魔龍、100年クエストへと
━━━━━魔竜アクノロギアが討たれて約1年が経過していた。ギルド
ギルティナ大陸…彼らが今まで向かった土地とはまた違う勝手の知らない土地へと降り立ち、そして目的地へと向かっていた。100年クエストの依頼主……
「見ろよー!雪だァー!!」
「あいさー!!」
天から降り注ぐ物に、気分を高める者達。火の滅竜魔導士のナツ・ドラグニルとその相棒であるエクシードのハッピー。2人は雪だと認識したものに子供のようにはしゃいでいた。
「こんなに晴れてるのにか?」
「珍しい事もあるものだな…」
そして、氷の造形魔導士のグレイ・フルバスターと
「光…これ……」
「雪じゃないわよ」
同じように天空の魔導士…しかも滅竜魔導士であるウェンディ・マーベルとその相棒のシャルルも不思議がっていたが、その正体に気づき驚いていた。そして更に同じように驚いている人物が1人。
「魔力だ…!エーテルナノが目に見えるくらい大きな結晶になってる…!」
星霊魔導士、ルーシィ・ハートフィリア。彼女は目を輝かせながらこの現象に驚きつつも興味を示していた。だが、それぞれが驚きや喜びを出している中でただ1人━━━━
「お゙ぇ゙……だか、ら…お゙…れ、ごん……ゔぇ゙…」
「あんた死にかけてるじゃない…」
━━━━マルク・スーリア。魔龍の滅竜魔導士である。彼は魔力を食らい、魔法を無にする…と言えば聞こえはいいが、吸い込める魔力に限界があり……吸い込みきれないと魔法の影響を受けてしまう魔導士だった。
そして、魔龍というのも親のドラゴンが勝手に言ってただけであり…実態は悪魔を食らったドラゴンの因子を受け継いだ…悪魔の力を持った人間である。
それでも、滅竜魔導士には違いがなく…乗り物酔いやドラゴンフォースなどの共通点はきちんとあるのだ。そして今、彼はとても体調を崩していた。
「雪だるま作ろうぜぇ」
「魔力だったら魔力だるまだね!!」
「ここはそれだけ魔力に満ちてるということか…」
「マルク…ごめんね……回復魔法かけられないの……」
マルク・スーリアは特異な体質をしており…ある程度の魔法なら全面的に無効化できる。魔力を食らってしまえば、さらに少し上の魔法も抑え込める。
だが、それは治癒魔法やサポート系の魔法に関しても同じであり……彼には一切そう言う魔法が通じないのだ。難儀である。
「ゔえ゙ぇ゙…… 」
そして今この場の環境は……呼吸をすれば魔力が入り、吸わなくても体質的に常に魔力を浴び続ける。彼は食いすぎのオーバーフローを起こしてしまっているのだ。魔法を使い続ければ話は別だろうが……そうしてしまえばただの不審者である。
「マルク、もうすぐで到着だから少し休んでおけ…荷台の中にでも入っとくんだ」
「はい……」
「ま、マルク!駄目!乗り物酔いまで出てきちゃうよ!!」
ウェンディに止められなければ恐らく入っていただろう。エルザも休んで欲しいと素直に善意で言っていたが、自分が乗り物に誘導していることに気づき申し訳なさそうにしていた。
「ん゙え゙ぇ゙ぇ゙……」
「…それにしても、近づいてきたということか。世界最古の魔導士ギルド…
「いよいよね」
マルク以外の各人は、覚悟を決める。何せ100年クエスト受注先の場所へと向かっているのだ。そして、その100年クエストは誰もクリアしたことがない…それこそ、
「どんなドラゴンがいるんだろうなぁ!」
「いないと思いますよ…?」
「ただの名前だろ、
「ホラ目の前に」
「あ゙るぅ゙……意味、初代が…妖精…ゔぶぇ゙…だから、目の前…っぢゃ゙あ゙…目の、前…です…ね゙……」
「私のボケに対してツッコミ入れるのやめてもらっていいかしら…しかも死にかけながら……」
吐きそうになりながらも、マルクは何故かルーシィのボケに反応している。話の流れを組み、エルザがわかりやすいように説明をし始める。
「ギルドの名前にはよく幻獣が使われる。
「あ!
