夜は更けていく。
月も星も眠りにつく頃、少女は目を覚ます。
闇夜を照らす淡い月光が、カーテンの隙間から室内に流れ込んでいる。
「知らない天井」
それもその筈。
少女には、気を失ってからの事は知らないのだから。
むくりと上半身を起こし、少女は周りを見渡す。
「…ここ、は」
「ここは俺の家だよ」
「誰!?」
暗闇からの返答に少女はベッドの上で身構える。
「安心してくれ。危害を加えるつもりはないよ」
突如として少女の目を光が射す。
「あっ」
目が眩んだ少女はバランスを崩して後ろに倒れ込む。
「危ないなぁ」
すんでのところで青年に抱き抱えられる。突然の出来事に目が丸になる少女
「……」
「怪我はない?随分疲れてたみたいだけど」
青年の対応に戸惑いつつも少女は答える。
「だ、大丈夫です……あの、貴方は?」
「平塚遥斗(ひらつかはると)と言います。君を手当てさせてもらったよ」
平塚と名乗った青年は少女が目を覚ますまでの事を説明した。
「ありがとう……助けてくれて」
「どういたしまして」
「……」
少女は黙りこむ。
「どこか痛む?」
どこから取り出したのか救急箱を平塚が持ちながら聞く
「あ、体は大丈夫です!ただ、その」
「?」
少女は頭をおさえて、落ち着かない様子である。おさえているのは耳であるのだが。
「その、私の身体、おかしくありませんか?」
「ん?なんで?」
少女の問いに平塚は疑問で返した。
「なんでって…その、私、尻尾があるんですよ?」
「それは何か問題あるの?」
「だ、だっておかしいじゃないですか!この世界じゃありえないことなんですよ!?」
もちろんこの世界の人間には尻尾などはない。
その問いに対して少女に平塚は返す。
「君はゲートの向こうの世界の人間なんだろう?ならなにも不思議じゃないさ」
「な、なんで私がモンスターだって知ってるんですか…!?」
「…この国は異種族共存特区として機能しているんだよ。異種族間での結婚、子育てとかも認められてる」
「異種族共存特区?」
少女は?を浮かべる。
「えと、ね」
平塚は説明する。
いつからか、この世界に異世界とのゲートが現れた事。
そのゲートからくる者達をモンスターと呼ぶ事。
モンスターが暴れて人的被害が多発した事。
人間とモンスターが共闘してモンスターを制圧するシステム『モンスターストライク』プログラムが開発され、それが社会に浸透した事。
プログラムによって実体化出来るようになったモンスターを自在に操ることのできるそのマスターである人間は、ストライカーと呼ばれる事。
そんな中、一部の人間によって彼らが非人道的な扱いを受けているという事実が白日のもとに晒され、モンスター達に人権を与えるという方案が国連より承認された。その試験特区として極東が選ばれた事。
平塚の説明が終わったとき、少女の目から静かに雫が落ちる。
「……」
「これでお話は終わり。プログラムはスポーツとして定着したけど、人間同士の問題の解決方法としても用いられ…って、だ、大丈夫?」
平塚が涙を流す少女を見てあわててタオルで拭く。
少女が落ち着いた頃、平塚が口を開いた。
「それより、君の事を話してもらえないか?なんであんなところに座り込んでいたんだ?」
「それは……ですね」
少女は口を開く。
「……わからないんです。前にいた世界での事は覚えているんですが、どうやってこちらの世界にきたのか、その前後の記憶がないんです。気がついたらあの格好で、あの場所に座り込んでいました」
少女は不安気な顔をして話す。
「ということは、マスターはいない……野良ってことなのかな?」
「そういうことになりますね……」
「んー、そうなると、明日……あ、今日か。中央管理局に出向するしかないか……まぁ、いいか。」
平塚がうーんうーん唸っていると、少女は首をかしげて頭の上に?をつけながら聞く。
「あ、あの、中央管理局というのは?」
「あ、あぁ、悪い悪い。中央管理局っていうのは、今の君みたいな野良モンスターをひとまず保護してくれるところ。働き口や住居とかも探してくれたりもするところだよ」
「はぁ。…っ!?」
疑問が解消されて、安堵したのが原因かは定かではないが、少女のお腹が盛大に鳴る。
「フフッ」
「わ、笑うにゃあ!にゃっ!?」
「お腹が空いたんでしょう?身体に優しいもの、作ってあるから」
平塚は台所に向かう。
少女は赤面しながらむくれる。
しばらくして台所に消えた平塚の声がした。
「そういえば、君の名前は?」
少女は答える。
「あ、えと、ダルタニャン、です」
「そう、よろしく、ダルタニャン。」
ダルタニャン。
それが少女の名前だった。