FAIRY TAIL〜魔龍の滅竜魔導士   作:長之助

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アイリーン・ベルセリオン

「エルザさんとマルクの技を防いだだけじゃなくて…そんな……」

 

「ふざけたやつだ…」

 

「けど、実力は本物ですよ…」

 

「しかし、そこの小娘の付加術…さらにその悪魔の協力もあってその程度か、エルザ。

話にならんな。」

 

エルザとマルクの攻撃を避け切った上に、エルザが飛ばした無数の剣を花マルの形にしたアイリーン。

杖で、剣を一本軽くつつくと彼女が花マルの形にした剣が全て霧散するかのように溶けてどこかへと消え去ってしまう。

 

「貴様は何者なんだ。」

 

「まだ気づかんのか……いや、本当は薄々気づいているが、認めたくないのだな。」

 

「貴様など知らん。」

 

緋色の髪、そして滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)であるウェンディとマルクは、アイリーンの匂いがエルザから似ていると、彼女がここに来た時から思っていた。

そして、どことなくアイリーンにはエルザの面影があるのだ。それが、どうにも嫌な予感を知らせていた。

 

「━━━私はそなたの母親だ。」

 

「なっ……」

 

「え…?エルザさんのお母━━━」

 

「違う!!私は、ローズマリーで1人だった……ずっと親など呼べる者などいないと思っていた。」

 

「その親が、目の前にいる私よ。」

 

「……私が親と呼べる人は、生涯マスター1人だ。」

 

エルザは、凛とした目で睨み返す。確かに、驚かなかったといえば嘘になる。

しかし、今更でてきた血縁者を今更母親等と思えるはずもなし。育ててくれたのはギルドであり、ギルドメンバーであり、そしてマスターであるマカロフなのだ。母親なんて、どうだっていい。

 

「まぁ…構わないわ。私も娘がいるとか、本当はどうでもいいから。もうとっくに死んでると思ってたのよ……だが、こうして巡り会うとは数奇なことよのう。」

 

「ギルドを襲う者はたとえ誰であろうと……敵でしかない。」

 

「うむ、我がアルバレス帝国に歯向かう者も、敵としか見ておらん。例え我が子だとしてもな。」

 

お互いに睨み合う。だが、マルクは少し違和感を感じていた。親、というものが彼には正確にはわからない以上、ただの違和感で済ませられてしまうものだが、どうにも無視出来ないものとなっていた。

 

「……あんた、()()()()()()()。」

 

「女性に対して、あまり年齢の話はするものでは無いぞ?」

 

マルクの言葉に、エルザとウェンディは少しハッとする。そうなのだ、例え幾らエルザを歳早く産んだからと言われても、違和感のある若さなのだ。

エルザの年齢から、天狼島に封印されていた時の7年をプラス。少なくともその分の老化はしているはずなのだ。少なく見積ったとしても、どう考えても30前後では効かない年齢になるはずである。

だが、どう見繕っても目の前にいるアイリーンは多めに見積っても30前後の見た目である。

 

「……しかし、そうだな。疑問に答えるために…少し昔話をしてやろうか。エルザの出生の秘密もプラスしてな。」

 

「秘密?」

 

「必要ない、どちらもな。」

 

「せっかくこうして出逢えたんだ……遠慮するな。」

 

「黙れ!!」

 

エルザは、鎧をいつもの物に戻してからアイリーンに向かって突撃していく。

だが、アイリーンは敢えて前に出て、エルザの突きだした剣を抑えながらエルザに顔を近づける。

 

「我が名はアイリーン・ベルセリオン。かつてドラゴンの女王だった。」

 

そう言ってから、エルザの剣を先程の剣達と同じように霧散させてから突き放すかのように軽く押し飛ばす。

だが、それよりもアイリーンの言った言葉にエルザ達は絶句していた。

 

「400年前…ドラグノフ王国という所があった。その時代、その場所には人と共存しようとするドラゴンの姿があった。

だが、西の大陸のドラゴン達は人と共存しようとはせず、そして人を餌と見て食らっている……そんな時代だった。

そんな中、賢竜ベルセリオンと呼ばれたその国の国王がいた。彼は、人間との共存を守るために…西の大陸のドラゴンと戦争を始めた……これが、後に竜王祭と呼ばれる戦争の始まり。

