「あのー、ラファエルさん?なんでまだ俺に抱きついてるんですかね?」
うんざりとした声でそう言った平塚は仕事のペースを緩める。その平塚の首に手を回して身体を押し付けているラファエルが甘い声で言う。
「だってぇ、抱きついて良いって言ってたじゃなーい?」
しまいには耳に息を吹きかけてくるラファエルに、平塚は真顔で
「たまにならって言いましたよね?」
そう言いながら、仕事のペースをいつもの倍以上に早める。
「あぁ~ビリビリする~きもちいぃぃぃ~♪」
平塚の背中にへばりついているラファエルは、そう言って平塚が加速している時に流れる電流を利用してマッサージがわりにしている。
数十分前、ラファエルの騒動の後、平塚はラファエルに説教した。当の本人は何処吹く風で全く聞いていなかったのだが。
その途中でラファエルの腹の虫が鳴き始めたので平塚が説教を終わらせて作ってきた弁当をラファエルに食べさせた。
その際、ぐずってなかなか弁当を食べようとしないラファエルに対して
「たまになら抱きついても良い」
的な発言を渋々させられたのが今のこの状況を生んだのである。つまりは平塚の甘さが招いた結果であるのだが。
普段の彼女は大人しく、仕事もきっちりこなす真面目な女性である。だが、平塚にだけ見せる彼女の一面には少々理由がある。
平塚が18になり、特区に来た頃のこと。当然身寄りもなく、中央管理局に頼った平塚を3ヶ月程度引き取ったのがラファエルであった。
その三ヶ月間、平塚の世話、否。ラファエルの世話をしたのが平塚だった。普段真面目に仕事をする反面、彼女の私生活はズボラといった感じだったのだ。アニメや漫画好き、ゲーム大好き、お酒大好き、でも掃除するのは嫌い、炊事洗濯なんてものは彼女の頭の中にはなかったも同然だったのだ。
平塚はラファエルのアパートの部屋につき、ドアを開けるなり、玄関先で彼女に説教した。その後、小一時間かけて彼女の部屋の掃除をしてのけ、その晩に食べるための晩飯とラファエルのための弁当の下処理までこなしていた。その手際と面倒見のよさから、ラファエルは平塚にベッタリとくっついて離れなくなった。
しまいにはラファエルはその翌日からガブリエルに対して
「私、遥斗くんに養ってもらうんだぁ~♪」
と公言してしまう始末。当然、平塚にはその気は全くなく、ものの三ヶ月で仕事と住居を見つけてラファエルの部屋を出ていってしまったのだが。平塚が出ていってから一週間で体調を崩したラファエルの様子をガブリエルに言われて見に行った平塚が目にしたものは、三ヶ月前、自分が掃除した部屋そのままの酷い有り様だった。
それからというもの、掃除洗濯ゴミ捨てと一週間分の食事を平塚が用意して、レンジでチンするだけという状態までするという週1の雇われ主夫までこなしている。三ヶ月という短い期間でここまで平塚には依存しなければ生きられない有り様。
「(ここまで骨抜きにするつもりはなかったんだけどなぁ……)」
そう思いながら書類をまとめる平塚の膝の上にはお腹いっぱいになり、鼻桃燈を膨らませながら昼寝をしているガブリエルの姿が見える。
弁当を食べながらここまでの経緯を説明したラファエルは、食べ終わるなり平塚の背中にへばりつき、ガブリエルは眠りについた。
すっかり餌付けされた二人を見ながらダルタニャンは
「(平塚遥斗さん……天然のたらしさんなんだなぁ……)」
と、そう思いながらお茶をすする。
平塚は恐るべき早さで書類の山を片付けていく。12あった山はいつの間にか残るは1つになり、その9/10を片付けたところで平塚は仕事をやめ、ガブリエルの両の頬をツンツンとつつき始めた。
膨らんだ鼻桃燈が弾け、ガブリエルが目を覚ます。
「……んむ………?あれ、僕、寝てた?」
今だ微睡んでいるガブリエルに対して平塚はにこやかに答える。
「おはようございます、ガブリエル局長。すごいですね、寝てる間にこんなに仕事を終わらせるだなんて」
ごく自然な表情を見せながら平塚がそう言うと、ガブリエルは得意気な表情で答える。
「へっへーん!僕だってやる時はやるんだよ!」
「それじゃ、もう少しだけお仕事しましょうか」
「はぁーい!」
ガブリエルはアホ毛をピコピコさせながら仕事に取りかかり、書類に目を通す。アホ毛を?にする。
「この書類……ダルタニャンちゃんは野良なんだね?」