Fate/Grand Order【The arms dealer】   作:放仮ごdz

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ウェルカム!ストレンジャー…どうも、今年中にロンドンを終わらせたい放仮ごです。一年かかるなんて思わなかったんや・・・本当なら六章まで行っているはずだったんです、はい。

今回は、こちらが早く書き終わってしまったので予定変わって割と重要な伏線回収回。本編で絶賛瀕死の立香がぼんやりと思い出している過去話、番外編となります。時系列はロンドンに赴く数日前です。楽しんでいただけると幸いです。


こいつがアンタの過去かストレンジャー?

第三特異点を越え、第四特異点を見付けるまでの日常の中で。その話題は、他愛ない会話から上がった。

 

 

「ナイフのご購入、毎度ありだストレンジャー。接近戦では銃よりナイフの方が速い、この言葉を心に刻み込んでおけば完璧だ。アンタはどうも銃に頼り過ぎていたからいい傾向だ。まあドクター辺りに知られたらまた説教だろうがな」

 

「ははは、そうだね。マシュや所長にも怒られそう。でも、サーヴァントの皆を信じてない訳じゃないけど、いざという時に大事なものを守れなかったら私が後悔する。だから私は誰に何と言われようとこれを使うよ」

 

「俺達もアンタがそれを使わない様に尽力させてもらうがな?そういえば今更だが、ストレンジャー。アンタは誰から銃を習ったんだ?拙いにしろ、ハンドガンマチルダを使いこなせるなんて賞賛に値するんだが?」

 

「あー・・・えっと、何処まで知ってる?」

 

「空港のバイオテロに巻き込まれた幼少時のアンタを海軍の一人が保護したってところまでだな。あとはコミュ症こじらせたストレンジャーの、孤児院で小遣い溜めて買ったモデルガンで毎日練習している寂しい灰色の青春を送った日常ぐらいしか知らないぜ?」

 

「・・・・・・もしかしてみんな知ってたりする?マシュも?」

 

「知らん。だが、直接パスを繋いでいる俺だから知ってることかもしれないなあ?所長殿の夢も見るしな」

 

「マシュにも知られている可能性があるのか・・・ま、まあいいや。じゃあ、私に銃を教えてくれた人達だね。・・・私は結局そう思えなかったけど、第二の・・・そう、家族になってくれた人達との一年間の話」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの日、飛行場のロビーで。上院議員にゆらゆらと近付く、マスクを被ってうーあー言ってただけの偽物のゾンビ。そんな笑えもした、ちょっとした事件の直後に、突如出現した本物のゾンビにパニックに陥った。

 

墜落し飛び込んできた旅客機から溢れ出してきたゾンビの群れに、逃げ惑う人々。突き飛ばされ、倒れ込んだ私に向かってゆっくりと、それでも恐怖を抱かせる速度で近付いてきたゾンビを、赤い髪をポニーテールに纏めた、さっき偽物のゾンビを対処していたお姉さんが蹴り飛ばして私たち家族に逃げる様に言って(たらしい。英語が分からなかったけど両親の反応から多分そう)、私たちは家族揃って逃げ出した。

 

 

それから何時間も、暗い、暗い、鉄の匂いに満ちた狭い空間で半ばパニックになりながら、両親と別れた私は1人になっても必死に逃げ回った。

 静寂に満ちていたかと思えば耳を劈く悲鳴に轟く怒号、息を潜めて逃げていた己を委縮させる唸り声に絶叫。血塗れの人、人、人。中には、倒れ伏した人が被さって身動きが取れない子供や赤子もいた。私はそれを見付けながらも、見なかったふりをして逃げ続けた。そうしないと、命がけで両親が逃がしてくれた私まで死んでしまうから。そう、言い訳をしながら。当時憧れていた正義の味方なんて、自分には無理なんだと思い知った。

 

