「ナツをポーリュシカさんのところに連れていかないと……」
「グレイとジュビアもね。」
「あい。」
ナツとグレイがお互いに戦い始めて、そしてその決着が着いた頃に時間は戻る。
止めに入っていたマルクも、魔法のダメージこそなかったが、純粋なパンチや蹴りなどのダメージが入っており、イマイチ立てないでいた。
少しだけ無理をすれば、普段通りに動けるのでひとまずそうしてでも動くことにした。
「3人とも無茶をし過ぎですよ……」
「ま、マルクもね……」
「人の事は言えない、か……」
エルザと一緒に来たマホーグが、マルクを正面から見据えて文句を垂れる。
それに対して苦笑いしかすることが出来なかったが、その直後にマルクは近づいてくる強大な魔力の気配を感じとった。
ほぼ同時に、エルザも何者かの気配を感じとっていた。
「っ!!全員伏せろォー!!」
「ウェンディ!!マホーグ!!」
咄嗟に近くにいた2人を庇って、マルクは地面に伏せる。と同時に近くの地面が爆発する。
「なんだ突然……!」
「しばらくぶりだな、エルザ。」
現れた女性、エルザと似たような緋色の髪を持ち、そしてエルザを知っているかのような口ぶり。
「知り合い?」
「知らん、何者だ。」
ルーシィがエルザに尋ねるが、当然エルザは知りもしない。目の前の女性…アイリーン・ベルセリオン。
フィオーレの土地を、大陸イシュガルを滅茶苦茶にした張本人。
「私はお前……お前は私……」
「……この魔力、どこかで…」
マルクがふと感じとった魔力は、見知ったものでは無いにしろ…どこか懐かしさを覚えるような魔力だった。
目の前に現れた女魔導士、アイリーン。それにウェンディ達が相対することになったのであった。
「見つけた、ユキノ!!」
「クォーリ様!?」
ほぼ同時刻、クォーリは同じギルドであるユキノと再開していた。アイリーンの魔法によりバラバラにされていたが、何とか匂いを辿ってここまで来れたのだ。
「無事だったのですね!!」
「大魔法を派手に使ってくれたみたいだな、
「目の前にいた敵たちが倒れたのは、それが理由ですか。」
「……ところで、誰だそいつは。」
「おちゃめな天使ちゃんだゾ☆」
目の前には、未だ水着姿でいるエンジェル…もといソラノがいた。クォーリが視点をずらすと、レクターとフロッシュもきちんと居た。それに対して、クォーリは少しほっとしていた。
しかし、彼女達の元に現れたのはクォーリだけではなかった。
「━━━随分派手な魔法を使ってくれたね。」
「誰だ!!」
「おかげで大分兵を削られてしまった。これは少しお返しをしてあげないと……父さんに顔向けできないな。」
現れたのは、後光を背負う男だった。だが、クォーリはここで違和感を持った。目の前に居る男の匂いが、ナツと全く同じだったからだ。
だが、敵に対して余計な疑問を抱いている場合ではないと、そのかんがえをすぐにふりはらう。
「
「ほう、私たち3人を相手にするのか……面白いゾ。」
「一応ボクもいます。」
「フローも。」
目の前に居る男は、笑みを浮かべたまま一同を見下ろす。その表情には、まるで誰も相手にしていないかのような余裕さがあった。
「お返しと言ったでしょ。つまりはそういうこと……相手にするのは私たちに楯突くもの全て。」
男の両の手が合わせた間から、目が眩むほどの光が迸る。その明るさに、全員が目を瞑る。
「白き魂は自由なる空へ。」
そして、光が終わったあとに訪れるのは……異常な光景だった。
「あ、あぁ……!あっ…」
突然ソラノが顔を赤くして、体を抑え始めたのだ。しかし、その表情には苦しみや痛みといったものが感じられない。
寧ろ、気持ちよさそうな表情を浮かべているのだ。
「お姉様!お姉様しっかり!!」
「どういう魔法だ、一体…!」
「なんでお姉様だけ……」
「……私の魔法は快楽、その味を知るものは私の魔法からは逃げられない。快楽を与え続けられた人間がどうなるか知っているかい?」
「開け!双魚宮の扉!!」
「━━━死んでしまうんだよ。」
精霊の扉を開く前に、ユキノとクォーリの体に白い何かが巻き付き始める。そして、未曾有の感覚が……快楽が襲いかかる。
「あっ…!あぁ……あっ!!」
「……こんなもん!!」
しかし、クォーリはその何かをまとめて凍らせる。直感的に嫌な予感がしたからだ。
一応他の者達に巻きついたのも全て凍らせたが、あまり意味を為していないようだった。
「君には私の快楽が通用しないようだね……しかし、仲間の方はどうかな?」
「あ、あぁ…!」
「ちっ!!」
再びユキノに絡みつく。クォーリがまた凍らせようとするが、それよりも早く、それを切り裂いた者がいた。
「白と光を快楽だと?
