約2500年前。弥生時代にまで時が遡る。
それはかつて人と神とが共存していた神代と呼ばれていた時代。無論、現代のように神々が地上を闊歩していた訳でなく、人が神を敬い、神が人を治めていた時代である。
やがて人は長らく神という高位の存在を認識することが出来なくなり、その存在は現代まで信仰の中でのみの存在となったのだが。
その神々が、門が開いたことにより世界のマナと神々とが結合し、現界するに至った。そして、両者は本当の意味で共存することを選んだ。
「その現代に現れたのが、神代の人間……」
平塚が額に滲んだ汗を拭う。
「“そんなこと、有り得ない”…とでも言いたげだね?」
ウリエルが芋羊羹を口に運びながら平塚の表情から窺える言葉を口にする。
「でもこれは事実。ここにある書類は天界のアーカイブのコピー。世界を観察した記録を保存したものよ?そこに偽りはないわ」
「……実際に体験しましたから、そんな言葉は吐きませんよ」
平塚が皮肉混じりにそう言うと、ミカエルが枕から顔を上げる。
「それで、明日からの祭は中止でしょうか?」
少しばかり困惑の色を含んだその声に、ガブリエルが口を開く。
「いや、このまま行こう。下手に中止して、敵に情報が漏れたことが察されるよりかはマシだと思うし」
「では警備を?」
「うーん、単純に人数を増やすよりは装備をレベル4にまで上げた方が良いかもしれないね、お客さんの中にも何人か紛れ込ませておこうかな」
ガブリエルの指示をまとめ、ミカエルがそれをメール形式で送る。
「ではそのように」
その様子を見たウリエルがクスクスと口に手を当てて笑う。
「……どうかした?」
「ごめんなさい、珍しく真面目に局長らしいことしてると思ったらつい」
しまいにはお腹を抱えて笑い出すウリエルにガブリエルがジトっとした目で反論する。
「む。失礼だなぁ、たまにはちゃんと仕事するよ?」
「それ自慢になってないからね?……まぁ、さっきのガブは少し格好良かったけど。シャルちゃんに見せてあげたかったな」
ラファエルが呆れながら茶を啜る。
「ねぇ、そういえばそのシャルちゃんって娘は今どこにいるの?挨拶くらいしておきたかったんだけどな」
ウリエルが思い出したように周囲を見渡すが、勿論そこにはシャルの姿はない。
「あぁ、シャルなら今頃……」
小望月が空に浮かぶ夜。暗い部屋に月の明かりが窓から室内に流れ込む。
ソファに座り込んだ少女が寝息を立てている。
少女の膝の上には平塚の蔵書、日本文学“文豪達の傑作選”と題された分厚い本が開かれている。
どうやら読んでいる途中で寝てしまったようだった。
「やぁ」
白い空間にポツンと立っていたシャルが、後ろからかけられた声に振り向く。
少年は簡素な椅子に座ったまま、立てた膝を抱える。
「ハルくん……久しぶり!元気だった?」
「抱きつこうとすんな!」
ハルと呼ばれた少年は抱きつこうとするシャルに対して容赦なく電撃を浴びせる。
プスプスと黒い煙をあげながら、シャルはハルの前に座り込む。
「ひどい目に遭った……!」
「ジゴージトクだ!」
腕を組み、そっぽを向くハルにシャルが困った顔をする。
「……からだの調子、どうなんだよ?」
ハルがそっぽを向いたまま話しかけてくる。ぶっきらぼうな態度もハルなりの気遣いなのだろう。
「身体作りはしてるよ。どのくらい減ったのかは、正直わからないけど……」
「……全体の5%が良いとこってところかな」
ハルが砂時計を取り出し確認すると、紅い液体が下に溜まりはじめている。
「あと95%……かぁ」
「………そんなに早く強くなりたいの?強くなって、どうするの?」
微妙な顔をするシャルに、ハルは疑問を投げ掛ける。
「……あの人に近付きたい。あの人を護ることが出来るくらい、強く」
「ふーん。んじゃ、その気持ちはどんな感情から来てるの?憧れ?それとも何?恋?」
「ふぇっ!?」
思いもよらない質問に、シャルは顔を赤くさせて俯き、たっぷり1分以上考えてからぽつりぽつりと話はじめる。
「………多分、その両方、かな。あの人の強さに憧れて、あの人自身を好きになったんだと、そう、思う」
「意外。そんなに簡単に認めるだなんて思わなかった」
シャルの答えにハルはぽかんと口を開ける。
「まぁ、頑張りなよ。アイツそういうことには結構疎いから、身体作りより苦労するかもしれないけど、ね」
ハルのクスクスという笑い声と共に、シャルの手足の先が光に包まれはじめる。
「じゃあ、また今度ね、ハルくん」
「うん。また今度」