昼になり、平塚とシャルは管理局に顔を出していた。
仕事疲れで若干寝不足気味のガブリエルの顔には薄い隈が出来ている。
ガブリエルに餌付けしながら、平塚は不在中の事件について話を聞いた。
「それで、このところの怪事件っていうのは、犯人の目星はついたんです?」
「んぐっ」
平塚の話にミートボールを喉につまらせたガブリエルの背中をシャルが軽く叩く。
「怪事件って……なんです?」
初耳だという顔でシャルが説明を求める。
「今朝聞いた話なんだけど……裏路地で顔の皮を引き剥がされた人が連日発見されてるみたいなんだ。こっちで少し調べてみたんだけど、被害者は全員で4人。その全てがハンター資格を持った者。局としてはすぐに犯人を捕まえたいはずなのに、任務依頼も出されてない。だから局にしては対応が遅れてると思ったんだけど……多分、局長は俺に依頼を出すつもりだったのでしょう?」
掴んでいる情報を細かく整理する平塚に、お茶で生き返ったガブリエルが一息いれてから口を開く。
「……簡単に動く訳にはいかなかったんだよ。今回狙われた4人はクラスB+~AAA-までのランクの高いハンター達だったんだ。そのハンターを単独で容易く戦闘不能にさせるような相手だ。敵レートSS-は下らないと思ってね。被害者を出すわけにはいかなかったんだ。……それに」
「それに?」
理由を簡潔に述べるガブリエル。拳を握りしめたその幼い顔、痛々しいほどの悲しみがそこにはあった。
「……僕だって警戒態勢をとって単独行動は控えるように警報したんだ。それでも……」
「一人になったところを襲われた、か」
「うぅ……」
涙をこらえて唇を噛むガブリエルの頬に両手をそっと添えて、平塚は優しい言葉で言う。
「……局長の頑張りはわかりました。あとは俺に任せてください」
「うん、よろしくお願いするよ」
目の端から涙を流しながら、ガブリエルは無理に笑おうとした。
数分後、ガブリエルが落ち着いてから平塚は
「それで、その被害者達の名簿と、傷の具合とそれによる凶器の特定……勿論、出来てるんですよね?」
と、話を切り出す。
「それについては万全だよ!ちょっと待ってて」
パタパタと駆けていったガブリエルが机からファイルを持って戻ってきた。そのファイルを平塚に渡す。平塚が開いたそのファイルをシャルも覗くが、写真に思わず息を飲む。
「鋭利な刃物で皮だけを綺麗に切り落としてる……か。肉の部分に損傷は見られず、もう既に皮の再生も始まっている……それでも心の傷までは癒えるのには時間がかかるでしょう。……もう、ハンターとしては終わりかもしれない」
「それと、これ。なんとか喋れる二人から聴取を行ったところ、興味深い話が聞けたんだ」
ガブリエルが指差した文を見てみると意外な文章が目に止まる。
「犯人像が不一致……!?しかも、これって」
「うん。他のハンターの顔の特徴と類似しているんだ」
襲われたハンター4人のうち二人の顔と、証言に基づいて描いた似顔絵二枚が酷似していたのだ。
「傷は同一犯なのに目撃した証言が違う……ということは」
「敵は変身能力、もしくはそれに似た能力の持ち主……と推測できる」
変装とは到底思えない程に似たものに、平塚が声を震わせる。
「条件は相手から顔の皮を奪うこと、ですかね」
「顔を盗む………顔を盗る……顔盗り……“カオトリ”」
「ハンター、平塚遥斗。そのパートナー、シャルロット・ド・バツ=カステルモール」
凛とした声で名を呼んだガブリエルがその命令を口にする。
「本日イチサンマルマルより、局長権限で貴殿らに特務を与えます。カオトリを……捕らえなさい!」
「了解。目標、暫定レートSS-“カオトリ”の捕縛及びその事件の収束、承りました。これより任務を開始します」
胸の前に右腕を当てた平塚を、シャルが真似をする。
「頼んだよ。……死なないで。また、僕に美味しいお弁当食べさせて……ね?」
微笑を浮かべながらガブリエルがそう言うと、少し遅れて平塚が笑う。
「……勿論です」
そう言った平塚の横顔が、シャルにはとても頼もしく見えた。