それと、パライソのアサシンって男なの?女なの?
ああ…露出(錯乱)
パーンダヴァのあの5人が火事で焼け死んだという報告が入ってきたときは、横にいたカルナに咄嗟に支えてもらえなければ、私は卒倒して倒れ込んでいた。無表情に見せかけた兄の
つまりは、
心優しい父上が開いた壮大な葬式になっても私には実感が全く湧かなかった。あのパーンダヴァが死ぬわけがない。火事ごときでそんな、簡単に。忌々しい直感もそう言っている。
だが、
幾ら何でも、きっと生きているなどと軽々しく言うことは出来なかった。
「羅刹…?羅刹とはあの羅刹の事か。」
「ええ、エーカチャクラはいま1人の羅刹が穀物、牛、人間を定期的に差し出させて治めている状況です。鎮圧の為に兵を向かわせたのですが全く手に負えていません。」
「領主が殺されて乗っ取られたか。では、手厚く領主の葬儀をやっておいてくれ。犠牲になった者達もだ。…どうせドゥルヨーダナの事だからもう言われているだろうが。」
アショーカは微妙な笑みを浮かべた。正解だったらしい。私はあえてそれ以上掘り下げることはせず、話を進めた。
「大方、この話をわざわざ私に伝えに来たということは、エーカチャクラの羅刹討伐に行ってこいという伝言でも貰ったのだろう。弟達じゃあ力不足だし、パーンダヴァはいたとしても絶対に頼まないだろうし、カルナは自らの傍から簡単に離す事はしないだろうな。」
あの策略家のドゥルヨーダナが自分が策略を掛けられることを危惧していないはずがない。策略を押し通せるほどの武力を持つカルナをこの都から出立させることはありえないのだ。
既に用意していた荷物をまとめ、旅支度が済んでいることを示すとアショーカはまた微妙な表情をした。今度は笑っているのか泣いているのかわからない様な顔だ。
「例の直感ですか。」
「結構、便利なものだよ。…まあこれもあまりドゥルヨーダナと上手くいってない原因の一つだけれど。」
だからこそ、こうしてアショーカは嘆いているのだろう。
本当に、こんな顔をさせてしまうなんて
逃げるように私は
いつの間にか生意気にも背を伸ばしていたアショーカを振り返り、僅かに見上げ行ってきます、と扉に手をかけた。餞別の言葉の代わりに頼りになる弟は忠告をした。
「…早く仲直りして下さいよ。貴方達の喧嘩に振り回されるのはもう御免です。」
「…私は間違ったことは言って無い。」
きっと、ドゥルヨーダナも間違ってはいないのだろう。
ただお互いがお互いを理解出来なくなったと言うだけで。だからこそ私達に今必要なのは、時間と距離だと知っていた。
エーカチャクラの件が片付いたら少し旅でもしようか。
「思ったより栄えているな。」
最初に出てきた感想は月並みだが、するりと思ったことそのままだった。旅の女楽師ということにして入ったエーカチャクラは、普通の街の賑わいを見せていた。もっと羅刹を恐れて、閑散としたものを想像していたが予想が外れたらしい。
背中に背負った斧を、外から分からなくなるまで厳重に包んだ布は楽器だと言うだけで、通ってしまえた関所でも同じことを感じた。厳重な警備だと考えていたからである。むしろ、誰も入ることが叶わない可能性が高いと踏んでいた。
ーーしかし
賑わう街は大切なものが足りなかった。都と比べて圧倒的に、人の動きに対しての気力が弱いのである。取り敢えずの活気はあってもどこか、薄っぺらくなってしまった気力。薄くなったのは恐らく、恐怖により押しつぶされてしまっているのだ。
本当はここで歌って人を集めて話を聞きたいところだが、悪目立ちするのも不味いだろうし、話しかけやすそうな子供を見つけて聞き込むことにする。昔から馬鹿な大人より賢い子供の方が、信頼には足りるのだから。
いつも王宮で使う言葉を噛み砕き固さを薄めてから、声にする。
「なぁ、この街ってどんな人が治めているんだ?」
「お姉さん、旅の人?」
くるりとした小さくて赤い目がこちらを捉える。まだ舌足らずだが、一目で目の前の人物が余所者と分かるくらいには確かに賢さがあるようで、あたりを引いたと確信した。
「だめだよ。こんなところにいちゃ。りょうしゅ様は強くて怖いかたなんもん。お姉さんはきっとたべられちゃうよ。」
そう言われても…と苦笑すると、少年はむむむと可愛らしい声で唸ってから小さな手で服の裾を引っ張り始めた。
