら仕方がないだろう、私は観念して二人の所に行く。
「は、はい千秋さんお久しぶりです。先ほどは驚かされましたよ。」
「はは・・・私自身も驚いているけどね、箒ちゃんに一夏ちゃん。」
控えめながらも嬉しそうに話す箒ちゃんに私も微笑み返す。
「本当だぜ千秋姉、いつ北海道から?それに他の人達は一緒じゃないのか?」
私はIS学園に来るまでは北海道にある航空防衛隊千歳基地の救難部隊にいたのだ。
お蔭で実家に戻れるのは数ヶ月毎、任務の性格上長期休暇も取れなかった。
「今日私一人だけ。残りの人達は機材と共に後日来る予定。」
防衛隊内部の手続きの問題で私だけ先に来たのだ。
「そうか・・・大淀さんや霧島さん達は元気なのかな?」
「ええ二人共元気よ。一夏ちゃんに会いたがっていたわよ・・・もちろん他の人たちも。」
懐かしそうに救難隊メンバーの事を聞いてくる一夏ちゃん。
「一夏、大淀さんや霧島さんというのは誰なんだ?」
一夏ちゃんが言った名前を聞いて箒ちゃんが聞いてくる。
「ああ二人とも私の所属する救難隊のメンバーよ。」
大淀さんこと大淀遼子三等空尉と霧島さんこと霧島雅二等空曹のことだ。
ちなみに大淀三尉は、私の搭乗するジェット救難捜索機の副操縦士であり、
霧島二曹は救難救助ヘリに搭乗している救難員だ。
「一夏ちゃんが千歳基地まで会いに来てくれた時に紹介してね。」
二人共一夏ちゃんを結構気にいってくれたみたいだった。
「はは・・・大淀さんは嬉しいけど、霧島さんはちょっと。」
苦笑する一夏ちゃん。まあ大淀三尉は普通に構っていたけど、霧島二曹は鍛えがいがあるっていって自分のトレーニング付き合わせようとしてからね。
「ふーんそれで一夏、その二人は女性か?」
「へっそうだけど・・・」
あっ箒ちゃんの機嫌が悪くなっちゃったかな。ここはフォローしておきますか。
「大淀三尉や霧島二曹にとっては一夏ちゃんは弟みたいなものよ、二人共私達姉弟に憧れていたからね。」
私はウィンクしながら箒ちゃんに説明してあげる。
「べ、別に私は気になんかしてませんが・・・」
と言いつつ一夏ちゃんを見ている。駄目だよ箒ちゃん、この弟の鈍さは世界最強なんだから。
「?」
ほら我が弟は全然分かっていない、私は内心ため息をつく。
しかしこれだと榛名美弥三等空曹の事は黙って置いた方が良さそうだ。彼女は男性恐怖症のところがあり、最初は怖がっていたけど一夏ちゃんが帰る頃には結構仲良くなっていたのだ。
ちなみに榛名三曹は私の搭乗機の機上無線員をやってくれている。
余談だが私のいる救難隊は私を含め4名の女性隊員と男性隊員5名の計9名のチーム編成だ。
なお一夏ちゃんを気にいったのは女性隊員達だけでなく男性隊員達もだった。
「そのうちこっちに皆来るから、その時に聞いてみなさい。」
「・・・良いんですか?」
「もちろん箒ちゃんや他の子達にも是非紹介したいからね。」
大淀三尉達なら箒ちゃんのこと気にいって妹扱いしたがるかもしれない。
「ところで二人共どうしたの?」
流石に何を揉めていたのとは聞けなかったのでそう質問してみたのだが。
「そうだ千秋さん聞いて下さい、一夏のやつイギリス代表候補生のセシリア・オルコットを怒らしたんです。」
どうやら向こうから話し掛けきた(かなり高飛車だったらしいけど)オルコットさんに
一夏ちゃんはやらかしたらしい。
曰く、「イギリスの代表候補生の私に話し掛けられて光栄になのですから」と言われた一夏ちゃんが「代表候補生って何だ?」と返し、オルコットさんを激怒させたらしい。
「って一夏ちゃんって代表候補生の事知らなかった?」
