「マーカス。なんのつもり?」
「お前こそなんのつもりだ、ステラ。これは教官殿や上層部の決定なのだろう?ならば、我々はそれに黙って従うのみだと思うが」
「私はただ理由の説明を求めただけよ、マーカス。主席殿は多忙であまりプライベートなことは仰ってくださらないから」
マーカスと呼ばれた男は後ろで束ねた自慢の黒いドレッドヘアを揺らしながら、ステラの前に移動する。
一方ステラは向かい合ったマーカスの顔を正面から見上げるが、金髪を短く刈り込んだ彼女の頭と彼の身長差は大人と子供ほどもある。
ステラも女性としては高い方なのだが。
2人は互いに気圧される事なく一歩、また一歩と近付いていく。
2人の距離が50センチを切ろうとした瞬間、ガブリエルが双方の口の中にそれぞれ熱々おでんを捩じ込む。
「「ん"あ"っ"つ"イ"!!!?」」
「はいはい、2人とも仲良くねー、僕が説明しても良いんだけど、やっぱり遥斗くんの口から説明した方がいいよね。ってなわけで、はふほふんほうほ(もぐもぐ)」
ガブリエルの機転、というかただの悪戯のおかげで場の雰囲気が多少和んだところで、平塚がバツが悪そうに口を開く。
「あー、先ずは要請があったのは知ってる。だが、その候補の子達の多くは既にパートナーと契約を結んでいるか、訓練中の者が殆どだった。また、俺がこなす依頼は可及的速やかに対処が必要なものなんかが非常に多いから、単独でこなす方が割く人員も少なくて済む。そして何より、人員は常に不足している。怪我なんかでも前線から離れる事も多い。なら、今組んでるパートナーとの絆を深めることや訓練を受けた上で己の身を守れなきゃいけない。ちゃんとその旨を伝えた上で断りの手紙まで書いて出したんだがなぁ……」
頬をポリポリ掻きながら平塚がそう答える。
「ではダルタニャンさんを選んだ理由は…?」
「試験の結果が非常に優秀だったからだな」
ステラの質問に平塚が即答すると、周囲のハンター達が一斉にどよめく。
「あ、あの遥斗さん」
「何?」
「試験って……?」
シャルの質問に平塚はガブリエルから受け取ったフランクフルトを囓りながら答える。
「地下闘技場での一戦、雪山での合宿、初めて触れる武器への順応性と肉体ポテンシャルの高さ。それに加えて、既に実戦を経験してる。…これを優秀としないで何とすると?」
「で、でも私合宿は途中で下山しちゃいましたし、実戦とはいってもサポートしただけですよ!?」
平塚ののほほんとした答えにシャルが平塚の胸をポカポカと叩くが、平塚は笑って誤魔化している。
「ここにいる殆どの人間やそのパートナーは、ハンターになる際に君と同じように平塚教官殿に拉致らr……んんっ、教官殿主導で山籠りをする事になっている。大体の者が3日か4日でリタイアしてしまうんだが……」
「ここにいる者の中で平塚’sブートキャンプを一週間持ちこたえた者はいないのよ。私とマーカスですら5日と半日が限界だったわ……」
2人は遠い目をしながら頭上に輝くシャンデリアを見つめる。その瞳にはうっすらと涙が滲んでいた。
「教え子の中で七日間耐えた子は1人もいないよ。ふざけた根性を叩き直して生まれて来たことを後悔させるレベルでってのがハンター養成学校、及び合宿の主な目的と上から指示された内容だからね、メニューは様子を見ながらハードにしていくし」
「それで、ダルタニャンさんは何日目まで?」
「6日目の昼までは耐えた。久々の合宿だったから気合い入れて鍛えてたんだけどな」
「記録更新…だと」
平塚の言葉に周囲のどよめきの中に感嘆の声が混じる。
「それはそれは…是非対戦してみたいものね」
「当たるとしてもタッグマッチじゃないとまぁ対戦は叶わないだろうけどな」
ステラの心底楽しみそうな弾んだ声にマーカスが少々呆れ気味でそう言うと、平塚がフランクフルトの串をへし折りながら答える。
「そうとも限らないだろう。なんたって今日は_」
「半年に一度のバトルロワイヤル形式予選だからね!いやあ、君たちがどんな戦い方をしてくれるか、僕たちは非常に楽しみにしてるんだ!」
バトルロワイヤルというパワーワードに嬉々として無い胸を躍らせながらガブリエルがはしゃぐ。
「んじゃ皆!お祭りだからって気を抜いちゃいけないよ?昨日通達したように警戒レベルは4、何があっても人命最優先で動くように。良いね?」
ガブリエルの言葉に平塚をはじめとするハンター一同は姿勢を正す。
「Yes,my lord」
「では、解散!」