カグラである。偶然かはたまた目的があってきたのかはわからないが、そこにカグラが来ていた。
「仲間ではないよ、ゼレフは私の父だ。」
「ゼレフの息子だと?」
「私の名はラーケイド・ドラグニル。ゼレフ・ドラグニルの息子だ。」
その事実に、ユキノ達は困惑していた。それもそうである。敵の大元であるゼレフの弟がナツであり、そして目の前の男…ラーケイドがゼレフの息子だというのだから。
「ドラグニルって、え…!?」
「ナツ君と同じ苗字……」
「知らなかったのかい?ナツは父上の弟、私の叔父…という事になるね。」
「ナツ様が…!」
「今回の戦いで会えるのを楽しみにしていたんだ…だって、父上は私よりナツの方が大切みたいだからね。許せないでしょ?そんなの。」
その言葉の直後に、ラーケイドは光の刃を無数に飛ばし始める。カグラは不倶戴天を抜いて、その刃を弾いていく。弾ききれないものは回避して当たらないようにしていく。それとは正反対に、クォーリは触れる前に全てを凍らせていく。
「いつまで上からものを言っている……降りてこい。」
カグラは、不倶戴天を一振する。すると、ラーケイドが乗っていた岩山が、一瞬で切り裂かれる。
ラーケイドはそのまま岩山から降りようとするが、その間にカグラにもユキノ達にしたようなものと同じ光を、カグラに巻き付かせる。
「カグラ様!!」
「君も快楽の味を━━━」
「永遠に冬眠しとけ、氷の中でな。」
地面に着地したのとほぼ同時に、クォーリがラーケイドに向けて拳を振るう。
ラーケイドはその拳をバックステップで回避するが、追撃するかのように氷がラーケイドを襲う。
「ふっ…こちらに構っていていいのかい?新しく来た仲間の1人が、快楽に飲まれようとしているけれど?」
「……
クォーリとラーケイドの間に、一瞬で入り込む影一つ。カグラだった。カグラが呑まれるよりも早く、咄嗟に凍らせておいたのだ。
「品のない魔法だな…!」
「速い!」
そして、そのままラーケイドが次の魔法を使う前にカグラが自分の間合いにラーケイドを入れる。
カグラ必勝の間合い、不倶戴天による居合切りを避けられるものは、そうはいないのだ。
「成敗!!」
そして、カグラは不倶戴天を振り切る……はずだった。抜かれた不倶戴天を、ラーケイドはたった2本の指で止めていたのだ。
それも、一切の傷なしに。
「私の刀を、素手で…!?」
「君達、何人か12を倒して勘違いしてしまったんだね。」
「カグラァ!!」
クォーリが、カグラの助けに入る。不倶戴天を止めるような相手を、一人で相手させるわけにはいかないと、クォーリはそう思ったのだ。
「オーガスト、アイリーン……そして私は特別だ。」
「特別というのか、自分で!!」
「ふ……そうは言うがその顔……もうこの相手には勝てないと諦めた顔だ。」
「「アアアアアアア!!」」
カグラとクォーリのふたりが、同時に攻撃を仕掛ける。しかし、両方の攻撃を、ラーケイドはどちらも片手で止めていた。
そして、余ったもう片方の手で……2人を同時に攻撃する。
「あ、が……!」
「ぐ、がぁぁぁぁ!!」
「ほう、傷口を凍らせて……しかし、その苦痛もやがて快楽に変わるよ。」
