再び。
場所は運動場。
両者は向かい合う。
「とは言ったものの」
意識が戻った平塚は頭部に包帯を巻き、シャルに叩かれた左頬に湿布を貼り付けながらくぐもった声を出した。
「また気を抜いたりしたら次はどうなるかわからないからね?」
「わかってます。はじめからおもいっきりいかせてもらいます!」
気合充分にシャルは答える。
「その意気や良し。じゃあミカエルさん、お願いします」
『わっかりましたぁ!それでは双方、構えて!』
ミカエルの号令でシャルはライフルを持って脚を軽く折り、四肢に力を込める。
一方、平塚は無手の状態でだらんと脱力している。
対極ともいえる両者の構えの中で、ついに開始の合図が
『始めっ!』
発せられる。
平塚は開始の合図と共にシャルに向かって駆け出した。
本気を出すと言ったシャルに仕掛けるためだ。
平塚の間合いまであと3歩。
シャルは息を吸い込んでいる。
平塚の間合いまであと2歩。
シャルはまだ動かない。
平塚の間合いまであと……1歩。
目と鼻の先にまで平塚が接近したところで、シャルが片足を地面に打ち付ける。
途端、地面の土砂が舞い上がり、平塚の間合いからシャルを遠ざけ、平塚の突進は失敗に終わる。
「ッ!」
シャルの意図を察した平塚は静かに目を閉じる。
辺りは土埃が舞い、空気中の細砂が目の自由を奪う。
乱れた視界を頼るよりは聴覚、嗅覚を用いて察知した方がいいと判断したようだ。
「(今のは……あぁ、気と共に地面を撃ち抜いたのか。……シャルは何処に?)」
そこまで思考したとき、平塚の耳がシャルが風を斬って進む音と、なにやらダンッ!というなにかがぶつかるような奇妙な音を捉えた。
「シッ!!」
シャルは空中を飛んで……否、跳んでいた。
ダンッ!という音はフィールドを囲んだ重厚な鉄の壁をシャルが蹴りつけて空中に躍り出る際に生じる音だ。
空中に舞う砂埃の周囲を半球型を成型するように、何らかの意図があるかのように空中を跳び回っている。
その速度はおおよそ人間が出せるようなものではなく、明らかに物理限界を越えた速度で風を生み出している。
「ハッ…ハッ…ハッ…ハッ!!」
息を切らし、眼を紅く染め、顔を激痛に歪めながら。
それはシャルが平塚に認められる為に出した全力の代償だった。
[血擦]。
血中の成分を限界まで擦り減らし、筋肉に取り込むことによって己の身体限界のさらに最果てにある力を引き出す獣人族に伝わる奥の手。
だが、それは自らの命を削ることによって得られるドーピング作用であり、場合によっては廃人、死人となる事もある非常に危険な状態の事を言う。
「(命が減ろうと構わない……それでも……私は!)」
シャルのただならぬ決意を感じ取り、平塚は目を見開く。
霞む視界に紅くたなびく光を捉え、シャルが血擦を使っていることを目にした平塚は奥歯を噛み締める。
「なんということを………!」
平塚は決死の覚悟で飛び回るシャルに対して複雑に感情の入り乱れた眼差しを向け、シャルに向かって突き進んでいく。
丁度平塚が土埃の中心に立ったとき、シャルに対して口を開く。
「血擦を解け、シャルロット。俺はお前を失いたくはない」
ダダンッ!という音と共にシャルが平塚の正面にある壁に降り立つ。
「おもいっきりいかせてもらいますと申し上げました!聞こえなかったんですか!」
「なにも命を擦り減らせとは言ってはいない!いいから血擦を解け!」
真っ向から意見をぶつけ合うシャルと平塚。
「命を擦り減らしてでも!あなたを殺してでも私は平塚さん!あなたに認めてもらう!それが私の決意です!!」
そう言って、ダンッ!と壁を蹴り抜いて平塚に向かって特攻するシャルに、平塚は大きなため息をつき、はじめて戦闘の構えをとる。
「いいから血擦を解け!シャルロット!!」
「私は!あなたに認めてもらいたい!」
両者が交錯する。
平塚はシャルの土手っ腹に掌底を喰らわせる。
対するシャルは。
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なにもせず土埃の中から押し出され、
・・・・・・・・・・・・・・・・・
もんどりうって壁に背中を打ち付ける。
「ガフッ」
吐血するシャル。
だが。
シャルはボロボロになりながら左手を突き出し、握っていたものがポロポロと溢れ落ちる。
それは封の開いた薬莢だった。
シャルの掌の所々に黒い粉塵がついている。
それを見た平塚は空気中の匂いを嗅ぎ、空気中に漂う物質の正体を知る。
「しまった……火薬か……!」
「私の……勝ちです……平塚さん!」
シャルはライフルの引き金を絞る。
弾では平塚は倒せない。
だとしたら、巨大な爆発ならば。
粉塵爆発。
凄まじい爆音と衝撃のなかで、平塚はごきりと首をならした。