雷男と猫娘   作:ぷらずまこだっく

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差し入れ

シャルが3人と話し込む場所から少し離れたところで、平塚が係の天使に話しかけていた。

 

「ミカエルさんとかラファエルさんとかはどこにいるの?」

 

「今は開会式準備の為、上層で準備しておられます」

 

「あー、成る程。んじゃ後でこれ渡して置いてください」

 

平塚がバッグからピンクと水色の小包を出してカウンターテーブルに置く。

 

「あの、これは」

 

「朝食べられたか心配だったから作ってきたんです。勿論、昼でも食べられるものなんで」

 

包みの中は自宅で作ってきたフルーツサンドである。

薄くスライスした甘い果物を甘さ控え目のホイップクリームと一緒にサンドした逸品。

 

少々遅刻したのはこれを作っていたから、というのも一因である。

 

「あとこっちは皆さんで」

 

そう言って、肘にかけた大きめのバスケットを渡す。

 

「こ、これは……!」

 

バスケットに掛かっていた布をめくった天使が歓声をあげる。

 

中に入っていたのは色とりどりのサンドウィッチ。

トマトや玉子、ハムなどの具材だけではなく、平塚自らが焼いたのであろうパンの香りが広がり、鼻腔をくすぐる。

 

「朝早くから作業してくださってる皆さんに自分からせめてもの御礼です。よかったら空いた時間で食べちゃってください」

 

「あ…ありがとうございます!」

 

近くにいた天使たちがバスケットめがけて飛んで来る。

 

瞬く間にサンドウィッチが無くなっていく中で、見覚えのある緑髪の天使がサンドウィッチに手を伸ばしたところを平塚がむんずと首根っこを捕まえて引き摺り出す。

 

「何やってるんですか局長」

 

「ほぇ?」

 

ガブリエルがもぐもぐとサンドウィッチを貪りながらくぐもった声を出す。

 

「ほぇ?じゃないです。局長の分は別にあるんですから部下の分まで取るもんじゃあありません」

 

「えっほんと!?」

 

呆れた声で平塚が床にガブリエルを下ろし、バッグから少し大きめの包みを出すと、ガブリエルが目を輝かせる。

 

「はい、どうぞ」

 

「いただきまふ!!」

 

いただきます、を言い終わらないうちにフルーツサンドを口いっぱいに頬張るガブリエルの隣で魔法瓶からマグにお茶を注ぐ平塚。

 

「それで、開会式は予定通り?」

 

「んぐっ!?」

 

ガブリエルが喉に詰まりかけたサンドウィッチをお茶で流し込む。

 

「ぷはっ!!……とりあえずは予定通り行う事にしたよ。前にも言った通り、勘付かれたと思われない事も重要だからね」

 

そう言って懲りずに口いっぱいにサンドウィッチを頬張るガブリエル。

 

傍目から見るとそれはまるでハムスターや栗鼠のように愛らしく見える。

 

「はむはむはむはむはむはむ」

 

がつがつがつがつ。こちらの方が擬音としてはあっている食べっぷりであるのだが。

 

みるみるうちにサンドイッチが消えていき、ものの数分で包みが空になった。

 

「ごちそうさまでした!」

 

「はい、お粗末さまでした」

 

「あ、そうそう。遥斗くんに預かり物だよー、はい、コレ」

 

ガブリエルが懐から取り出したのは薄緑色の液体が入った簡易注射器であった。

 

「……やっぱりそれ必要ですかね?」

 

「必要に決まってるじゃないか!敵の戦力もわからないんだ、ある程度の準備はしておくぐらいは当然なんじゃないかな」

 

ガブリエルの言葉に渋々と言った感じで平塚が注射器を胸元のポケットに入れると、ぴんぽーん、というチャイムの音と共に

 

『予選に参加されるハンターの皆様は、地下3階、個別控え室までおいでください』

 

というアナウンスがあたりに響いた途端、周りにいたハンターがぞろぞろと階段を降りていく。

 

エントランス内は係の天使と平塚を含む数人となった。

 

 

「んじゃ、シャル、遥斗。頑張って」

 

「佳那さんは参加しないの?」

 

「アタシは今休業中だからね。良い稼ぎになるんだとしても参加出来ないのさ」

 

肩を竦めながら答える佳那が大きな欠伸をかいてから、観覧用ゲートの方に向かう。

 

「アタシはゆっくりビールでも飲みながらアンタらの活躍を拝むとするさね」

 

ニッと笑った佳那の横顔を見やってから平塚はシャルを連れて地下へと降りて行った。

 

 

数分後、誰もいなくなったエントランスの柱の影から黒い影がするりと浮上する。

 

影は平塚達が降りて行った地下への階段を見つめ“ニタァ”と口の端を耳まで吊り上げて嫌な笑みを浮かべる。

 

 

 

ミツ…ケ、タ。

 

影はそう小さく呟くと、柱の影に足下から沈んでいき、やがてトプン、という水面に石を投げ込んだような音と共に完全に姿を消した。

 

しん…と静まり返ったエントランスに差し込む日差しが、少しずつ翳り始めていた。




いかがでしたでしょうか。
久しぶりの更新です。ここ数ヶ月体調不良だったり慢性的な不眠症だったりと割と散々だったのですが、細く短く根気よく書き綴ってました。拙い文章ではありますが、少しでも楽しんでいただけると幸いです。
感想など頂けると嬉しいです。

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