「はい、次は誰のが聞きたい?」
「麻耶ちゃんと花音との出会い聞いてもいいかしら」
千聖の要望に応えて二人との出会いを話すことにした。
「うーん、ジブンはこれと言って千聖さんやイヴさんのような運命的な出会いじゃないですよ? 作文にすれば二、三行で終わるんじゃないですかね」
運命的な出会いがどうかは置いといて、麻弥との出会いを二、三行で纏めてみた。
「リサのベース選びに楽器屋に行って出会った」
『一行!?』
おっと、まったくもって二、三行にならなかった。
「……と、まあ、ホントになんの面白みもない出会いです」
「えー、そうかなー? アタシは結構面白い出会いだと思うよ? なんせ初対面のハルにメチャクチャ怒鳴ったんだから」
「い、いや、アレはそのですね……自分の勘違いで……」
麻弥は申し訳なさそうにして顔を俯いてしまった。
あの時のことをまだ引きずっているのだろう。
だが、もう過ぎたことだ。どうせなら笑い話になるように話してみよう。
部活のない―――というよりはケガで部活に行けない―――日の昼間にリサが桜木家にやってきた。
「ハルー、楽器屋行こー!」
「やだ」
「今晩飯抜き」
「どこへでもお供いたします」
俺とリサの上下関係がわかるたった二秒のやりとりだ。
即座に支度を済ませてリサに腕を組まされながら楽器屋に向かった。
「……退屈」
「ハルとデート♪」と呟いてどこか浮かれ気味なリサに対し、俺は楽器屋に着いて早々リサに聞こえないように溜息を吐く。
こういうことは友希那を誘うべきだと思うんだけど……。
そもそも音楽に関して聴くこと以外からっきしな俺が楽器屋に来たところで意味がない。ましてや、楽器選びのアドバイスなど出来るはずもないのだ。
「俺を連れてきた意味ある?」
「あるある。一緒にいたいから連れてきたんだよ」
一緒にいたい、か。まあ、普段から俺は部活で忙しいし、リサもバイトにバンド活動、部活動もあって……あって…………。
「……普段から俺の家に勝手に上がり込んでるよね? 割と多くの時間一緒にいるよね?」
むしろ両親よりもいる時間が多い。人生で一番長く一緒にいる存在と言っても過言じゃないだろう。
「さー、とっとと楽器選んで他の買い物行こうか!」
「露骨過ぎる話の逸らし方! しかもなんか増えてる! ベース買うだけじゃないの!?」
「ハル、大声出すと他の人に迷惑だよ」
俺が悪いの!?
声を大にして叫びたかったがリサの言うことも最もなのでなんとか堪えた。
「大まかな候補は決めてるの?」
「まあね」
ベースコーナーに立ち寄り、候補となってる三つのベースを教えてもらった。
赤、青、黒の三色のベースだ。値段はどれも三、四万する。
違いは値段と見た目ぐらいしかわからん。
「ハルはどれがいいと思う?」
「そういうこと俺に聞く?」
楽器選びに俺が役に立たないってことはリサならわかってるはずだ。
「いいからいいから。直感でコレって思ったもの教えてよ」
「じゃあ―――」
「うおッ!? このギター高っけ! 二十万すんぞ!」
「マジか! やっべー!」
選ぼうとした矢先、二人組の高校生くらいの少年が売り物のギターを片手に騒いでいた。
高価なものを見て触れたいのはわからないでもないが、いささか粗雑に扱い過ぎだ。
注意すべきだと判断して俺は動き出したら、二人組の少年は案の定というか予想を裏切らないというか、ともかく男子の手が滑ったようでギターがフロアに落ちた。
落ちどころが悪かったようで、ギターの弦が切れ、ボディが欠けてしまった。
「お、おい、これどーすんだよ!?」
「ちゃんと持ってなかったお前の所為だろ!?」
「……と、とにかく行こうぜ。黙ってればバレねぇって!」
ギターを放置して二人組の少年達は足早に店を出ていった。慌てていたせいで俺らが近くに居たことに気付いてないみたいだ。
これ、ホントにどうすんだ?