 逃げ続けた先で隠れていたダクトで息を潜めている中、突然突び込んできた腐敗した右手、白目を剥いた灰色の顔。待ち望んでいた声を聞いて扉を開けた先にいた、異形と化した両親の姿。中には、全身の皮膚が剥がれた筋肉の塊みたいな四つん這いの怪物が息を潜めた私の前を横切った事もあった。目が見えない様だったのが幸いだったが、声を出していたらと思うと・・・あの長い長い舌で貫かれていただろう。考えたくもない。

 

 途中でお姉さんが上院議員や警察の人と一緒に居たのが見えたけど、私と同じぐらいの子供が既にいて、足手まといになるのが嫌で私は一人でそのまま隠れていた。怖かったのだ、私が加わる事で助かるかもしれない命が奪われる事が。これ以上、他人に迷惑をかけたくなかった。私がいなければ、両親だって助かっていたかもしれない。銃声が怒声が響き渡り、ゾンビ達がその方向に向かっていく中、私は隠れながら反対方向に駆け出した。図らずも囮にしてしまった。そう思ってしまえば、恐怖と共に後悔が私を支配した。

 

 そのうち、銃声が怒声が聞こえなくなってからはもう、限界だった。目の前を通ったゾンビに声が漏れ出て、囲まれて逃げれなくなって。そして――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何時もの悪夢に、悲鳴を上げながら目が覚める。・・・嫌な汗を掻いてぐっしょりだった。見渡すと、未だに見慣れない屋根裏部屋に備えられた子供用ベッドの上で。鼻に付く嫌な腐臭に顔を顰めるも、住まわせてもらっている身なのだから文句など出てくるはずもない。布団から出て、手鏡で軽く身だしなみを整えた私は、机の上に載せて置いたワイヤレスイヤホンと小型マイクを手に取って身に着けると下に続く梯子に向かった。

 

 

「いい加減起きろ、ルーカス!アンタ、学校でしょ?父さんが怒るよ!」

 

「ああん?うるせえなあ、こっちは上の餓鬼の寝言が五月蠅くてろくに眠れねてねえんだよ!」

 

 

 この家の長男が改造したらしい、可動式梯子のスイッチを押して下に降りると、その件の長男が妹に叩き起こされているところだった。・・・どうやらまた魘された寝言で彼の眠りを妨げてしまったらしい。悪いと思って、二人がこちらに気付く前に頭を下げていた。

 

 

「あ、起きたんだリツカ。おはよう」

 

「おはようございます。・・・いつもいつもうるさくして、ごめんなさい」

 

 

 毎朝している様に謝罪すると、件の長男は楽しそうに笑った。

 

 

「いや、なんだ。わりぃ、気分を害しちまったか?リツカが上に寝る事を提案したのは俺なんだ、今更文句言えるはずないよな。おはようさんリツカ、俺の事、嫌いにならないでくれよな?」

 

「・・・やっぱりリツカが住み始めてから、気持ち悪いぐらいに優しいねルーカス」

 

「ああん?何かわりぃか?!俺だって気を遣えるんだよ!」

 

「うん、ルーカスは優しいよ。これ、本当にありがとう」

 

 

 そう言って、耳に付けたイヤホンを叩き、襟に付けた小型マイクを指差すとルーカスは笑った。

 

 

「礼はいらねえよ!親父曰く、リツカも家族だからな。英語を日本語に訳して聴かせる翻訳機内蔵イヤホンと日本語を英語に訳して流すスピーカー内蔵小型マイクなんて、工作大会二位の俺様には朝飯前よォ」

 

「そうだよ、リツカ。ルーカスはこういうのだけは得意なんだから。欲しい物があったら何でも言ってね?ルーカスだけでなく、私や父さんたちも頑張るから」

 

「う、うん。ありがとうゾイ」

 

 

 イヤホンから日本語で伝えられる二人の言葉に、心が苦しくなる。・・・家族は嫌だ、と思うのはこの家族の善意を無下にしてしまう行為だ。私を守って死んで行くぐらいなら守られたくない、そんな考えに脳裏が埋め尽くされる。――――ああ、私は子供だから、助けられるしかないのか。早く大人になりたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら。ようやく起きたかい、寝坊助さんたち」

 

