なんか机にパンツ降ってきたけどどうすればいい?   作:リンゴ餅

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第十八話

 住居侵入罪、というものをご存じだろうか。

 まあ、いわゆる不法侵入というやつである。

 

 刑法第130条に詳しくあるが、ちょっと引用してみよう。

 『正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、または要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、三年以下の懲役または十万円以下の罰金に処する』。

 

 この条文には不法侵入だけでなく、不退去罪という罪に関しても書かれているが、それは置いておこう。

 問題なのは今俺の直面している状況がこの刑法第130条で言うところの住居侵入罪に当たるかどうかだ。

 

 すなわち、

 

「……何してんの二人とも」

「あ、佐倉君、おかえりなさい……」

「おっす」

 

 おっすじゃないよ。

 煽ってんのかこの娘。

 そのピンクのパーカー脱がして匂い嗅ぐぞ。

 

「ぷりーず、あんさー、まい、くえすちょん」

「ご、ごめんなさい。私は止めたんだけど、ガヴが自分の部屋は汚いって言うから……」

「私も別に好きであの汚部屋に住んでるわけじゃないからな。汚い環境でネトゲか綺麗な環境でネトゲかだったら当然後者の方を選ぶさ」

 

 一回鍵を差し込んでひねってからドアノブを回して玄関に入る。

 いつもの行程を踏んで部屋に入ろうとするも、ドアは開かず。

 鍵を朝閉め忘れたか、とも思ったがちゃんと鍵をかけた覚えはある。

 

 はておかしいなと思って改めて鍵を開け中に入ると、自室に知り合いが二人勝手に上がりこんでいた。

 

 この状況は不法侵入に当たるでしょうか。

 

「……当たるに決まってるよなぁ」

「……佐倉君? やっぱり怒ってる?」

 

 いや、怒ってはないよ?

 だからそんないたたまれない様子で俺のこと上目遣いで見なくてもいいんだけどさ。

 

 むしろお礼を言いたいよ。

 こういうとき最初に抱く感情が怒りとか驚きとかじゃなくって恐怖だってことを教えてくれて。

 

 だって怖くね?

 いくら二人が美少女だったとしてもだよ?

 鍵がないと開かないはずの玄関開けたら当然のように他人が自室に居座ってるって。

 

 俺の心境を知ってか知らずか、天真さんはのんきに床に寝っ転がりながらノートパソコンで遊んでいる。

 一方でヴィーネさんは俺が本気で怒っていると思っているのか、泣きそうな顔でこちらを見ている。

 ヴィーネさんの泣きそうな顔もサターニャさんに負けず劣らず可愛いけど、流石に色々ツッコミを入れさせてもらおう。

 

 まあでもその前にカバンとか置いてゆったり話をできる体勢になるか。

 

「ヴィーネさん」

「は、はい」

「そんなに怯えなくても怒ってないから大丈夫だよ。あと、ヴィーネさんも適当にそこらへんに座って」

「うん……ありがとう」

 

 ヴィーネさんらしいというべきか、どうやら俺が帰ってくるまでずっと立って待っていたっぽい。

 そういう律義なところを、床と平行、というか床と一体化しているそこの金髪少女も見習ってほしい。

 

 女子二人が床で俺だけがベッドの上や椅子に座るというのも気分が悪いので、俺も部屋に敷かれたカーペットに腰を下ろす。

 天真さんの部屋の床はフローリングのままだったけど、フローリングだと冬寒そうだし、こっちに引っ越して来た早い段階でカーペットは購入した。

 天真さんもそのうちカーペット買ったらいいと……思わないな。

 あの部屋だとダニか何か湧きそうだし。

 

 俺が座ると、ヴィーネさんもお淑やかに座る。

 女子が座るときの衣擦れの音ってなんかいいよね。

 

 変態的な思考はさておき。

 尋問の時間だ。

 

 俺がまっすぐにヴィーネさんを見つめると、彼女も覚悟を決めたのか堂々と見つめ返す。

 率直に言って抱きしめたい。

 

「こほん……さて、ヴィーネさん」

「は、はい!」

「俺が今からヴィーネさんにいくつか質問をするので嘘偽りなく答えるように」

「はい」

「いい返事だ……では、第一の質問」

 

 なんか茶番っぽくなってきたけど実際そこまでシリアスな話にする気もないので問題ないだろう。

 ただヴィーネさんの隣で大あくびしているパーカースカート女子にはもうちょっとシリアスになってほしい。

 ちょっと捲れてるぞ。

 

「まず、どうやって俺の部屋に入った?」

「えっと、ラフィが針金のようなものを使って開けてくれました」

「待て待て待て待て」

 

 いきなり意味不明なんだけど。

 今の発言ヤバすぎるだろ。

 ヴィーネさんの何でもないような口調で答えてるところがヤバみに深みを加えている。

 

 針金のようなものって。

 バールのようなものみたいな言い方しないでくれる?

