紅魔館に拾われた少年はゆっくり暮らしたい   作:ユキノス

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休息

体育の授業──の前の移動時間。体操着だと傷跡が見えるが、ジャージだと暑いという板挟みに辟易しながら、俺と麻見は体育館に向かっていた。

 

「ったく紫の奴、いい性格してるよなホント」

「ははは、俺から見たらお前もいい性格してんぞ?」

「えっ俺ぇ? いやいやそんな馬鹿な……」

「なーに言ってんだコノヤロウ!」

 

麻見は確か文化部の筈だが、それにしては妙に強い力で肩を掴まれ、体がぐいっと引き寄せられる。廊下は人通りもあるが、ギリギリ俺にだけ聞こえる音量で囁いた。

 

「まだ俺『達』に隠してることあんだろ? 事情あんだろうから聞かねーどくけど、多分2人も薄々勘づいてるぞ」

「……マジで?」

「マジ。つーかお前が分かりやすいって言う方が正しいかも」

「…………何も言えねぇ」

 

実際あるかどうかと聞かれたら、ある。麻見には記憶云々の話はしていないが、まあある意味当然とはいえ俺と美鈴についての記憶も消す──ということ。

だが同時に、嘘を吐くのが苦手というのも本当。「それはキミの良い所です」……とこあは言っていたが、こういう腹芸が出来ないのはやはり不便だ。……そういうとこ遺伝したのかなぁ。

 

「まーとにかく。折角脅威の……えー、誰だったんだアレ? 結局名前聞けなかったな……まいいや。アイツも消えたことだし、残りの時間を楽しもうぜ」

「へーい。……でもそうだよな、父さんも名前呼んでなかった気がするし……」

 

──キーンコーンカーンコーン…………

 

「あっやべ予鈴! あの体育教師(ゴリラ)怒るとダルいぞ、急げ!」

「げっ、あのなっっっっっっがい説教か……嫌だな」

 

生活指導の「廊下走るなー」というやる気のない声を後目に、体育館の扉を開けた。良かった、幸いまだ──

 

「お前ら」

「あっ」

「いっ……」

 

ポンと肩に手を置かれ、ぎこちなく振り向くと、体育教師──その強面フェイスと体格、濃い体毛から《ゴリラ》《ゴリ先》《森の賢者》の渾名で親しまれている(?)──が立っていた。

 

「……や、まだチャイム鳴ってる途中じゃなかったスか?」

「そ、そうそう! それに先生まだ居なかったってことは、まだ始まってもいなかった訳で──」

「……? ボールのカゴ取ってきて欲しかったんだが……」

「あっ、ハイッス。取ってきまッス」

「この鍵だ。頼むぞ」

「「ハーイ」」

 

……あの見た目で全国模試2桁らしい(麻見談)。「要するにめっちゃ頭良い」と説明されたが、もっと言うと愛妻家らしい。……見た目じゃ分からないもんだ。

 

「あ、そうそう。鷺宮なんだけどさ」

「あん? 鷺宮⋯⋯?」

「あいつだよ、早苗の幼馴染の⋯⋯お前ほんとに名前覚えてなかったのな?」

「んー⋯⋯あっ、あいつかぁ! そっか鷺宮だっけか。下の名前が⋯⋯」

「香織な。⋯⋯お前俺の苗字覚えてる?」

 

ぎくっ、と肩が跳ねる。「あれ麻見って苗字じゃなかったっけ?」「先生も麻見って呼んでたよな?」と思考を巡らせるが、見抜かれていたのか溜息と共に教えてくれた。

 

「萩原だよ。萩原麻見。萩原って俺以外に2人いっからさ、分かりやすくする為に名前で呼ばれてんの」

「あー、そうなの⋯⋯や、分かってたよ?」

「うっそだぁ~ぜってぇ分かって⋯⋯」

「おーいまだかぁー!?」

「げっ、忘れてた! この話後でな!」

 

⋯⋯いずれ帰るし、記憶消されるならと覚えなかったのは失敗だったな。

 

***

 

「さっき時間掛かってましたが、何してたんですか?」

「いやーごめんごめん、風萩の親父さんについて話しててさ」

「日向さんに?」

 

昼休み。屋上は閉まっているので直前の踊り場で昼食を食べていたら、仲直りしたにしても仲良過ぎなくらいに引っ付いた鷹宮⋯⋯違う鷺宮が、何故か父さんの名前を知っていた。聞くところによると、仲直りを勧めていたらしい。やたらと気にしていた理由はそれか。

 

「そ。襲ってきたアイツが何者なのか、聞くの忘れたなーってさ」

「私たちは見ていませんが…素性が分からないのは怖いですね」

「うん…不安になるよねぇ、あむ…」

 

そうは言いつつも、口いっぱいにパンを頬張ってもきゅもきゅしている様子は微塵も緊張感が無い。……もしかしてこいつ結構肝据わってる?

