サッカーバカとガールズバンド(仮題)   作:コロ助なり~

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if 初恋

 

 

 

 夏本番と言っていい八月中旬。学生にとっては夏休み期間であるにもかかわらず、通学鞄を肩に掛けた夏服姿の少年がお日様に熱せられた道の上を歩いていた。

 すれ違う人々が「暑い~」というのに対し、少年は気にも留めずただひたすらに歩いていた。もちろん暑くないなんてことはないのだが、彼からすればこの程度は普通らしい。

 目的地である学校に到着して、靴を履き替えたら学校の図書室へと向かう。

 冷房の良く効いた図書室に入ると先客がいた。

 背中まで伸ばした明るい栗色の髪を持つ容姿端麗な少女。彼女が綺麗な姿勢で勉強をする姿は一種の芸術と言っていいほどだ。

 年頃の少年なら誰もが「おっふ」と見惚れるであろう少女の姿に、少年は何のリアクションもせずに静かに彼女の目の前に席に座った。

 もちろん彼自身彼女のことを可愛い少女だとは思っているけれど、知り合いでそういったものに見慣れているせいか、彼女にリアクションを見せないのだ。

 誰かが来たことに気が付いた少女はノートから顔を上げて、クリっとした可愛いらしい目を少しだけ見開いた。

 

「……あら、こんにちは。あなたのことだから来ないかと思ってたけど、意外に真面目なのね」

 

「意外は余計。……やれるときにやっておかないと出来なさそうだから」

 

 少女の口から漏れ出た軽い毒に大して気にも留めず、鞄から勉強の必要な物をいくつか取り出して机に並べた。

 

「でしょうね。まあ、いいわ。折角来たことだし、今日も勉強見てあげる」

 

「ん、お願いします」

 

 そうして今日も桜木遥と結城明日奈の勉強会は始まる。

 

 

 

 

―――〇〇〇―――

 

 

 

 

 

 桜木遥が結城明日奈という少女に出会ったのは、中学一年の一学期の期末テスト前のことだった。

 三度の飯よりサッカー。花よりサッカー。サッカーがあれば何となる。と言っても過言じゃないような遥は、彼を知っている人なら誰もがサッカーバカであると答える人物だ。

 

「ぐぬぬ……!」 

 

 さて、そんな彼なのだが、今現在、HR(ホームルーム)が終わり、人のいない教室で一枚の紙を見ながらぐぬぬと唸っていた。その名も―――定期試験である。

 誇張なしに世界が注目する次世代のサッカー選手である遥にとって、抜けない同世代の相手などいないのだが、こればかりはサッカーの上手さは関係のない話だ。

 しかも彼が推薦によって入学した学校は、都内で有名な文武両道を謳う名門中高一貫校。サッカーがいくら上手かろうと成績がボロボロでは試合に出るどころか、部活にも参加できず勉強させられてしまう。

 そして、唸っていることからもわかるように彼の今の成績はお世辞にもいいとは言い難い状況。サッカーばかりしてきた末路だろう。

 今年は全国を獲ることもあるが、彼には日本代表として世界に挑む大会も待っている。定期試験如きで足止めを喰らって参加できませんでした、なんて情けないことは言いたくない。

 となれば、結論は一つ。勉強をするしかないのだ。もちろんそれが出来ているなら初めから苦労することなんてないのだが。

 彼には幼馴染が二人いるが、二人共あまり勉強が出来る方じゃないし、親友も一夜漬けタイプ。塾に通うくらいならサッカーの練習に費やしたい。先生に訊くのが一番なのだが、一々担当科目ごとに聞いていくのは効率が悪い。

 となると成績の良い同学年の生徒か先輩が一番の候補に上がるのではなかろうか。

 

「君、いつまで残ってるの?」

 

 誰かに勉強を教わろうとした矢先、不意に教室の扉が開き、一人の少女が入って来た。

 栗色のロングヘアーの一部をまとめた髪型に整った顔立ちの少女。

 

「放課後って残っちゃだめだっけ?」

 

 遥は見覚えのある生徒だなと思いながらも、問い返した。

 

