朝。
12月中旬を迎えた冬の商店街を、シャルと平塚は急ぐ。時刻は午前8時前だというのに、街は人で溢れ、賑わいを見せている。
端に寄せた雪が人の熱気で融け出したのか、路面は所々滑り、道行く人の足を取る。
それは当然シャルも例外ではなく、足を取られてバランスを崩し、前を往く平塚の背中につんのめって頭から突っ込む。
「ふぎっ」
思い切り鼻をぶつけたのだろうその悲鳴は平塚のコートでくぐもったものとなった。
振り返った平塚は鼻をさするシャルの手を握る。
「少し急ごう」
そう言った平塚は店と店の間の路地に入り、シャルの身体を抱き抱えると店の壁を蹴って上へ上へと登って行く。
「の、登るんなら登るって言ってくださいよ!」
「悪い悪い」
シャルの言葉に対して悪びれた様子の無い平塚は、雪の積もった店舗の屋根をひょいひょいと跳んで走って移動する。
2人の様子を下で見ていた客から歓声が沸くが、店の店主からは一斉にブーイングをくらう。
平塚はそれに対して手を頭の前に立てながら商店街を走り抜け、最後の店の屋根から飛び降りると己が身体のクッションを使って衝撃なしで地面に着地する。
広い公園を今度は障害なく越え、しばらく歩くと管理局の庁舎が見えてくる。
入り口にはもう既に大勢の人集りや出店が出来ていて、今日から始まる祭りの規模が伺える。
「ひはっはひはふほふん」
入り口で出迎えたのは口一杯にアメリカンドッグを頬張っているガブリエルの姿だった。
「おはようございます、ガブリエル局長。朝から食べますね。それと、口に物をいれながら喋らないでください」
少々呆れ気味に平塚が具申すると、ガブリエルが咀嚼するスピードを早める。
「んぐっ、あむっ、ごくん。おはよう、遥斗くん、シャルちゃんも。皆待ってるよー、教官殿はまだかー、主席殿は何処だーって」
「あー、はい。了解です。では、行きましょうか」
そう言った平塚は受付にパスを通すといそいそと建物の中へ入って行く。
「教官?主席??」
シャルが疑問を呟くと、ガブリエルがふふんと鼻を鳴らして、シャルの手を取る。
「すぐわかるよ」
シャルが建物の中に入ると、エントランスには沢山の人、そしてモンスター達が。先程までと少し違うのは、人と場の雰囲気だった。
苛立ち、殺意、不安などの様々な感情が渦巻いて辺りに立ち込めている。
「___お待たせして申し訳ない」
エントランス中央、シャンデリアの真下に立った平塚が良く通る声を響かせる。
「全くだ。教官、俺たちをいつまで待たせるつもりだったんだ?」
「今日という日をどれだけ待ちわびた事か……」
獲物を見つけた獣のような目を爛々と輝かせながら、彼等__祭に参加予定のハンター達は舌舐めずりする。
「そう殺気立てないでくれよ。うちのパートナーが怯えてる」
飄々とした態度の平塚はそう言うとシャルとガブリエルに手招きをする。
「俺の新しいパートナー、ダルタニャンだ。皆よろしく頼むよ」
平塚の宣言にどよめきがいっそう強くなる。そのどよめきも御構い無しに平塚はシャルに挨拶を促す。
「だ、ダルタニャンです、よろしくお願いします!」
そう言ったシャルが頭を下げる。
「ち、ちょっと待ってください!」
周囲のどよめきの中から良く通る声で異議を申し立てる女性が顔を出す。
「何故でしょうか。その子の他にも主席殿と組みたがっていた候補たちは沢山います。その声を無視してまでその子を選んだ理由をお聞かせ頂きたい!」
彼女の声に同調した数人のハンターがそうだそうだ、と口を一斉に開く。
「…あぁ、それはだな___」
「やめないか」
平塚が説明しようと口を開いたのと同時に、低く野太い声が2階フロアの方から響き渡る。
声の方向に顔を向けようとすると、2メートルをゆうに越えるだろう巨体が吹き抜けの鉄柵から身を乗り出して、まさしく今そこから飛び降りようとしている姿が否応にも目に入る。
3秒と経たずにズズンという地響きと共に地上に降り立っ___いや。
突き刺さった巨漢は、窪んだ大理石のパネルから脚を抜きながら大きく溜息をついた。