黒煙を掻き分け、確かな足取りでシャルに歩み寄る平塚。
その焼け焦げた皮膚とその表面についた無数の傷からは爆発の凄まじさが窺える。
だが、平塚はそのような傷をものともせず歩み寄る。
「平塚さん……なん、で」
爆発をもろに食らった筈の平塚の様子を見て、瀕死のシャルが驚きの声をあげる。
「もう喋らない方がいい。質問なら、後でゆっくりと聞いてやる」
平塚の言葉にシャルがゆっくりと頷く。
「……せないから」
「……え?」
消え入りそうな平塚の声に、思わず聞き返すシャル。
「絶対に、お前を死なせはしない」
そう言って、平塚は己の右手の指を真横に揃えて、自らの左の手首を掻き切った。
傷からは血液が吹き出し、乾いた地面が鮮血で潤される。
「何を……ッ!?」
思わず声が出たシャルの口に左手首をあてがう。
「飲み込んで」
シャルは平塚に言われるがまま、平塚の血液を飲み込む。
紛う事なき血の味。
鉄分を含んだヘモグロビンが口の中いっぱいに広がるのを必死で飲み下す。
十数秒は経っただろうか。
平塚が手首を押さえながら腕をシャルの口からはずすと、新鮮な空気がシャルの咥内を満たした。
失われた血液が戻ってきたかのような感覚がある。
ふと、シャルが自身の右腕を見ると十数秒前まで骨が剥き出しになっていた腕が癒えていく様が見ることができた。
まずは骨が指の先まで再生し、次に筋肉が骨に沿うように再生を始めた。
数十秒もすれば皮膚も再生し、すっかり元通りとなるだろう。
問題は、なぜこの現象が起きたのか。
その原因はひとつしか有りはしない。
平塚の血だ。
「あの」
シャルは体を起こし、平塚に声をかける。
平塚は手首から手を離し、傷を確かめるように触ってから口を開いた。
「聞きたいことはわかってるさ。あの爆発からどうやって逃れたのか、それと何故私の傷は治ったのか。だろう?」
シャルは頷く。少し黙ってから平塚は説明を始めた。
「君が爆発を引き起こしたのと同時に、所謂電気火花を能力を使って形成した。その火花で粉塵と火薬に引火させて、自分から爆発を引き起こさせたんだ。その結果、外からの爆発と内側からの爆発で威力が相殺される…………筈だったんだけど、実際には違うんだ。反応が少し遅れて、見ての通り爆発を受けてダメージを負ってしまった」
分かりやすく噛み砕いた説明を、さらに分かりやすく地面の砂を用いて図解までつけた説明だった。
「ここまでは、ご理解?」
「は、はい。それで、なんで私の腕は……?」
本題、シャルの腕を治した平塚の血。
それを説明しようとした平塚は、遠くから聞こえてきた複数の足音で口を閉じ、わざとらしく『シーッ』と口の前に指一本を縦に置いた。
「シャルちゃーん!」
「オゴッ」
ガブリエルの声に振り向くシャルの胸にガブリエルが飛び付く。
否、それは飛び付くと言うよりかは鳩尾にヘッドバットと言った方が良い代物であった。
悶絶しながらガブリエルの玩具になるシャルを他所に、やっと到着した医療班がラファエルにこっぴどく叱られていた。
班員が一人、短時間持ち場を離れた事が到着が遅れた原因のようだった。
「ガブリエルちゃん、ラファエルちゃん!そろそろお仕置きは終わりにして、契約の儀に移りませんか?そろそろシャルちゃんも残存マナの限界でしょうし……」
ミカエルが助け船を出す。
ガブリエルは当初の目的を思い出したように渋々シャルの胸から手を離す。
「仕方ない、シャルちゃんがあっちに帰っちゃったら僕もつまらないしぃ、さっさと契約を済ませて続きを………」
ガブリエルがそこまで口にしてから目を開くと平塚の般若の形相が目に入る。
「す、するのはやめてぇ、シャルちゃんの歓迎会やろうぜ!!」
今度は一人で勝手に盛り上がるガブリエルを他所に、シャルは平塚に耳打ちする。
「あ、あの」
「どうかした?ん、あぁ、契約の儀のこと?」
コクコクと頷くシャルに対して、少し考え込んでから説明する。
「生き物が出身じゃない世界に留まるために必要なマナって言う力があるんだけど、それは元々1つの世界に1つしか存在しちゃいけないものなんだ。そして、異なるマナはより大きなマナに吸収されてそのマナの大元、オドの一部となる。つまり、今のシャルのようなモンスターは出身じゃない世界にいるわけだから、徐々にマナが吸収されてしまう。マナがなくなると元の世界に強制的に戻されてしまって、二度と世界を渡ることが出来ないらしいんだ。だから、契約の儀によってマスターのマナを供給してもらうことでこの世界に留まっていられるようにするのさ。」
聞いたこともないような話に目を白黒させながらシャルは頷く。
「さぁ、始まるよ」
駆け足過ぎるな……この回