「そう言うわけじゃないけど、いつまでも教室にいるから気になっただけ。ところで……ああ、定期テストの」

 

 少女が遥の座る席にやって来ると彼の持っていた紙を覗き込んだことでその内容を知った。

 そこから更に彼が勉強で苦しんでいることも悟った。

 

「(一年生のこの時期からって……何しに学校へ来てるのかしら)」

 

 表情を変えずに内心で少年のことを見下していた。

 詳細は省くが少女は厳しい家庭環境で育ったこともあって、そういったことに関しては容赦がないのだ。

 

「勉強しないといけないんだけど、如何せんどうやってしたらいいのやら……」

 

「あら、この時期の定期テスト如きで嘆いてる人の割には意外と勉強する気はあるのね。あなたの評価が少しだけ上がったわ」

 

 遥の弱々しい呟きに少しだけ目を見開いて驚きをそのまま口に出す。

 

「そりゃ、どーも。……ねぇ、君って成績いい?」

 

「そうね。良いかと言われればいいわ」

 

「具体的には?」

 

「前回の中間テストは学年1位だったわ」

 

「おお……! それはすごい!」

 

「ふっ、ちゃんと勉強していれば当然の結果よ」

 

 誇るまでもないと言いたげだが、彼女の表情はドヤ顔だ。

 そんな表情に気付かずに遥は学年1位の学力を持つ彼女ならばと思い至った。

 

「お願い! 俺に勉強教えて!」

 

「嫌よ」

 

 思い立ったが吉日。早速お願いしてみたのだが、即答で断られてしまった。

 

「そこを何とか! このままだと試合に出れなくなるんだ!」

 

「試合? あなた、何かの部活に入ってるの?」

 

「うん。サッカー部」

 

「サッカー部? しかも一年生なのに試合に出るってことはレギュラー!?」

 

「そだよ」

 

「この学校のサッカー部は全国に毎年出場してるくらいの名門校なのに、……そう言えば、この学校にサッカー日本代表候補が入学したって聞いてたけどまさか……あ、あなたがそうなの!?」

 

「なにが?」

 

「U-15のサッカー日本代表選手候補よ!」

 

「他にいなければ俺じゃない?」

 

 正確に言うならばつい先日に彼は候補ではなく、メンバーの一人として選ばれているのだが、まだ公開されている情報ではないので少女が知るはずもないことだ。

 

「や、やっぱり……!」

 

「でも、このままじゃなぁ……。他を探すか……」

 

 学年1位の少女は勉強を教えてくれないから、話は振出しに戻ってしまった。

 

「待ちなさい!」

 

「ぐえっ!」

 

 遥はこれ以上学校にいても意味ないだろうから帰宅しようとしたら、いきなり襟首を引かれた。突然の出来事に対処にしようもなく、変な声が出た。やった犯人は考えるまでもなく一人しかない。

 

「な、何すんのさ?」

 

「……いいわ」

 

「へ?」

 

「勉強を教えるのをいいと言ったの!」

 

「ホント!? ありがと!」

 

 先程を180度反転した彼女の回答だが、彼からすれば助かったことに変わりはない。思わず少女の手を握ってブンブンと振ってしまうほどだ。

 

「でも、どうして引き受けてくれたの?」

 

 勉強を教えてくれるのはいいが、どうして引き受けてくれるのだろうかと当然のように質問が出た。

 教わる側の遥としては嬉しい。しかし、教える側の彼女のには何のメリットもないのだ。

 彼女に対する先生からの評価は上がるだろうけれど、すでに優等生と言っていいだろうし、誰かに勉強を教えるくらいで内申点が上がるとは思えない。

 

「世界で活躍するかもしれない人が勉強できなくて試合に出れませんでしたじゃ、笑い話にもならないからよ! 何なら学校の恥にすらされかねないわ!」

 

 それは奇しくも彼が考えていたことと同じだった。

  

「そっか。まあ、そうだよね。そうならないためにもよろしくお願いします」

 

「ええ。お願いされたわ。―――早速、今日からやっていきましょう」

 

「うえっ!? 今日から!?」

 

「何か文句でも?」

 

