管理局を出て、公園の敷地に入る。
数人の老人が談笑している姿や、家族連れが遊んでいる姿が見える。
まるで事件などなかったかのように思える光景に、シャルは違和感を覚えた。
平塚が自販機から珈琲と牛乳を取り出して近くのベンチに座る。
「それで、これからどこへ向かうんです?」
「もしかしたら、なんだけど。次狙う場所がわかるかもしれない」
一口缶珈琲を啜ってから、平塚は携帯端末を取り出してマップを開く。
「最初に事件があった場所がここ。それで次がここ、ここ、あとは……ここ」
端末を叩いてシャルが分かりやすいようにマークする。
「?」
「それぞれの地点から等距離になる点を中心として円を書いてみると、こうなる」
「あっ!」
描かれた四点を線で繋ぐと、欠けた星形が。どうやら平塚は欠けた五箇所目の場所にカオトリが現れると踏んでいるようだった。
「そう。それと……これを見て」
「これは?」
「管理局の地下にある修練場の設計図。これが五芒星の形になってるんだ。丁度、この線上に建てられている」
「じゃあ、管理局も標的に……!?」
「そうとわかった訳じゃないけど、その可能性は充分にあると思う」
シャルの脳裏に3人の天使の姿が浮かぶ。
「絶対、捕まえましょう」
拳を握って力強くそう言うシャルの頬に、冷たい牛乳のパックをくっ付ける。
「ひゃうっ!?」
「気負うのは良いけど、肩の力を抜こうな。いざというときに身体が動かなくなる」
そう言いながら呑気に珈琲を啜る平塚を横目に見ながら、シャルは牛乳をストローで吸う。
一息いれた二人は目的の地点に移動した。辺りは工場が密集し、人気はあまりないように見える。
「……ここだな。シャル。いつでも撃てるように準備しておいて」
「は、はい!」
シャルは腰のホルスターから銃を引き抜いて感触を確かめる。シャルのマナに反応して銃身がほんのり冷えてきたのがわかる。
「絶対に側から離れるなよ?」
「単独行動は厳禁、ですよね」
細い通路を歩きながら、シャルは頷く。
二時間半は経っただろうか。人1人会わずに、あてが外れたかと思い始めた頃。
「シッ」
口に人差し指を当てながら、平塚は歩みを止める。
辺りから聞こえてくるのは、軽やかな足音。スキップするかのようなリズムは大人のものではないように思える。
平塚が通路を右に曲がったのを確認してから、シャルもそのあとに続く。その先にいたのは。
十歳くらいの男の子。薄暗い通路では表情は窺えない。
「こんなところで子供がなにしてるの!危ないでしょう?」
子供と確認して安心したのか、シャルが保護しようと近付こうとする。が。
「待った、シャル。ビンゴだ」
そう言った平塚が左腕をシャルの前に出して制止する。
「え……?ビンゴって……何がですか?」
平塚の言葉に疑問を隠せないシャルに、平塚が核心を口にする。
・・・・・・・
「コイツが犯人だって言ったんだよ」
「俺は少し鼻が利くんだ。コイツの甘ったるいミルクみたいな香りの中に、濃厚な鉄、血の臭いがする。もう既に皮を剥いできたか……。それに、歩き方。大袈裟にスキップしている割には歩幅が狭いし、微かに得物が擦れる金属音がした」
「で、でも」
「尚且つ。コイツは殺気を隠しきれてない。次の目標はどうやら……俺だったみたいだな」
平塚が腰から短刀を2本取り出して、大きく息をはく。少年は頭をガシガシと掻いてから大きく距離をとる。
「……恐れいったよ。まさか出会い頭でバレるだなんて思わなかったな」
少年は……壮年男性のような深い声でそう言うと、身体に変化が起きる。
華奢な少年の姿はどこへやら。細めではあるものの、柔らかそうな筋肉に覆われた身体。176㎝はあるだろうか。50代くらいでありながら甘いマスクに短く切った髪。実に整った顔立ちの男性が立っていた。
クンクン、と自分の匂いを嗅ぐ男に、平塚は両の手に握った短刀を再度握りしめ、身構える。
「……そんなにミルク臭いかな。それとも加齢臭?うーん、おじさん傷ついちゃうなァッ!!」
突如斬りつけてきた男の手にはメスが。
「なっ!?」
思いもよらぬ凶器に平塚の反応が遅れ、男の蹴りを腹に喰らって後退する。
不意に襲ってきた左足の痛みにそちらを見ると、2本のメスが突き刺さっているのが見える。メスを引き抜いて傷が癒着してから、平塚は、ごきり。と首を鳴らす。
その光景を見た男が目を輝かせる。
「おいおい、参ったなぁ」
「ああ、参った参った。久々に」
「「楽しくなってきたじゃねえか」」
そう言った両者は、刹那の間を待たずして激突。
両者の間で大きな火花が散った。