 それまごうことなき針金だから。

 

 つーか驚きすぎて声音が素になっちゃったよ。

 俺声低いっていう理由で中学生のころ女子に怯えられたことがあるから女子と話すとき声作ってる部分あるんだよね。

 実際ヴィーネさんも今の俺の声に少しびっくりしたような顔をしてるし。

 ごめんね、でも俺はもっとびっくりしてるからね。

 

「白羽さんもいるの?」

「あ、うん、その……」

 

 ヴィーネさんがそこで視線を俺からはずす。

 その視線を追ってみると、

 

「あ、どうも。お邪魔してます」

 

 案の定、人形よりも整った容姿の白銀の女の子が立っていて、にこっと挨拶をしてきた。

 

「おおう……どうも、お邪魔されてます」

「佐倉君の部屋、すごく綺麗ですね」

「ね! 私も思った! 、男の子の部屋ってもっと散らかってるのかなって思ったけど、私も昨日初めて入ったとき驚いちゃった」

「……ありがとう」

 

 思わずお礼言っちゃったけど、君たち自分たちが不法侵入してるってこと分かってる?

 もし同じこと男の友人がやってたら間違いなく通報してるからね?

 

 そして気付いたら天真さんが可哀そうなものを見るような目でこちらを見ている。

 

「……どうしたの、天真さん」

「いや、お前の気持ちは良く分かるよ。悪いことは言わん。あきらめろ」

「…………」

 

 ……段々カオスになってきたな。

 

「白羽さん」

「はい? 何ですか?」

「どうやって針金で俺ん家の鍵開けたの」

「うふふ、乙女の秘密です」

「……あ、そう」

 

 いや、本当はどうやって開けたのか分かってるんだけどさ。

 出会って数日の友達がピッキングで不法侵入してきたなんて現実そうそう受け入れられんっつの。

 素晴らしいテクニックをお持ちでってか。

 やかましいわ。

 

「侵入手段についてはもういいや……それで、何でみんな俺の家にいるの?」

「あ、うん、それなんだけど……」

 

 そう言ってヴィーネさんが不法侵入の経緯を話し始めた。

 

 

 … … … … …

 

 

「……なるほどね」

「それで佐倉君もどうかなって」

「うん、まだ夕飯決めてなかったし俺も行くよ」

 

 ヴィーネさんの話をまとめるとこんな感じだ。

 

 放課後、サターニャさんとの会合のために俺が場を離れた後。

 天真さん、ヴィーネさん、白羽さんの三人は共に下校することになった。

 

 初めての高校生活。

 色々忙しいこともあるかもしれないが、所詮は高校生。

 まだ授業も始まったばかりで今はまだ日程的にそこまで立て込んでいるわけではない。

 ただこれからも今ほど暇かどうか分からないので、今のうちに親睦を深める会を開こう、ということで夕食をみんなで取ることになった。

 そうすれば花見をする際にももっと打ち解けた雰囲気で楽しめるだろうと。

 で、そうなると花見を企画した張本人の俺もいないとダメだろう、そんな経緯で俺の家で待つことにしたらしい。

 

 最後の結論の部分がおかしい気もするが、話としては非常に嬉しいものだった。

 

 しかし、

 

「ここにいる面子だけだと、サターニャさんが仲間外れになるけど……」

「そうね……サターニャも誘いたいけど、そういえば私サターニャの今の連絡先知らないわ」

「了解。じゃあ俺が連絡するね」

「……何でお前があいつの連絡先知ってんの?」

「ちょっと色々あって、俺サターニャさんの工作員になったので」

「はあ?」

 

 つい先ほど別れた手前、ちょっと顔を合わせにくい部分もあるがあの子にはもっと人の温かみを知ってほしい。

 そういう理由でサターニャさんも誘うことを提案した。

 あと大分適当に答えちゃったけど、自分から工作員ですってターゲットに名乗るスパイってヤベエな。

 

 最近大活躍のスマホの画面をタプタプして俺はサターニャさんに電話を掛ける。

 

 …………。

 あ、出た。

 

「こちら、佐倉優。サターニャさん応答願います」

『も、もしもし? 聞こえてる?』

 

 彼女は電話の経験もないんだろうか。

 流石にそれはないと思うけど。

 

「聞こえてるよ」

『そう? ならいいわ。それで、何の用?』

「これから天真さんたちと飯食いに行くんだけど、サターニャさんも一緒にどうすか」

『はあ? 何で私があいつと一緒に仲良く夕食なんて食べなきゃいけないのよ』

「ヴィーネさんと白羽さんもいるんだけど、サターニャさんだけ除け者にすんのもどうかと思って」

『ふん、余計なお世話よ。勝手に行ってくれば?』

 

 まあね?