 

「ってもさ、もう倒したんだろ? じゃ気にしなくても良いんじゃね?」

「うん? ああ、まあそうだな。とりあえず……あー、帰るまで楽しむかぁ」

「おー! じゃあさじゃあさ、プリクラ行こうよ! 写真に残しておきたいし!」

「プリ……なんて?」

 

鷺宮によると、写真を撮って色々書き込める機械……らしい。文みたいなのは興味持ちそうな気がする。

 

「へぇ…凄いもんだなぁ」

「風萩クンとこには無いんだっけ? なんだか想像出来ないかも」

「無いよ。俺からしたら写真を気軽に撮れるって時点で凄いことだし…」

 

パンを食べ終え、ペットボトルのお茶をぐびぐびと飲むのを眺めつつ、「これもギャップってやつかなぁ…」としみじみ思う。この数ヶ月…いや、2ヶ月も無いのか、一応……。一連のゴタゴタのせいで完全に忘れていた。

 

「って言うか、俺みたいなのよくスルッと受け入れたよなお前ら。いくら『視えて』るからって、信用するまではいかないのがほとんどだろ」

「まそーだよなぁ、何でだろーなホント」

「え、私は諏訪子様と神奈子様の為でしたけど……」

「鷺宮は?」

「サナちゃんが信じるなら信じる。だって私だけ風萩クンの……耳?もスワコサマもカナコサマも見えないもん」

「あ…あっれぇー……?」

「……麻見?」

「や……その、俺だけ何となくだったんだなって……」

「お前良い奴なんだかヤバい奴なんだか分かんねぇよ! ありがとうな!」

 

何となく。本当にそんな理由で、あんな危ない橋を渡ったのかコイツは。……もしそうなら狂気の沙汰だ。

 

「なはは、あざあざ。それはそれとして、そうだよなぁ…鷺宮は見えねんだよな、耳と尻尾(コレ)

「やーめーろ、弄んな。…まあ、普通に見えたら色々と面倒だし…しゃーないと言えばしゃーないだろ」

「そうなんだけどぉ…触ってみたいなぁ〜……」

 

じりじりと寄られるも、すぐ後ろが壁なせいで逃げ場が無い。皆の後ろまで跳ぶのも考えたが、ここが踊り場である関係上どうしても危ない。…昔、身体強化魔法を覚えたてで階段をひとっ跳びした時に妖精メイドにぶつかり、咲夜にアイアンクローを仕掛けられた記憶が蘇る。あの細腕のどこにそんな力があったのだろうか。……閑話休題。

 

「……コホン。そうは言われても、見えないようにしてるのは俺じゃないし……紫としても面倒だろうし…」

「あら、私を心配してくださるとはお優しいですわね」

「やっぱ大丈夫そうかも」

「やぁん、そんな事仰らずに。──ですが、貴女1人に見せるだけならお易い御用ですわ。貴女の《目》を少し弄る…言わば実体の無いレンズを付けるだけですから」

「え〜〜〜っと……?」

「あんま気にしないで良いと思うぞ。コンタクトみたいなもんだろ」

「分かった!」

 

…本当に分かってるんだろうか。そんな顔はしてないんだが。

 

***

 

「では、目を閉じて」

「は、はいっ」

 

言われるがままに目を閉じると、細くしなやかな指が瞼に触れる感触がして、すぐに離れた。…え、もう?

 

「…良いですわよ」

「……!わぁ〜〜〜可愛い〜〜〜〜!」

「……照れ臭いなこれ」

「だろうな。あと鷺宮、頼むからバシバシせんでくれん? 痛い」

 

頭の上でピコピコと動く耳。感情の赴くまま、パタパタと揺れる尻尾。風萩クンが女性的なビジュアルなのもあるけど、とっっっっても可愛い!サラサラの赤髪も綺麗な目も、陽の光を反射してすっごいキラキラしてる!

