「親の……刀?」
平塚の言った言葉にシャルは首をかしげる。
「正確には、俺の力の元になった人の刀なんだけどね」
雪原で胡座をかきながら平塚は刀の刃をそっと撫でる。
「神々との戦を生き残った剣士。それが、俺のルーツ。……本人は何も守れなかったと言っていたけどね」
淡く黄色に光る刀身は平塚の指に反応するかのようにぱちぱちと表面で光が疾る。まるで生きているかのように。
「この刀、銘はあるんですか?」
「ん?……あぁ。神威。霊刀神威。俺のもう一人の親、剣の師の名が、コイツの銘だよ」
神威と呼ばれた刀はその声に呼応するかのようにジジッと一際大きな光を疾らせる。
「んじゃ、次の質問だね。どこから出したか、だっけ?」
「あ、はい。左の掌から引き出したように見えたんですけど……」
シャルは自身が見た光景をジェスチャーで再現しようとする。
「うん。大体正解。タネはこれさ」
そう言って、平塚は左の手の甲を見せる。そこには右手とは違う模様の魔方陣が刻まれている。が、刻まれたのは相当昔らしく、陣の表面には無数の傷が。
「門の性質を利用してるんだ。この陣で小規模の門を開けて、中にコイツをしまっておく。流石に振り身だとあらぬ疑いをかけられるからね。それに、神威は一応神器の一種だから」
「それじゃあ、あの柄は」
「柄?ただの起因だよ。柄自体にはあまり意味はないんだ」
そう言いながら、平塚は刀を仕舞って見せる。左掌に近付けた刀が門に雷光と共に呑み込まれ消えていく。
「最後は……あぁ、なんで銃刀法違反にならないか、だっけ?」
平塚の問いにシャルはコクコクと頷く。
「……ハンターは銃刀法には囚われないんだ。いつ門が開いて野良モンスターが出るかわからないし、その時に戦えないって事になったら話にならない」
そう言いながら、平塚は懐からあるものを取り出した。その手には1枚のプレートが。
「これは?」
「ハンターの証。んで、ランク毎に手にすることができる武具が設定されてるんだけど」
平塚はある一点を指差す。そこにはrankという文字のとなりにSの文字が3つと+が1つ。
「と、SSS+?」
「神威は神話に描かれるような聖遺物だからね。今誰の手にあるのか、どこの国にあるのか。上が管理してるんだ。加えて、ハンター証は各地域毎に取得しなきゃならないものだから」
「各地域毎に?」
シャルは首をかしげる。
「管理してるところが違うんだよ。神話が違うって言えば良いのかな」
平塚はニヤリと笑いながら説明する。
「北欧神話とか、エジプト神話とか、そういうことですか?」
「その認識であってるよ。んで、違う神話の神器を他所で許可なく使うのは条令で禁止されてるんだ」
「そ、それはどうして?」
「考えても見なよ。アポロやラー、天照大神、ヴィシュヌやインドラ……太陽神として崇め奉られている神だけでもまだまだたくさんいるんだ。その力を自分の領地で勝手に使われて、太陽神といえば○○!みたいな風潮が出来たら神同士での潰し合いが勃発しちゃうだろ?」
「……あぁ、たしかに、そんなことになったとしたら都市壊滅どころの話じゃありませんね……」
頭のなかで戦火に燃える太陽神達の姿を想像して、シャルはゾッとする。
「そんなわけで、神器を使うには資格が必要なんだ。地域毎にハンターとしての能力がrankS以上だと認定されないと自由に使うことができない。というか、rankS以上じゃないと剥奪されてしまうからね」
「ということは?」
「……あぁ、俺が世界中を旅してきたっていうのはその通り。その過程で、どうしてもrankS以上のハンター証が必要だった。だから行く先々でハンター証を獲得してきたんだ。んで、気がついた時にはほら、この通り」
少し困った表情で、平塚はプレートを仕舞う。
「長々と話し込んじゃった……。さぁ!下山するよ!」
そう言って、平塚はシャルを背負って洞窟へ歩を進める。
平塚の背の上で、シャルは少し振り返る。
絶壁に入った大きな縦の亀裂。
その岩盤を切り裂いてなお刃零れ一つしなかった霊刀。
そして、神威という平塚を育て上げたモンスター。
「まだまだ知らないこと、たくさんあるんだなぁ」
「なにか言った?」
ポツリと呟いたシャルに平塚は聞き返すが
「なんでもありません!」
シャルはそう、元気よく答えた。