ダルタニャンことシャルロット・ド・バツ=カステルモールは困っていた。
手に対モンスター殲滅用のライフルを持たされたことに、ではない。
ましてや管理局の庁舎の地下にある広大な運動場に立たされていることでもない。
勿論それらも一因ではあるのだが、ライフル片手にシャルが困り果てているという状況を作り出しているのは他でもない、シャルの前方30M先にて屈伸等の準備運動をしている男。
平塚遥斗に原因がある。
「……スゥ……」
胸にたまった気持ちを吐き出すためにシャルは大きく空気を吸い込み
「さて、やろうか、シャル」
肩甲骨を伸ばしながらそう言う平塚に
「……どうしてこうなったぁぁぁぁ!!?」
思いきりぶつけた。
時は今から30分ほど遡る。
平塚とラファエルが書類をまとめるなかで、部屋の隅でシャルにガブリエルが「平塚特製☆絞りたて(物理)リンゴジュース」を飲みながら慰められていた。
「僕だって頑張ってるのにぃ…」
どうやらつい先程まで平塚に説教された事にぐずっているようだ。
「平塚さんだってやりたくてやってる訳じゃないと思いますよ?普段はあんなに優しい方ですし。きっとガブリエルさんが可愛くて」
そう言うシャルの言葉を聞いた瞬間、ガブリエルの目が閃く。
「僕が可愛いのかい!そうかい!それなら仕方ないネ!僕のオ・ト・コ♥を魅了する魅惑のボディが悪いのサ!!(ドヤァ)」
そんな事を幼女ボディで臆面無く言ってのけるあたり、ガブリエルらしいと言えばらしいのだが。
問題はそのあとガブリエルの眼光がシャルをターゲットしたことだった。
「でも僕から言わせてもらうとダルタニャンちゃん、シャルちゃんも負けず劣らず可愛いよねぇ」
息を荒くしてシャルに近づくガブリエル。完全にヤバい目である。
「え、とあの……」
「心配しなくても良いよシャルちゃん♥優しくしてあげるからサ!」
「い、いやぁ……」
怯えながら後ずさりするシャルだが、壁際に居たためにすぐ背中が壁についてしまう。
「おぅ、これはなかなかそそるシチュ♪」
「ひゃ、やめてください!」
シャルの胸にガブリエルの魔の…否、天使の手が伸びていく。刹那。
「やめなさい」
「ぎゃふんっ!」
ガブリエルが崩れ落ちる。
ラファエルがガブリエルの後頭部を持っていた帳簿の背で叩いたのだ。
「なんともない?シャルちゃん」
ラファエルがシャルに手を伸ばす。
「あ、ありがとうございました」
「礼なんて良いのよ。いつもは私かミカエルが犠牲になってるから」
立ち上がったシャルにラファエルが苦笑いしながらそう言う。
「そうそう、シャルちゃん」
「はい?」
ラファエルが気を失ったガブリエルを寝かせようとするシャルを呼び止める。
「これから遥斗くんと模擬戦をしてもらうんだけど」
「へ?」
突然ラファエルから聞かされた事にシャルが面食らう。
「遥斗くんと戦ってもらうんだけど」
「え……あの、意味がよくわからないんですけど」
当然である。誰だっていきなり戦えと言われては驚く。
「これは遥斗くんたっての希望よ?現段階でどのくらいの力があるか試したいらしいの」
「……命を預け、預かるためにはお互いをよく知っておく必要があるってことですね?」
ラファエルの真剣な眼差しに圧倒されること無くシャルは頷く。
「察しが良くて助かるわ。さしあたって、服や獲物はこっちで準備するけど……なにか希望はある?」
「ええと……それじゃあ……」
時は戻る。
「ふー、スッキリしたぁ」
シャルが迷いを振り切り、毅然とした表情になる。
ここは地下運動場。
広さはだいたい東京ドーム1つ分くらいだろうか。
地には土の上にやわらかな軽い砂が敷き詰められ、その地面を囲むように立てられた黒々とした重厚な合金の壁群には抉られたような痕や傷が無数についている。
その壁の向こうには無数の椅子が並べられ、そこから見下ろせる観客席になっている。
そこはさながらコロシアムと呼ぶに相応しいものである。
普段は修練場として解放されているが、毎月15日と終日、観客席に一般人を招いてハンター同士の戦いを公開するのだ。
そんな戦いの祭典の舞台で、互いの力を知るために二人は相見える。
審判役として、受付にいたミカエルが凛とした声で説明を始める。
「決着は相手が戦闘不能、もしくは戦意喪失するまでとする。武器の使用は無制限、只し、開始までにこの場に持ち込まれていることが条件である。では双方」
「始めッ!!」