 

「ふぁ〜〜顔が良いよぉ……美人とケモ耳ってこんなに映えるんだぁ……えっ、てことは日向さんも?」

「おー痛ぇ……そういや、あの人って何隠してんの?」

「耳と尻尾だけだっつってた。他はそのままだって──」

「そーなの!? あの髪色って地毛!? ってことは…お母さんが赤髪?」

「あー、たぶ…」

「そこに誰か居るのか? ここは立ち入り禁止だぞー?」

やっべゴリ先! どーする、隠れらんねーぞ!?

どーするったって逃げ道もねーよ! やり過ごすしか…あっ紫! ゆか……居ねぇ!

ごめーん私がおっきな声出したせいで…

それは…まあ、そうですけど。でももう…

 

もう足音からして数秒しかない、どうしよめっちゃ怒られる……と思ったその時! 私の頭にナイスなアイデアが浮かんできた! 持ってて良かったメイク道具!

 

「ん、んんっ…ほら、やったげるから動かない。……ゴメン、ちょっと我慢して

は、はぁ…? おい何しっ…!?

 

風萩クンの顔にチョンチョンと下地を置き、優しく塗り広げる。整った顔をむにもにといじくるのは楽しくなってくるが、森野先生──通称ゴリ先が階段の方から顔を出した。

 

「……何してるんだ?」

「あ、先生。今風萩クンにメイクしたげてるとこでーす」

「いや、それは見れば分かるんだが……あー、教室で良くないか?」

「もー、先生だって皆の前でメイクされるの恥ずかしくないです?」

「ム……それもそうか。トイレという訳にもいかんしな…ウーム……」

「とゆーわけなので、仕方な〜〜〜く! ダメなのは分かってるけど! ここに来たんです!」

「……まあ、分かった。ただし、5限までには落としてやれよ」

「は〜い分かってま〜す。……ゴメンね、もう大丈夫だよ

 

一応声を落として、限界まで奥に寄っていたサナちゃんと麻見クンを呼びつける。2人の緊張が解け、ほうと溜め息を漏らした。

 

あ、焦った…お前そんな演技力あったのかよ?

無茶ぶりはこの子の専売特許ですから……と、メイクどんな感じです?

「声も戻しちゃっていーよ。もうあとは…うーん、時間的にアイシャドウまでかなぁ」

 

手は止めなかったからかある程度は済んでいたものの、落とす時間を逆算すると残り5分程しか残っていなかった。……また今度、休みの日にでもやらせてもらおっと。

 

「──はいっ。うーん、急拵えだからちょっと不格好かなー……って思ったけど元の顔が良いからトントンかな」

「んー、ま確かに中性的な顔立ちだよな。顔から下筋肉ムキムキだけど」

「そう……ですよね。うぅ、メイク無しでこの状態とは…」

「あのー……そんなに見られると、恥ずかしいんだけど……」

 

耳まで赤くしてそっぽを向いて……うーん可愛い……でもこんな魅力の塊みたいな見た目で彼女さん居ないことも無いだろうしなぁ……まあ、今はいっか!

 

「あーゴメンゴメン! じゃメイク落としに行こっ」

「んー……ん? これ落とすまでの間皆の前を……? 鷺宮?」

「……てへっ☆」




キャラの濃そうな体育教師ですが、多分今後出てこなさそうなので…


森野 賢(もりの さとし)
25歳

筋骨隆々、頭脳明晰。最近の悩みは背が高いせいでよく頭をぶつけること。
背が高い・顔と体毛が濃い・日焼けで肌が浅黒いことから、生徒からは『ゴリ先』『森の賢者』等と呼ばれ、親しまれているが、これらは「生徒たちが怖がらないように」と自分から広めている。
愛妻家で、元マネージャーの奥さんとは中学時代からの付き合い。待受画面はお揃いで、初デートの時の写真。
香織の嘘は見抜いていたし、早苗と麻見の存在にも気付いていたが、流石に「男に化粧を?」と聞くのは傷付けてしまいかねないと思いスルーした。
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