俺の隣にいたリサも二人に対する怒りとこの後の処理に戸惑う様子を見せていた。
軽く片付けてから店員さんに言うべきだろう。
壊れたギターに手を伸ばした―――その時。
「な、なんですかこれ!?」
誰かが驚きの声を上げた。
ギターから顔を上げてみれば、赤縁の眼鏡をかけた少女が壊れたギター見て驚いていた。
「あなたがこれをやったんですか……?」
鉛色の瞳がキッ、と擬音が付きそうなくらい鋭い視線で俺を睨みつけてきた。
彼女の思わぬ迫力に一瞬たじろぐ。蛇に睨まれた蛙とはこのことか。
その際、カズの家にあったなんとかボールという漫画でグリリンだか栗きんとんだったかが敵に殺されて怒る主人公を思い出した。
「楽器というのは職人の方が一個一個丁寧に作ってるんです! 特にこのギターのように高価なものはより手間がかかっているんです! それなのにあなたという人は……!」
「ちょ、待って―――」
「言い訳は聞きたくないです!」
やったのは俺じゃないと言いたいのだが彼女は余程頭に来ているのか耳を傾けてくれない。
隣のリサも急な出来事に口を挟めずにただ困惑していた。
それから店員さんが止めてくれるまで彼女の微塵も有り難くないお説教が一時間程続いたのだった。
「す、すすすすみませんでしたッ!」
なんとか誤解が解けて眼鏡の少女―――大和麻弥が何度も何度も謝り倒す。
「怒られたのはビックリだけど、もう気にしてないよ」
手を軽く振って大丈夫だと伝えるがかなり動揺してるようでまだ謝ってくる。
「
誤解が解けた後で麻弥が気が付いたようだが、そんなに畏まられても困る。
こういうのって納得のいく落としどころを決めないと終わらなさそうな気がするなぁ。
「じゃあさ、この子―――リサのベース選び手伝ってくれない? それでこの件は終わりってことで」
「ジブンなんかで良ければ是非とも手伝います!」
麻弥は嬉々として俺の提案を受け入れてくれた。
俺へのお詫びよりも楽器の説明やアドバイスができることの方が嬉しそうな笑顔だった。
「……リサとデートしたのね」
「反応するところそこ!?」
話していたのは麻弥との出会いのはずだったが、なぜか友希那はリサとデートしたことを気にしてるみたいだった。
「デートについては後で聞くとして、どうやって誤解は解けたの?」
千聖さん、後で聞くってどういうことですか? 君も友希那と同じなわけ? いや、どうやって誤解が解けたのか聞いてくるあたりはまだマシか。
「店員さんが止めてくれたんだよ。最初は麻弥みたいに怒ってたけど、話は聞いてくれたから」
その時の店員さんはグリグリのベース、鵜沢リィさんだ。Roselia繋がりでお互いの顔は知っていたからホントに助かった。
それに結局あの二人の少年達は俺達の証言によって楽器店にバレた。二人にどんな処罰が下ったのかは興味ない。
ちなみにベースを購入してからのリサの買い物―――リサ曰く、デート―――は二、三時間連れまわされた。そっちの方が辛かったとか面倒だったとかは口が裂けても言えない。言ったら何をされるかわかったもんじゃないから。
「今井さんにも申し訳ないです」
「いいっていいって。おかげで良いベース買えたから。それにハルとラブラブなデート出来たからアタシとしては全然問題ナシ!」
リサの言う通り、今使ってるベースは麻弥のアドバイスを参考にして買ったものだ。結構気に入ってるようで手入れも念入りにしてる姿を何度も見た。
まあ、それはともかくとしてだ。リサ、無駄に煽るような言い方は止めてね。今ので友希那と千聖がめっちゃ怖いから。視線だけで人が殺せそうなレベルだから。
「うぅ……でも、ホントにあの時は」
まだ引きずっているのか申し訳なさそうな顔をしていた。
「もういいって。麻弥はちゃんと自分の非を認めたし、サッカーやってて道具の大切さは俺も知ってるから、あの時麻弥が怒ったのは当然だと思う」
というかこの場にいる音楽をやってる人なら怒りの度合いが違っても誰しもが怒る出来事だ。
「で、ですが……!」
あー、このパターンは何か罪滅ぼしの提案出さないと終わらないな。というかその時に会ったときにキチンと清算したはずなんだけど。
「この件についてはもう終わりってなったでしょ? 異論反論文句意見一切合切受け付けません」
まだ納得のいっていない顔をしてるが俺は無言でスルーして花音との出会いを話すことにした。
「さーてと、お次は花音だね」
「お、お手柔らかにお願いします……」