「イイエ、ナンデモアリマセン」

 

 彼女のドスの効いた声音と鋭い目つきに遥はあっさり屈服。傍から見れば主従関係が生まれている気もするが、それは本人達にはわからないことであった。

 ともあれ、ここから遥と彼女の勉強会が始まったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところでさ」

 

「何かしら?」

 

「君の名前、教えて欲しいんだけど」

 

「……は?」

 

「あ、俺は桜木遥っていうんだ。クラスは1組。よろしく」

 

「…………」

 

「お、おーい?」

 

「私の名前は結城明日奈。()()()()()()()()()()()()()()。よろしくね」

 

 その時の明日奈の表情は遥に相当なトラウマを植え付けたとか。

 

 

 

 

 

 

―――〇〇〇―――

 

 

 

 

 

「……どうしたの? 急にニヤついて。控えめに言って気持ち悪いわよ」

 

 遥が明日奈と出会ったときのことを思い出していると明日奈がいつも通りに毒を吐く。

 控えめに言わなければ一体彼女は何と言おうとしたのか気になるところだが、「なんでもない」と短く返して問題を解いていく。

 

「前から思ってたんだけど、俺にだけあたりが強くない?」

 

 容姿端麗、成績優秀。先生や生徒からの評価も高い明日奈なのだが、遥と接するときだけやたらと毒を吐く。なんなら普段の学校生活は猫を被ってるくらいだとさえ思う。

 

「気のせいよ」

 

「気のせいではないと断言できるんだけど」

 

「それは私のことを知り尽くしてるとでも言いたいの? まるでストーカーね。気持ち悪いわ。あと気持ち悪い」

 

 まるでどこぞの図書委員と同じ毒舌である。

 

「二回も言わなくてもいいっての! ……で? 本当は?」

 

「…………あなたといるとつい意地悪したくなるのよ」

 

「それって―――普通に酷くない!?」

 

「勉強を教えてあげてるのだから私のストレス発散の対象になっても構わないでしょ。というかあなたMっぽいからむしろご褒美にしかならないわね。私に感謝しなさい」

 

「え、えむ? ミッドフィールダーのこと? 俺のポジションはフォワードなんだけど」

 

 流石にサッカーネタで返されては面食らうほかない。

 良家育ちの明日奈でさえ知っているというのに遥はそれを知らない。礼儀作法はしっかりしていることから家庭環境は良いとは思うのだが、どういった風に育てられてきたのかは気になるところである。

 

「でも、感謝かぁ。確かに明日奈のお陰で良い成績は取れるようになったのは事実だし、無償で引き受けてくれるのは凄く感謝してるよ」

 

「な、なによ急に……」

 

「なんかお礼したいなって思ったんだ。よくよく考えると教えてもらうだけ教えて何も返せてないから」

 

「そういうことね。なら私の奴隷にしてあげるわ。死ぬまでこき使ってあげるわ」

 

「……プレゼ―――いったぁッ!? 何すんだよ!?」

 

 遥が何かを提案しようとしたところでシャーペンが手の甲に刺さった。力は込められてなかったようだが、それでもかなり痛いのは間違いない。

 

「あなたが無視するからよ」

 

「奴隷とか誰だって嫌に決まってるでしょ!?」

 

「あら、私という可愛い女の子といられるのよ。十分に嬉しい条件だと思うのだけれど」

 

「見てくれはね。中身最低だけど!」

 

「もうっ、外見も中身も素敵な女の子だなんて……思わずその眼球を潰したくなるわ」

 

「勝手に俺の言葉変えないでくれませんかね!? しかも発想がサイコパスだし!」

 

「遥君、ここは図書室よ。たとえ私達二人しかいなくても静かにするべきよ」

 

「急に真面目になるな……! しかも正論……!」

 

 遥は一度深呼吸をして頭を冷やす。

 彼は毎度のことながら明日奈には言われたい放題だが、不思議とこの時間が、この空間が嫌いじゃなかった。

 いつの日か、幼馴染や親友とは違う明日奈という存在の大きさに気付く日が来るのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 




番外編書いてみました。
続きは書くと思います。
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