「お姉さんはぼくのお家でまもってあげる!」
「ちょ、うわ、引っ張るな!」
子供とは思えないほど強い力でグイグイと掴まれ、白旗を上げた私は結局少年の家にお邪魔することになってしまった。仕方なく少年を肩に座らせ歩き出すととても喜んでくれた。弟が増えたようで中々悪い気分ではない。
「お姉さんはこのまちに何しに来たの?」
「楽師として、この街で皆が幸せに歌が聴けるようにしに来たんだ。」
嘘ではない。子供に嘘をつく気は無い。すべてを話すつもりも無いが。喋り過ぎて身を滅ぼす物語は沢山読んできた。
「ガクシのお姉さんってすごい夢持ってるんだね!お姉さんのなまえを教えてよ!」
前後の文が繋がらない話し方はやはり子供だなあと思いつつ、頭に浮かんだ名前を出した。
「…イクギイ。」
「イクギイお姉さんかー。変ななまえ。あ、こっちがぼくの今住んでるいえ!」
「こっちだな。…にしても、失礼な。」
肩から少年を優しく下ろすと途端に走って家の中に消えていってしまった。外に漏れるほどの声で両親を呼んでいるようで、実に微笑ましーーー
「……?!」
突然の敵意に驚いて後ろを見ると、驚愕と納得が一緒にやってきた。何故、こんなところで出会うのかという驚愕とやはり生きていたのかという納得。遅れて、強大な殺気に当てられ少年が少し苦しんでいる様子に気付く。私は肩から下ろして背後にかばうように立った。
「アルジュナ王子…。」
「…我らを追ってここまで来たということは、我が弓を受ける覚悟は宜しいですね?」
「待て誤解だ!私は貴方達を追ってきた訳では…!」
いつの間にか引き絞られた弓がこちらを狙う。血の気がさっと引いた。この王子相手にこの子をどう逃がすか、ない頭を全力で振り絞る。最悪、私が全てをかばえばこの子は無傷で逃げられるが、その場合後からドゥルヨーダナがそれを口実に全面戦争に入りかねない。私もなるべく無傷でこの状況から脱出するに限る。
さて、どう説得するかと悩んでいると背後から少年が走り出した。慌てて止めようとするが、少年は私をその小さな体で庇うように腕を広げて立った。
それを見たアルジュナ王子の様子が少しおかしかった。瞳が揺れ、弓を持つ手はぶれなかったものの、明らかに動揺していた。まるで、向けてはいけない相手に矢を向けてしまったかのようなーー
「な、何故ガトートカチャがここに居るのです?」
「アルジュナおじうえ!アショーカお姉さんはこのまちの幸せのためにきたと、いっていました!その言葉にいつわりはないと、ぼくがほしょうします!だから、ころさないで!」
「幸せ?」
「叔父上?」
唖然とした私とアルジュナ王子の目が自然と合う。
どうやらお互い話さなければいけないことが出来たようだ。
疲れきった少年を部屋で寝かせて、私とアルジュナ王子は家の裏手で話し合っていた。廊下で元気そうなナクラとサハデーヴァにすれ違ったのでお辞儀をしたら誰?とでも言いたげな怪訝な顔をしてふたりで顔を見合わせると、そのまま行ってしまった。私のことを覚えていないのか、それとも変装を見破れなかったのかは定かではないが、優秀な医術の使い手が見識眼が無いはずもない。忘れてしまった可能性が…高いかもしれない。
それはさておき。
「成程。全員無事、と。」
「貴方達には残念なことにでしょうが。」
「そうやって直ぐに皮肉する癖はやめた方がいい。それに私は残念だなんて、思ってないというのに。」
「本当でしょうか。」
「…私は中立だ。さて、それより事情を教えてくれないだろうか。」
どうやら運良く、突然燃え始めた家から脱出したパーンダヴァ達は逃げおおせ、ついでにその途中ビーマと、ビーマに目惚れした羅刹女の間に子ができ、この少年ーガトートカチャが生まれたそうだ。
そして現在は全員がバラモンの振りをしてこの家に匿ってもらっているそうだが、ここの領主の羅刹の魔の手が伸びてきたらしく、ビーマが今さっき飛び出して行った、と言うのだ。
「…今さっきか?なんてことだ…ここから馬を借りれば間に合うか?」
ここまで来て何もせずに帰るのは流石に認められない。一様王族の端くれに名を連ねている以上、のこのこと帰路に着くことは出来ない。もし帰ったら、手柄を取られてしまって無駄足を踏んだ者として、あの根暗貴族たちから、陰口を叩かれ兄弟に迷惑かかること間違いなしだ。
