青年が自宅に着いたとき、辺りはすでに薄暗くなっていた。
部屋の暖房をつけた青年は、背負ってきた少女をソファに寝かせた。
「うぅ……」
少女が細くうめく。
「……まずは、と」
何はともあれ、まずは少女の身体の手当てをしなければなるまい。
「………」
2時間後、慣れない手つきで一通りの処置を済ませた青年は高熱を出している少女にベッドを明け渡し、そのベッドの横に椅子に座って大きな舟を漕いでいた。
少女は苦しそうに寝息をたてている。少女のおでこには濡れタオルが置かれ、格好は薄汚れたコート姿からダボダボの黒いパジャマに変わっている。
ゴンッ
突如、鈍い音がした。
舟を漕いでいた青年がバランスを崩して椅子から転げ落ちたのだ。
「~~~~~~!」
どうやら頭をフローリングに強打したようだ。頭を押さえてそこらをのたうち回っている。痛みが引き始めたあたりで青年は涙目で時計を見る。
「あ、あれ?もうこんな時間?」
時計はすでに20:00を回っていた。
夕飯はまだ作ってないらしい。
「晩飯は病人でも食べられるものがいいよな……」
そう呟きながら青年は台所に消えていった。
・・・・・・・・・・・・・
その様子を窓の外から見下ろす二つの影があった。
いつの間にか雨は止み、あたりを月光と雲が包んでいた。
『あの少女…あちらの世界から来た者か』
『その様ですね。もっとも、あの様子では近いうちに消えてしまうかもしれませんが』
『それは我々の関知せぬ事だ』
『随分冷たいのですね』
『仕方がなかろう、我々ではどうすることも出来んのだから』
二つの影を月光が照らし出す。
二者の頭には天輪が輝いている
『それもそうですね。では、これで今日の仕事は終了です。行きましょうか、ウリエル』
『フン。お前もウリエルだろうに』
片方の影は飛び立つ。
ウリエル、そう呼ばれた少女はその場にしばし留まり、告げる。
『………急げよ少年。その少女の命は、貴様の有り様次第だ』
そう言い放った影は飛び立ち、月の光に呑まれて消えていった。
「あ、洗濯物干しっぱなしだった………」
「……?誰かいたのか……?ここ、6階なのにな……気のせいか?」
青年はベランダに出て雨に濡れた洗濯物を取り込んでいく。
「あー、また洗い直しか……」
そんな事をぼやく青年の頭に、ふわり、と落ちてきたものがある。
「……羽根?」
純白の羽根である。
「金木犀の香り……?」
勿論、その香りと羽根の持ち主を彼は知る由もないのだが。
少女は未だ目覚めない