「おはよう、ルーカス、ゾイ。それにリツカ。今日はぐっすり眠れたかい?」

 

 

 あの後、洗面所(トイレとお風呂が一緒になっていて落ち着かない)に向かって私とルーカスだけ顔を洗ってから、傍にある階段でゾイと三人で降りて行くと、キッチンでスープを作っている二人の母親・・・マーガレットさんと、食堂で席について新聞を読んでいた父親・・・私を助けてくれた海兵であるジャックさんが温かく出迎えてくれた。もうここに住んで数日になるが、未だに慣れない。毎日悪夢に魘されている私が首を横に振ると、ジャックさんは顔を顰めた。

 

 

「そうか・・・環境が悪いのかもしれないな。屋根裏部屋はやはり悪環境か・・・明日辺りに応接室傍の部屋が片付くから、もう少し辛抱してくれ。すまないな」

 

「なんだよ、親父ぃ。俺の管理している屋根裏部屋が汚いってのか?」

 

「事実そうだろうルーカス。お前よりだいぶ年下で繊細な子なんだ、もう少し気遣ってやれ。まだ心の傷が癒えてないんだ。この家で暮らすのは一年足らずだが、その前にどうか、心の傷を癒してほしいんだ」

 

「あ、あの・・・私は大丈夫だから、気にしなくていいです。今の部屋も気に入ってるので・・・」

 

「そうもいかないさ。それに、民宿をやるのが夢だった。リツカのおかげでその夢が少し叶ったんだ、これぐらいさせてくれ」

 

「夢が叶ってよかったわねジャック。さあ、みんな。座りなさい。ちょうどスープができたところなのよ」

 

 

 そう言って笑うジャックさんとマーガレットさん。この家の人は皆優しい。やっぱり少し申し訳なくなってしまう。私にできる事は何かないのかな。そう思いながら席に着く。スープとパン、アメリカではそう珍しくない朝食だが日本人である私にはやはり少し違和感がある。

 

 

 ああ、美味しい。安心する味だ。でもお母さんを思い出して少し潤んできた。我慢しないと、迷惑をかけたらいけない。少しでも、足手まといになんかなりたくない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後、ここ数年アメリカどころか世界中でバイオテロが頻繁に起きていてまたいつ巻き込まれるか分からないと言うジャックさんの計らいで、念のための護身用として銃の扱い方を習うことになった。もし持つ事になっても暴発しないように、との事らしい。もしまた巻き込まれたら私が無茶すると気付いたのだろう。迷惑をかけたらいけない、と思っている傍からこれだ。自分が不甲斐無い。でも、渡りに船だ。全力で習う事にした。

 

 

「ようジャック!そいつが噂の子供か!」

 

「・・・ジョー。何の用だ?この子が恐がっているじゃないか」

 

「なに。家族に会いに来ただけじゃないか。それと、日本の餓鬼にワニを食べさせてやろうと思ってな」

 

 

 そんな時、近くに住んでいるらしいジャックさんの兄、ジョーさんと私は出会った。庭先で銃の練習をしていた時に、ワニを片手に持ってやって来たのでビビってハンドガンの銃口を向けてしまったのは許して欲しい。ジョーさんは熊みたいな人で、優しいジャックさんとは正反対にちょっと乱暴だった。わしゃわしゃと頭を撫でられ、ふら付く。

 

 

「なんだジャック。お前、こんな餓鬼に銃を持たせているのか?」

 

「俺のところにいるのは一年間だからな。リツカは優しい子だ、無茶をしかねない」

 

「だったら素手での戦い方も教えろよ。俺達直伝のアレとかどうだ?お前の鼻っ柱を折る事はもちろん、ゾンビぐらいなら殴り飛ばせるだろう?」

 

「素手でもゾンビを倒せるの?やってみたい!」

 

 

 銃の取り扱い方で少し疲れていた私は、その話題に飛びついた。素手と言えば日本では空手や柔道だが、ジョーさんはその素手でゾンビを倒せるのだと言う。銃なんてできれば握りたくない私からしたら願っても無い話だ。

