月嶋尋がまだ生きている。
ラファエルが口にしたその事実は、ダルタニャンを震え上がらせるには充分すぎた。
「そ、そんな!?月嶋は素因子が倒したはずじゃ!?」
「倒した、というか重傷は与えた筈だった。どう考えても致命傷としか言いようがない程の傷を。だからこそ遥斗くん達は仲間3人を犠牲にして、月嶋を撃退することに成功したんだ。それでもなお、奴は生きていた」
ラファエルが歯噛みしながら答えると、ダルタニャンは静かに涙を溢す。
「平塚さんが何をしたって言うんですか……?月嶋の戦争に勝つために造り出されて、戦争に勝ったと思ったら呪われて!………れじゃ、これじゃあ平塚さんがあまりに……あまりにもかわいそうです」
平塚の胸に顔を押し付け、ダルタニャンは胸のうちを吐露する。
「……そうでもないさ」
目を閉じたまま、平塚が口を開く。
「平塚さん……!意識が戻ったんですね!?」
「そりゃ、ここまできつく肉掴まれたら死んでたって反魂するよ」
平塚の目線の先には平塚の脇腹をつかんでいるダルタニャンの手がある。
「~~~~ッ!!ごめんなさい!」
ダルタニャンは脇腹から手を離して平塚に頭を下げる。
「気にしてないよ、大丈夫」
そう言って、平塚は胸をさする。
「また、アイツにしてやられたみたいですね、俺」
拳を握りしめてそう呟く平塚。
平塚の様子を見て俯くダルタニャン。
ラファエルは眠りにつくガブリエルの頭を撫でながら物思に耽っている。
____。
暫しの間流れる微妙な空気を破ったのは、寝ているガブリエルの鼻桃燈が破裂する音だった。
「……んにゃ?……おはよう諸君!!この僕の寝顔は満喫したかい?」
突然起きるなりハイテンション全開で捲し立てるガブリエルが場の雰囲気を3℃ほどあげようと頑張っていることに気がついた平塚は
「……おはようございます、所長。先程はお手を煩わせてしまい、申し訳ありませんでした」
そう言って、深々とガブリエルに頭を下げる。
「ん?なんだい?ぼくがつかった福音のことかい?」
ガブリエルはアホ毛を?にして平塚に聞き返す。
「ええ……あなたの『福音』は特別なもの。それを俺のような人間かもわからないような化け物のためにつk……」
そこまでいったところで、平塚の身体が吹き飛び、書類の山に突き刺さる。山は崩れ、埋もれた平塚が顔を出す。
「__自虐はそこまでだよ、遥斗君」
ガブリエルは手を伸ばしたまま平塚に向かって言い放つ。
「君は人間で僕の友達なんだ。その友達が苦しんでいたのなら、僕は迷いなく僕の力を使う。だけどね……君を人間じゃないとか化け物だとか、そう呼ぶ連中のことを、僕は決して許しはしない。それがたとえきみだとしても……ね?」
そう言って、ガブリエルは平塚に手を差し伸べる。
「……そうでした。すみません、俺変なことを言いましたね」
平塚は差し伸べられた手を握る。
「うん!それでよし!」
ガブリエルは満足そうに笑うと、平塚を書類の山から引っ張り出そうとする。
……のだが、如何せん体格の違いで全く引っ張れない。
「ふんぎぎぎぎぎぎぎ!」
顔を真っ赤にしてガブリエルが引っ張っているが、平塚の身体はピクリとも動かない。
「局長、お気持ちはありがたいのですが、そのままだと危険です。少し離れていてください」
「ふぇ?」
そう言って、ガブリエルが手を離し、平塚に指示されるまま3㍍程後退する。
ガブリエルの位置を確認すると、平塚は首をゴキリとならして書類の山を持ち上げ、投げ飛ばす。
「おおッ!」
短い気合いと共に空中に放り上げられた書類の山を、一枚一枚丁寧にまとめ、倒れない高さ毎にまとめる。
「よしっと。今日の業務これにて終了!!」
ここまで、わずか5秒あまり。
「か、神業……ですねぇ……」
呆けて見ていたダルタニャンがそう呟くと、平塚が照れながら
「俺にできることをやっただけだよ。それに、そこまですごいことでもないからね
そう謙遜してのけると、ラファエルが
「そういえば……思い出した。ねぇ遥斗君。ダルタニャンちゃんって野良なのよね?」
最初の話題がやっと出てきて平塚は安堵する。
「そうです。路地裏にいたところを保護して介抱した経緯はその書類の通りです。問題はこの後どうするか、なんですけど」
「現状宿舎に泊まってもらうのが一番なんだけど、あいにく今はどこの宿舎も定員オーバーらしいし……どうしよう」
平塚とラファエルがあれこれ考えていると、ダルタニャンにガブリエルが質問する。
「ねぇ、ダルタニャンちゃん!」
「はい?」
「ダルタニャンちゃんって遥斗くんのこと、好き?」
「えっ」
「好ーき?」
「すっすすすすきとかそそそそんな!」
ダルタニャンが赤面して盛大に混乱している。
「ふーん?」
ガブリエルが意味深な笑みを浮かべる。
その場でくるりと1回転半まわり、とびっきりの笑顔を浮かべたガブリエルは平塚に声を掛ける。
「ねぇ、遥斗くん遥斗くん!遥斗くんが引き取ったらどうかな?」
平塚とダルタニャンの表情が固まる。
「「え?」」