そう、ドラゴンの優しさから始まった戦争だった。」

 

「400年前、だと…!?その姿で……」

 

「その辺はおいおい話す。面白くなるのはここからよ、エルザ…それに滅竜魔導士のおチビちゃん達にとっても……悪魔としても、関係のある話しよ。」

 

アイリーンのその言葉に、マルクは反応する。悪魔としての自分にも、滅竜魔導士としての自分にも…どちらにしても関係のある話と言われたのだから。

 

「私の国は、代々人とドラゴンが共存しともに歩んできた国…イシュガルにはそんな国がいくつもあった時代だった。

そして、ドラゴン同士の戦いを私達が有利にするために…私は付加術を作りだした。」

 

「ドラゴン達に付与するために、か。」

 

「まぁ、それがあっても状況はあまり変わらなかった…戦況そのものが芳しく無かったのだ。

西のドラゴンの物量に加えて…イシュガルでも人との共存を望まないドラゴンが敵対したせいもあったからな。そんな中…ベルセリオンですら、負けると確信する程に状況が振りになってきた中で、私はある秘術を思いついた。

人の体にドラゴンの力を付加させ、ドラゴンを倒すための力とする…そう、滅竜魔導士の始まりだった。」

 

「え…!?」

 

アイリーンが言ったことに、エルザ達は絶句した。目の前にいるアイリーンが、滅竜魔導士の生みの親であり、最初の滅竜魔導士と言っているのだから。

 

「お前が編み出した魔法、だと…!?」

 

「そうよ。私は滅竜魔導士の母……人にドラゴンと戦える力を与える作戦は、成功したと言えよう。

多くの滅竜魔導士が誕生し、戦況はこちら側に有利に傾いた。そして、ほぼ同時期に…ドラゴンを完全に滅するための、組織も立ち上がった…まぁ、それは私には全く関係のない所でできた組織だけど。」

 

「全く関係ない、だと?」

 

「えぇ…イシュガルは、ドラゴンと人が共存しようとするものが多かった国…けれど、イシュガルに人との共存を望まないドラゴンがいたように、人にもドラゴンとの共存を望まない者達がいた。

それが立ち上げられた組織、と言うやつよ。そして、私の真似事をして行った。」

 

「真似事?」

 

マルクがアイリーンに尋ねていく。答える義務も無いはずだが、嘘か本当か確かめる手段はないものの、正直にアイリーンは答えていく。

 

「付加術よ、私がドラゴンの力をその身に付加させたように…相手はドラゴンの力ではない力を自分達に付与させた。その力が…悪魔の力だった。」

 

「っ!!」

 

「まぁ、滅竜魔導士にしろ悪魔の力にせよ……大いなる力は人間の体を蝕み始めていた。

滅竜魔導士は、力を抑えきれずに暴走する者…ドラゴンの視力と人間の三半規管のズレによる極度の酔い…そして、人間の体内で成長する竜の種。それは人をドラゴンへと変える、滅竜魔導士の最後。」

 

まるで過去を見るかのように遠い目をするアイリーン。その目に写っているのは、絶望かそれともただの現実か。

 

「……ドラゴンの力を付与させた滅竜魔導士は、ドラゴンへと変貌していき…悪魔の力を付与させた者達は、悪魔となった。

そして、悪魔となった者達の中でも屈指の強さを誇る7人がいた。彼らは彼らでドラゴンを狩っていった。」

 

「その7人って言うのが…」

 

「今お前の体内にある力…最終的に同士討ちで全滅して、ドラゴンの一人に食われたらしいがな。

……それが、こうして目の前にあるというのは現実は小説より奇なりとはよく言ったものだ……」

 

「……話はそれで終わりか?」

 

「いいや、まださエルザ……まだ、貴様の出生の話が出来ていない…とは言っても、私がドラゴンに変貌し始めた頃くらいには、既に私の腹の中にいたのよ…エルザ、そなたがね。」

