その日ようやく救難隊の残りのメンバーと機材が揃った。
格納庫前に並ぶ機体達。
ジェット救難捜索機のU-125A。
救難救助ヘリコプターのUH-60J。
そして整列して待っている隊員達。
「大淀三尉以下8名、本日IS学園支援飛行隊救難班に着任いたしました。」
敬礼し着任の報告を私にしてくれる。それに対し同じく敬礼を返しながら答える。
「皆さんご苦労様。突然の移動で大変でしたが、いよいよ本日より任務開始です。」
皆の顔を見ながら私は続ける。
「全員最善を尽くしましょう、他の人を生かすために・かけがえのない命を救うために。」
「「「「「はい!!!」」」」
「予備の機体は明後日には百里基地の救難班が持ってきてくれるそうです。」
早速救難班詰め所に入り私は大淀三尉から報告を受けていた。
「本来ならこっちが受け取りにいかなきゃならいんだけどね。」
私は端末に表示されている報告を読みながらぼやく。
何しろISの訓練は来週から始まるのだ。それまでに機体の整備や訓練空域の確認、輸送班や整備班、飛行管制班、気象班等との打ち合わせ。
やらなければならない事が山積みなのだ。
「とりあえず始めましょうか。」
「はい、班長。」
午前中の作業が何とか一段落した頃、私の携帯端末にメールが来ている事に気付く。
「・・・千冬姉いや織斑先生から?」
ー相談したい事がある。IS学園の食堂で1215までに来てくれ 織斑千冬ー
相談したい事?朝会った時にはそんなこと言ってなかったのだけど。
本来なら昼食は支援隊棟にある食堂で救難班の人達と取るつもりだったのけど。
「私達は構いませんよ。行ってきて下さい。」
大淀三尉にそう言われ私は皆の好意を受ける事にする。
何しろここに来てゆっくり話す時間がまったく取れなかったのだ、嬉しくないと言えば嘘になる。まあそれが仕事がらみだとしてもだ。
支援隊棟から学園まではそんなに離れてはいないので行くのは楽だったのだが、私は学園内の地理を完全に把握していないことに着いてから気付く。
お蔭で生徒さんに案内してもらう羽目になってしまったのは些細な事だと思いたい。
何とかそれでたどり着けたのだけけど・・・ここ本当に学校の食堂なんだろうか?
豊富なメニュー類、広い室内、おしゃれな内装。しばし入り口で私は固まってしまう。
流石は特殊国立学校というべきか。
「待たせたかな織斑三佐。」
後ろからやって来た千冬姉に声を掛けられて私は何とか動くことが出来た。
「いえ、私も今来たところです。」
食券を買い列に並ぶのだが、どうも落ち着かない。何だか視線が集中してくるのだ。
それもしょうがないかも知れない。それは私の服装せいだろう。
学園生徒の制服でなく、織斑教官の様なスーツでもない。
一人航空防衛隊の制服姿なのだから・・・何だか入ってはいけない所に入ってしまった気分だ。
とはいえ服務規程で勤務中はこの姿でいなくてはならないのだからしょうがないのだが。
ようやく料理を手にし、私達はちょっと奥まった場所に座る。
「どうした落ち着かないな。」
「いや私がここに来ても構わないのですか?」
周囲を気にする私を見て千冬姉が聞いてくる。
「そんなことか、ここはIS学園関係者なら誰でも使える所だぞ。」
千冬姉は気にするなという様に答える。まあそうならいいのだけどやはり落ち着かない。
「兎に角食べろ。時間が勿体無いからな。」
確かに昼休み時間は限られている。私は料理を食べ始める。
食べ終わりカフェコナーからコヒーを持ってきて食後のお茶を始めたところで話が始まる。
「・・・えっと織斑先生今何と言いましたか?」
「だから織斑一夏とセシリア・オルコットが一週間後にクラス代表決定戦の為演習を行うことになった。」
どうやら聞き違いでは無い様だった。でもよりによってオルコットさんと一夏が?