「は?行かれるのですか?貴方が行っても行かなくても……全く人の話を聞かない御人ですね。」
ちょうど近くにあった馬を勝手に借り飛び乗る。アルジュナ王子の静止の言葉を置き去りにして領主の館へと向かったのだった。
エーカチャクラの羅刹がビーマによって倒され私は結局、雑兵相手の対応しか出来なかったものの(まあこれでこの地の平定という大元の目的には関われたわけで)、とりあえずの仕事が終わって結局パーンダヴァの兄弟達に着いていくことにした。監視か、と私の正体を知るアルジュナ王子とビーマには当然疑われたが、敵意がないことを一日中説得し続けたら最後には心なしかげっそりとした顔で了承を得た。ガトートカチャの世話係として随行するなら、と。
「イグ姉さん!歌を歌って!」
「いいぞ?今日はなんの歌がいい?」
最初に会った時分より少し背が伸びたガトートカチャだが、まだまだ小さいガトートカチャの頭を撫でながらいつも通り要望を聞く。最近は子供扱いして欲しくないようで撫でると少しむっとするが、完全に嫌がってない様子がまた微笑ましい。
馬で揺られながら何を歌うか真剣に考える。
やはり旅の鬱屈した同じ景色を吹き飛ばすような、明るい曲か。しっとりして感動を誘う悲劇の曲か。はたまた海のようにうねる大きな流れをもった民謡か。
「……ぶふっ。」
「おい何故笑った。」
前方を進んでいたビーマが話を聞いていたのか急に吹き出した。詰め寄るとさらに笑われる。何がおかしい。
「いや、ただな…お前子供に弱いんだなって思っただけだ。」
「そうか?…普通だと思うが。弟達にはいつもこうして接しているからな。それに近くなっているのかもしれない。」
ビーマの豪快な笑い声にさらに前方の双子が振り返る。そう言えば双子曰く、ビーマは普段は優しいのだが、極たまに人が変わったように暴れるのだという。
サハディーヴァが何気なく言った一言が胸に刺さっていた。
『あ、でもカラウヴァの子達相手に良くなることが多いかな。』
精神的なものにしろ、何かほかの理由があるにしろ、弟達に危害が今後も及ばないとは限らない。が、当の本人はこの状態の時を全く覚えていないらしいし、要因も分からないらしいので、何もしようがない。…見当がつかない訳では無いが、確証の持てない上での行動は危なすぎる。
その時、前の方からーーユディシュティラ王子のそろそろ目的地だと知らせる声が届く。パンチャーラに着いたようだ。今日婿選びの弓の競技会が行われる街、パンチャーラだ。
そして、きっとこれが王子達がまだ生きてることを証明する晴れ舞台になるのだろう。
「ドゥルヨーダナとアショーカと……みんな元気だろうか。カルナもまた無茶してないといいが。」
そして、久しぶりに皆に会える日。
胸に響く警鐘を、無視して飲み込みながら前へ踏み出す。
ーー僕?僕は彼らについて行かなかったからね。
おかげでなんと、
他にも理由はあるけどね。
彼らについて行ったら、君と会ってしまうからというのが正直な話一番の理由だ。
君は、僕と少し会ってしまっただけで、予想外にも醒め始めてしまったからね、細心の注意が必要だ。わかりやすく言うと、一種の衝撃で封印の端っこが解けて呪いがもれてしまっている状態だ。これ以上漏らすと周囲に害をもたらすレベルの呪いだ。正しく条件を整えた上での処理をしないと、何が起こるかわかったものではない。
最近はどうしてか君は、宮殿の外に出て修行に打ち込むか、自分の部屋にいるかのどちらかが多い。誰かにどうしても会いたくないのか宮殿を歩き回らないから、宮殿内なら逆にあまり会わない、なんて不思議な構図ができていたからね。
それに、どう考えても中途半端に醒めてる君は、物事の渦に放り込まれるに決まっている。
その点僕の方は、完全に醒めてる分、ある程度自分の居場所くらいは選べる。僕は、傍観をしばらく決めることで…
おや、そろそろ終わりかな。
夢の中といえど少し喋りすぎたか。心配しなくていいよ。どこぞの夢魔君と違って、悪戯なんかしないからさ。
さあ、おはよう。
双子は本気で忘れてます。正直、患者と本当に大切な人以外の瑣末なことは忘れます。治った患者は興味ナッシング。
パールヴァティーさんどう絡ませればいいんだ…悩むう