Duhsasana Gita   作:ひとつ

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マーリンの代わりに、単発すり抜けアルトリアさんがきました。オルタなアルトリアさんもきたので、とても慰められてる気分です。


4 本当に私と貴方は私の知る私と貴女なのかの話

 あの競技会から一年くらい経った。新しい友人(カルナ)はその人がどんな人であろうと、正直で謙虚で悲しいくらいに言葉が足りないために誤解ばかりされていた。そのフォローに私はよく走り回り、ドゥルヨーダナは匙を投げていた。曰く、もう自分は何が言いたいか分かるようになったから別にいいらしい。

 

 また、カルナは優秀な武人でもあった。弟達が妬んで止まないパーンタヴァ相手に遜色ない武を示しており、パーンタヴァの王子たちが褒めちぎられる横で誰に褒められなくとも淡々と自己を磨き上げていた。

 

 夜に私がこっそりと師匠のところに通って練習しているのにも、早々に気付きよく修行に付き合ってくれた。自他共に認める口下手なのでいい指導者ではなかったが、いい先輩であったと断言しよう。

 

 早くいいお嫁さんでも見つけて幸せになってほしいなあと薄幸そうな彼をみて何気なく思う。

 

 ある日唐突に、思い立って私は庭に出ていた。

 

 ドゥルヨーダナの仕事を手伝い終わり、暇になって何気なく愛用の何の変哲もない斧を布で拭いていた時に鼻歌を歌っていた時に、気付いてしまったのだ。

 

 思ったより自分にはどうやら腕力やら脚力が備わっているらしいのだ。両手用の斧も片手で振ることも可能なら、それぞれの腕で斧を持ってしまえばいいのではないかと。

 

 試しにこうして片手ずつに斧を持って立ってみたが、苦になることも無くいつもと変わらないように感じる。まあ、失敗ではないようだ。

 

 さて、動くとなると誰かに教えて貰っているわけではないので、考えながら動くか本能的に動くかの二択になる。後者は相手がいない状況だと、相手を想像しなければやりにくいのでなかなか出来るものではない。一つ一つ考えていくしかないか。

 

 「いや、待てよ。両方の手を大きく振ることに関してなら……」

 

 指先からゆっくりと動かすイメージを、芯まで溶かすように身体を動かす。ああ、うまく行けそうだ。

 

 「……う……ろ……!」

 

 ……あまり楽しそうではない声が聞こえてくるな。これは弟達か。また喧嘩でもしているのだろう。

 

 手早く布で包むと声の聞こえる方へ早足で向かう。前はそのまま持って運んでいたら侍女に悲鳴をあげられてしまったから、本当に悪い事をした。確かに夜な夜な練習した帰りに持つものではなかったかもしれない。

 

 角を曲がると、まだ産まれて10年と少しくらいの弟が二人とビーマ王子が向かい合っていた。

 

 競技会で見たとおり、ビーマ王子はやはり何度見ても街であった赤髪の裏表のない男その人で、まあクシャトリヤ階級の誰かだろうとは思っていたのでどこかで納得はしていた。なんとなくだが、今まで避けていたのではっきりと確認するのはなんだかんだで初めてなことに気が付いた。

 

 弟達曰く直ぐに誰かに手を出す暴力的な男だが、私が話した時はそのようには見えなかった。私に嘘をつくような子達ではないし、私は私の目も信じてない訳では無い。一体真相は如何に。

 

 「いつも兄上達を虐める悪め!」

 「正統な王家の血も流れていないくせに、神の狗どもめ!」

 

 直感的にに2人とビーマ王子の間に滑り込み、布がかかっているのもお構いなく斧の面の部分で、頭上から振ってきた強烈な打撃(・・)を受け止めた。人間が出したとは思えない衝撃を必死に逃していく。

 

 「!…ドゥフシャーサナか。邪魔をするな。」

 

 ビーマの憎しみの篭った目が怒りで充血し、殺気が私を襲う。だがそんな事で簡単に引いてはいられない。後ろにいるのはまだ小さな弟達なのだから。

 

 ビーマが弟達を狙うように拳を繰り出すのを全て弾く。腕に痺れたような感覚が走るが弱音は言ってられない。必死で両手の斧で拳の行く先を追う。相手の動きの先に斧を持っていく。

 

 「アージェイ!ヴィジェイ!謝れ!…いや、無駄か。人を呼んでこい!こいつ止められそうだったら、誰でもいい!走れ!」

 

 走り去っていく弟達を追うそぶりをみせるビーマの足に右足を引っ掛けバランスを崩し少し落ちた顎をしたから柄で殴りつける。獣のような反射能力で交わされまた拳が飛ぶが、それも読んで途中で体をひねり斧の軌道を変えて受け止めた。

 