 

 でも私がこう言った事でジョーさんに気に入られ、私の処遇を決めるためにジャックさんとジョーさんの殴り合いに発展してしまい、私は泣いた。ジョーさんが勝って、彼の家で数日過ごす事になった。直ぐ近くなので毎日ルーカスとゾイに会えるため何も問題は無かった。

 

 しかし、ジョーさんには悪いが私に格闘戦はからっきし駄目だった。

 

 ひたすら吊るされたワニの死体をパンチ、パンチ、パンチ。私から見てもへなちょこで、手が痛んだだけだ。ならばとキック、キック、キック。バランスが崩れてこけた。ならばと頭突き。ジョーさんは慌てて、私は一時間気絶した。それでもワニの死体はビクともしなかった。

 

 

「リツカ。一日、ずっと試してみて分かった事がある」

 

「はい、ししょー!」

 

「まず、お前は体が細くて脆い。体力も無い。体幹も悪い。腰が入ってない。殴るとき目を瞑っちまうのも駄目だ。お前にこのやり方は無理だ、下手したら自分が壊れちまう。とりあえず猟をする時にショットガンの扱い方を教えるからそいつで勘弁してくれ。望むんならガラクタ使ったステイクボムや投げ槍やらの作り方は教えてやるが、それだけだ。お前はジャックの方がいい」

 

「・・・?」

 

 

 よくわかないけど、私は格闘技に致命的に向いてないらしい。大人の言う事は正しいだろうので、深く考えずに言う事を聞く事にした。でも、私にも一つ言わせてくださいジョーさん。木をへし折るパンチは私にはできないです。怖いです。まるで大砲みたいです。その日から、パンチと言うのがちょっとトラウマになった。あんなの喰らったら死んじゃう。そう言ったらジョーさんに「冗談が上手いな」とワシャワシャと撫でられた。解せぬ。

 

 

 

 ジャックさんの元に帰ってからは素直に銃を習った。ハンドガンなら狙いに当てる事ができるようになった。やったぜ。その日から毎日ずっと訓練してたらハンドガンが壊れた。この家にある唯一のハンドガンだったから泣いて謝ったら気にしなくていいと言ってくれた。それどころか私との思い出の品として保管するらしい。何か、気恥ずかしくてこそばゆかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とある日。ルーカスに呼ばれた私が、かつて農家だったベイカー家の敷地の牛舎跡が使われているという彼の実験場に、着いて来たゾイと共に訪れると扉の前でルーカスが待っていた。

 

 

「よく来たなリツカ!俺の作るゲームは楽しいだろ?で、コイツは新作だ。お前はマジでよ、ラッキーな奴だぜ?いやマジ、お前が羨ましいよ。絶対面白いからよ、楽しんでってくれや」

 

「うん、それは疑ってないけど・・・」

 

「ちょっとルーカス。変なカードを入れて面白いけどルーカスが独り勝ちした卑怯な「21(ブラックジャック)」の次は何なの?」

 

 

 ゾイの言うアレは酷かった。ゲームとしては面白かったけど、出来レースにも程があると思う。心からギャーギャー騒いだのは久しぶりだったから楽しかったけど。

 

 

「おいおいゾイ。な?こいつは一人用なんだ。すまねえ、リツカの為に作ったんだ。あとで遊ばせてやるからちょっと待っててくれよ」

 

「リツカの?ああ、なるほど。それか」

 

「私の為?」

 

「おうよ。このゲームはな?簡単な脱出ゲームだ。名前はまだ決めてないんだけどよ?ルールは簡単。部屋中の仕掛けを突破して、とあるキーワードを探り当て、奥の部屋の鍵を開けるだけ。どうだ、簡単だろう?」

 

 

 そう言って、懐中電灯を握らされ真っ暗な部屋の中に入れられ扉がロックされた。普通に恐いのだが。私の為と言うが、もしかしたらナニカしてしまってその仕返しではないのだろうかと思ってしまう。結局屋根裏部屋から離れてないからなあ・・・いい加減五月蠅いのかもしれない。

