一応、挨拶を。
あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
夕食後、食器を片付けてから自室にて俺は勉強中。
友希那達もお風呂から上がって、同じ部屋で友希那は新曲の作詞、千聖はリサからベースの指導を受けてながら思い思いに過ごしていた。
……なにも俺の部屋でやる事じゃないと思うんだけど。いや、うん、俺知ってる。こういうのを口に出すと痛い目に遭うってこと。
勉強が一段落したところで伸びをすると、タイミングを見計らったかのようにベッドに置いてあるスマホが着信音を鳴らした。
『まんまるお山に彩りを! Pastel*Palettsのボーカル担当、丸山彩です! まんまるお山に彩りを! Pastel*Palettsのボーカル担当、丸山彩です! まんまるお山に―――』
手に取って画面をのぞき込むと『丸山彩』と表示されていた。
「えーっと、確か……あっ」
電話に出ようとしてボタンを押したら切れてしまった。どうやら間違えたようだ。
どうしたものかと頭を悩ませていたらすぐさま同じ名前が画面に表示された。
赤がダメだったから、緑だな。
二つあった内の緑のボタンを押すと今度は繋がった。
この前カズに教わったのに間違えた。どうにも機械の操作は物覚えが悪い。
「もしも―――」
『どうして切ったの!?』
スマホを耳に近づけたら彩の怒鳴り声が耳に響いた。
「ごめん、間違えた」
『……えっ? あ、そっか。遥君、機械音痴だった……! ご、ごめんなさい! いきなり怒鳴って!』
「ううん。それで何か用?」
『えっと、その……今日のことなんだけど……』
今日? もしかして花女の校門前での出来事のことか?
「学校でのことだったら別に俺は怒ってないけど」
どうして見捨てられたのか分からないけど、バイトがあったから俺達に構ってる時間もなかったのだろう。
結局、彩と花音がいなくても紗夜に助けられたわけだし。
『よ、良かったぁ……。遥君に嫌われたらどうしようってバイト中ずっと悩んでたから……』
「そんなことで嫌いになるわけないじゃん。そもそも俺、彩のことは好きだぞ。―――ぐえっ!」
彩と電話していたら、いつの間にか千聖達が俺の傍にいて腹パンされた。反射的に彼女達の顔を見ると額に青筋を浮かべて笑っていた。
『…………ふぁッ!?』
アイドルが「ふぁッ!?」って駄目じゃないか?
「おーい、彩?」
『え、えへへ。遥君に好きって言われた……。えへへへへへ……」
怖い顔の千聖達から逃れるために彩に話しかけたのだが、ギリギリ聞き取れそうで聞き取れない声で何かブツブツ呟いていて、反応は返ってこない。
『あ、もしもし? 遥君』
やっと反応が返って来たと思ったら彩とは別の声だ。
「その声、花音?」
『うん、そうだよ。バイトが今終わって二人でのんびりしてたところなんだ』
時計を見ると時刻は9時半辺りを指していた。
学校で会った時間を考えれば、二人は5時間程働いていたことになる。
二人共中々体力あるな。彩に至ってはアイドルの仕事もあるというのに……。
「それはお疲れ様。ところで彩は?」
『あー、彩ちゃんは今はちょっとダメかなー』
「なんで?」
『…………それ、本気で言ってる?』
初めて聞いた花音の冷たい声音に驚きと恐怖を感じた。
大人しい奴ほど怒るとおっかない。それを今身を持って体験した。
「えーっと……」
全然さっぱりわかりません! なんで花音怒ってるの!?
俺の経験から花音に何を言っても地雷を踏み抜く気がする。
1、ごめんなさい! わかりません!
2、うん、ちょーわかる。アレでしょ? アレがアレでアレだからでしょ?
3、めんごめんご。
千聖の時と同じで思いついた案に碌なのがないんだけど! 1はまだしも、2と3に至っては軽すぎる! 次会ったときに殴られかねない。いや、花音がそんなことする子じゃないとはわかっているけど、電話越しに伝わる彼女の雰囲気がそう言ってる気がした。
「スマホ貸しなさい」
なんて返したらいいか全くわからないまま頭を悩ませていたら、千聖にスマホを奪われてしまった。
「花音、私よ。遥君が怒らせたみたいだけど、相手を考えなさい。そこのサッカーバカにわかるわけないでしょう? ……そうよ。恋愛なんて幼稚園レベルなんだから。さっきの失言も私が説教しておくから安心しなさい。ええ、じゃあ遥君に渡すわね」
千聖が花音を宥めてくれたらしく、一応謝罪するためにスマホを受け取って耳元に当てた。
「あ、もしも―――」
『千聖ちゃんとどうして一緒にいるのかな?』
さっきよりも花音さん怒ってません?
