「それじゃあ始めようか」
ガブリエルはそう言って、運動場の砂の上になにやら魔方陣のようなものを書き込み始めた。
ラファエル、ミカエルも同じようにして魔方陣を描き、その中心に自らが直立する。
「遥斗くん、シャルちゃん、そこに立って貰えるかな?」
ガブリエルが言う通りにそのポイントに移動する二人。
「心の準備が出来たらいつでもはじめて良いよー」
間の抜けた声でガブリエルがそう言うと、平塚が深く息を吸い込んでから口を開く。
「__告げる」
そう言った途端、平塚とシャルを囲むようにして立つ三者の魔方陣を繋ぐようにして蒼白い光の線が浮かび上がる。
『彼の大いなる力は循環する。大地を潤し、大海を育み、大空を蒼く染める』
蒼白い光は魔方陣を基準に円を描く。
『だが、彼の者はすでに亡く、故にこの世に救済などはありはしない』
平塚の言葉に合わせるかのように光は多岐に別れては結び合い、その軌道は様々な模様を描いていく。
『我らは世の理を護りし者。我らは世の安寧を望む者』
やがて光は外周を囲む鉄の壁にまで到達し、その地面との接地面に沿って円が描かれる。
平塚の足元にも変化が顕れ始める。
光が円を描き、平塚の言葉に呼応するかのように陣が形成される。
それと同時に、両者の右手の甲にも陣が描かれる。
模様は、地面に刻まれているものと一致している。
『我が同胞に我が力を分け与え給え』
平塚がそう言うと陣が一際眩い光を上げ、やがて消える。
光が消えると、シャルの身体に力が流れ込む。
それは平塚の血を飲んだときと同じ感覚だった。
「お疲れさま、シャル。どこか違和感とかある?」
詠唱を終えた平塚がシャルに話しかける。
「………」
手に描かれた魔方陣をじっと見つめているシャル。
「……シャル?」
「ひ、ひゃいっ!?」
軽く肩を叩いた平塚に、素頓狂な声をあげるシャル。
「だ、大丈夫?」
「は、はい!少し元気すぎるくらいに!」
「そっか、それは良かった……んだけど、その様子じゃやっぱり少し馴染んでないみたいだね」
顎に手をやり、少し考え込む平塚。
「あの、やっぱりって?」
尻尾を?の形にしてシャルが聞くと平塚が口を開…
「あぁ」
「それは遥斗君の属性とシャルちゃんの属性が違うからですね」
こうとしたが、ミカエルが先に説明を始める。
「遥斗君の属性は光。対して、シャルちゃんは水。三竦みの火、水、木の三属性程ではないけれど、他属性のマナが身体に馴染むには時間がかかりますよ。マナ切れの心配はないと思いますが」
噛み砕いた説明にシャルが納得すると、近付いてきたガブリエルが割り込む。
「さぁ!契約の儀も終わったことだし!今日はシャルちゃんの歓迎会だよ!」
実に屈託ない笑顔でガブリエルがそう言うとラファエルが首をかしげて口を開く。
「やるのは良いけど、どこでやるの?店だとお金かかるよね?」
「え?遥斗くんの家に決まってるじゃないか!料理は遥斗くんに作ってもらって、お酒も遥斗くんの家にあるやつ!」
即答。ガブリエルがその回答を導き出すのにかかった時間は0.000001秒以下。もはや彼女のなかでは決まったも同然だったようだ。
「俺の意思は無視ですか……まぁ、構いませんが……」
若干項垂れる平塚にガブリエルがアホ毛を?にして聞き返す。
「あれ?いつになく素直だね?いつもなら反抗してくるのに」
「今日は食事のお誘いも兼ねて来たんですよ。久々にみんなで食事するのも悪くないかなって」
平塚がそう言うと、ミカエルとラファエルが目を輝かせる。
「遥斗君の手料理、久しぶりですね!」
「さっきお弁当食べたばっかりだけどねぇ」
「むー、ラファエルは良いですよね、家に帰れば作り置きの遥斗飯があるんだもん」
「へっへーん、良いでしょー!……でも、たまには作りたてのも食べたいのよねー」
頬を膨らませるミカエルと豊満な胸をこれでもかと張るラファエル。
「そうと決まれば、早速食材の調達だよ!シェフ!今日の食材はなーに?」
ぴょんぴょんと跳ねながらガブリエルが平塚に聞く。
「シャルが食べたいもの……シャル、何が食べたい?」
「えっ」
聞かれるのは予想外だったのか、それとも考え事をしていたのか、シャルは少し考え込んでから口を開く。
「お魚が、食べたいです」
じゅるりと思わず涎が口の端から垂れたのを慌てて拭くシャルに平塚は少し笑いながら頷く。
「わかった。なら、鰻さんのとこの魚を買って帰ろうか」
そう言って全員は身仕度を整える。
そんな中、ぼんやりと考え込むシャルを平塚は見つめていた。