 「落ち着け、ビーマ!」

 「彼奴らは、侮辱した……」

 「アージェイもヴィジェイが確かに悪かった。だが、殺しに掛かるのはいくら何でも、やり過ぎでは……っ!」

 「煩い」

 

 やはり、何処かおかしい。

 まるでビーマの中で何か切り替わったかのような、切り替えられたような違和感。私の出会ったあの男は実は今相対している、このビーマ王子とはただそっくりな別人なのではないか。人の話を聞かないのは、元からだが、ここまで理由以上の暴力を振るう者では無かった。相手への手加減を知る者だった。

 

 ここまで、ゾッとするような目では無かった。

 

 恐ろしい。見てはいけない。考えてはいけない。引きずられてしまったら戻れなくなる。きっと、人間じゃなくなる。

 

 「ガッーー!」

 

 心が怯んだのと同時に斧の軌道がぶれて反応が遅れる。それを見逃されずに壁に打ち付けられ、呼吸を一瞬忘れる。身体の内側から鈍く広がる痛みが斧で身体を支えて立つ私の脚を震わせた。

 

 ああ、ビーマ王子がーーいや、彼奴が行ってしまう。弟達を痛めつけるべく行ってしまう。盾になると誓ったのに。早すぎる。役立たずだ。

 

 ー諦めちゃうんだ。

 違う。

 

 ー君のせいじゃない。

 違う。

 

 ービーマは半神だ。もうそんな状態じゃ止めることは出来ないよ?

 しかし諦めていい理由と同義ではない。

 

 ーでも諦めなかったらどうにかなるのかな?

 

 

 

 「なる!

 

 残りの力で斧を投擲した。そのまま斧はビーマ王子の頭上の照明にあたり、道を塞ぐ。かなり大きな音がしたので多くの人が異変に気付いてくれたと願おう。それに、彼奴が来る時間くらいは稼げた。

 

 突如襲ってきた安心感と一緒に白く落ちていく意識の最後に、友の姿が写りこんだ。

 

 

 

 

 「……!!」

 

 声にならない声を出して飛び起きた。額に載せられていた冷たい布がずれ落ち視界を塞ぐのを直ぐに取り去り息を落ち着かせた。心の冷えるような嫌な夢を見ていた気がする。例によって記憶には残っていないが、とても気分が悪いのは確かだ。

 

 顔を伝う脂汗を片手で拭い、寝台から立ち上がる。どうやら、自分が倒れたあとに誰かに自室まで運んでくれたようだ。

 

 寝台横の暫く絶対安静にするように、との書き置きが目に入るが一瞥した後、無視して部屋の外へと向かう。

 

 日の落ち方から見るにそう時間は経ってないようだが、今状況がどうなっているのか早く確かめたい。

 

 「あ。」

 「あ。」

 

 扉を開けると、扉の外から丁度部屋に入ろうとしていた二人の少年とばったり鉢合わせた。一人は水の入った桶を抱え、一人は清潔そうな白い布を持っていた。そして、何よりも特筆すべきなのは少年達は、その顔を布で覆い、目元しか顔が見えていなかったことであった。

 

 「確か、貴方達は…」

 「ナクラです。」

 「サハディーヴァです。」

 

 パーンダヴァの双子はそっくりな声を出した。なるほど、僅かに見える目元も、華奢な体型も、声も、この二人が間違いなく双子だということを雄弁に語っていた。そんなこと抜きにしても、同じ双子として生まれた己の直感が間違いないと囁く。

 

 「礼を言う。きっと貴方達が介抱してくれたのだろう。聞くとこの王宮には貴方達以上の医者はいないと聞く。光栄だ。」

 

 頭を下げると、何故かナクラ王子もサハディーヴァ王子も固まってしまった。どうしたのかと問うと二人とも同時に何でもない、と返ってきた。何だ、そこまで反応しておきながら何でもないは無いだろうに。

 

 「ええ、ほんとに何でもないんです!」

 「私たちが世界最高の医者であることは揺るぎがないことなんです!」

 「決してドゥルヨーダナと正反対で思ってたのと違ったとか、そんなんじゃないんです!」

 「決してドゥルヨーダナと同じ顔して謝られたのに動揺したとか、そんなんじゃないんです!」

 

 思わず頭を抱えてしまった私は悪くない。

 全く、私の兄弟は私の知らないところで一体どれだけパーンダヴァの王子達と喧嘩をして恨みを買っているのか。

 

 「頭が痛みますか?私の完璧なる医術で治して差し上げます!」

 「頭が痛みますか?私の完璧なるお薬で治して差し上げます!」

 「そうではなくて、もっと比喩的な意味で頭が痛いんだが!」

 「そうですか?絶対安静と書き残したのですが私達のいうことを聞かずに動いた貴方の頭が心配なのですが。」

 「医者のいうことを聞かないとは貴方の頭がおかしいとしか思えません。」

 

