「記憶、思い出したんだろ?」
平塚は前置きもなく話を切り出した。
シャルの動きが止まり、持っていた皿を取りこぼしてしまう。
床に落ちる寸前で皿を受け止める平塚に、シャルは口を開く。
「な、なんで……」
「……契約の後」
一呼吸置いてから平塚は立ち上がる。
「思い詰めてる感じがあったから」
ずば抜けた観察眼故だろうか。
「……あの時」
胸を抑えて、押し出すように答えるシャル。
「走馬灯って言うんでしょうか……生まれてからの記憶が頭のなかで流れたんです。楽しかったことだけじゃなく、嫌なことまで……」
やがて震えを抑えるように肩を抱くシャルを、平塚は抱き寄せる。
シャルの呼吸は荒く、過呼吸の症状に似ている。
「無理はしなくて良い。自分のペースで良いんだ」
「……っは…い」
シャルが落ち着くまでに十数分の時を要した。
ソファに仰向けで横になり、額に濡れタオルを載せた状態で、シャルは説明する。
シャルの一族がシャル一人を除いて敵の手に落ちたこと。
シャルがこの世界に来れた理由とその経緯。
思い出した記憶を、全て。
「門番の老夫婦と、それを襲った者達、ね」
平塚は顎に手をやり、首をかしげる。
「にしても、なんでシャルを狙った……?奴らの目的はなんだ……?月嶋の陰謀なのか……?」
「そうそれ!僕も気になったんだ!なんでシャルちゃんを狙ったのかな?なにか目的があっての事なんだろうけど……」
ガブリエルが手を上げて疑問を投げ掛ける。
「情報が足りなさすぎますね……っと、何見てるんです?ミカエルさん」
ミカエルが空中を見つめては右手人差し指を滑らせている。
「あぁ、すみません。これを」
そう言ってミカエルはテレビに向かって指を振る。
すると文面が画面に映し出された。
ゲートの向こう側の調査員からの報告書だろうか。
「これって……」
「数時間前、門番の一角、ウンディーネが襲撃され、殺されました」
周辺の村々を巻き込んだ襲撃とされ、惨状が映し出された。
「月嶋の犯行かい?」
「そのようですね……手口から何から、他の被害の場所と似通った点が多く挙げられています」
シャルが身体を起こして画面を見つめる。ある一点を見つめたとき、シャルの目が止まる。
「……こ、これって」
一点を指差してシャルが絶句する。そこには、黒い月の中に蠢く無数の不気味な目がこちらを見つめるマーク。
「月嶋の一派のシンボルだね……」
「こいつらです……私を襲ったのは」
シャルが声を絞り出す。その声は憎悪にまみれ、眼は悔しそうに歪んでいる。
「間違いないんだね?」
そういったガブリエルに、シャルはゆっくりとだが、確かに頷く。
「月嶋の犯行なのは確定か……それにしたってシャルを襲った理由はなんだ……?」
「シャルちゃんは門番とは関係ないからね……奴等が門番を殺すのはこちらへのゲートを確立させるためだし……」
平塚とラファエルが頭を悩ませながら唸る。
頭のなかで組み立てようとするが、どうにも情報が足らずに正解にたどり着けない。
「あーもう!わからん!」
頭をガシガシと掻いてから、平塚が資料を読み耽り始める。
「それで、シャルちゃんはどうしたいの?」
ラファエルがシャルの目を見て聞く。
「私は……」
「……」
「殺したい?」
「そ、それは……」
ラファエルの問いに戸惑うシャルの様子を見て、ラファエルは安心したように息を吐きだす。
「シャルちゃんはそれで良いんだよ」
そっとラファエルがシャルの頭を撫でながらそう言う。
「シャル。落ち着いて聞いてくれ。俺は君を月嶋との戦いに巻き込みたくない。だから……今ならまだ間に合う。俺との契約を破棄することだって……」
平塚が言葉を言い終わらないうちにシャルが口を開く。
「わ、私は……私は月嶋を止めたい!こうしてる間にもどこかで私と同じ思いをしてる人がいるかもしれない。だから」
「私、戦います。その為に、戦い方を教えて下さい。平塚さん」
シャルの決意を、平塚は真正面から受け止める。
「………わかった。妥協はなしだからね?」
「あちゃー……」
ガブリエル、ラファエル、ミカエルは一斉に頭を抱える。
「どうかしたんですか?」
シャルは首をかしげる。
「あのねぇ……シャルちゃん。遥斗くんの妥協なしは……」
3人は口を合わせて言う。
「「「地獄だよ!」」」
顔をひきつらせるシャルに、嬉々として平塚は口を開く。
「よし、んじゃあシャル。明日から一週間、合宿しようか」
「……は、はいぃ……お手柔らかに……」