平塚とウリエルが入って行った司書室から嬌声が響いた。
普段のウリエルからは想像もできないような艶めかしい色気の含んだ声に、3人の天使達は思わず司書室の扉に耳を当てる。
「な、中でなにやってるんだろ」
「………」
「…………」
ガブリエルが素朴な疑問を口にするが、ラファエルとミカエルは口を接ぐんで頬を赤らめ、明後日の方向を向いている。
壁で隔てた此方側でもしっかり聞き取れるほど、ウリエルの声は大きく響いている。
『……あぁっ……ひぅっ……はうぅ……』
『ココが良いんでしたよね?』
『ああっ!……そう……そ…こぉ……!』
2人のやり取りを耳にした3人は思わず、ごくりと生唾を飲み込んだ。
二人の声に雑ざるように、何かが軋むような音と、僅かに布同士が擦れ合うような音も聴こえる。
「ねえガブ、もっとそっち行ってよ」
「そんなこと言ったってスペースないよぉ」
ラファエルがもっとよく聞こうとガブリエルを押し退けようとするが、ガブリエルもスペースを取られまいとそれに対抗する。そして、その二人に挟まれる形に位置するミカエルが負けじと前に力を掛けた瞬間。
「2人とも待って、押さないで……ってわぁ!?」
バターンという音と共に司書室の扉が開き、3人は室内に転がり込む。
「いったぁ……」
「うぅ……」
「きゅぅ……」
3人が呻き声をあげてから目を開けると、そこには。
休憩用のベッドに横たわり、恍惚の表情を浮かべるウリエルと。
その隣で指圧による施術を行う平塚の姿があった。
「何やってるんですか……?」
平塚が手を止めずに突然の侵入者3人に当然の疑問をぶつける。
「あ、あはは」
「な、何やってるかわからなかったから、つい……」
ラファエルとガブリエルが乾いた笑いを浮かべる。
「見ての通り、マッサージです…がっ」
平塚が肘を当てながら力を加えると、ゴキッという音と共に
「あんっ」
という声を上げて、ウリエルが恍惚の表情を浮かべる。
……どうやら声はウリエルが整体を受けていたことが原因だったようだ。
「……何だと思ってたんです……かっ?」
少々呆れながら平塚が溜め息をつく。
「そ、それはそのう………せ……」
ミカエルがモジモジしながら言葉を探そうとする。
「……せ?」
「………せ……せ……せ」
平塚の追及に顔を耳まで赤くしたミカエルが目を回しかけたところで
「遥斗君?会話にかまけて手が止まってるわよ?」
という、ウリエルの声で平塚が追及するのをやめる。
「はいはい、すみません……ねっ」
そう言った平塚が手に力を込めた瞬間。
「ああんっ♡」
ウリエルの口から一際大きな艶やかな声が発せられた。
「なんでマッサージ?」
「最近疲れが溜まってたから丁度良いかなって。遥斗君も居ることだし、ここは利用するっきゃ無いと思ってね~?それに、遥斗君世界中を回って知識を吸収してきたでしょう?料理や武術、宗教、医術に薬学、その他沢山。その中には整体なんかについての知識も含まれてる。だったらその辺の整体師に頼むより遥斗君に頼んでみるのが一番手っ取り早いかと思ってね」
ウリエルがすっかり艶々になった肌を燦然と輝かせながら、ガブリエルの淹れた茶を啜る。
「ほんと不思議だよね、遥斗君のあの眼。全体と一部分を同時に把握することで相手の動きを模倣することが出来る……だっけ?」
ラファエルが戸棚から出してきた芋羊羮を切り分けながらそう言うと、平塚が口を開く。
「あくまで人間の常識内の行動に限りますよ。火を吐けだの巨大化しろだの言われても俺には無理です……よっと」
つまるところ、平塚の類い稀な観察眼の応用だ。
見たことのある動きを記憶し、それを身体に投影しているに過ぎない。
「……んっ…んんっ……」
小さく、細く息を吐くように声を殺しているのは、先程までウリエルの寝ていたベッドで横になり、平塚から整体を受けているミカエルからだった。
ウリエルの提案で整体を受ける羽目になったのだった。
枕に羞恥で赤くした顔を埋め、声をころす様は女目から見ても嗜虐心を擽られるシチュエーションだが、何故かガブリエルは参加しようとはしない。
その理由とは。
「ねぇ……これって……!?」
資料に目を通したガブリエルがある項目を目にした途端に大きな声をあげる。
「えぇ。その資料が本当ならば」
ウリエルは至極落ち着いた声でその事実を口にした。
「月の村の惨劇は約2500年以上も昔、邪馬台国が始まるより以前にあったことなの」