「……なぁなぁ、外で程よく涼しいとこ無い?」
「霧の湖」
「あそこ夏でも寒いだろ! なんつーか、半袖でもイケるくらいの……」
「じゃ玄武の沢辺りだな。 少なくとも紅魔館よりか涼しいぞ」
夏も終わりに近付いた頃。ヴワル魔法図書館では魔法によって常に適温が保たれているが、外はまだまだ暑い。ミオたち妖精メイドもこの暑さは大変らしく、毎年夏は半袖の涼し気な格好を許されている。咲夜? あいつは……なんで汗ひとつかいてないんだろうね。もう怖いよ。
俺は調べ物があって関連本を読み漁っているが、麻見と香織は暇潰しに来たようだ。というのも、守矢神社が信仰を得る為にロープウェイを導入、2人はそのテストで乗ったはいいもののトラブル発生。解消されるまでしばらく運行出来ないということで、折角だからと紅魔館に来た訳だ。
「俺は課題、パチェと母さんは研究で構えないけど、Aの棚以外の本は絶対に触るなよ。死ぬぞ」
とキツく言っておいたせいか、残念ながら暇しているみたいだが……。だがこれも安全の為だ、仕方ない。
パチェからの課題である魔法薬。そのレシピを見る限り、調合に必要な素材が少しだけ足りない。時間経過で性質が変わってしまう薬もある為、調合は一気にやるのが一番なのだが……流石に今日はやめておこう。レシピがわかっただけ進歩だ。
「あれ? 霊夜、パチュリー先生今研究室?」
「ん? おぉ颯忌か。そうだけど、どうした? 俺で良ければ聞くぞ」
「さんきゅ。ここなんだけど」
「これか。27ページ前の魔法陣から派生したやつだから、更に書き足す内容次第で……つーかその本に載ってる魔法の大半はそうだぞ」
「27ページ前……あっこれ? うわぁホントだ……ありがと」
颯忌だが、なんと魔法が使えるようになっていた。元からやたら頑丈だし力も強いとは思っていたが、無意識のうちに魔力で補強していたらしい。
いや本当にびっくりした。あの時魔理沙が逃げ帰ってからすぐに颯忌が入ってきたが、空中を泳ぐが如く自在に飛んでいたのが衝撃過ぎてしばらく呆然としていたくらいだ。
「……しかしお前が妹弟子とはなぁ」
「なに、不満? それとも一番弟子の座が奪われちゃう〜って心配?」
「言ってろ、俺を抜かすにゃ100年早い。いや500年くらいにしとくか」
「ふーーーーーん、霊夜って飛ぶのに1ヶ月掛かったんだっけ?」
「……なんだよ。上下左右くらいなら早々に出来たけど、今のお前くらいとなると……まあそれくらいだな」
「わたし、2週間」
「なにィ!?」
2週間。約半分。これはマズいぞ、250年早いと言っとくべきだったかもしれない。
「こら颯忌、あまり話を盛らないの。それと霊夜、静かになさいな」
「「はーい」」
研究室から出てきたパチュリーに軽く小突かれ、いつの間にか現れた咲夜が紅茶とクッキーを2人分追加した。休憩らしい。
「───うん? 話盛ったってのは?」
「確かに颯忌は2週間で自在に飛べるようになった。けれど、魔力の使い方に無駄があるから飛行時間は短いし、何より他の魔法は習得出来ていない」
「あー、なるほどね……」
「笑ってるけど、貴方が異常なまでに早いだけであって颯忌も十分に早いんだからね?」
それはそう。前にアリスと魔法の習得時期について話した時、彼女にしては珍しく数十秒もぽかんとしていたくらいだ。あれは傑作だっ────
「シャンハーイ!」
「ホウラーイ……」
「おわっ、いたのか2人とも。ということは……」
「──本物、ということでいいのかしら?」
「ああ、正真正銘本物の霊夜だよ。だからその矛収めちゃくれないか」
「ダメ。あなた内心で笑ったでしょ」
「詰み問答かよ……」
本人がいる上に思考が読まれてるとは夢にも思うまいて。
「……ま、それはそうと久しぶり。またよろしく頼むよ」
「ええ、よろしく。そこのご友人方もね」
麻見と香織が満面の笑みでサムズアップし、アリスに駆け寄ってきて自己紹介を始めた。俺も俺自身の課題に向き合い、調合材料の自生地を調べることにする。発行年月日の一番新しい地図と照らし合わせて、標高や周囲の環境から考えると……
「──妖怪の、山…………でもこんな場所、今まで……」
地図には確かにある。だが俺の知る限り、
同じく山にいる山姥とは不可侵条約を結んでいると聞くが、この場所は範囲外だ。紫の手によって地形や場所が誤魔化されている橙の家もこんな所には無い。妖怪の山にいる知り合いの中で、ここに暮らしている奴は知らない。
俺は妖怪の山に明るい訳ではないが、だとしてもここまで情報が滅茶苦茶なことがあるか?
「……嫌な予感がする」
「零?」
気付けば、席を立っていた。今すぐにでもこの胸騒ぎの原因を確かめに行きたいが、今から飛んでもそこに着くのは日没間近だ。まだ日は長い時期とはいえ、調査ともなれば間違いなく真夜中コースだ。いくらなんでも、それは危険過ぎる。
全ての勘が警鐘を鳴らしているのに何も出来ないという歯痒さに苛立ちを覚えつつ、それを大きな溜め息に変えてまた座る。
「なんというか……大変だね……」
「あぁ大変だよ……クソッ今すぐにでも動きてぇのに……んがあぁぁぁぁぁ明日まで持ち越さなきゃなんねぇのかよ畜生!!」
「やかましい」
「ごぁっ……はい、ごめんなさい……」
本の角で叩かれた頭をさすり、いくらか冷静になった頭をフル回転させる。
まず調査は明朝から。持っていくのは……ええい地質調査から測量具まで一式持っていくとしよう。距離が距離だし、現地でやっぱ足りないなんてのは御免だ。
あとは……知り合いの天狗にも話を聞こう。何かわかるかもしれない。
「……何事も無いと良いんだけどなぁ…………十中八九厄ネタなんだろなぁ……」
ぐしゃぐしゃと髪を掻き回し、ズルズルと椅子に沈み込む。俺は別にトラブルメーカーという訳ではない……筈だし、何より厄介事とは無縁の生活を送りたいのだ。それなのに、どうして毎回こうなるんだ……どうして……。
「……なぁアリス、明日一緒に来てくんない?」
「明日? 別に構わないけれど……測量と、あとは素材収集?」
「うん。それがメイン。ただ厄ネタドカ盛りな予感がして……何かしらあった時俺だけじゃ心細いから本当にありがとう……」
「ちょ、ちょっと霊夜! あんまり強く掴まないで頂戴……わたし、貴方と違って脆いんだけど」
「え、あっ悪い……」
「いいえ。それじゃ、明日は早朝に門前でいいのかしら?」
「ああ、それで頼むよ。上海と蓬莱も、よろしくな」
「シャンハーイ!」
「ホウラーイ」
鬼が出るか蛇が出るか、それとも……。