紅魔館に拾われた少年はゆっくり暮らしたい   作:ユキノス

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こんにちは、ユキノスです。
花映塚も終盤……どころかもう終わってるんですが、今回は今までで言うEXです。
ではどうぞ。


与えられたもの、与えたもの

「よーっす美鈴ー起きてるかー?」

「起きてますよー、と言うか起きてるから庭の手入れしてるんですよね!?」

「いや寝ながらやってんのかなーと」

「夢遊病じゃないですから!」

今日は(あるいは今日も)美鈴と色々話していた。花言葉、誕生花、育て方、手合わせにおける体の運び方、弱点等々……話題は尽きない。

まあここまではぶっちゃけ言わなくても大丈夫な所。問題は、どこから嗅ぎ付けたのか紅魔館の門辺りに沢山居る人間達だ。しかもご丁寧に全員男、年齢はアンタもうそろ死ぬんじゃないのと思いたいぐらいの爺さんから、寺子屋に通っているであろう子供まで、全員包丁やら刀やら斧やらと武器を持っている。

「遂に来ちまったたかぁ……にしてもよくルーミアに喰われなかったよな」

「……あれが、霊夜君を攻撃した人達ですか?」

美鈴が、かつて感じた事の無い程に激怒しているであろう事は明確だった。

「……答えを聞く前に、これだけは言っておきます。手は出さないでください」

「なんで……なんでだよ!美鈴!」

「尚更です!霊夜君は……」

「これは俺が引き起こした事だ!……俺にだって、解決する責任ぐらいはあってもいいじゃないか……」

大切だ、とか言いたかったのだろうが、これは俺が引き起こした事。美鈴だけで行かせる訳にはいかない。

「……でも」

「無茶なのも分かってる、我儘なのも!勝手に1人で行って、勝手に死にかけて、心配掛けたのも!迷惑掛けたのも!知ってるよ!だけど……だけど……!」

「……分かりました」

微笑んだ美鈴から手刀が繰り出され、正確に延髄へと入ったそれは、俺の意識を一撃で奪った。気絶する直前、「ごめんなさい」と聞こえたのは、幻覚ではないだろう。

「……ごめんなさい、霊夜君。これは……私の我儘です」

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「……!」

勢いよく起き上がると、ガシャアン!という大きな音がした。同時に首も引っ張られ、どうやら繋がれている事が分かる。そして、檻と鎖がある場所と言ったら、俺は1箇所しか知らない。

「……牢屋?なんで……」

「そこはもう牢屋じゃないわ。お仕置き部屋よ」

靴の音を響かせ、暗闇から見慣れたメイド服が見えた。

「咲夜……」

「貴方はしばらく、ここに居てもらうわ。安全上の理由と、お嬢様の判断で」

「っ……」

一度、頭を冷やせという事だろうか。この薄暗い檻の中で、首を鎖に繋がれて。

「……分かった。どれくらい居たら良い?」

「私は分からないわ。時が来れば、お嬢様が鍵を開けてくれる。それを待つことね。ああ、食事はちゃんとあげるわよ」

この際、食事をくれるだけでありがたいと思うべきなのだろうか。それとも、こんな所に閉じ込めやがってと恨むべきなのだろうか。――ほぼ間違いなく、前者だろう。

少し下を向いた間に、咲夜はもう居ない。ここは地下だが、地上の音はほぼ聞こえないので、美鈴があの後どうなったかも分からない。パチェはきっと心配するが、鍵を開ける事は出来ない。言わずもがなこあも。

 

 

思い返せば、本当に1人というのは初めてかもしれない。いつでも、誰かが側に居たから。

大妖精が、チルノが、ルーミアが、響子が、ミスティアが、リグルが、先生が、もこ姉が、ミオが、こあが、パチェが、美鈴が、咲夜が、レミィが、フランが、わかさぎ姫が、影狼が、蛮奇が、霊夢が、魔理沙が、アリスが、颯忌が……必ず、隣に誰かが居た。必ず、何かあったら助けてくれた。狼男でも、人狼でも、それどころか妖怪かすら怪しい俺の為に。少し離れただけなのに、会いたい。

「……皆……」

涙が込み上げてきた。拭ってくれる手は、当然ながら無い。ただ、重力に従って流れるのみ。

そう思うと、ずっと柔らかいぬるま湯に浸かっていた俺には、冷たく硬い檻の中が丁度良いのかもしれない。

 

 

 

 

それからというもの、色々な人が来た。

霊夢は、少し心配しつつも鼻を鳴らして去っていった。

魔理沙は、いつもの人を小馬鹿にする様な冗談が出てこないようだった。

美鈴は、数えきれない程の傷を彼女なりに隠して笑っていた。

パチェは、「早く出てきて、いつも通り本でも読みなさい」とだけ言っていた。

咲夜は、食事と風呂代わりの濡れタオルを持ってくるだけだった。

フランは、鎖を壊そうとしていたので止めた。

こあは、鉄格子越しに一度だけ頭を撫でてきた。

アリスは、上海と蓬莱を連れて悲しそうに見つめていた。

大妖精とチルノは、「また遊ぼう」と言ってきた。

ルーミアは、鎖を噛んで「固くてまずい」と感想を述べた。

ミスティアは、ヤツメウナギの屋台を始めた事の報告と、短めの歌を歌った。

蛮奇は、影狼には「風邪だけど伝染るといけない」と伝えている事と、わかさぎ姫からのメッセージを読んでくれた。

 

 

檻に繋がれ、何も喋らない状態でも、咲夜を除いて3日に1度は誰かが来た。よくよく考えれば凄いことだ。喋らず、動かない奴を相手に、ただ喋り続けるのだから。

そんなこんなで、1ヶ月も経った頃。パチェが、()()()()()()()()




前回「重い」って言ったのより断然重かった(予想外)。
花映塚でこれとか待てや……そんな暗い話ちゃうやろ……
という訳で、花映塚EXもそろそろ終盤です。
ではまた次回。

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