「おっ!来たねぇ!遥斗くん!……とぉ、天使さん御一行!よぉこそいらっしゃいました!」
閉店間際に魚を買いに来た平塚たちを店主の鰻は歓迎した。
嫌な顔ひとつ見せずに厳つい無精髭の生えた面をくしゃっと笑わせて見せる。
「今日のおすすめはなんですか?」
ラファエルが魚を見ながら店主に聞くと、鰻は少し苦笑いして顎の下に手をやりながら答える。
「いやぁ、今日はもう魚屋は閉めようかと思ってたもんで、あんまりモノはないんですがねぇ……あぁ、そうだ!」
そう言って鰻はドタドタと店の冷凍庫に駆け込んでいった。
暫くして、冷凍庫から出てきた鰻の手には大きめの発泡スチロール箱が。
「これは?」
「遥斗くんが来ると思って、目ぼしいモノを取っておいたんだ。鯵に鯖に鰈に烏賊にホタテに牡蠣、海老とかそんな感じの詰め合わせだ!うんまいぞぉ~?」
「買った」
半ば興奮して言う鰻に、財布を取り出して金を払おうとする平塚。
「即決はやいねぇ」
「まぁ無理もないよね、シャルちゃんがそんな状況だもん」
呆れ顔でそう言うラファエルに、ガブリエルが横目でシャルを見ながら言う。
そのシャルはと言うと。
「(ぐぅぅぅぅぎゅるるるるるる)」
空腹を訴えるお腹を押さえてしゃがみこみ、膝で顔を隠しているが激しく耳まで赤面していた。
「遥斗くん、あの子、大丈夫かい?あれ、君のコレだろ?」
そう言って鰻がにやけながら小指を立てる。
「違いま……すよ」
「お?今の間はなにかな?ん?」
なお追求してくる鰻に、平塚が溜め息をつく。
「……鰻さん」
「あ、ごめんごめん!すぐに会計済ませるよ!」
「……それもなんですけど、これ、次の祭りの三日前までに用意できますか? 」
そう言って平塚は書類の束を鰻に見せる。
「可能だけど…あぁ、こりゃあ……もしかしてあの子のかい?」
書類とシャルを一瞥してから平塚に聞き返す。
ゆっくりと頷く平塚に、今度は鰻が溜め息をつく。
「契約、ねぇ……」
腕組をして物思いに耽る鰻の目に、キラリと滴が光った。
「今度はちゃんと、護ってやれ。いいな?」
「勿論です。もう2度と、あんな思いはしたくありませんから」
「ねぇ、鰻さんと何を話してたの?(モグモグ)」
シャルが尻尾を?にして聞いてきた。
店を出て、夕焼けのなかを五人は歩いている。
平塚の手には海産物の入った箱がある。
「……魚をどうやって食べたらいいか、参考までに聞いてきたんだよ」
「それでそれで?どうやって食べるの??(ハムハム)」
ガブリエルがそう聞くと、平塚は少しばかり意地悪な顔をして答える。
「ナ・イ・ショ」
「お姉さんには教えてくれるよねぇ?遥斗くん?(ムシャムシャ)」
ラファエルが平塚に寄り掛かって聞いてくる。
「んじゃあシェフのお任せってことで」
今晩のシェフ、平塚は表情ひとつ変えることなくそれをスルーする。
「あ、あの、食べながら喋るのはやめましょう?お行儀悪いですよ?(マグマグ)」
「おまいう」
思いっきり言動と行動が矛盾しているミカエルに対して容赦ない突っ込みを浴びせる平塚。
平塚の厚意で鰻特製おにぎりを買って貰った四人はそれを平らげて談笑を始める。
歩き始めて十数分。平塚は自身が住むマンションの前にて立ち尽くしていた。
正確には、彼の前に広がる光景を見て立ち尽くせざるを得なかったのだが。
その光景は。
金髪の絶世の美女が。
昔のホラー映画さながらといった感じで。
地べたを這ってこちらに向かってくるという光景だった。
ゆっくりとではあるが、確実に。
・・・・・・・・・・・・・
口の端からよだれを垂らして。
「ルシファーさん……何してるんですか」
「………ぁ………あ………」
ルシファーと呼ばれた女性は顔を上げて言う。
「……………………おなか、すいた」
と。