 散々な言われようだ。しかも両方が交互に話すのでこちらも押されてしまい、結局寝台に寝かされた。この個性的な兄弟は確かに医神の父親の性質を多大に受け継いでいるようだが、なかなか残念なことになってしまっている。

 

 もし本当に頭が痛かったとしたら、この喋り方は是非とも遠慮願いたいものだ。

 

 「ドゥフシャーサナ!」

 

 その時部屋にまた騒がしい奴が現れてしまった。頭痛の根源とも言える我が片割れの声だ。

 

 ふと気づくとあの癖のある双子は消えてしまっていた。素早すぎる。余程ドゥルヨーダナは嫌われているようだ。ほんとに、何をしているんだか。

 

 「ドゥフシャーサナ!大丈夫か!ビーマの脳筋野郎にやられたのか!変態傲慢双子に何かやられてないか!」

 「……問題ない。元はといえばアージェイとヴィジェイの言葉が発端だ。後であいつら連れて謝りに行かなきゃな。それに、双子の王子にもお礼を。」

 「行く必要などない!お前達は殺されかけたのだぞ!」

 

 心配してくれるのは嬉しいが、なんか、頭にきた。

 いくら何でもこれは無い。過程で、おかしなほど(・・・・・・)怒り狂ったビーマ王子が暴走したものの、原因はこちらにある。何故、ここまで嫌う。例え政敵であったとしても、行きすぎだ。仮にも親族ではないか。

 

 「言い方というものがあるだろう!それに、ナクラ王子もサハディーヴァ王子は私から見れば恩人だ。……前から気になってはいたが、貴方を含めいつも皆このような態度をとっているんだな?まだ未熟な弟達ならまだ知らず、貴方が子供みたいに一緒になって侮辱して、長兄たる貴方のやる事か!」

 「部屋に篭っていたお前には分からんだろうが!

 

 その言葉は胸にひんやりとした感触を遺し、頭の中を泥沼みたいにぐちゃぐちゃにかき混ぜた。ドゥルヨーダナは何を言っているのだろう。

 

 へやにこもっていたおまえにはわからない?

 

 どれだけ、私が外に出て貴方達と同じ空気を吸いたいと願っていたことか。

 どれだけ、外の話を楽しそうに、悲しそうに、怒ったように話してくれる貴方達の横に座って、距離を感じていたか。それは、別の世界で生きる貴方達と私の見ているものの差があまりにも耐えられなくて。

 どれだけ、その距離を誤魔化すように私が貴方達の話に合わせて一緒に語らい背伸びしていたことか。

 

 そんな自分が惨めで、情けなかったか。

 そして、貴方達を妬ましかったか。

 でも、それでも

 ーーーー大切な兄弟だから。

 

 「……すまない、言い過ぎた……。」

 

 ーー考えがまとまらない。

 

 私にはわからない。

 私達とパーンダヴァの王子達は違うと、人はいう。

 人並みにしか出来ず、人でしかない王子達と、何でもできてしまって、半神である王子達。家族を大切にして庇うからこそ、お互いが争う。どちらが始めたか分からない、いがみ合いを延々と続けるている今、誰が望んでこうなったのか。誰も望んでいなかったはずなのに。ただ、兄弟を守るために、

 

 「……ドゥフシャー…サナ?」

 

 ーー考えがまとまらない。

 

 ああ、そうだ。何も分からない。

 部屋にいた私は何も知らない。兄弟達は酷い目にあっていたかもしれない。私だけ安全な部屋で守られていたかもしれない。でも、それでも、私にとってはあの王子達だって、家族なのだ。いがみ合ってる立場であっても家族なのだ。貴方と違って私はきっと、この線を越えることはもう無理だ。既に、身内と判断してしまった私にはもうどうあがいても情が少なからず湧いてしまう。どうしようもないほどに甘い人間だから。

 

「ドゥフシャーサナ!おい!聞こえてるか!」

 

 ー君は、本当にちぐはぐだ。

 分かってたさ。私はちぐはぐだ。確かにこの私は人間であるはずなのに、こうして既に体のどこに不調も見られないこと、

 

 ー半神の子の猛攻に耐えきった膂力。

 予測に近い直感。その直感が言っている。

 

 ー君の兄上はもう気付いているんじゃないかな?

 気付いているだろう。いや、気付いている(・・・・・・)。あの日々は保護も目的だろう。だが、信じたくない可能性が、頭をよぎっている。

 

 兄は、神が、嫌いなのだから。だから、ああやってーー

 

「ドゥルヨーダナ。私が、嫌いか。」

 

 

 

 嫌な沈黙が張り詰めた。




難産!話の落ち着けるところが見つかりにくかった…次は花婿選び行きたいなぁ。
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