「それから8年間、俺は世界中を旅してまわった」
そこまで話したところで、ダルタニャンは平塚が苦しげな顔をしているのに気づいた。
「色んな所を見てまわったよ。その旅から人の営みや人の優しさ醜さを、世界を知った。施設にいた頃には知り得なかった事がたくさんあった。それと同時に、自分達がしてきた事の意味を痛感した。ゲートは世界中のそこらかしこに在ったんだ。勿論力を使って人を助けたり、町を救ったりはしたさ。それでも、死人は出た。無力だった。…本当の意味ではなにも…なにもしてあげることなんてできなかった。俺には傷を癒すことはできない。出来るのは、人を傷つけることだけ。…助けを求めていた人たちが目の前から消える。そんなことはもう嫌なんだ…」
皿を片付けながら、平塚は歯を軋ませていた。
ダルタニャンはそんな平塚を見て、込み上げてきた「大変だったね」という言葉を噛み殺した。
「(こんな言葉を口にすれば、彼がやってきた行動を侮辱することになる)」
平塚のこれまでの人生は波乱に満ちた人生だった。そしてそれは、これからも変わることはないだろう。
「あなたのしてきたことは誇れることです。平塚さん。」
「……」
ダルタニャンは告げる。
「あなたは人の命を助けた。その事実は変わりません。あなたの救った命が、いまもこの世界で生き続けている。それは素晴らしいことなのです。あなたは無力なんかじゃありません。あなたがしてきたことをあなた自身が否定したのなら、それは救ってきた人たちを否定することになる」
「違う!俺は……!?」
ダルタニャンの言葉に反応して平塚は振り返る。
すると、目と鼻の先にダルタニャンが立っていた。
「あなたはたくさんの人を助けた。救ってきた」
「それでも俺は…」
「大丈夫」
そう言って、ダルタニャンは平塚の頭を自身の胸に押し付けた。
「な…にを……」
「あなたは、私を救ってくれた」
平塚の目から雫が零れた。
「……ぁ」
「……」
ダルタニャンは黙って微笑んでいる。
平塚は泣いた。ダルタニャンの胸のなかで泣いた。生まれたての赤子のように。渇ききった心を潤すかのように。
家族を失ったあの日からずっと心のなかで流し続けてきた涙が今、溢れ出した。
ダルタニャンは平塚をきつく抱き締めていた。
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「………」
30分後、あたりはいたたまれない空気になっていた。
泣き顔を見られた平塚はむくれている。
「…あの」
「…なんでしょう」
いつになく他人行儀だが、ダルタニャンは話しかけて初めて口を開けてくれたので安堵する。
「中央管理局、というところに行くのでは?」
そう言った途端に平塚ははっとした表情になり
「そ、そうだった!!」
…忘れていたようだった。
「急げダルタニャン!急いで仕度しよう!!」
「え?わたしも行くの?」
予想外だったらしく、ダルタニャンは尻尾を?にしている。
「保護してもらわなきゃ大変なんだって!ハンターに見つかったらどうするのさ!はいこれ服!」
聞き慣れない単語が出てきた。
「は、はんたぁ…?」
着替えを渡してきた平塚に訊ねてみようとそちらを見てみたが、ちょうど着替え真っ最中でそれどころではn……
「「あ」」
両者の目があった。完全にあってしまった。
「こんのエッチ!!」
「なにゆe」
バッチィィィィィィィィィン!!!
見事なまでの平手打ちで平塚は吹き飛び、空中できりもみしながら三回転半の空中散歩の後にタンスの角に頭をぶつけて倒れた。
これにはさすがの平塚も堪えたらしく、頭をおさえて転がりながら思った。
理不尽だ、と。