 

エルザに視線を向け、わざとらしく杖をエルザに向けるアイリーン。エルザも、ここまで来れば話に付き合おうとアイリーンに視線を返す。

 

「エルザ、お前の父は隣国の将軍だった。人間同士で領土争いをしていた頃の政略結婚と言うやつだ。彼とはいくつもの戦場を駆け抜け、ベルセリオンの最期も共に看取った。戦争は、アクノロギアの登場により勝ちも負けもなく集結した。

数え切れないほどの死者を嘲笑うかのように、アクノロギア1人が勝った。そして、終戦から一週間……私はその頃にはすっかり国の敵となっていた。」

 

そのことに対して、皮肉った笑みを浮かべるアイリーン。あの時の自分が馬鹿らしいと言わんばかりの笑みである。

 

「アクノロギアのようになる…そう言われて、ドラゴンを愛しているといえば、捕まえられる…そんな状況だった。

捕まえられたあとは悲惨なものだった。拷問、暴力、辱め…まぁ色々されたわ。人間じゃないと言われていたから、私に何をしても全てが不問となっていた。

そして、私はついに……ドラゴンになった。」

 

「…滅竜魔導士の竜化……」

 

アクノロギアがドラゴンになり、そして現代の滅竜魔導士であるナツ達のようにまだ対策が確立されていなかった頃の、滅竜魔導士の悲惨な末路。アイリーンはそれを完全に辿り切ってしまったということ。

敵だが、その過去に対してマルクは同情しか思いつかなかった。

 

「私は国を破壊して…お前が腹の中にいたまま数百年が過ぎた。人気のない山奥で、我が体の呪いを解く方法を探し続けた。

そんなある日…声をかけてくる青年がいた。それが、陛下との出会いだった。彼は魔法の天才だった。私が数百年なし得なかったことを…いとも簡単に成功させた。

竜の体から、人間の体に戻ったのよ。」

 

その事を聞き、改めてゼレフという人物の凄さを思い知るマルク達。しかし、彼とはいずれ戦うことになるだろうと確信していたため、その事で怯えて等いられない。

 

「だが、異変は直ぐにやってきた。何を食べても味がせず、どうしようと眠れやせず…身体中が痒く、寒く、そして痛かった。

そのことに気づいた時、私は絶望した……けれど、すぐに思い至ったのよ。

生まれてくる子に、自分自身をエンチャントすれば……人間の体が手に入ると。私はお前、お前は私…生まれてくる子供は、私の新しい体……」

 

狂ってしまったが故の、結論だった。恐らく彼女がまともな精神状態ならば考えつかなかっただろう、その事に妙に歯がゆい思いをマルクはしていた。

 

「…だが失敗した。我が子への付加術など不可能だった。

だからもう興味もなくなってな……ゴミのように捨てたわ、小さな村の片隅に。」

 

嘲笑するかのような笑みを浮かべながら、アイリーンはポイと物を捨てる仕草を取る。最早、子に対する愛情は残っていなかったのだろう。

 

「……それがローズマリー村か。」

 

「村の名など忘れたわ。」

 

「エルザさん…」

 

「……」

 

心配そうに、エルザを見つめるマルクとウェンディ。だが、エルザはあくまでも凛とした態度でアイリーンを睨む。

彼女に取って、アイリーンの話は彼女の心を乱すことは出来なかったようだ。

 

「大丈夫だ……産んでくれたことには、素直に感謝せねばなるまいな。」

 

「要らないわ、ゴミの感謝なんて。」

 

「お前っ!!」

 

「自分の子になんてことを…!」

 

「━━━それと、捨ててくれたことに感謝する。そのおかげで私は、本当の家族に出逢えたんだ。」

 

換装を行うエルザ。白の剣と黒の剣を1本ずつ持ち、鎧はバニーガールに近い格好の鎧。

俊敏性が高くなる、鎧である。それは、エルザの覚悟でもあった。目の前の敵を倒す…彼女からしてみれば、アイリーンはただの敵になっているのだ。

今、ここに話は終わり……戦いが再開しようとしているのであった。


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