実習辛いッス(本音)
前回のあらすじ。日向と紫と俺の三者面談中、母親にもう会ってると言われた。
「……って言っても、大方予想はついてたけどね」
「なんだ、ついていたのか。なら話は早い、帰ったら会ってみると良い」
「ああ。……ありがとう、
「……………」
「………何だよ?」
「いや、キミの口からその言葉が聞ける日が来るとは思わなくてね。思わず感涙してしまった次第だ」
「一滴たりとも流してないのによく言えたもんだ。──じゃ、行ってくる」
「どこへだい? まさか幻想郷へ?」
「違う違う。今はまず、早苗の方を片付けたいだけだ」
「なるほど。なら、キミの友人……麻見と言ったか、彼と行くと良い」
「……? まぁ、元からそのつもりだけど……」
妖怪退治の一族の末裔である麻見は、ただの人間よりは見える。だが修行なんかはしておらず、「先祖がそんな事してました」程度のものだったので、俺はその目を頼るつもりだったのだが。
「ならいい。私からは今度、長柄の武器の扱い方を伝授しよう。何、殺しはしないさ」
「いや殺されても困るわ。じゃ、また」
「ああ、行ってらっしゃい」
「……行ってくる」
***
「よ、麻見。その後どうだい?」
「風萩か。しばらく見てたけど、少なくとも悪霊の類は憑いてなかった」
「それだけでも十分な収穫だよ」
「……でもまあ、よく考えればそんな事させる悪霊居るはず無いか」
「居てほしくもないけどな。妖怪なら有り得るかもしれないけど」
幻想の否定された外の世界で、紫による補助無しでしっかりと存在し、影響を及ぼす事が出来る、という事は……大妖怪、と称されるべき者だろう。となると勝ち目は薄い。
「……妖怪のがめんどくさいな?」
「それは……昔からそうじゃないかなぁ」
「や、まぁ、1番怖いのは人間だとも言うし……って、そうじゃないそうじゃない、話ズレた。実は、───」
***
鷺宮さんが、こちらに来た。いつもなら警戒するけれど、今日は昨日と打って変わってとぼとぼとした足取りだった。いつも連れている女子も居ない、完全に彼女1人で。
「……早苗」
「昨日、私言いませんでしたっけ? ご飯は自分で買ってください、って」
「だ、だから謝りに来たんだ。その……今まで、ゴメン」
「……はい?」
一体どんな心変わりだろう。イマイチ状況に着いていけず、目をぱちくりさせていると、半分泣きそうな顔になってしまった。
「え、ええと……その、今までと違い過ぎて、理解が追い付いてないと言うか……」
「……あっ、ゴメンね。急に言われたら、困るよね……」
と言って、ぽつぽつと話し始めた。最近の事が無ければ到底信じていなかったであろう、荒唐無稽な話。
「実は、ね。髪の毛真っ白のお兄さんが来たんだ」
「……話、聞いたの?」
「うん。信じるには急だったけど……なんか、信じられたんだ」
いつの間にか敬語も外れ、ただ聞き入っていた。
***
「──に挑戦したいんだけど」
「お前ほんっとに滅茶苦茶言うよなぁ……特訓くらいならするけど、出来る保証は無いぞ」
「十分だよ。それにこれ、お前の先祖が使ってた方法なんだろ?」
「いやそうだけどぉ〜……もう何代も前の事だし……」
「やってみるだけ! な? 1回、1回で良いから!」
「……お前さ、その見た目でその言い方誤解生むから辞めといた方がいいぞ」
「……はい?」
「なんでもねーよ。……分かった、やるだけやってみようぜ」
「さっすが! で、どうしてたんだ?」
「えっと……」
***
「……話は大体分かりました。私も最近色々とあったので、その話は信じることにします」
色々と、というのは……まあ、本当に色々。赤髪の男女(しかも人間ではないという)が神社にやって来て、神や妖怪の最後の楽園《幻想郷》なる場所に洩矢神社を引越しする。しかし子孫である私が心配で、迷い事を晴らしてから行く事にしたので、風萩くんと美鈴さんが神社に居候する事になった。
そんな荒唐無稽な体験をした後なのだから、白髪の青年が訪ねてきた所で特に驚くことは無い。
しかし、「まだ彼女はお守りを持っている」という話はする意味があったのだろうか?
