時刻は12時を過ぎた頃。ダルタニャンは平塚に連れられて大きな建物の前に立っていた。看板らしきものには「異種族共存特区中央管理局」と書かれている。
「あの、ここが……?」
「うん。中央管理局。俺達の国の生活インフラを構築する上で、最も重要な場所の1つだよ」
そう言って、平塚は中に入っていこうとする。
「あっま、待ってくださいよぉ」
ダルタニャンも後に続いてはいっていった。
そこでダルタニャンが目にしたのは、磨きあげられた大理石の床と天井から吊るされたシャンデリア。掲示板と書かれた板に貼ってある数多の紙を見つめる人。
そして、カウンターの向こうに座るピンクの紙をした女性だった。
「いらっしゃい、遥斗君。お待ちしてました」
女性は制服姿でにこやかに挨拶した。
「ミカエルさん。どうも、ご無沙汰してます。今日もお勤めご苦労様です」
そう言って平塚は小包を渡す。朝出発する前に作った弁当だ。
「ありがとうございます♪これで今日も頑張れます!」
ミカエル、そう呼ばれた女性はとても嬉しそうに小包を受け取ると、至極柔和な表情で言う。
「それで、そのとなりの方は?」
ダルタニャンが突然話題がこちらに来たことに驚いていると、
「彼女は、あっち側の住人です。路地裏で踞っていたところを保護して介抱しました。事情を聞いたところ、どうやら野良らしくて」
平塚がそうフォローする。
「なるほど、了解しました。では、書類を作成しますのでそちらでお待ちください。あ、遥斗君、今日は局長には会うの?」
事務的な態度で受け答えしつつも、ダルタニャンの事を気にかけている様子のミカエル。
「はい。自分は元々そっちが目的だったので。あ、この子も同行していいですか?」
先程までとはうってかわって申し訳なさそうな態度にダルタニャンは面を食らう。謙虚な一般青年としか思えないその態度は、公園での態度と似ても似つかない。
「構いませんよ♪お帰りの際はこれをカウンターに提出してくださいね♪」
そう言って案内パスを二人分とダルタニャンの書類を渡すミカエル。
「ありがとうございます」
礼を言って、平塚はエントランスを後にする。
エレベーターに乗って20階へ上る。
案内板によると、どうやらこの建物は上は40階、下は地下5階まであるらしいのだが、エレベーターは20階までしかないようだ。
では、どうやって40階まで上るかと言うと
「キャァァァァァァァァァァァァァ!!!」
平塚に抱えられながら、ダルタニャンは悲鳴をあげる。
それは何故か。
答えは平塚が壁面を走って登っているからだ。
しかも垂直に、時折ジャンプしながら。
普段、この20階以降は局の職員しか使わない。その職員というのは、そのほとんどが所謂天使と呼ばれる翼を持つ者達である。
21階から40階までは中心が筒抜けになっており、まずモンスターでなければ上に上がることはできない。
平塚のように特殊な人間を除けば、だが。
数十秒前。
エレベーターから降りた平塚がいきなり首を鳴らすと、ダルタニャンを抱き抱えて壁を登り始めた。平塚にとってはごく普通の当たり前の行為でも、ダルタニャンにとってはたまったものではない。
ようやく40階に到達したとき、ダルタニャンはすでに放心状態だった。
「ふぅ、着いた着いた。ダルタニャン、だいじょ………ぶ?」
「……跳ぶなら跳ぶって、言って欲しかったんだけど」
心底恨めしそうな眼差しを平塚に向け、平塚の頭をポカポカと叩いている。
「悪かったよ、説明もなしに跳んでごめんなさい」
申し訳なさそうな表情で平塚が頭を下げながらそういっていると
「は、遥斗くん!そんなところでいちゃついてないでこれどけてくれないかな!?」
そう、くぐもった声があたりからあがる。
あたりにあるのは本と書類の山、山、山。
その山が一部崩れ、丘のようになっているところから手が出ていて、じたばたともがいている。
平塚はその丘に駆けて行くと書類をかき分けながら手の持ち主を抱き上げる。
「ぷはぁっ!」
「大丈夫ですか?ガブリエル局長」
「うむ!くるしゅうない!!」
ガブリエル。そう呼ばれた女性…少女、否、幼女はずれた瓶底眼鏡を外しながら頭の触角、というかアホ毛をピコピコさせて興奮している。
「それで、今日はいかなるご用かな?」
そう言いながら極上のスマイルを浮かべるガブリエル。
その表情を見て、ダルタニャンは直感する。
彼女こそがこの異種族共存特区を治める長なのだと。