 

 

「楽しんでくれよな?お前の為に何週間かけて作ったんだからよ!レッツプレイ!」

 

 

 目の前にあった不気味なピエロ人形にヒエッと声が出てしまったがルーカスの思うつぼだ。・・・とりあえず、頑張ろう。

 

 

 

 

 人形の指が一本と、多分起動させるためのナニカ・・・ぜんまい?が無い事に気付いた私は、これを揃えればいいと判断してキッチンやらトイレやら色々揃っていた部屋をあちこち散策。机の上にはしなびた風船が落ちていて、足元は一面大量の風船で覆われている。上を見れば風船やらパーティーグッズがいくつか飾られている。パーティー会場なのかな?

 

 

 扉を一つ隔てた奥まで進むと八文字の英語を入れるダイヤル錠の付いた扉を見付けた。恐らくこれがゴールだろうか。周りにも風船が散乱していて動きにくい。ここは後だな。

 

 

 入り口から直ぐの部屋にクリームだけの何の飾りつけもされてないケーキがあって、ルーカスの性格から察した私は手を突っ込むと中からぜんまいを発見。早速ピエロ人形につけて回してみると、紙が置かれた机の上で何やらぎこちなく動き始めた。やっぱり指と、何か書く物が必要なのだろう。ケーキの部屋に五文字の英語を入れるダイヤル錠が付けられた金庫があったから、多分その中にどちらかが入っていると見た。

 

 

 ダイヤル錠の扉がある奥の部屋に進む途中で絵があって、試しにライトでずっと照らしてみると「HAPPY!」という文字が浮かび上がり、これはゴールの文字じゃないなと思い至り、金庫のダイヤル錠に入れると正解。金庫を開けてみると中から羽ペンを発見。でもこのままじゃ持たせられないから持っておく。

 

 

 人形の指を探してグルグルしてると、ゴール手前の部屋で変な風船を見付けた。他の物は結ばれてるのに、これだけコルクの様な物で栓がされているのだ。もしやと思い、抜いてみるとビンゴ。見付けた木製の人形の指をピエロ人形に填め、羽ペンを握らせてぜんまいを回す。

 

 

 ピエロ人形が動き始め、羽ペンでさらさらと紙に「BIRTHDAY」と記される。奥の部屋のダイヤル錠と同じ数だ、これが正解だろう。バースデイ?誰かの誕生日だろうか?不思議に思いながら扉を開ける。

 

 

 懐中電灯が必要ないぐらい明るく、きらびやかに飾られたそこには机が一つだけあって、正面の壁には「GAME CLEAR!」と字が大きく記されており、机の上には「これをもって外に出てくれ」と拙い日本語で書かれたカードが置いてあった。ルーカスかな?

 

 その側に置かれていたのは、ルーカスのお気に入りのフード付きパーカー・・・の色違い、白いパーカーが綺麗に畳まれたもの。サイズは小さめ、私と同じサイズだ。プレゼントかな?何で?

 

 

 

 

 

 

 不思議に思いながらパーカーを小脇に抱えて入り口に戻ると何時の間にか開いていて、部屋の外に出てみるとルーカスとゾイの姿は無い。カードの「外」とは実験場の外、つまりは本館と旧館、グリーンハウスと実験場を繋ぐ中庭の事だろうか。急いだ方がいいかな、と小走りになって外に出ると、何時の間にか大机が置かれていて豪華な料理が並び、ジョーさんも含めた五人が揃っていた。実験場から出てきた私に気付いたゾイを筆頭に慌てるみんな。

 

 

「え、もう!?リツカ、いくら何でも早くない?」

 

「ルーカス!アンタが時間を稼いでくれると言うから任せたんだよ!三十分ももたないじゃないか」

 

「しょうがねえだろおふくろ?!リツカの頭は俺と同じぐらい優秀なんだからよォ!」

 

「ルーカスなんぞの小細工じゃリツカには物足りなかったか。まあいい、ギリギリ間に合ったからな!」

 

「ジョーの言う通りだ。席に着こう、皆。リツカ、俺の隣の席に着いてくれ」

 

「え、あ、うん・・・?」

 

 

 ジャックさんに言われるなり、皆の中心である席に座る。目の前には大きなケーキ、フライドチキンと見るからに豪華だ。誰かの誕生日かな?

