「それで、今日はいかなるご用かな?」
そう言って、ガブリエルは平塚の腕から書類の山の上に座る。
「ご用もなにも、局長が仕事ができないっていうからこうやって来てるんじゃないですか」
少々呆れ気味に平塚がそう言うと、ガブリエルは頬を膨らませながら反論する。
「む、ちゃんと否定できない己が身を呪うぅぅ。で、でもでも僕だってちゃんと仕事してるんだよ?」
「例えばどのような?」
「ぅ……ミカエルちゃんにお茶淹れたりとか、ミカエルちゃんにお饅頭差し入れしたりとか、ミカエルちゃんの肩揉んだりとか!!」
ガブリエルは両手をパタパタさせながら弁明する。丈の合っていない上着の袖が手を隠している様は非常に可愛らしい、のだが。
「つまり、通常業務を殆どこなさずにミカエルさんのところで遊んでいたということですか?」
「(ギクッ)」
平塚のとびっきりの笑顔に表情が固まるガブリエル。
「お、おかしいな?笑顔に見えるのに後ろに般若がいるんだけど?」
「当たり前です!いつまでたっても仕事が下りてこないから街の治安も悪くなってるんですよ!今日だってハンター紛いのチンピラに絡まれたし自動販売機だって壊しちゃったしあの公園のコンテンツは貴重で結構気に入ってたのに…」
そう愚痴りながらガブリエルの座っている書類の山を下から引き抜いては仕上げるという荒業を平然とやってのける平塚。みるみる山は小さくなり、ガブリエルの姿が立った目線で視界に入るまでにはなった。
ガブリエルは申し訳なさそうな顔をしてしょげている。
その時、書類のバランスが崩れ、ガブリエルが真っ逆さまに落ちる。
「「あっ!」」
ガブリエルとダルタニャンが叫ぶ。
(だめだ、間に合わない!)
ダルタニャンがそう思った次の瞬間、平塚がガブリエルを抱き抱える。
「少しは局長であるという自覚を持ってください。……でないと俺が不安になります」
「……」
突然のことに思考が追いつかなかったのか、ガブリエルは何があったのかわからないような表情をしながら、コクリと頷いた。
途端、ガブリエルのお腹から可愛らしい音がする。
「……うぅ…」
顔を真っ赤に染めて俯くガブリエル。
「そういえば、もうお昼ですね。お弁当にしましょうか。ダルタニャン、そこのバッグからお弁当出してくれる?」
「あ、うん、わかった!」
ダルタニャンは青黄緑3色の弁当箱をとりだし、平塚に渡す。
平塚はその弁当を近くにあるテーブルに置き、椅子を三つ用意する。
その椅子にガブリエルを座らせると、残る椅子にダルタニャンと平塚が座る。
「食べたら書類片付けますよ?」
「うん!」
そう答えるとガブリエルは椅子から降り、平塚の膝に座る。
「……あの~、ガブリエル局長?そこに居られると俺が食べられないんですが」
「僕が食べさせてあげるよ!そのかわり、遥斗君が僕に食べさせてね?あーん!だよ?あーん!」
「んん……まぁ、構いませんが」
「えっへへ~♪」
無邪気に笑うガブリエル。その表情は実に楽しそうである。
「それじゃ」
「「「いただきまーす!」」」
各々弁当を開ける。
ダルタニャンが開けたのは青の弁当箱。
中には猫の顔型に盛り付けられたご飯の上に卵と鶏そぼろなどが盛られ、海苔で作った猫の口や目もついている。いわゆる三毛猫の顔が表現されている。トマトやレタス等も入っていて彩りも鮮やかである。
一方、ガブリエルの開けた緑の弁当箱は、ガブリエルの顔をデフォルメしたと思われるキャラ弁だった。黄色いパプリカのラッパまでついている。また、煮込みハンバーグや、タコさんウインナー、ハート型の卵焼きまで入っていて、子供心をくすぐる弁当となっていた。
「すごいすごーい!」
「こ、これ、いつの間に?朝はそんなに時間がなかったはずでは?」
弁当にはしゃぐガブリエルと驚くダルタニャン。
「昨日のうちに具材の下処理は終わらせてたんだ。それで、食器片付けた後に昔話の傍らで作ってたんだけど……気付かなかった?」
唖然とするダルタニャンの表情に苦笑いを浮かべながら、平塚は自身の弁当を開ける。そこには塩おむすび2つとたくあんが入っていた。
あまりに質素な弁当に驚くダルタニャン。
「ん?どうかした?」
「もしかして、私たちのお弁当作ってて自分の分作れなかったとか……?」
「いや、違うよ?ダルタニャンが炊いてくれたご飯が美味しかったから、お昼も食べたいなって思っただけだよ」
嬉しいやら恥ずかしいやらで顔が赤くなるダルタニャン。それを見ながら、ガブリエルにトマトを食べさせる平塚。トマトをパクつくガブリエル。
その三者を書類の下から見つめる者がいた。