FAIRY TAIL〜魔龍の滅竜魔導士   作:長之助

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番外編:悪魔の力

「━━━そー言えばよー…」

 

気だるそうな表情で、これまた気だるそうな声を出しながらテーブルに寝そべる姿を見せる男が1人。

アクノロギアを倒し、そして世界に平和をもたらした男…ナツ・ドラグニルの姿が、修理が終わりいつも通りの日常を過ごす妖精の尻尾(フェアリーテイル)のギルドにあった。

そんなナツの周りには、いつも通りのメンバー…ルーシィ・ハートフィリア、グレイ・フルバスター、エルザ・スカーレット、ウェンディ・マーベル、マルクスーリア、ハッピー、シャルルの姿もあった。

 

「なんですか、ナツさん。そんなだるそうな声を上げて。」

 

「暴れ足りないから『暴れさせてくれー!』っていうのは無しよー?」

 

「いやいや、そんなんじゃねぇけど。ちょっと思った事があんだよ…」

 

「んだよ、思った事って。」

 

ルーシィやグレイがナツに話しかけるが、ナツは相変わらずだらけているだけである。

 

「マルクの事なんだけどよ……」

 

「俺?」

 

「悪魔龍…だっけ?あれ結局どのくらい姿あんだ?」

 

顔だけを起こし、マルクに視線を向けるナツ。そして話されたナツの疑問に対してなるほど、と相槌を打っていた。

 

「7つ…じゃないですね、8つです。うち一つは、残り7つを全部合体させたようなやつなんで実質7つなんですけど。」

 

「7つ……でもよー、他の姿はあんまり見てない気がする…」

 

「そう言えば…確かにその通りだな。使えない理由でもあったのか?」

 

「まぁ、平たく言えばその通りです。」

 

「ほへー……なぁ、他にどんな姿があんだよ。」

 

ナツは体を起こして、興味を示しながらマルクに眼差しを送る。マルクは少し考えてから、『見せるだけなら別にいいか』と考えて1人で頷く。

 

「じゃあ、ちょっと移動しましょう。あんまり人気の多いところで使ったら、二次災害とか起こりかねませんし。」

 

「おぉ!見せてくれんのか!?」

 

「見せるだけですよ?戦闘能力が無い姿もあるんですから。」

 

こうしてマルクは、ナツ達に悪魔龍としての力を全て見せることにしたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっと…ここならいいかな?」

 

「本当に人気のない場所を選ぶんだな。」

 

「二次災害防がないといけませんし…やれることはやっておきたいんですよ。」

 

マルク達はギルドから出て、裏にある山…にある小さな洞窟に来ていた。明かりは外からの光だけなので、ナツの炎等で明るくしてから始めていた。

 

「…ひとまず口頭で説明なんですけど、俺の力は7体の悪魔の力によって構成されています。

暴食、憤怒、傲慢、怠惰、色欲、嫉妬、強欲…この7つです。」

 

「私達が見たのは、暴食、憤怒、傲慢、強欲…の4つだったわね。」

 

「その4つは、また後で見せますよ。とりあえず見せていない3つを中心に紹介します。

とりあえずグレイさん、厚めの氷の板お願いします。」

 

「おう。」

 

マルクに指示されて、グレイは一同と少し離れた位置にいるマルクの間に氷の板を隙間なく詰めていく。後で割るなり溶かすなりすればいいので、今はこれで済ませておくのだ。

 

「んじゃあ最初は…怠惰から行きましょう。モード悪魔龍、怠惰怠け(レイジネススロウス)。」

 

そう呟いたマルクの体に、呪力がまとわりついていき…まるで岩のような形になっていく。ひらべったく、ほれでいて分厚く大きい壁のような岩が作られていくのだ。

洞窟の天井にまで届きそうな程の大きさだが、届く前に変身が終わりきってしまう。

 

「……怠惰、と言ったな。それの力はなんなのだ?」

 

頃合を見計らってか、エルザが質問をする。心無しかそれが妙にキラキラしているように見えたのは、マルクの気の所為ではないだろう。

 