 

 

「その顔。やっぱり気付いてないんだな。忘れているのか、気にする余裕が無かったのか」

 

「なんのこと、ですか?ジャックさん・・・?」

 

「なあリツカ。俺の用意したキーワード、何だったか教えてくれよ」

 

「ルーカス?えっと・・・HAPPYと、BIRTHDAY・・・?」

 

 

 そう言われて、思い出しながら口に出すと、ルーカスが手にしたクラッカーを鳴らした。それに合わせる様に、他の四人もクラッカーを鳴らした。呆ける私に笑顔を向け、ルーカスは両手を広げた。

 

 

「そうさ、HappyBirthday!リツカ!」

 

「え・・・?」

 

 

 言われるなり、気付いた。カレンダーなんて気にしてなかったけど、もしかして・・・

 

 

「リツカ。今日は君の誕生日だ。すまない、銃の訓練で何時も庭にいるので準備をする時間が無くてな。ルーカスに頼んでこうしてサプライズをしてみた。お前も家族だ、一度きりだし折角だからこうしてみた。お気に召したかな?」

 

「ごめんねリツカ。私、ちゃんと話を聞いてなくてさ。あやうくぶち壊しにしてしまうところだったよ」

 

「うっかりしていたなゾイ。俺も危うく寝坊しちまうところだったがよ。夜までワニを狩るもんじゃねえなあ」

 

「ジョー。アンタも似た様な物じゃないか。さあさリツカ、お食べ。自信作なんだ」

 

「そいつは俺からのプレゼントだ!気に入ってくれると嬉しいぜ?」

 

「うわっ、自分と同じパーカーとかちょっと気持ち悪い・・・」

 

「何だゾイ、文句あるのか?!そういうお前はなにを用意したってんだよ!」

 

「女心が分かってない馬鹿兄貴とは比べ物にならないいい物だよ!」

 

 

 

 笑顔に満ちた、優しい私の恩人と、その家族。白のパーカーをギュッと握りしめる。なんとなく、温かかった。

――――ああ、もう。

 

 

 両親がいなくなって、誰も祝ってくれないだろうと私の誕生日なんて忘れていたのに。こんなの、ずるい。ジャックさんはいつだって、心荒んだ私を救ってくれる。

 

 

 

 

 

 

―――――お姉さんたちを見かけた時から数時間、いや数十分だろうか?聞こえていた銃声や怒声が聞こえなくなって、お姉さんたちがどうなったか分からず不安に陥った私は恐怖と後悔に支配され、涙さえ枯れ果てて掠り声すらろくに出せなくなり隠れ続けた挙句、ゾンビに見つかって囲まれ、死を覚悟した。

 

 そんな時、私を見付けてくれたジャックさんは私に襲い掛かろうとしていたゾンビをパンチで吹き飛ばして、周りのゾンビを蹴散らした後に安心させるように手を差し伸べてくれたんだ。

 

 

 

 

 

 

――――――あの光景を、私はきっと忘れない。そしてこの光景も、私は忘れる事は無いだろう。例え、私自身が家族だと心の底から思えなくても。彼等は家族として、私を受け入れてくれたんだ。

 

 

 

 

 ベイカー家にお世話になって一年、義務教育を受けないと行けない年齢になった私は、日本籍であるために日本に帰国して、親戚もいなかったため施設に入り、家族のいない日常を送って来た。価値観の違いから普通の子供に馴染めず、問題ばかり起こす私をジャックさん達はどう思うだろうか。帰国して間もない小学生の頃まではメールでやりとりしてたけど、中学生になってからは自分一人でなんとかしなくちゃという考えから連絡を断っていた。

 

 もう忘れられているんじゃないかと思い始めていた高校二年の夏。人理が焼却された、その年にそれは来たんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでね、夏休みの始めにジャックさんから手紙が来たんだ」

