「くっ……! うう!」
「あああ………妬ましい妬ましい妬ましい───!」
橋姫の放つ強烈な弾幕を、ギリギリでフランさんが避ける。が、直後にそれ以上の密度で弾幕が放たれた。
「……珍しい。妹様が防戦一方だなんて」
「むむ、確かにですね。吸血鬼異変の際も、強力無比な攻撃性で白狼天狗隊第二班を蹴散らしたとされていたぐらいなのに……」
「……貴女、吸血鬼異変の時にも館に来ていたの?」
「あ、はい。一応生き残りなんですよー、まぁそこまで最前線に居た訳ではないのですが」
「ふぅん……」
ああ、そういえば彼女は当時居なかったんでしたね。もっとも、居た所で発見次第殺されていたでしょうし……これも『運命』という奴なんでしょうか。
「まあ、その件については後日お話ししましょう。私から語れることはそう多くないですが、それでもよろしければ」
「ええ、ありがとう。……ねぇ、カメラを向けないでくれない? 魂が抜かれたらどうするのよ」
「え? ……ぷっ、ふふ……や、すいませ、くくっ……あだっ!?」
「忘れなさい。次はその翼を捥ぎ取るからね」
「いたた……分かりましたよぅ」
意外な発見です。これはいつかネタにしたいですねぇ⋯⋯いや、止めておきましょうか。たまには、私だけが知っている秘密、というのも良いかもしれません。
「⋯⋯これでも、貴女や霊夜さんには感謝してるんですよ? 信じられないかもしれませんが」
「どうしたのよ、藪から棒に」
「いえ。それより今は、フランさんの勇姿を見届けることにしましょう」
悪魔の館にいつの間にか住んでいた、2人の人間―内1人は妖怪となったが―。彼らのおかげで、あの館の住人も相当に丸くなった。
門番は居眠りするようになり、それを咎められても笑うようになった。
魔法使いは極稀に外出するようになり、図書館への他社の立ち入りを許した。
吸血鬼の妹は破壊衝動を律することが出来るようになり、最近は館をうろつくようになった。
そして主は、人間に対し慈しむような笑みを浮かべ、友好的に接するまでになった。
(⋯⋯本当に、人間というのは底がしれませんね)
嘆息したところで、おや、と疑問が浮かぶ。
あの使い魔――小悪魔とやらは何故、霊夜に対してあそこまで庇護の感情を抱いているのか?
***
舌切雀「大きな葛籠と小さな葛籠」――
舌切り雀、というのは知らないけれど、パルスィが2人に増え、右は少量の大玉を、左は大量の小粒な弾幕を放ってきた。右に避けてやり過ごそうとして、まんまと策にはまってしまったことに気付く。――入れ替わったのだ。場所ではなく、放つ弾幕が。
「――!」
何発かが肌を掠め、このままでは直撃する――という所で、蝙蝠の姿になることでどうにかやり過ごした。途端、また入れ替わる弾幕。小粒弾を抜けた勢いのままぶつかりそうになり、慌てて急静止。激しい弾幕を潜り抜け続けた為か、集中力が落ちてきているのかもしれない。
「「ああ、妬ましい! 明らかな隙に突っ込める無鉄砲さが! 咄嗟に気付ける勘が! 蝙蝠に変じて避けられるその反射神経が! 貴女の全てが!妬ましいっ!」」
全く同じ動きで叫び、遂にはその端正な顔に爪を立てたパルスィが、引っ搔き傷を作りながら1人に戻り――最後のスペルカードを宣言した。
恨符「丑の刻参り七日目」――
瞬間。今までがお遊びだったと感じる程の、濃密で、美しく、無慈悲な弾幕が四方八方に放たれた。しかもそれらは広範囲に反射し、形を変えて戻ってくるという凶悪なオマケ付きで。
「くぅ⋯⋯っ! でも⋯⋯私は、絶対に――!」
禁忌「レーヴァテイン」――
ぐにゃりと曲がった、お姉様の次に付き合いの長い剣を握ると、炎を纏ってどんどん大きくなっていく。たちまち私の背よりも大きくなったそれを振るい、目の前の弾幕を消し飛ばしながら、弾幕の中心――パルスィに突っ込む。
「やぁぁぁぁぁぁ――――っ!」
一閃。いつかにちょっとだけ見た庭師程綺麗ではなかったけど、確かな手応えはあった。だって、ほら、その証拠に。
「⋯⋯弾幕、撃ってこないもんね?」
「ああ⋯⋯勝ったという確信を得た上で、わざわざ聞いてくる図太さ⋯⋯本当に妬ましい⋯⋯」
緩やかに着地し、服の焦げを払いながら、パルスィは呆れたように吐き捨てた。
「行くなら早く行きなさい。それとも私の裸が見たいの?」
「えっ、そんな違っ⋯」
「ならさっさと行って。私は身体を洗いたいから」
踵を返して歩き去っていく背中に声を掛ける。まだ、言いたかったことが言えていないから。
「あのっ!」
まだ何か? と言いたげにムッとした顔で振り向いた彼女に、深々と頭を下げる。
「ありがとう!⋯⋯ございましたっ!」
「⋯⋯ふん。お礼を言われる筋合いは無いわ」
ぶっきらぼうにそれだけ返すと、ひらひらと手を振りながら橋の向こうへと消えていった。
金髪が暗闇に紛れて消えたと同時に、どっと疲れが押し寄せてきて、仰向けに落下する直前、咲夜に抱き留められた。
「お疲れ様でした、妹様。ここから地霊殿までは少し距離があるようですので、暫しの間お休みを」
「咲夜⋯⋯ありがと。でも、大丈夫だから」
「まあまあそう言わずに。折角お友達に会いに行くのに、疲労困憊では満足にお話出来ないでしょう? だから、今はゆっくり休んでください」
「うぅ⋯⋯でもぉ⋯⋯」
言葉とは裏腹に、どんどん瞼が重くなっていく。ダメ⋯⋯起き、なきゃ⋯⋯。
***
「ねぇねぇパルスィ、なんで能力使わなかったの? 嫉妬心煽って潰し合いさせる奴」
「⋯⋯」
「ちょっと手加減もしてたよねー、ほんとは追い返す気なんて無かったんじゃないのー?」
「⋯⋯」
「もー何か言いなよー、顔真っ赤だよー?」
「⋯⋯」
「あははっ、怒った怒った! きゃー怖ーい、手元狂っちゃーう」
「くっ⋯⋯!」
服を修繕してもらっている都合上強くは出られず、苦虫を嚙み潰したような顔で引き下がっていくパルスィを、ヤマメはケラケラと笑っていた。
執筆するんで改めてパルスィについて調べたんですが、原作だとこういう「妬ましい」連発キャラではないみたいですね。ですが、原作に寄せようとし過ぎると見なければならない資料が膨大では済まなくなってしまうのでこうさせてください⋯⋯