「自分の体の圧倒的な回復、それと圧倒的な防御力…それがこの姿の売りですよ。まぁその代わり、全く動けなくなるんで使い所に困ってるんですよね。」

 

「あぁ…今のように洞窟を塞ぐか、自分が狙われている時にくらいしか使えなさそうだ。」

 

「そう言うことです……じゃあ次、嫉妬いってみましょう。モード悪魔龍、嫉妬嫉み(ジェラシーエンヴィー)。」

 

そして、次の姿へと変貌していくマルク。しかし、次は岩のような塊から一変、まるでお伽噺に出てくるかのようなとんがった大きな帽子、そして明らかに身長に見合っていないようなダボダボの服のようなものを身に着けた姿へと変貌していく。

 

「…それは、悪魔なのか?」

 

「悪魔みたいです。別に俺が姿を決めてる訳じゃないんで…そこはどうにもなりません。」

 

顔は普通、身長や皮膚の色、髪の色目の色…どこをとってもただのダボダボの服を着たマルクにしか見えないのだ。その点はマルクも気になっているのか、少し不満げな顔になっていた。

だが、エルザやナツはもっと悪魔っぽいものを期待していたのか、ほんの少し落胆したような顔を浮かべていた。

 

「それで、どんな能力なの?」

 

「口で説明するより、こっちは見た方が早いと思います。グレイさん、手のひらに乗るような幅の氷の塊作ってもらってもいいですか?」

 

「ん?おう、その程度ならいいぜ。」

 

そう言って、グレイはマルクの手のひらの上に氷を生成する。程よい大きさのために、比較的見やすくなっている。

 

「んじゃあ行きますよー……ほっ!」

 

その掛け声とともに、氷に真っ黒な炎が氷を焼き始める。その炎を見た瞬間に、ナツは興味津々となったのか氷の壁に顔を貼り付けるほどだった。

 

「黒い炎!?それどんな味がすんだ!?」

 

「あの、これ炎に見えてるだけで全然別物ですからね?」

 

「あ?炎じゃねぇの?」

 

「えぇ、これは嫉妬の力で生み出された呪力です。まぁ熱さこそ感じますが……これはありとあらゆるものに燃やし、そして燃え尽きるまで消えることの無い嫉妬の炎なんです。」

 

「それを聞く限り、かなり使えそうなのに…なんで使わなかったの?自分じゃ消せないとか?」

 

疑問に思ったルーシィがマルクに質問をする。その質問に対して、マルクは少しだけ渋い顔をする。それで余計にルーシィは疑問に思わざるを得なかった。

 

「自分では消せるんですけどね…俺、戦うことはしますけど……相手をわざわざ苦しめるマネはしたくないんですよ。」

 

「どういうこと?」

 

「ルーシィさん、自分が燃えたら声を出します?」

 

「当たり前じゃない、というか燃えてるのに悲鳴をあげない人間なんてそうそういるわけ……あっ…」

 

ここでルーシィ、マルクの言いたいことがわかったのかマルクと同じ様に渋い顔になっていた。

他のメンバーはわからないのか、首をかしげていた。

 

「どういうことだよ、ルーシィ。」

 

「これ…相手を倒すまで、相手の悲鳴を聞き続けなきゃいけない…ってことじゃないの?」

 

「……あー、なるほど。」

 

「そういう事です。自分で消すことも出来ますが、そのためには相手を殺さない…そして五体満足でいられるようにしておかないといけないので…どっちかというと、拷問向きなんですよね、この力。」

 

全員が納得の渋い顔になっていた。何が楽しくて相手の悲鳴を聴きながら戦わないといけないのか、どんな相手でもそのように一方的にただただ痛めつけるのだけは、全員があまり好まないものであった。

 

「……と、とりあえず次は色欲だけど…」

 

「んぁ?どうしたルーシィ。」

 

「ルーシィさん?お顔が真っ赤ですよ?」

 

色欲と聞いて、顔を真っ赤にするルーシィ。他のメンバーは意味そのものがわかっていないのか、首を傾げていた。因みに、マルクもよく意味がわかっていないのである。

 

「し、色欲ってね……その…」

 