 

 

そう言って立香が差し出した手紙を受け取るディーラー。どうやら大事に保管されていたらしいそれは、スマホが流通している今のご時世には珍しい便箋であった。

 

 

『前略。元気にしてるか?実は新しい家族ができたんだ。立香ならいいお姉さんになれると思ってな。久し振りに会いたいし、よければ会いに来てくれないか?』

 

 

読んでみるとそんな内容であった。久し振りの手紙にしては淡泊ではあるが、立香を家族だと思っている事がよく分かる文面である。最後の一文を読んでちらりと視線を送るディーラーに、立香は表情に影を落とした。

 

 

「えっと、もちろんすぐにでも行こうとしたんだけど、人助けだと思ってフラフラ寄った献血でカルデアに来て、バイトが終わったらそのまま行こうかと思っていたらこんなことに巻き込まれて・・・ジャックさん達も、人理焼却に巻き込まれたんだと思う」

 

「そうだろうな。しかしゾンビを素手で吹っ飛ばす御仁か。レオンやエイダは蹴りで蹴散らしていたが、拳ともなると俺でさえウェスカーぐらいしか知らないな」

 

「そうなんだ。やっぱりジャックさんとジョーさんの兄弟って凄いんだね」

 

「大の人間を吹き飛ばすってだけで大概化物だがな。しかし新しい家族でアンタがお姉さんってことは幼い子供だろうが・・・バイオハザードの被害者かなんかか?」

 

「それが・・・確か、最近起きた大きなバイオハザード事件は2013年の中国で、ジャックさんは当の昔に軍をやめたって聞いてたから・・・多分、ジョーさんが結婚して子供が生まれたんじゃないかなと思ってる」

 

「それならストレンジャーにも報告が来ないか?何にしても不自然な手紙だな。案外、巻き込まれたのは幸運だったかもしれないぞ?」

 

「そんなまさか。何にしても、早くジャックさん達に会いたいよ。でもまだ特異点は見つかってないから・・・今は、できることをやるんだ」

 

 

そのジャック・ベイカーとは次の特異点ロンドンで思わぬ形で再会するのだが・・・それはまた別の話。




という訳でバイオハザード7のキーパーソン、ベイカー家でお世話になった立香の話でした。オケアノスで判明した体術の貧弱っぷりはジョーに指摘された物です。ゲーム本編に置ける「壊れたハンドガン」はこの時のもの、ということにしています。

ジャック・ベイカーが何時頃海兵隊を辞めたのかよく分からない事から、もしかしたらディジェネレーションにも関わっているんじゃないかという妄想から生まれた立香の過去。現役ならゾンビを素手で殴って撃退してそう。

なお、ロンドンで再会したジャック・ベイカーは変わり過ぎていて同姓同名の別人だと思っている立香さん。エヴリンからルーカスの名が出た事で疑念が懸念に変わりつつあったり。

本編でも時系列が繋がってない転化特異点の話でも、ジャックザリッパーに切り刻まれていたのがジャック・ベイカーだとも、自分の知っている屋敷だとも気付いていません。続きを書くなら外道神父が好みそうな愉悦な話になるでしょう。

ルーカスはまだ大人しい頃。サイコパスなのを隠していますが、既に友人を餓死させた後の彼です。つまり立香の寝泊まりしていた屋根裏部屋は・・・。ちなみにルーカスのミニゲームは例の脱出ゲームを優しくしたプロトタイプ。21も同じですが、拷問のない普通に面白そうなゲームになってます。

エヴリンの件に関しては何も知らない立香さん。本契約すれば過去を夢で見て知る事ができるかもしれませんが、エヴリンがジャックたちにしたことを何も知らずに命がけで助けたという皮肉な結果になってます。ちなみにエヴリンの方は立香を幼い頃の写真でしか知らないので気付いていません。

今度こそ、次回もお楽しみに!よければ評価や感想、誤字報告などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。上手く書ければクリスマスまでには・・・

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