 彼女のことだろうからそういうひねくれたこと言うと思いましたよ。

 

 でもさ。

 そういうキャラを貫きたいんだったらもっと徹底した方がいいと思うんだ。

 こう、電話越しでも分かる声の震えとか急に高くなった声のトーンとか。

 分かりやすくて非常によろしいんだけれども。

 

 俺の妹とかは感情表現に乏しくてマジで嫌がってんのかどうかの区別がつかないことがあったからな。

 俺が中二で彼女が中一のときとか顕著だった。

 小学生のころは素直に俺に甘えてくることが多かったが、中学生になったとたんツンツンし始めて、それはもう苦労した。

 俺が「可愛いな」とほめると「……キモイ」と返され。

 「似合ってるよ」とほめると「……あんぽんたん」と返され。

 頭をポンポンすると「……おまわりさん」と返され。

 割と早めに彼女の反抗期は収まったが、今でもたまにツンツンしてくる。

 まあそこも含めて全部が彼女の可愛いところなんだけれども。

 

 その点サターニャさんは本当に扱いやすい。

 犬みたいに感情が表に出るし。

 ちょっとこっちが見放すふりをすると全力疾走で駆け寄ってくるところがまたね、こう、グッとくるよね。

 

 ただ今日は俺もちょっと疲労が蓄積してるからな。

 また突き放すようなこと言うのも心が痛むし……。

 

 

 俺は周りを見る。

 天真さんは……ダメだな。

 ネトゲに夢中でこっちのことはアウトオブ眼中だ。

 

 他の面子はどうか。

 白羽さんは……俺のベッドの下を覗き込んでいた。

 っておい。

 何しとんねん。

 エロ本なんて隠してないからな。

 そういうのは某新世界の神を見習って別の場所に隠してあるから。

 流石に火がつくような仕掛けは施してないけど、その代わり絶対見つからないようにした。

 白羽さんでも見つけることは叶わない……と思いたい。

 

 とりあえず彼女は放っておいて、最後にヴィーネさん。

 目が合うと、コテン、と首を傾げた。

 チョベリキュート過ぎる。

 

 余りの可愛さに謎の言語が出たが、本当に可愛い。

 というのは置いといて。

 

「ヴィーネさん、パス!」

「へ!?」

「サターニャさんの説得頼みます」

「ええ?」

 

 ヴィーネさんなら一応旧知の間柄らしいし、何とかしてくれるだろう。

 俺は彼女にスマホを渡し、様子を見守ることにした。

 

「えっと、もしもし? サターニャ?」

『その声は……ヴィネット?』

「うん、そうだけど……えっと、夜ご飯、一緒にみんなで行かない? お花見のメンバーで行くことになったんだけど」

 

 突然の無茶振りじみた俺の行動を咎めるようなことをせず、ややぎこちない会話をし始めるヴィーネさん。

 こういうのを見てほっこりする俺はやっぱり性根がねじ曲がってるのかもしれない。

 でもまあ、不法侵入したことに対する一応の罰ってことで。

 俺の目の保養になってください。

 

 しばらく見守って交渉が無事に進んでいるのを見届けてから、俺は意識を別のところに向けた。

 

 ……さて。

 

「白羽さん、何してるの?」

「いえ、何か面白いものはないかな、と」

「……ナニを探しているのかは分からないけど、ベッドの下には何も置いてないよ」

「ふむ……そのようですね」

 

 俺が声をかけてようやく彼女は這いつくばっていた体勢から起き上がる。

 エロ本を探すにしてはやけに熱心だったが、白羽さんてけっこうムッツリなんだろうか。

 普段は清楚なお嬢様だが、夜になると乱れる白羽さんを想像するとマジで興奮してくるのでやめておく。

 

「……あんまり俺の家で変なことしないでね?」

「変なこと、ですか?」

「こう、針金のようなものを使ってピッキングとか、部屋のどこかにお札貼るとか」

「あら、見てたんですか?」

「え?」

「まあでも、善処しますね」

「ちょ、ちょっと待った! お札貼ったの? どこに?」

「んー……今日は天気がいいですね」

「いや何その会話の打ち切り方!? そのセリフってむしろ会話のきっかけに使う奴じゃないの!?」

「佐倉君、余り大きな声を出すと電話をしているヴィーネさんにも、ご近所さんにも迷惑ですよ」

 

 こ、この女……。

 

 メッ、みたいな感じで言ってくる白羽さんに俺は何も言えなくなる。

 可愛いからこそ質が悪い。

 

 いやでもほんと、そろそろ本気でセクハラのメニュー考えますよ?

 最後のデザートは白羽さんの胸で、お会計は俺の社会的な死になるだろう。

 

 自分の人生終了を予期していると、どうやらヴィーネさんの電話も終わったようだ。

 

「どうだった?」

「サターニャも来るって。やっぱりあの娘、高校に入る前から全然変わってないみたい」

 

 呆れたように言うも、表情は懐かしむような微笑み。

 どこかホッとしているような笑みだ。

 

「ごめんね、急に話投げて」

「ううん。むしろこのタイミングでサターニャと話せてよかったわ。直接会ってからだと微妙に気まずくなっちゃってたかもだし……気を遣ってくれてありがとう」

「い、いや。それならよかったよ。うん」

 

 なんかポジティブにとらえてくれたようだ。

 ……これヴィーネさんのポジティブさにマイナス1掛けたらイコールヤンデレになりそうだな。

 

 

 時刻も丁度良く、準備をした後。

 俺たちは揃ってアパートを出た。

 

 

 

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