「何でそんな事に?」
千冬姉の話によれば、クラス対抗戦に出る代表者を選ぼうとした時に生徒達が織斑一夏を推薦したらしい。
だがそれを面白く無いと思ったセシリア・オルコットが猛抗議。
実力から行けば自分がクラス代表になるのは当然だと主張したあげく、文化的に後進的な国だと言い出し、それに一夏ちゃんが激怒し険悪な状態に。
「それでその状況を解決する為二人の演習をやろうというわけですか。」
やれやれ家の弟はどうしてこうも厄介事に巻き込まれるのだろうか。
それにしても演習、いやこの場合は決闘と言う訳だ。あっちは貴族様だし。
「こういっちゃなんだけど・・・勝てるのかしら一夏ちゃん。」
ぽつりと呟いてしまう私。
相手はイギリス代表候補生だ、対して一夏ちゃんは極最近にISに触れたばかり。
「お前は勝てると思うか千秋。」
「勝てるかって・・・これろくに訓練しないで救難活動する様なものでしょう千冬姉。」
私は深い溜息をついて首を振ってみせる。
「確かにな・・・無謀であり、極めて危険だ。」
私の例えを聞いて千冬姉も深い溜息をつく。
「でもそうなら何故こんな提案を?」
私よりISを知り抜いている千冬姉がそんな提案をした事に驚く。
「千秋は今の世相をどう思っている?」
コヒーを一口飲むと千冬姉が聞いてくる。
「男卑女尊の事?」
千冬姉が頷いて見せる。
「ISは女にしか扱えないから女の方が偉い、ってそれじゃIS無かったら女は駄目って言っている様なものよね。自ら卑下しているじゃない。」
道具に頼っている時点で駄目でしょう。まあこれは男にも言えるけど。
ちなみにうちの救難隊のメンバーは男女混合だ。これは男女お互いの長所を生かし、不足している所を補ってこそ救助活動が出来ると言う私の信念の結果だ。
まあそのお蔭で防衛隊内部にも居る男卑女尊派の連中に「女性隊員の地位を下げる気か。」とよく絡まれる。
私はそう絡まれると何時もこう言って答える「それがどうした。」と。
「もしかしてそれを打破する為に?」
ちょっとそれは一夏ちゃんには荷が重い気がするのだけど。
「そんな大それた事など考えてはいないさ。ただオルコットが何か感じてくれたらと思っただけだ。」
溜息をついて千冬姉が答える。
「それにあいつなら何かしらやって見せるだろうしな。」
そんな千冬姉に私はちょっと意地悪気味に聞いてみる。
「世界最強の弟だから?」
私のそんな質問に千冬姉は片を顰めて答える。
「お前の弟でもあるんだがな。」
千冬姉の返しに私は肩を竦めて言う。
「私は千冬姉と違って平凡なパイロットですから。」
次の瞬間、千冬姉の顔に意地悪な笑みが浮かぶ。
「ほう、国際航空救難隊技術大会で強豪国達を抑え、3年連続優勝のチームを率いる。」
「・・・・・・・・」
「1年前のタンカー火災の際は、最後の砦と言われた航空救難隊すら断念しかけた救助を成功さ せ奇跡の救助劇を成功させる。」
「・・・・・・・・」
「そんなパイロット様が平凡とは・・・恐れ入る。」
「御免なさい、私が悪かったです。もう許して下さい。」
私はテーブルに突っ伏して許しを請う。
こういう賛美は苦手な私と知って言ってくるのだから、この姉は底意地が悪い。
ブリュンヒルデと言われ、世界中にファンがいるこの姉が、妹を虐めて喜ぶサディストだと、
私は言いたい・・・報復が怖いから言えないけど。
「つまりそんな姉達の弟だから?と言いたい訳だ。」
どや顔で、私に逆らうなど10年早い、と示している千冬姉に聞く。
「そういうことだ。お前はそう思わんのか?」
「それはもちろん思っているけどね。」
一夏ちゃんならやって見せるだろうとは私も信じている。
総じて私達姉は弟に密かに期待をかけているのだから。
「そう思っているならあいつの相談相手になってくれ。」
「言わなくても分かると思うけど、私ISは完全に素人なんだけど。」
ISの適性が無かった私はそっち方面に進まなかったので、知識など世間一般並みだ。
「ISの方は別の者がやるだろう。篠ノ之あたりが張り切っているしな。」
「箒ちゃんか、あの娘も健気よね。」
6年前もそうだった。そして6年経っても箒ちゃんの思いは変わっていなかった。
「・・・その健気さが肝心の本人に届いていないのではな、悲劇を通り越して喜劇の世界だ。」
ほんと家の弟くんは究極のにぶちんだ。一体誰に似たんだろうか。
「だからメンタル面とかそっちの方だ。お前の言うことならあいつも聞くだろうしな、昔からお前だけには懐いていたからな。」
「私にはちっとも懐かなかったくせに。」、そうぼやく千冬姉に苦笑してしまう。
「千冬姉ももっと優しい言葉を掛けてやればよかったのに。」
「そうは思っているんだが、どうしても立派な人間に育てなければと力んでしまってな。」
まあそれはしょうがない話かもしれない。両親のいない織斑家では千冬姉は家長役だ。
私や一夏ちゃんを育て上げなければならなかったのだから。
もっとも私は一夏ちゃんほどうるさくは言われなかったのだけれど。
そんな私の心情の気付いたのか千冬姉は皮肉な笑みを浮かべて言う。
「手間の掛かる弟もだが、手間のまったく掛からない妹にも困らされたがな。」
残ったコヒーを飲み干し私の顔を見て千冬姉は語る。
「内に溜め込みすぎて何か起きるんじゃないかと心配させられたもんだ。」
「えっと御免なさい。」
何だか謝ってしまう私。
「ふっ冗談だ。その位でどうにかなるほどやわじゃないと信じていたからな。」
冗談って、この姉は本当に意地が悪い。信じてくれていたのは嬉しいけど。
私は溜息をついて答える。
「兎に角、相談相手の件は了解しました。微力ながらもやってみます。」
千冬姉はその言葉に深く頷き、そして・・・
「ところで織斑三佐。」
先ほどの底意地悪い笑みを再び浮かべて馬鹿丁寧な言い回しをしてくる千冬姉に私は嫌な予感を覚える。
「私は学園では公私のけじめは付けると言ったはずだが。」
先程から私的な会話になった事を言っているのだろうが、それを今更言いますかこの姉は。
「貸し一つだ織斑三佐。」
どうやってもこの姉には勝てない、今更ながら思い知らされる私だった。