「……ほんとに? 話しておいてなんだけど、疑ったりしないの?」
「ええ、まあ。……ほら、こんなにボロボロになってしまって……」
「うわぁホントだ! 実はね、私も出てきたの! ほら!」
──綻びを縫った跡がある、のは良いのだけれど……。元の布がほぼ残っていないのは、何故なんだろうか。せいぜい10年ちょっとしか経っていない筈だけど……。
「あはは、みゃーこに爪研ぎに使われちゃってて……。だからこんなにカラフルになっちゃったんだー」
「……なるほど。そういえば、飼ってましたね。キャットフード、美味しかったですか?」
「う゛ぇっ、思い出させないでよ!?」
いつからだろう。彼女の顔を直視しなくなったのは。
いつぶりだろう。2人で一緒に、くだらない話で盛り上がったのは。
「ふ、ふふ……あははっ」
「あははははっ」
複雑に見えた糸は、両端を引っ張るだけで一切の結び目無くピンと張れた。
私たちの諍いは結局、長い長い徒労に終わったのだ。
***
一方その頃、霊夜と麻見
「……なんか、方法聞くだけ聞いて使わないっていうパターンになりそうだな」
「だな。やー、でも俺としてもロクに修行してない状態で成功するとも思えねえから良かった良かった、うん」
安堵する麻見だったが、内心結構焦っていた。昔古い文献を漁り、失敗した時の代償を知っていた以上、そんな術は使いたくなかったからだ。
そもそも霊夜を見るまで人間に友好的な妖怪が本当に居ると信じていなかった麻見だが、それだけに手順こそ知っていたものの、その術の修行──実際はそれ以外もだが──を全くしてこなかった。
だが、それが今必要になる(かもしれない)と、先祖も麻見も予想だにしなかった。
「…… え?」
ソレは、何の脈絡もなく現れた。
「お、おいおい……」
「いつから、いや、どこから……!」
ソレは、薄ら笑いを浮かべながら、屋上に降り立った。どことなく零の面影を持った顔。見慣れない装束。腰に穿いた太刀。そして──狼の耳と尻尾。
「──やぁ、零。
自らを零の父と名乗る謎の男の登場に、零は警戒態勢をとっていた。
「父さん? 迎え? 生憎間に合ってるよ」
「ほう?」
謎の人の耳がピンと立ち、同時にその場の空気が張り詰めてきた。先生は……呼んでも無駄だろう。そもそも本来、屋上は出入り禁止だ。
そんな事を考えている間に、親子(?)の舌戦は続いている。
「俺を殺そうとしといて『迎えに来た』ってなぁ……流石に虫が良すぎるんじゃないのかい、アンタ」
「はは、それもそうだ。──では改めよう。キミを殺しに来た」
さらっと言ってのけた衝撃的な台詞と同時に、謎の男は刀の柄に手をかけた、次の瞬間。
「伏せろ!」
「おわっと!?」
半分叩きつけられるように伏せた後ろで、サンッ、という小気味の良い音が聞こえた。確か後ろには、鉄柵が……
「いいっ……!?」
豆腐のように切断され、下へ落ちていった。ゲームや何やらで『斬撃が飛ぶ』という表現を聞いたことがあるが、今まさに目の前で起きた。起きてしまった。
「おいおいマジか……」
「クソッ!」
零が一気に妖力と……それよりも強い別の力を放出して、両手に炎をつくり出した。
「ここはとりあえず食い止める! だから早く逃げろ!」
「お、おう……つったって、どうすんだよ!?」
「分からん! あとそんなに長くは持たない、早く!」
「……わ、分かった! 死ぬなよ!」
叫んでから、死亡フラグみたいだな……と思ってしまうが、もうそこは祈るしか無い。ドアを蹴破るように開け、階段を半ば落ちるように降りて、走り出す。
「(クソッ、逃げろっつったってどこ行きゃ良いんだよ!? あのおっさん絶対空飛べんだろ! 長くは持たないって事は、俺に追いつくのだって訳無い筈だ! だからその間に対抗策を)……浮かぶ訳ねえだろ! どーしろってんだよ零の奴!?」
人で溢れる校内を、我武者羅に走り抜けていく。校舎を抜け、駐車場から出て、防犯カメラの死角にある柵を乗り越え──
「 捕 ま え た 」
先程の声が耳元で響いた。
昼休みとかに学校の外抜け出す人、皆さんの学校にはいました?うちにはいました。