「んぐっんぐっ……プッハー!生き返るぅ!!」
そう言ってルシファーは大ジョッキに並々と注がれたビールを飲み干す。
「それで、なんであんなところで呻いてたんですか」
平塚が台所からルシファーに質問を投げ掛ける。
「ヒック……それは遥斗、お前が何も言わず出掛けるからだろ?私を一人置いて!」
「俺はちゃんと声かけましたが。年中二日酔いで飲むか寝てるのかのどっちかしかしてない人が悪いんですよ」
揚げ物特有の音と共に、平塚の愚痴が台所から聞こえてくる。
どうやら魚のフライか何かを揚げているようだ。
「なら書き置きくらいしてくれたっていいじゃない」
「しましたよ?それを寝惚けて握り潰して灰にしたのはどこの酔っぱらいだったかな」
それを聞いて拗ねたようにビールを煽るルシファー。
平塚の前でルシファーが力尽きてから、大体2時間程が経つ。
持っていた箱を右肩にのせ、倒れているルシファーを左脇に抱えて平塚は階段を上る。
他の三天使はルシファーを見ながら呆れ顔になり、シャルは予想だにしない展開に目をぱちくりとさせていた。
平塚の部屋に運び込み、ルシファーを床に寝かせるやいなや、平塚は開いている口に缶ビールを流し込む。
咥内に溜まった黄金色の液体はみるみるうちに飲み下され、ルシファーが目を覚ます。
が、目は虚ろで上の空である。
「おなか、すいた」
「はいはい」
目の焦点が合わないルシファーが言った通りに平塚がルシファーの口に朝作ったのであろうサンドイッチを突っ込む。
むぐむぐ言いながらルシファーが残りも平らげていく。
「遥斗くん、お風呂の準備出来たよー」
ミカエルが廊下から顔を出す。どうやら風呂の準備をしていたようだ。
「んじゃ、あとは局長よろしくです」
「あいあいさー!」
シャルとルシファー、ラファエル、ミカエルがガブリエルに連れられて風呂場に行く。
来る途中の会話のなかで、
『ながしっこしようぜ!』
とガブリエルが言い出したのが事の発端である。
「さて、と」
平塚は買い取った食材を列べて調理を始める。
「牡蠣と烏賊と鯵はフライにして、大きなホタテは貝つきのままオーブンで焼いて……鯖は明日の朝食べる用の味噌煮にして、海老は……」
おおまかなメニューを決めていく。
手際は良く、魚を捌く包丁に迷いはない。
「秋刀魚はとりあえず刺身で良いか、魚のアラは…」
「ママ~ご飯まだぁー?」
「誰がママだ」
我慢しきれなくなったガブリエルが平塚に軽口を叩きつつ台所に来る。緑髪からはシャンプー特有の良い香りがする。
「それじゃ、ガブリエルちゃんにも盛り付けとか運ぶのを手伝ってもらいましょう」
汁物を盛り付けながらミカエルがそう言うと、ガブリエルはお盆を持ってくる。
「あ、これ熱いから気を付けてね?」
「あーい!」
ミカエルの盛り付けた汁物を慎重に運ぶガブリエル。
リビングでは、シャルとラファエルが談笑している横で、ルシファーが酒を煽っている。
「んじゃ、料理も出揃ったところで飯にしましょう」
「はーい!」×5
テーブルに所狭しと並んだ料理を見て五人はごくりと喉をならす。
秋刀魚や鮪、烏賊の刺身から始まり、フライの盛り合わせに殻焼きホタテ、彩り鮮やかなサラダにピッツァ、ブリの照り焼きなど、バリエーション豊かな出来立ての料理達が目の前に広がる。
「いただきます」
「いただきまーす!!」×5
そう言うやいなや五人は箸を閃かせて料理を口に運んでいく。
「ッ!?」×5
次の瞬間、五人の味蕾に衝撃が疾る。
「このフライ、揚げ加減最ッ高!」
とはガブリエル。
「このホタテ、ンまぁああ~い!」
とはルシファー。
「複数の魚のアラから出た複雑な出汁のポテンシャルを塩コショウというシンプルな味付けだけで全て余すことなく引き出している!なおかつそこにバターを落とす事で魚の旨味が口の中いっぱいに広がる!」
とはシャル。
「こっこれはぁぁ~~ッ!この味はぁぁ~ッ!ブリのさっぱりとした所に照り焼きソースの濃厚な部分が絡みつく旨さだっ!ハーモニーっつーんですかぁ~!味の調和って言うんですかぁ~!たとえるならアダムとイヴ!トリンとリント!っつー感じですよぉ!!」
と、涙を流しながら食べ進めるミカエル。
一斉に食べた料理の感想をぶちまける五人の言葉を受け流して平塚はアラ汁を啜る。
「ん、んまい」
ラファエルはというと、平塚の手を取り頭を下げながら
「うちに嫁に来てください!」
とまで言い始める始末。これには平塚も
「俺がかよ」
と、呆れることしか出来なかった。
「はぁ~幸せ……♪」
「もう動けない……」
天使達が腹を抱えて動けなくなる中で、シャルと平塚は台所で洗い物をしていた。
「そういえば……シャル」
「はい?」
ある程度洗い物が片付いたところで、平塚は話を切り出す。
「記憶、思い出したんだろ?」