パルスィに勝利し、無事地底に入ることを許された(?)私たちは、文の案内で《旧地獄街道》という場所に来た。その名の通り元々地獄だったんだけど、死者が増え過ぎてここじゃ狭くなっちゃったんだって。
「……いやぁしかし、もう一度ここに来るとは思いませんでしたよ。正直、鬼相手には頭下げるしか無いので……」
「? どうして?」
「それはですね、えーっと……そうだ、紅魔館には妖精メイドが居ますよね? 彼女たちと咲夜さんみたいな関係です」
それってつまり……と思ったけど、文が鬼を困らせている所は想像出来ないからちょっと違うかな。でも、鬼が上なんだってことは分かった。
「ふーん……文も大変なんだね」
「はい……宴会でも鬼の酒は注がなきゃいけないし飲まなきゃいけないし……うう、やっぱり止めましょうこの話……」
「おいおい、止めちまうのかい? そりゃあ残念だ」
「!!!!」
わぁ、文が錆びたブリキみたいな動きしてるー。……ってことは、鬼の中でも偉いヒト?
「なんだいなんだい、鬼でも見たような顔をして」
「姐さん、俺たちゃ鬼ですぜ!?」
「なっはっは、それもそうだ!」
どっ、と周りの鬼からも笑いが起こる。全員酔っているのか顔が赤く、笑い方も品が無い。お姉様が見たら顔をしかめそう。
「ほ、ほ、星熊様、ご無沙汰シテオリマス……」
「そんな固くなるなって。それより、そこのお嬢ちゃんたちはどうしたんだい? まさかとは思うけど……」
「え、あっ、あの恋仲ではないデス、ハイ! どうやら地霊殿の主の妹さん……らしき人に用があるとかで」
「へぇ……名は?」
「……フランドール・スカーレット。吸血鬼、レミリア・スカーレットの妹よ」
「何故地底に?」
「友達に会って、何故急にいなくなってしまったのか聞きたいから」
「……なるほどね。じゃあ最後に1つだけ。これは皮肉とかじゃなく、地底で暮らしている奴からの──言わばアドバイスだと思ってくれ」
わざわざしゃがんで目線を合わせてくれたホシグマさんは、額の角を突き刺さんばかりに顔を近付けてきた。
「──今すぐ帰った方が良い」
「なんで?」
「なんででも、だ。というか、天狗の連中やパルスィから説明されなかったのか?」
正直なことを言うと、されたようなされなかったような……? なんか怖いお化けが沢山居る、みたいなことは言われた気がする。……多分。
「なんだよ、聞いているんじゃないか。なら分かるだろう? ここは外から来た妖怪にとっても有害だ。怨霊ってのは……あー、 何がいけないんだったっけ?」
「確か、精神に直接影響を与えるので妖怪の天敵だとか……」
「そーうそうそう、それだそれ。だからお嬢ちゃん、お嬢ちゃんが元気にお友達と会う為にも帰った方が良い。折角会ったのに満身創痍でしたー、じゃ意味無いだろ? お友達と会ったら伝えるように言っとくよ」
そう言って頭をぽんぽんと撫でてきたホシグマさんは、確かに嘘を言っていないようだった。でも、でも……!
「っ私は……!」
「2度は言わないよ。それに、そんな消耗した状態で辿り着けるとは思えないね」
──バレていた。先程に比べて身体が重いこと。頭もぼんやりとしていること。……いや、咲夜も恐らく気付いてはいたと思う。私の意思を尊重してくれただけで。
「……分かった。でも、絶対伝えてね」
「当然さ。鬼は嘘を吐かないんだ、安心していいよ」
帽子越しにわしゃわしゃと頭を撫でられる。……咲夜や霊夜と比べると、どうしても荒っぽさが目立つけど、でも優しい手だ。
「妹様」
「ごめんね、咲夜。止めないでくれてたのに」
「いえ、私は妹様に従うのみですので。本当に危険な時は、その限りではございませんが……もうお帰りになりますか?」
「うん。……でも、お姉様なんて言うかなぁ」
あのお姉様のことだから、「外はどうだった?」とか辺り替わりのない話くらいならしそうだけど。……皮肉の1つはあるかも。
「おお……っとと?」
「それは後で考えましょう。怒られる時は一緒に怒られますので」
「ありがと……」
限界ギリギリだったみたいで、ふらついた身体を咲夜が支えてくれた。それからのことは……よく覚えていない。目が覚めた時には、部屋のベッドだった。
***
「……ん」
「あら、起きた? このおバカ」
「あたっ」
皮肉るだろうな、とは正直思っていた。だけど、直球の悪口とデコピンがくるとは思っていなかった。
「あのねぇ、貴女3日も眠りこけていたのよ? 警告された上で突っ込んで、弱って帰ってきた上で、ね。誰に似たのかしらねぇ」
「むぅ……」
「そんな顔をしないで頂戴。戻ってくるだけマシよ? 霊夜なんて、美鈴と一緒にスキマ妖怪に連れられてどこかへ行ってしまったんですもの。しかも事後報告で」
苦虫を噛み潰したような顔で言ってはいるけど、心配しているのがありありと見て取れる。……でも、怒ってるのはきっと本当なんだろうなぁ……。米神に青筋が浮かんでる。
「こほん。まあとにかく、お帰りフラン」
「……ただいま、お姉様」
「何よ今の間は」
「べっつにー? それより聞いて聞いて、地底でねー……」
どうしようもなく不器用で、だけどとっても優しい、世界でたった一人のお姉様。今度、私の大切なお友達を紹介させてね。話したいことがいっぱいあるんだから。
一応、フラン側のお話はこれまでとさせていただきます。何となく察する方もいらっしゃるでしょうが、地霊殿に入るまで進展しません…悪しからず。
いや時系列的にはまだ風神録入ってないんですよね、内部時間にして半年近く空くことになります。……え、マジ?