狭く、白い空間。
身体に走る焼けるような痛み。
虚ろな眼で少年を見つめるマスク姿の大人達。
それだけを覚えている。
赤く灼けた鉄の棒が身体の芯に刺さっているかのような痛み。
幼き日の少年は苦悶する。
……………て
少年は声を枯らしながら喘ぐ。
………けて
その声にならざる声は
………すけて
大人達には届かない。
…おねがい…たすけて……たすけてよぅ……
これは、少年/青年の記憶であり、悪夢でもある。
『ねぇ起きて!ねぇってば!』
「………ッ!!」
平塚は目をあける。心臓が早鐘をならしている。肺が酸素を求めて早く呼吸をするよう急かしている。
「うわぁっ!びっくりしたぁ!」
「……ハッ…ハッ…ハッ……ハッ…………ハァ…ハァ……」
驚いたような声に目の焦点を合わせると、見慣れた天井と心配そうにこちらを見つめる少女の顔が目にはいった。
「……おはよう」
そう言うと、平塚は額の汗を拭いつつ、身体をおこす。
「お、おはよう…大丈夫?うなされてるみたいだったけど」
少女は尻尾で?を作っている。
「大丈夫…よくあることだから……顔、洗ってくるね」
「あ、うん…」
平塚は洗面所に覚束無い足取りで向かう。
「どう見ても大丈夫じゃないよね、うん」
そう言って少女はリビングに置いてあるノートPCに目を向け、
「よし!」
キーボードを叩き始めた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
冷水で顔を洗う。追いかけてくる睡魔を振りきるかのように。
或いは。
忘れかけていた悪夢を拭い去るかのように。
「なんだってこんな時に……寝起きは最悪だな…美少女に起こされたのは喜ぶべきなんだろうが」
そう呟いてふと、腕時計を確認する。時刻は06:00を過ぎたあたり。タオルで頭を拭きながら朝食のことを考えながら居間に戻る。
するとそこには
エプロン姿の天使がいた。
お茶碗の上にはホカホカのご飯。
お椀に入っているのは煮干し出汁を使った豆腐とワカメの味噌汁だろう。
おかずはふっくら厚焼き玉子、良い焼き加減の焼き鮭、彩り鮮やかなサラダなど。
食卓には見事な日本食がところ狭しと並んでいる。
「えと……なにやってんの」
「なにって…料理?」
そう天使…ダルタニャンが答える。
「なんで疑問系?」
「えーと、そう、さっきの君の様子!具合悪いのかなーって思って!」
ダルタニャンはにこやかに答える。
「(天使やぁ~)」きゅぅぅぅぅ
平塚の表情が明るくなるのと、ダルタニャンのお腹から可愛らしい音がしたのは同時だった。
「にゃっ!?」
ダルタニャンは赤面する。平塚は頬をかく。
「……うぅ」
「それじゃ、ご飯にしよう?」
ダルタニャンは俯きながらも頷いた。
「それじゃあ、いただきます」
「い、いただきます」
彼女の作った料理は美味しかった。
意外、と言ってしまえば彼女に失礼かもしれないのだが、そう思ってしまうほどに彼女の作った料理は美味しかったのだ。
「ごちそうさまでした」
「お粗末さまです」
朝食を済ませた後、食器を洗いながらリビングで珈琲を飲むダルタニャンに声をかける。
「ところで、よく日本食なんて知ってたね。どこで知ったの?」
「あぁ、あなたが昨日言っていた……い、いんたーねっと?を使ってみたの」
意外な回答だった。
「え?文字読めたの?」
そう、昨日まで彼女はこの世界の事はなにも知らなかったのだ。
「昨日までは読めなかったから覚えたよ?あなたの本を借りたけど、それがどうかした?」
「え」
さらり、と。
さも簡単な事であるかのように彼女は、日本語を覚えたといったのだ。
「書きはまだまだだけど、読むことなら支障ないよ」
唖然とする平塚に彼女は問いかける。
「次は私の番!君、今朝うなされてたけど、どんな夢を見たの?」
平塚は開いた口を閉じ、少し考え込んでから口を開いた。
「そうだね、いずれわかることだし話しておくよ」
青年は語る。自らの過去を。