ラーケイドはクォーリの攻撃をかわしながら、カグラに視点をずらす。相手にされていないかのようだった。
「君はさっき、私の魔法は品がないと言ったね。確かに、ある意味その通りかもしれない。
しかし…これは愛とも言えるんだ。どんな苦痛もなく死ねるんだよ?」
「死なせるかァ!!」
クォーリは、カグラの傷口を凍らせる。血管ごとではなく、血の流出を防ぐためのかさぶたのような役割である。
「ふ……意味は無いさ……白き魂は自由なる空へ……」
カグラは倒れ込む。血の流出を防いではいるが、ダメージは相当受けているようであり、どちらにせよ急がねばマズいと感じたのだ。
「あぁぁぁぁぁ…!」
「なっ!?」
「君には効かずとも、君の仲間には通じる……さぁ、天国という死へ。」
ユキノに巻き付く光。ふと、クォーリはとある光景を思い出す。スプリガン12に対峙したのはこれが初めてではないのだ。
最初に、これとは違う1人と出会っている。その1人に、
その時、やられた全員は磔にされた。両手足に杭を打ち込まれていた訳では無いので、問題こそないが……その時の惨めな気持ちは、クォーリ達の心に深い傷をつけた。
その時のことで、クォーリは思ったのだ『力が、もっと力が欲しい』と。
「━━━これ以上、やらせるかァ!!」
両の手足が、氷で作られたドラゴンの手足の装備を纏う。モード真氷竜…しかし、彼にとってはまだ足りないのだ。後から聞いた話だったが、初めに戦ったスプリガン12は、体が魔障粒子で出来ていたためにまともな魔導士では太刀打ちできないとされたらしい。
だが、そんなことは関係なかった。氷の力を、竜の力をもっと引き出すために力を引き出そうとする。真氷竜を超えた、氷竜の力を行使するために。
「っ!この力は……」
『あかん!クォーリ止めぇ!!これ以上の力は、
クォーリの体が氷に覆われていく。余りの力の放出に、彼の体内にいる親のドラゴンのフリーゾからストップが入る。
だが、彼はその声を無視した。目の前の敵を倒すために、後ろにいる仲間を守るために、何がなんでも。
「全てを凍らし、砕き…そして食らう。氷竜の力は、全てを凍らせるための…力……!」
「なんだ、周りの土地が凍りついて……」
ラーケイドは困惑していた。目の前の魔道士から発揮される魔力が、明らかにおかしいからだ。
目の前の男は、本当に人間なのか、という疑問さえも湧いてくる。
「あぁ……今から俺は余分な思考を『凍らせる』…感情も、お前に対する遠慮も……全て、全てだ。」
纏う氷は、鎧のように積み重なっていく。そして、纏う度にフォルムが洗練されていく。
手はドラゴンの爪のように長く、足もまた然り。しかして腕などの部分はキチンと鎧のような形を保っていた。
ドラゴンの顔を模した兜を、被れば……ドラゴンと人間の間のような見た目、竜騎士とでも呼べる代物へと変貌していた。
「……何だ、それは。」
「━━━モード氷帝竜。全てを凍らせ、無に返す……」
奥から見える眼光は、しっかりとラーケイドを捉える。今から行う戦いは、彼にとっても未知数な戦いとなることだけは、間違いがないのであった。