紅魔館に拾われた少年はゆっくり暮らしたい   作:ユキノス

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い、1年ぶり……ヒェ……


半端者の憂鬱

「ふぃー、休憩……」

「始めた頃よりは確実に良くなっているな。まだまだ青いが……ところで、麻見くん。受け身や着地を習得してみる気は無いかね?」

 

ある日、いつものように零と親父さんの組手を眺めていたところ、突然そんなことを言われた。確かにあの時、零のように抵抗──とは言わずとも屋上から跳び、上手い具合に着地して逃げられていたら、襲われるよりも先に美鈴さんに保護されていたかもしれない。

それ以外にも、受け身の大切さというのは零と親父さんの組手で何度も目にしている。本人の頑丈さもあるだろうが、受け身を取れていたからすぐに別の動きが出来たことぐらいは素人目にも分かった。

それと、まあ……多分だけど、巻き込んでしまったという負い目があるのかな、と。

 

だからこそ。

 

「あります。つっても、同時進行ってのも難しいんじゃあ……」

「いや、受け身だけなら私でなくとも教えられる。という訳だ、頼めるかな? 紅殿」

「私ですか!? いやまあ、受け身も着地も出来ますが……教えられるかなぁ……」

 

本人は不安そうだが、零の格闘術の師匠をしていた以上その心配は杞憂だろう。──と、思っていたが。

 

***

 

「でっ!いちち……」

「良くなってきましたよ! 頑張りましょう!」

「お…押忍……!」

 

本人評に違わず、中々教えるのが……いや、下手って訳じゃないんだが。感覚派、経験重視と言ったら良いのだろうか。しかも基礎スペックが人間から遠く離れている零が唯一の前例だったのもあり、重心の動かし方だの何だのは全部「何となくです!」で済まされてしまった。見せてはくれるのがまだ良心を感じられるが……これは……

 

少年特訓中……

 

「たはは……すいません、教えるのはどうも苦手で……」

「俺も数日は怪我しまくったしな! 俺か父さんが教えられたら良いんだけど……」

 

やっぱ不得手だったらしい。あれから2時間ほど経ったが、上達している感じは無いままあちこちぶつけた。流石に首の骨を折りかけた時は止めてくれたが、それ以外は基本的に止まらずそのまま…まあ、ドサッと。

 

「つかお前も怪我したんだな。なんか最初から出来てたんかと」

「いやいやいや、無理無理。俺元々本好きのヒョロガリだったし」

 

ヒョロガリ。筋骨隆々まではいかないものの、中々に筋肉のついている今の零からは想像し難い。それでいて筋肉の密度が高いらしいので、いよいよもって嘘臭い。……が、嘘ではないんだろうな。

 

「……なんだよ」

「いやぁ? なんでも……いちち…」

「お疲れー、そろそろ休憩にしたら? サナちゃんが麦茶出してくれるって」

 

冷房の効いた部屋に長くいた為か、鷺宮はほとんど汗をかいていなかった。畜生、俺達が暑い中頑張ってる傍で……

 

「だってよ。どうする?」

「俺はまだいい。……って言いたかったけど、流石に暑いな…涼むわ」

「では、私も戴こう」

「オッケー! じゃあほら、早く入った入った! 私ももう暑いし…」

「お前今さっきまで涼んでただろ」

「でも今暑いの!」

 

***

 

「ん〜〜! やっぱ夏はスイカだよねぇ」

「そうですね、美味しい…しゃくっ、ん〜」

「反応が女子なんだよな…」

「何?」

「いや、なんもない」

 

夏真っ盛り、クソ暑い。正にFu○kin'hot……妖怪って暑さ寒さを感じにくいんじゃなかったっけ? 魔法使いもそうだ、ってパチェも言ってたけど……あれ、なら半妖の俺その辺感じにくい筈じゃね? どーなってんだ一体。……混血だと不完全とか?

 

「零? 急にボーッとして、どした?」

「美味しすぎた?」

「っあ? あぁ、ちょっと考え事」

「……恐らくだが、当たりだ。妖怪も魔法使いも気温差を感じにくいが、感じない訳ではないからな」

「サラッと心読むのやめてね? でも、やっぱそっかぁ……その辺も半端になるのかぁ……」

「へぇ〜知らなんだ。だから親父さんずっと天狗装束(ソレ)なんスね」

 

どういう洗濯の仕方をしたのか知らないが、先日浴びた筈の返り血は綺麗さっぱり落ちている。……家事スキル高くない? 咲夜もよくレミィの零した血を落としているが、面倒だと愚痴っていることが多々ある。

 

──いや、零す頻度に対する嫌味かもしれない。咲夜は割とそういうことする。変な紅茶も淹れるし、わざと少しだけカーテン開けてたりもするし……あいつなんで従者やってんだ? 咲夜も咲夜で謎だらけなんだよな……いや、辞めよう。ダメ、閑話休題。咲夜の謎なんて探ってたらキリが無い。

 

「何着かあるからな。生憎あの時のは処分したが…」

「あ、そうなの? やたら洗濯上手いのかと…」

「あー、なんか返り血に加えてあちこち切れてボロボロだったって……よく通報されんかったスね?」

「こう言うとあまり良くないが……守矢神社の周りは、人の目がほぼ無いからな」

「いやいやいやいや無理があるって! サナちゃんから聞いたけど返り血ベットリだったんでしょ!?」

「ム……ダメか」

「流石にダメじゃないスかね…妖術とか魔法って言われた方がまだ納得出来るッスよ」

 

実際、変身魔法というものもある。…が、妖術で出来るかは知らない。あったとして使えるのか?

 

「残念ながらその類は使えないのだ。だからこそそう言うしか無いのだが……」

「えぇ……じゃあ信じるしか無いか。ちなみに零は使えたりすんの?」

「無理。原理や判別・対処法は習ったけど、習得はしてない」

「そか。や、使えないなら良いんだ……オイそこ、ヒソヒソ話してんな! 地味に聞こえてんぞ!」

 

……そもそも他人に使えるかも分からないし、使えたとしても鷺宮や早苗が危惧している行為はさせない。魔法を使ってそんな事に加担したなんて知られたら、パチュリー先生からの長く恐ろしいお説教が待っている。

 

「仮に出来てもしねーしさせねーから安心しろって。そういう事に使うなって、魔法の先生から口酸っぱく言われてっから」

「零くんがそこまで言うなら…」

「おい? 俺そんな信用無い?」

「ドンマイ。アレだ、目は口ほどに…ってやつだ」

「な…納得いかねぇ……。ええい、続きだ続き! 美鈴さん、ご指導ご鞭撻オナシャス!」

「……んがっ!? あぁハイ! やる気があって何よりです、行きましょう!」

 

頑張れーと呑気に手を振っていると、むんずと首根っこを掴まれた。……さいですか、俺もですか。頑張れとばかりにヒラヒラと手を振り返してくる2人に苦笑いを返し、まだ高い所で照りつけている太陽の元へ引き摺られていった。

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