「全然収まってないじゃんか」と千聖に目線で訴えかけると「そのくらい自分で何とかしなさい」と返された。
「……千聖が俺の家に泊まりに来てるんだ」
花音の声音に気圧されて思わず素直に答えてしまった。
『……え? 泊まりにきてる?』
千聖に鋭い視線を向けられるが受け流して花音と通話を続ける。
『も、もしかして、二人きり……?』
「いや、リサと友希那もいるよ」
『そうなんだ。良かったぁ……』
何が良かったのかはわからないけど花音の怒気が治まったようで何より。流石千聖。友人のことをよく理解してる。あ、そうだ。
「花音も泊まりに来る? ―――ぐほぉっ!」
またしても三人に腹パンされた。しかも心なしかさっきよりも強い気がする。
花音が来れば千聖が喜ぶだろうと俺なりに良かれと思ってやったのになんて仕打ちだ。
『ふえぇ……! い、いいの!?』
「まあ、花音さえ良ければ」
『きょ、今日は流石に急で無理だから、明日泊まりに行くね……!』
「わかった」
『じゃあ私そろそろ帰るから切るね』
「お疲れ。それとおやすみ」
『うん、おやすみなさい』
彩と花音との通話を終えた。それはいいのだが、この後をどうするか。嫌だなぁ、逃げたいなぁ。
「遥君」
「はい」
「正座」
「……はい」
千聖お得意の作った笑顔で下された命令に大人しく従う。
「色々聞きたいことがあるのだけれど」
「なんでございましょう」
「まず着信音よ」
「この前の花見の時に皆の連絡先入れてもらったんだけど、面白いからって麻弥が着信音をどうのこうのっていじったらこうなった」
「なるほどね。……ちなみに私のは?」
「全部麻弥がやったから何がどうなってるのか知らない。試しにかけてみれば?」
「そうさせてもらうわ」
千聖が自分のスマホを触って俺のスマホに電話を掛ける。
『おっかあ! おっか―――』
今のは『はぐれ剣客人情伝』での千聖のセリフだ。
普段ドラマとかは見ないのだが、イヴの日本語の勉強のために一緒に見たのを覚えてる。
「変えなさい」
「と言われても変え方知らないんだけど」
自慢じゃないが、機械音痴の俺にスマホみたいなハイテク機械の設定を弄れるわけがない。やったところで壊すのが目に見えてる。
「なら私がやるから貸して」
千聖にスマホを貸して設定を変えてもらう。
数分もしない内に設定が変わったらしく、すぐに返してくれた。
「これでいいわ。……麻弥ちゃんにはちょっとお話しね」
どうなったのかは千聖に電話を掛けてもらうしかないのだが、黒い微笑みを浮かべる千聖になんだか声を掛け辛かった。
「ひょっとして私達のも変わってるのかしら?」
「そうかもね」
「掛けてみようよ」
友希那とリサも着信音が気になるらしく、電話をかけることにした。
「まずは私からよ」
『暗い夜も―――』
友希那の時の着信音はRoseliaの「BLACK SHOUT」だ。
「じゃあアタシも」
『虚勢を張り続けてる―――』
リサのは「Re:birth day」。
この流れだとRoseliaの他のメンバーの着信音はRoseliaの曲になっていそうだ。
「自分の歌が流れるのは少し恥ずかしいけれど、悪くないわ」
「だね~。麻弥に今度お礼言っておかないと」
千聖の時と比べて自分の着信音に不満はないようだ。お陰で千聖の機嫌が少し悪そうだけど。
きっと自分だけまともじゃないのが嫌なのだろう。
「まだ遥君には聞くことがあるわ」
うへぇ。まだ終わらないのか。
「彩ちゃんに「好き」って言ったわよね?」
「ん? ああ、言ったね」
「私、あなたの彼女なのだけれど」
……?
「私っ、あなたのっ、彼女っ、なのだけれどっ!」
…………? どういうことだってばよ?
「はぁ……予想してたけど伝わるわけないわよね。……遥君、いいかしら? あなたは私の彼氏なの」
「(仮)だけどね」
リサが口を挟むと千聖の足蹴りが俺に太ももに跳んできた。大して痛くはないけど理不尽過ぎる。でも、ここで声に出さないのが出来る男だって誰かが言うてた!
「仮とは言え彼氏が自分以外の女の子に好きって言うのを喜ぶ女の子はいないわ。たとえその「好き」がどんな意味であろうとね」
「要は千聖以外に言わなきゃ良いってだけね」
「そうよ。……はい、どうぞ」
「へ?」
「……だ、だからっ、私に「好き」って言いなさいよっ!」
「あ、そういうこと。千聖のこと好きだよ」
「ダメ。気持ちが籠ってないからやり直し」
あれ!? まさかのダメ出し!? しかもやり直しときた!
「す、好きだよ?」
「なんで疑問形なのよ」
「愛してる」
「べた過ぎて心に響かないわ」
この女優メンドクサイんですけど。
「ちーちゃん、大好きー!」
「……だ、ダメよ」
今いい線言ってなかった?
「いっぱいちゅき」
「ふざけてるの? 刺すわよ?」
ですよねー。自分でもないって思ってた。
「生まれ変わったら君に愛を―――」
「私が欲しいのは今のあなたからの愛よ」
来世で待っててくれません?
数十分間頭を働かせ続け、自分が思いつく物を一通り言ってみた。しかし、千聖が満足するものは一つもなく、俺は精神的に疲れ果ててしまった。
「も、もう無理……アドバイスとかないの?」
「そうね、ならサッカーへの愛を私への愛に置き換えて言ってみて」
サッカーへの愛……それだったら……。
これで終わりにしようと全力で伝えた。
「俺は、サッカーを愛してる!」
「私への愛はどこに行ったのよ!?」
「くっ……ごめん……。俺のサッカーへの愛は千聖への愛に変換できないみたい」
「何よそれ! 私とサッカー、どっちが大事なの!?」
「サッカーですけど」
「即答でサッカー!? 私のためならサッカーなんて捨ててやるって言ったじゃない!」
「それは非常事態だから。基本的にはサッカー」
―――ブチッ!
どこからか不穏な音が部屋に響いた。
「…………わかったわ。あなたが私よりサッカーが大切だというなら……その幻想をぶち壊してやるわ!」
彼女(仮)にサッカーへの愛を幻想とか言われた件について。
その日、千聖が満足する「好き」を言えるまで俺は眠ることは出来なかったのだった。
「こころ様」
「あら、どうかしたの?」
「遥様のことでご報告が」