「え、ああ全然。」
涼しい顔で言う一夏ちゃん。隣で箒ちゃんが「まったくこいつは・・・」と嘆いている。
まあ気持ちは分かる、仮にもIS学園に入学したのだから知っておいても無駄ではないと思うのだけど、一夏ちゃんらしい。
ISについては素人な私でさえ学園に配属されるから知っておいた方がいいからと調べたというのに。
セシリア・オルコットさんについても多少は知っている、まあメディアに載っている事くらいだが、確かイギリス貴族らしい結構プライドが高い少女みたいだ。代表候補生に誇りを感じているはずだ、それに面と向かって「代表候補生って何だ?」なんて聞けばそれは激怒するだろう。
まあ、その時は時間切れでそこまでで終わったらしいが。
「だからその後の講義でもあんなこと仕出かすんだぞ。」
・・・まだあったらしい。
「こいつ講義が始まるまでに呼んでおけと言われた資料読んでいなかったんですよ。」
「資料って?」
箒ちゃんがスカートのポケットから携帯端末を取り出してみせる。
「これに入れられて一夏の元に届けられたはずなんですが。」
私は一夏ちゃんに聞いてみる。
「一夏ちゃんそれどうしたの?」
「何だか分からなかったからほっぽいて置いた。」
「今何処に有るのかな?」
「・・・多分家だと思う。」
私は頭を抱えたくなった。一体何をしてるの一夏ちゃん。
「しょ、しょうがないだろう。本当に分からなかったんだから。」
「何がしょうがないだ、山田先生それ聞いて涙目になっていたじゃないか。」
箒ちゃんが心底呆れた表情を浮かべて一夏ちゃんの首を締め上げている。
そりゃ山田先生も泣きたくなるだろう、思わず彼女に同情したくなった。
「それでどうなったの?って講義の時千冬姉いや織斑先生もいたんじゃないの。」
締め上げていた手を外し、箒ちゃんが深いため息をつく。
「もちろん激怒しました・・・クラス全員が凍りつくほどに。」
その時の状況を思い出したのか、一夏ちゃんが顔面蒼白になっている。
「直ぐに代わりを用意する。一週間で覚えろ。」
織斑先生はそう言ったらしい・・・一夏ちゃんは抗議しようとしたが、
「出来ないなら分かっているな。」
もちろん駄目だった。
「ち、千秋姉、俺に教えてくれ!!」
突然私にすがってくる一夏ちゃん。あの・・・箒ちゃんの頬が引きつっているんだけど。
「ISに関しては私は素人なのよ。教えられるわけないと思うんだけど。」
私の答えに一夏ちゃんは崩れ落ちる。やれやれ私はその姿に深い溜息をつくしかなかった。
「自業自得だ馬鹿者。」
箒ちゃんも私と同じような心境なのか千冬姉の様なことをいう。
「兎も角手伝ってやるから言われた様に覚えろ。」
「箒!!助かるよ。」
感激したのか箒ちゃんの両手を握り締める一夏ちゃん。
「ば、馬鹿者。感謝などいらんから離せ。」
握り締められて箒ちゃんは真っ赤になっている。この二人ほんと変わらないな・・・
「手伝ってもらう以上箒ちゃんを困らせないようにしなさいね一夏ちゃん。」
「分かっているよ千秋姉。」
本当に分かっているんだろうかこの弟は。
そうしているうちに予鈴が鳴り響く。
「二人共もう戻った方がいいんじゃない?」
「そうだぞ一夏。それでは失礼します織斑三佐。」
「あ、ありがとう・・ございました、千秋姉じゃなかった織斑三佐。」
最後だけちゃんとしても・・・まあいいか。
走り去る二人を見ながら、私はこれ以上の厄介ごとが起こらないことを祈った。
しかし残念ながらその祈りは叶わなかった。
次の厄介ごとはその大きな口を開いて私達を待っていたのだ。