「ぐ……
ドラゴン、この時代からすれば約400年前の生物。魔法として滅竜魔法は残ったままだが、生物としてのドラゴンはとうに全滅…最後の存在であったアクノロギアも討たれている以上……ドラゴンもまた幻想の生物という扱いでもおかしくないのだ。
そして、しばらく歩いた一行の前に…ドラゴンの石像が乗っかった建造物が見えてくる。
「魔陣の竜だ…」
「着いたな…」
「ホラ…!ドラゴンいるじゃん!!」
「あれ石像よ…」
「で゙、も゙ォ……!な゙ん、が……様゙子…が゙ァ゙…?」
マルクが息も絶え絶えになりながら、建物に関してツッコミを入れる。見た瞬間、全員もふと思ったのだ。『やけにボロい』と。100年クエストの受注先だと言うのにも関わらず…建物は所々崩壊しており、恐らく破損した部分だろうと思われる石壁があちらこちらに散らばっていた。
そして、肝心の魔陣の竜の建物そのものは…植物のツルが壁に生い茂り、そしてコケも生えていた。
「ねえ…このギルドってまだ人いるのかな?」
「いなかったら受注できないじゃない」
ハッピーがつい突っ込んでしまうが…シャルルの言うこともごもっともである。もしかしたら、移動中に襲われた…とかはあるかもしれないがそういった形跡も見当たらないのでいるであろうという予想は全員はしていた……少なくとも、ギルダーツが行ってから10年近く経過しているのでその間に潰れた可能性はあるだろうが。
そして、建物の扉を開けると…そこにも目に見えるほどの結晶となったエーテルナノが満ちていた。
「建物の中にまでエーテルナノが…」
「つーか誰もいねぇな」
「いや、この感じ……」
「います…」
「ゔッ………ゔぇ゙に゙ぃ゙……!!」
マルクの言葉で全員が一斉に上を向く。そして、天井を覆わんほどに大きく羽を広げていた存在は……
「━━━良くぞきた、99番目の勇者よ」
「「「ドラゴンー!!!」」」
「まだ生き残りがいたのか…」
「えーっと……」
「ドラ、ゴン゙ゥ゙……?」
「我が名は法竜エレフセリア……我が願いを成就させよ、魔導士よ」
ナツ達を認識して、言葉を発する目の前のドラゴン。その大きさや、力強さはかつてナツ達が関わったドラゴン達と相違ないレベルであった。
「お前が100年クエストの依頼主か」
「ホラ、ナツ…もっと丁寧な口調で話そうよ……怖いし……」
「━━━いかにも」
「1つ確認しておきたい……ここは魔導士ギルドの筈だが……お前は何者なんだ」
他に魔導士が居れば、マスターかはたまた魔導士として所属しているドラゴンか…という話も分からなくはないだろう。しかし、建物内も荒れ果て誰もいないこの場が現在も運営されている魔導士ギルドかどうかと言われれば……怪しいところである。
「魔導士ギルドに魔導士がいねーんじゃ、そりゃ気になるわな」
「マ゙ス、ダー……も゙、いな゙いん゙…じゃあ゙…余計、に……」
「他に魔導士はいないの?」
「ここには我しかおらぬ、人間は皆老いて死んだ」
「老いてって…新しい人を入れなかったんですか?」
「変なギルドね…」
「そういう時代だった……新しいギルドが次々に生まれ、若者は新しいギルドに集まる。やがて最古のギルドからは人が消えた」
「…………」
マルクはふと、かつての事を思い出していた。天狼島で、かつてナツ達はアクノロギアの襲撃を受けた。その際に初代マスターメイビスの力添えもあり、無事だったのだが…復帰するまでに7年の時間を要した。
そして、その7年で
「…それと、ドラゴンが住み着いているのとは話が違う様だが」
「いや、この匂い…」
「はい、私も気になっていました……」
「ド…ラゴン゙、じゃ、ない゙…!」
「あぁ、マルクの言う通りだ……お前人間だな」
「ふふ━━━」
ナツの言葉に滅竜魔導士以外のメンバーが驚き、そしてエレフセリアの体から一気に煙が吹き出す。そして、吹き出された煙はナツ達の目の前で渦を巻固まっていき…1人の人影が出来る。
「よくぞ見抜いた……我こそが魔導士ギルドの創始者にして、魔陣の竜初代マスターエレフセリア」
「人間…!?」
「魔導士ギルドの創始者って…!」
「100年以上生きてるってこと!?」
「そう不思議なことではあるまいて…さて、その辺のことを詳しく説明する前に…そちらの少年、その症状は魔力酔いに近いか?ここはエーテルナノが濃いからな…これを腕にでも巻いておくといい」
そう言ってエレフセリアは、布の束のようなものをマルクに投げる。マルクはいそいそとを腕にゆっくりとまきつけていくと…段々と、その顔がスッキリし始めていく。
「…すごい楽になった…なんですかこれ」
「魔力を吸収する素材で作った…まぁ魔力を吸い取りある程度ため込める布、と言ったところだな……さて、話し始めるとしようか。