ルーシィは手招きをしてマルクを除いた全員をその場に集めて小声で話し始める。とは言っても、滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)であるマルクにも問題なく聞こえる距離のために、マルクはその場で聞き耳を立てる。

 

「…………え、エッチな意味として使われることが多くて……」

 

長めの溜めの後に、ルーシィはその言葉を漸く吐き出す。そして、出された言葉を聞いて一同顔を真っ赤にしてマルクの方に視線を向ける。唯一、ウェンディだけが顔を真っ赤にしながら完全に頭を抑えていたが。

 

「べ、別に俺のはそういうのじゃありませんからね!?と、とりあえず見せてあげますよ!!モード色欲艶やか(グローシーラスト)!!」

 

そう言って、最後の紹介が行われる。マルクの姿が、まるで繭のように変貌していく。その後、その繭らしきものから何本もの触手が生えていき、今まで以上に完全な異形として変貌していく。

そして、その姿の最後に……繭らしきものの中心に、大きな眼球が現れる。つまりは、1つ目である。

 

「「「ぎゃああああああああ!!」」」

 

「うわああああああああああ!?」

 

その姿に驚き、そして恐怖を抱いたルーシィとナツとウェンディ。そしてその声に驚いて大声を出すマルク。

 

「これは…相当……」

 

「なんでそれだけ手足すらないんだよ……」

 

「あぁ、うん……やっぱり気持ち悪いですよねこれ……」

 

「口ないのにどうやって喋ってんだ……?」

 

グレイがそのことに疑問を呈した直後、エルザがマルクを見て少し疑問を覚える。目を凝らして、その違和感がちゃんとあるのを確認してから、マルクに声をかける。

 

「マルク、今お前の体から出てる煙はなんだ?」

 

「あぁこれですか?吸ったら寝て、起きるまでいい夢しか見ない煙です。」

 

「……見た目に反して、随分といい能力にも思えるが…」

 

「……いい夢、ってどんな…?」

 

「……その辺は俺にもわかりませんよ。この力で見せる夢、ってのは決められてませんし…」

 

少し怯えながらも、ルーシィはマルクに質問をする。この異形の見た目でここまで驚かれると多少は傷ついているのか、直ぐにマルクは元の姿へと戻る。

 

「あー……氷溶かしていいか?」

 

「…今はやめた方がいいですよ、色欲の力で生み出した煙は俺が元の姿に戻っても消えませんし…皆さんが先に洞窟出てから、俺が自分から出てくる方が安全です。」

 

「なるほど、ならば我々は先に出ておくか…洞窟の外で落ち合おう。」

 

「はい。」

 

一同はマルクの言うことを素直に聞き、そのまま洞窟から出ていく。それを確認してから、マルクは少しだけ笑みを浮かべていた。

悪魔の力、本来ならば忌み嫌われるその力だが、仲間であり家族でもあるギルドメンバー達は、この力を怖がることは無かった。

無論、先程のようにいきなりでてきた場合は恐怖し驚くこともあるが、それはお化け屋敷で出てきたお化けに恐怖を抱くようなものであり、一時的な驚きと恐怖なだけである。先程のウェンディとルーシィはその類だった。

 

「正直、あの姿をいきなり見せられたら誰だって驚くけどな……」

 

そう苦笑しながら、マルクは深呼吸してから氷を割るために一撃を繰り出す。氷は簡単に割れて、マルクは割れたことを確認してから洞窟から歩いて出て行くのであった。

 

「おっ!やっとでてきたか。」

 

「さ、さっきはごめんね?マルク……」

 

「いや、あれいきなり見せる俺も悪かったし……」

 

「おーい、さっさと帰んぞー……」

 

「マルクのあの力…皆で話し合えば、きっと使いやすくなると思うんだよ。」

 

それぞれが言いたいことを言い、それで会話しながらギルドへと戻っていく。

外に出て家に帰る…これは、そんなとある日常の物語であり……とある何気ない日の話なのである。




というわけで番外編投稿です。
この小説は一旦これで完結とさせていただきます。100年クエスト編はどうするかまだ悩んでますね……
書くにしても、前話で書いたこともあり、しばらく間を置いてからになると思います。
それでは皆様これまでありがとうございました。

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