俺は部活、千聖は仕事で別行動の一日を過ごした。千聖の帰りはマネージャーに送ってもらい、事件の進展と千聖の様子を軽く報告してマネージャーは帰っていった。
その数十分後に―――
「えへへ、来ちゃった♪」
「お、お邪魔します……」
玄関で照れ笑いを浮かべる彩とオドオドする花音の二人を迎えた。
昨日、花音との電話で約束した通りに花音が我が家に泊まりに来たわけなのだが、何故か彩も引き連れていた。大方、昨日の電話を聞いて花音に自分も連れて行ってと頼んだのだろう。
「いらっしゃい」
『…………』
先に泊まっている三人からの視線が鋭く突き刺さるが触らぬ神に祟りなし、ということで二人をリビングに案内した。
全員がソファーに座って寝る場所の話をしようとしたのだが、先に千聖がジト目で彩を見て口を開いた。
「花音が来たのはわかるわ。……でも、彩ちゃん。あなたはどうしているのかしら?」
「うっ……やっぱり聞いてくるよね……。え、えっと、パスパレのリーダーとしてメンバーの様子を確認するためだよ!」
「へぇ、そう。で? 本音は?」
「遥君の家に泊まってる千聖ちゃんが羨ましいです! ……はッ!」
千聖の尋問によって素直に本音をぶちまける彩に千聖の視線はより険しいものになった。
涙目になった彩が可哀想に思えてきたので助け舟を出すことにした。
「もう来ちゃったから今更帰れなんて言わないから」
「は、遥君……!」
「……ただ、困ったことに布団の数が足りないんだよね」
「それなら彩ちゃんが帰れば丁度になるわね。彩ちゃん、帰っていいわよ」
「まだ来たばっかだよ!?」
家主と居候の対応が正反対過ぎるんですけど。
というかさっきから千聖の彩に対する態度が辛辣すぎやしないか? グループ結成当時よりは二人の仲はマシになったとは思うから、千聖の発言も彩に心を開いている証拠だと思いたい。
「千聖、彩をあんまりいじめないの」
「……ふん」
あらら、そっぽ向かれちゃった。
千聖を諫めたところで問題が解決するわけじゃない。
さて、どうしたものか。
昔なら蘭達が泊まりに来たところで小さかったから布団の数なんて気にしないで良かったし、友希那とリサが泊まりに来るときは同じ部屋で問題なかった。だが、今回は五人の女子高生。無理矢理詰めることはできないでもないが、そういうのは幼馴染や仲の良い友人とかでなければ寝ずらいだろう。
そうなると誰か俺の部屋で一緒に寝てもらうことになるのが解決策としては良い気がする。しかし、誰を誘うべきか。
1、友希那とリサと寝る。
2、千聖と寝る。
3、花音と寝る。
4、彩と寝る。
むむむ。思いついた選択肢がいつもより多い。
1は実を言うと昨日もそうしようとしたのだが、千聖が断固反対したためしなかった。
2は恋人(仮)とは言え、そこまでしていいものかわからない。
3と4に至っては今日来た二人のどちらかと一緒に寝るのは如何なものか。
……2が恋人という名目があるから一番無難だとは思う。ダメなら友希那とリサに頼もう。
「千聖、今日は俺と一緒に寝てくれる?」
『……は?』
五人の少女が一斉に困惑した声を出した。
「流石にそれくらいしかないと思うんだけど。まあ、千聖が嫌―――」
「嫌じゃないわ!」
普段の千聖からは考えられないような声で遮られた。
声もそうだが、小さくガッツポーズしている理由はよくわからない。
ともあれ、これで問題は解決したわけだ。
「お、おお、そっ―――」
「そ、そういうの良くないと思う! だってアイドルだもん!」
またしても遮られた。今度は彩にだ。
「彩の言い分はわかるけど、一応千聖の恋人だし、現状この家の主は俺だから多少のことは目を瞑って欲しいな」
「うぅっ……!」
これでようやく―――
「待って」
……二度あることは三度ある。っていうけど、そんな何度も起こられても面倒なだけだな。
三度目は花音に遮られた。
「千聖ちゃんと恋人ってどういうこと?」
花音の声音は心なしか室内の気温を下げた気がした。
これは返答次第で殺されそうな気もするんですが。
考えてみればこの場で事情を知らないのは花音だけだ。「話してもいい?」と千聖に視線だけで問いかけるとこくりと頷いた。
「実は―――」
千聖の現状を花音に伝えると、次第にいつもの優しい目付きに戻った。
「……そっか。そう言う事情があったんだね」
「まあね」
「でも、一緒に寝る必要ないよね? いくら恋人(仮)だとしてもそこまではしなくてもいいんじゃないかな?」
「そうだそうだー!」
「いくらなんでも行きすぎよ」
「私もそう思うよ!」
まくしたてるような物言いをする花音に三人も便乗してくる。
「私は家主直々に誘われたのよ。居候の身としては断るわけにはいかないじゃない。たとえ一緒のベッドで寝てと言われたとしてもね」
…………ん? 一緒のベッド?
「千聖、一緒のベッドで寝たいの?」
「? だってあなたがそう言ったのでしょ?」
「一緒に寝るとは言ったけど、“ベッドで”なんて一言も言ってないよ?」
「え?」
「え?」
「……………………………………………………。っ! だ、騙したわねっ!?」
「痛ぁっ!」
何を勘違いしたのか知らないが顔を真っ赤にした千聖に頬を殴られた。
ベーシストたるもの、もう少し手を大事にしなさいな。
結果として千聖が不機嫌になってしまったが、何とか丸く収まった。
昨日よりも賑やかになった夕食を終えて就寝前。リサにお願いして布団を貸してもらい、それを俺の部屋に敷いて千聖にはそこで寝てもらう。
「ねぇ、千聖」
「……何かしら、嘘吐き」
先程のことがよっぽど頭に来たらしく、こちらに顔を向けてくれない。挙句の果てに嘘吐き呼ばわりときた。
「こっちで寝る?」
「嘘吐きのあなたのことだから私がベッドであなたが布団っていうオチじゃないのかしら?」
「ううん。俺と一緒にベッドで寝るって言ってる。千聖が望むならそれでもいいけど」
「それで贖罪のつもり?」
とかなんとか言いつつ枕を持ってベッドに入って来た。だが、顔は反対に向けたままだ。
「一応」
「全然足りないわね」
「えー? 今の俺にはこれが精一杯なんで勘弁してくれません?」
「……ルパンだってもうちょっと頑張ると思うわ」
「さいですか。なら―――」
「っ!」
千聖の小柄な体を優しく抱き締めた。
「ふ、ふんっ。まあまあね」
カズに教えてもらった漫画にあったが、効果はあったらしい。
「おやすみ、千聖」
「おやすみなさい、遥君」
「あ、そうだ。デートしよっか」
「そう言うのはもっと早くに言いなさい!」