我は……そなたらに分かりやすく言えばアクノロギア、我は奴と同じだ」
そう言っている間に、エレフセリアは一同の後ろに移動していた。転移系の魔法なのかもしれないが、発動すらも見えないほどの高速さであった。
「アクノロギアと!?」
「滅竜魔法の代償…我はそれを防げず竜化した」
「滅竜魔導士だったんですか?」
「と言っても、独学だがな」
「独学で滅竜魔法を……」
あっちこっちに跳び回りながら、会話を進めていくエレフセリア。段々とその仕草にナツがイラつき始めていく。
「我はある竜を倒すために滅竜魔法を習得した……」
「つーかちょこまか動くな!!じっとしてられねぇのかよ!!」
その瞬間…エレフセリアの緊迫した雰囲気は全て消え去り、同時に小さくなったエレフセリアがルーシィの胸の谷間に現れていた。
「いやーん!だって久しぶりの若い女子なんじゃ!緊張しちゃって!!」
「こんにゃろー!!」
「きゃあああああああああ!!?!」
ナツがエレフセリアを取り出そうとするが、その前にルーシィの谷間から逃げて再び目の前に現れる。神出鬼没にも、程がある人物だった。
「このエロ親父……」
「ふふふ…」
「ふふふじゃねー!!」
「てか……手どけてくれる…?」
「だってぇ、この前来たのがイカついおっさんじゃろ〜?その前もマッチョで…その前もごつくて……その前もその前も……良い時代になったのー!!こんなにも美しい女性魔導士が!!」
エレフセリアの鼻の下は長くなっていた。先程までの威厳はどこへやら、すっかりとナツ達の印象はただのスケベオヤジへと変貌していた。
「最初と全然キャラ違うね」
「こんな人が魔導士ギルドの創始者だなんて……最低ね 」
「なるほど…心中お察しします」
「お察しするんですか…」
「多分察し方間違えてますよそれ」
真面目な顔で答えるエルザ。真面目に答えているが、恐らくここは真面目に取り合うべきではないとウェンディとマルクはツッコミを入れる。だが、瞬時にエレフセリアの顔が真面目になる。
「だが、誰一人として戻ってこなかった」
「ギルダーツは戻ってきたぞ!」
「前回のやつじゃな?確かに…やつこそ唯一生還した男…無事とは言えん帰還と聞いたが」
ギルダーツは1度100年クエストを受けていた。その際、アクノロギアと出会い五体満足の体ではなくなってしまう。現在は1部義手義足で内蔵も1部潰れている状態となっている。
「━━━本当に、このクエストを受ける覚悟があるか?」
「だからここにいるんだ、俺たちは」
グレイのその言葉に覚悟を決める。その表情にエレフセリアは確信を得たのか。人数分の書類を取り出す。
「よかろう……では先に、この書類にサインをしてもらおう。100年クエストの依頼を決して他言しないこと、そしてこのクエスト中に依頼主及び魔法評議員は一切責任を取らないということ」
要するに、どこの組織も責任は取らない…ということである。そして、内容を語ることも禁ずるという話である。それだけ、100年クエストの内容は話すと要らぬ騒動を巻き起こすという話である。
「上等だ…!」
「それくらい覚悟の上です…!」
「はい…!」
「…やっぱ帰ろうかなあたし……」
「ルーシィ汁出てるよ」
「汗よ……でも━━━」
ルーシィは少しだけ葛藤する。だが、今回の100年クエストにおいて何か思うところがあったのか…覚悟を決めた目でサインを書き込む。そして、エレフセリアにそれを見せつけ……
「さぁ聞かせて頂戴!100年クエストの内容を!!」
「よかろう、内容は至ってシンプル━━━━」
だが、この100年クエスト…ナツ達が想像しているよりも遥かに大きく、重く…そして凄まじい冒険になるものとなる。
「ギルティナの五神竜と呼ばれる、5頭のドラゴンを封印せよ」
「ギルティナの五神竜…!?」
「5頭のドラゴン…!?」
「100年クエストって…」
「ドラゴン退治だったの!?」
「まだ、ドラゴンがいただなんて…」
各々が驚く中で、エレフセリアは説明を続けていく。ただの5頭のドラゴンではない、という事らしい。
「我が滅竜魔法を習得したのも、全てはその五竜を封じるため…しかしその五竜、『神』の名を関する破壊的な強さ。1頭1頭がアクノロギアと同格の力と言ってもよい」
かつてナツ達を…フィオーレ全員の力を借りてようやく倒したドラゴン、魔竜のアクノロギア。ギルダーツすら、一撃で生きてることが奇跡なほどのダメージを負わせたあのドラゴンと同格。本来、これを聞けば怖気付いてしまうだろう。
だが━━━
「へっ……燃えてきたぞ…!」
そんな程度では、この者達の覚悟と冒険は、止まらないのである。