サッカーバカとガールズバンド(仮題)   作:コロ助なり~

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第21話

 

 

 

部員達の怪訝そうな視線を集めながら口を動かした。

 

「隣にいるのは白鷺千聖です。えーっと、今日からこのサッカー部のお手伝いをしてくれることになりました。仲良くしてあげてください。以上です」

 

「…………いやいや! 普通に可笑しくね!? 何がどうなったらパスパレの白鷺千聖ちゃんが来んの!? えっ? ってか桜木知り合いなの!?」

 

ツッコミを入れてきたのは三年の先輩、宮白健太(みやしろけんた)

そのツッコミにはこの場にいた全員の気持ちを代弁していたようで一同揃って頷いていた。

 

「女優業のための勉強です。まだそういった役をやらせてもらえたことはないので、学べる時に学んでおきたいと思いまして、知り合いの遥君にお願いしてみたんです」

 

「わざわざ黒代(うち)じゃなくても……」

 

「確かにそう思いますよね……。でも自分の学校だと知り合いの中に運動をやっている子がいなくて、それに頑張ってる男の子を見るの、結構好きなんです。……ご迷惑、でしたか……?」

 

よくもまあ、ここまでスラスラと嘘が出てくるものだ。

流石は今話題の女優、アドリブくらいお手の物と言ったところか。

 

『いえいえそんなことはないです! むしろウェルカム!』

 

千聖が不安気に尋ねるとプレイヤー男性陣は滅相もないと言わんばかりに首を横に振った。

 

うわっ。素の千聖じゃなくて完全に仕事モードだ。

 

それなりに付き合いがあるからすぐにわかった。

こういうのを魔性の女というのだろうか。

 

「仕事がある日は来れないですが、よろしくお願いします」

 

「はいはーい! 質問いいですかー?」

 

挨拶を終えて練習再開と思いきや、同学年の河野誠也(かわのせいや)が挙手してきた。

 

「何でしょうか?」

 

「桜木と知り合い見たいな感じだけど、ぶっちゃけどんな関係?」

 

「そうですね……それなりに親しい関係だと思います。ね? 遥君?」

 

「……? まあそうじゃないかな」

 

んん? 沙綾の前では恋人だってはっきり言ってたのにここでは言わないのか。イマイチその基準がわからないが、千聖にも千聖なりに考えがあるみたいだ。

 

河野が質問してからは次々に質問が投げられた。

俺とどこで出会ったのか、好みのタイプだとか、パスパレのイベント情報等々。ちょいちょい際どい質問もあったが千聖は(内心でどう思っているかわからないが)笑顔で対応した。

なんだか転校生がやってきたような雰囲気になったが、キャプテンが声をかけると練習が再開された。

千聖のことはマネージャーたちに頼んで俺も練習に入った。

 

「桜木抜いて千聖ちゃんに良いところ見せてやる! うおぃ! そこは先輩の顔立てろよ!」

 

「白鷺さん俺のシュートを―――見てない!?」

 

「へっ、俺のドリブルは天下一だぜ! あれ? ボールどこ?」

 

「このゴール千聖ちゃんに捧げる! ……普通に止められた……だと……!?」

 

しかし、普段の練習風景からは考えられないような姿がチラホラ見られた。

やはり芸能人という存在がいると気持ちが高揚してやる気が空回りしてしまうのか。 

真面目なプレイヤーだと思っていた人達も口には出したりはしないが、どこか緊張した面持ちだ。

キャプテンに何人かが注意されながらも練習時間は過ぎていくのだった。

 

 

 

 

 

部活終了後、ミーティングをして解散。

校門前で千聖と合流して帰宅する。

部員達には予め顧問から千聖には連絡先やサインを求めないように釘を刺しておいたので人だかりは出来ていない。

 

「部活どうだった?」

 

「かっこよかったわ。やっぱりサッカーをしてる時のあなたが一番楽しそう」

 

「そりゃ楽しいから」

 

俺が聞きたかったのは黒代サッカー部を体験してどうだったかなんだけど、まあ、いいか。

 

「ついさっきだけど、リサちゃんからメールが来たわ。カレーの材料を買ってきて欲しいそうよ」

 

「オッケー。じゃあ、スーパー寄らないとね」

 

千聖と今日の部活の感想を聞きながら、スーパーに入った。

 

「まずはカレーのルーか。えっと、いつものは……」

 

いつもの使ってる中辛のカレールーに手を伸ばそうとしたら千聖に掴まれた。

 

「待って。カレーのルーは甘口じゃないとだめよ」

 

「高校生のわりに大人びてるとは思ってたけど、意外と味覚の方はお子様なんだ」

 

「い、いいじゃない別に!」

 

そう言えば、友希那も甘い方が好きだっけ。ならちょうどいいか。

千聖の意外な一面に微笑ましく思いながらも買い物を済ませていく。

 

「ピーマンとかセロリは大丈夫?」

 

「当然よ! 子供扱いしないで!」

 

野菜は友希那よりも食べられるのか。

 

「納豆とかは?」

 

「あれはこの世の食べ物じゃないわ」

 

「そこまで言うか」

 

「そう言うあなたには嫌いな食べ物ないの?」

 

「うーん、わりとある。キノコ類とか。まあ、食べられないことはないんだけど」

 

「ふっ、子供ね」

 

何をどう思って勝ち誇っているのかわからないけど、まあいいか。

互いの好き嫌いを教え合いながらする買い物はいつもとは違った新鮮さがあった。

 

 

 

 

 

『ただいまー』

 

玄関の扉を開けるとエプロンを付けたリサがリビングから出てきて出迎えてくれた。

 

「おかえりー☆ ご飯にする? お風呂にする? それともア・タ・シ?」

 

こういうの漫画で見たことがあるな。

しかし、基本的にはどの漫画も三番目の選択肢が選ばれることはあまり見かけない。……三番目の選択肢を選んだらどうなるんだろうか。

 

「リサにする」

 

「オッケー。……えっ!? アタシ!?」

 

「ん? なにかあるんじゃないの?」

 

「あ、えっと、その……今のは冗談というかなんというか」

 

顔どころか耳まで真っ赤にしてモジモジしだした。

結果:“何も起こらない”。

 

「遥君は先にお風呂入ってきなさい。リサちゃん、これ買ってきた材料よ」

 

「うん、そうさせてもらう」

 

使った練習着を洗濯機に放り込み、着ている服をすべて脱いで浴室に入った。

 

 

 

 

 

「ふぅー、さっぱりしたー」

 

湯船に浸かって疲れを癒して、浴室を出る。

 

「あ」

 

「え?」

 

その際、洗濯機を回そうとしていた千聖とばったり遭遇してしまった。

 

『…………』

 

数秒の沈黙。

 

「きゃー、千聖さんのえっちー」

 

上がったのは悲鳴ではなく、唐突に脳内に浮かんだ棒読みのセリフだった。

 

 

 

 

 

 

 


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