朝食を済ませた一行は工房に場所を移した。油臭い工房の空気を胸いっぱいに吸い込んで、佳那は大きく伸びをする。
「んじゃ、依頼のものを」
「OK」
平塚の呼び掛けに、腕を下ろした佳那は工房の奥に進んでいく。
「あの、依頼のものって……?」
「合宿に行く前に頼んでおいたんだ。シャルのメインアーム……主武装ってやつ」
「めいんあーむ?」
さっぱり訳がわからないと言った様子のシャルに、鰻が口を開く。
「ハンターやモンスターだからって、相手と丸腰で戦う訳じゃないからね。当然武装が必要なのさ。そんなわけで…これが、遥斗くんが君のために設計して、鰻工房が製作した謹製シャルちゃん専用メインアームさ」
奥から出てきた佳那が、銀色のケースをシャルに渡す。
「さ、開けてみて」
鰻に促されるまま、恐る恐るシャルがケースを開ける。そこにあったのは二挺の黒い銃だった。
少し大きめの四角いフォルムに木製のグリップ。持ちやすいようにと、シャルの手にも収まるように工夫されている。
銃を手に取ってみるとひんやりとした鋼の感触とずしりとした重みが伝わってくる。
銃口には珍しく、大きく四角い穴が1つとその上に4つ横並びに開けられた丸い小さな穴が見える。肉球を模したような形に思わずシャルの顔から笑みが溢れる。
「これからハンターとして戦うことになるシャルちゃんに僕からの餞別だよ。今回のは自信作だから、安心して使ってくれて大丈夫」
「あ、ありがとうございます!」
目を輝かせて礼を言うシャルに、佳那がもう片方を渡す。
「んじゃあ試し撃ち……と、その前に簡単な動作説明をさせて貰うよ」
こほん。と1つ咳払いをしてから佳那が口を開く。
「この銃の特徴は性質変換機構による弾薬の半永久的生産が可能なことなんだシャルのマナに反応して空気中の水分を吸い込んで弾を射出することができる勿論マナの残量には限りがあるからセーフティを付けてあるけど現状出来うる限りの効率でモガガ……!?」
機関銃のような速さで説明する佳那の口を鰻が手で塞ぐ。
「えーと、つまり?」
困惑したシャルが平塚に助けを求めると、平塚は要点をまとめて説明する。
「つまりこの銃はシャルのマナを消費することで使うことができる。マナの量は有限だから全体保有量の残り3割を切ったところでセーフティがかかる。でも効率よく変換出来るからそんなに気にしなくて良いよってこと」
「な、なるほど」
「まぁ使ってみればわかるさ」
「それじゃシャルちゃん、構えてみて」
外に出て庭にある少し開けた空間にて、佳那に言われる通りにシャルは両手で銃を構える。
引き金に手をかけ、引き絞る。キン、という射出音と共に銃口から空を裂いて氷の礫が飛んでいく。的にしていた空き缶を掠めて壁に当たり砕け散る。間髪いれずに続けて2度3度と引き金を引き絞る。その弾は空中を舞う空き缶に風穴を開け、また壁に当たり砕け散る。
「感触はどう?」
「……少し重いけど、すごく扱いやすいですね。これなら二挺でも大丈夫そうです」
シャルの感想を聞いた鰻が顔を綻ばせる。
「気に入ってくれたみたいで良かったよ。にしても凄いなぁ、初めての銃であんなに正確な射撃をしてみせるだなんて。驚いたよ」
「えへへ……でも、この銃のお陰ですよ。当てようとしたところに正確に当たるんです!」
「そんなに音も出ないしね。気合いいれて設計して、鰻さんに持ち込んだ甲斐があった。でも、それだけじゃないんだ。ここに注目」
そう言って平塚は銃の遊底をスライドさせてから引き金を引いて見せる。
すると、銃口から1メートル弱の氷柱が形成される。朝日に照らされてキラキラと光るそれは、研ぎ澄まされた刃のように見える。
「シッ」
短い気合いと共に振り抜かれた氷刃は太さ15センチもの鉄棒を容易く斬り落として見せる。
「近接戦用の剣も兼ねてるんだ。スライドを動かせば銃に戻る。銃の時よりマナを浪費するから使うときは気を付けてね」
平塚が引き金の指を緩めると、氷刃は瞬時に砕けて水の粒子となって消える。
「ほ、ほんとにこんな良いもの貰っちゃっても良いんですか……?」
二挺の黒銃を腰に巻いたホルスターに入れながら、シャルはそんなことを聞く。
「良いの良いの」
「ほんとに……?」
「あんまりしつこいと金取るよ?」
「有り難く戴きます」
佳那がシャルをからかいながら煙草を吹かす。
「うん。今日はこれから仕事?祭は明日からだから局も忙しいでしょ。頑張って」
「ありがとうございます。それじゃ」
「「行ってきます」」
「「行ってらっしゃい」」
人もまばらに出てきた商店街の道を、大きな荷物を担いだ二人が歩いていく。