ギルティナ大陸中央の街、ドラシール。一同はここに木神竜アルドロンの情報を求めてやってきていた。この街はとても活気に溢れており、大きさだけで言えばフィオーレのクロッカスを超えるほどの大きさを持っていると言っても過言では無いだろう。
「人が多いな…」
「迷子にならないでよ、ウェンディ」
「え…私…?」
「見てくださいグレイ様!!あそこのパン屋可愛いですよ!」
「お、おう……」
ドラシールに向かう列車の途中でであったジュビア。本来、ギルティナ大陸に来ることは滅多に有り得ないはずなのにも関わらず、何故か彼女は着いてきていた。『100年クエストに行ったグレイを追いかけてきた』と言えばいつも通りだが……
「……グレイさん、かなり大きな失礼を承知で聞きますけど…どう思いますか、ジュビアさんのこと」
「マルク、お前はどう思ってんだ?」
「………正直、違和感があります。100年間、クエストを誰もクリア出来ていないから『100年クエスト』なのに。その危険性を、ジュビアさんが分かってないとは到底思えないんですよ。それに……うぅん……」
「……どうした?」
言葉を詰まらせるマルク。怒っている訳でも無く、ただ怒っているこの状況に対する回答が欲しかったので…グレイは威圧しないようにマルクに聞いていた。
「…こればっかりは、俺しか分からない体感なんですけど…魔力の感じが、変なんです」
「変……って言うのは、誰かがジュビアに化けてるとか魔法で操られてるとか…そういう感じなのか?」
「…そういうのでは、無いです。本人の魔力っていうのは確実なので…そこまで細工するのも難しいでしょうし……ただなんというか…言葉にしづらいな…モヤが、かかってるような…」
「…モヤ?魔力にか?」
「はい……魔法による洗脳だったら、僅かでも相手の魔力が入り込んでるので俺なら除去が出来ますけど…そういうのも感じません…ただ、何だかジュビアさんの魔力が認識しづらいというか…」
悩みながらも、自らの体感を語るマルク。グレイはその言葉と、今のジュビアの様子を見て思考を巡らせる。ジュビアの様子は、見ていた普段と変わりがないものだった。だからこそ、今の状況は違和感があった。
「……それに、列車内の会話でもそうですけど…」
「お前聞こえてたのかよ、酔ってたのに……でもまぁ、違和感はあった。ギルドのことを聞いた時…妙な感じがありやがった。確認だが、メストみてぇに記憶操作されててもわかるのか?」
「それは…タイミングにもよりますね。俺達が
「…なんにせよ、気にしといた方が良さそうだな」
「ですね…」
警戒心は強めておくが、しかしだからといって目の前にいるジュビアに言う訳にもいかず。時間も少し遅い時間帯でもあるので、一旦この件はマルクとグレイの中に秘密にしておくのであった。
「さて、まずは宿だ」
「あいさー!」
「折角だから大きい所にしようよー!」
「そんなお金どこにあるのよ」
「小さいのでいいよ」
「なんで私の方を見るんですかナツさん」
こうして一同は、宿へと向かった。狭すぎずかと言って予算を超えるような場所でもなく。手頃な宿が見つかっていた。そこに入って腰を落ち着け…改めて一同で話し合う。
「100年クエストの内容は言えない?」
「折角来てもらったのにすまないな…こればかりは契約で仕方がないんだ。
「はい!大丈夫です!」
「契約抜きに…下手に話してたらどこかで漏れるかも知れませんしね、そうなると面倒なの引き寄せかねませんから」
「マルクの言う通りねぇ…でもそうなると、私達と一緒に行動できないんじゃ…」
「仲間に加えたら?」
「いや…1度した契約は絶対だ」
「大丈夫ですよ、ジュビアはすぐ帰ります…グレイ様の顔を一目見たかっただけですから」
体を持たれるように押し付けながら、ジュビアはグレイに目線を向ける。困りながらも、グレイは拒否することはしない。言葉には表すことは滅多にないが…それだけジュビアのことを受け入れているということである。
「大人しく待っとけよ……」
「ちゃんと帰ってきてくれます?」
「そりゃ帰るよいつかは」
呆れ困り果てながらも、グレイはジュビアと向き合う。しかしジュビアはため息を吐きながらその心情を吐露していく。
「ジュビア心配で心配で……」
「大丈夫よ、あたし達が一緒にいるんだから」
「ルーシィが1番そばにいるのが心配で……恋敵だし」
「大丈夫よそっちも…」
ジュビアは未だにルーシィの事を恋敵扱いしていた。一応仲間としては大切に思われているが、そういったのを抜きにしての好き嫌いの話では今の所ジュビアはグレイの中で一番だからこそ今の関係性なのだが……水の魔法を使う割には、嫉妬の炎を燃やしやすい性格は相変わらずの様である。
「じゃあ仕事の情報集めは明日からってことで!」
「うむ…今日はパーッとやろう!」
「わーい!」
そうして一同は宿から飲食店へと移動し、そのまま食事を始める……のだが、いつもの勢いで食事を進めて…酒を頼み飲み始めて……酔いが回り始めて………エルザが悪酔いし、グレイとナツが酒飲み勝負を始め、ルーシィが甘えんぼになり、ジュビアはグレイを煽っていた。ウェンディはエルザを止めようとしていたが、マルクがウェンディとシャルルとハッピーと共に少し距離を置いて見ることとなった。酔ったエルザは、凄まじいので避けるしかないのだ。巻き込まれて痛い目を見た故の、対処法である。そして、それだけ騒げば当たり前だが……追い出されてしまった。
「お前があんなに騒ぐから追い出されてしまったではないか!」
「俺だけのせいじゃねぇだろ!?」
前の方でナツとエルザがやり取りしている中で、ルーシィはドラシールの地図とにらめっこをしていた。その様子があまりにも真剣だったので、ウェンディとマルクは一緒に覗き込んでいた。
「どうしたんですかルーシィさん」
「うん……ちょっとこの街の地図見てたんだけど…なんかこの街面白い形してるのよねぇ」
「……あ、ほんとだ…街っていうか…土地がなんか面白い形……あれ、これ…手じゃないですか?」
「手?あ、確かにそれっぽいかも……でもなんでこんな形なんだろ?」
「あ、もしかしてこの手が木神竜に見立てられてて…その上に作って動けないようにしたから
「あはは、それありそ〜」
「でも、確かにそういうのありそうですよね」
ルーシィとウェンディがマルクの推理に微笑んでいた。エルザがナツと、グレイがジュビアと、マルクとウェンディがルーシィと話してる中でそれぞれが楽しそうに過ごしていた……が、その平穏は直ぐに破られる。
「━━━ジュビア!!」
突如として聞こえてくるグレイの声。前にいた全員が振り返り、グレイとジュビアに駆け寄る。どういう訳か、ジュビアが意識を失ってしまったらしくグレイ抱きしめていた。
「どうしたの!?」
「ジュビアさん!?」
「グレイさん、今何が起こって……うおっ!?」
「うわっ!?」
「地面が…!」
「なんだこれは…!」
「地震!?」
「大きいぞ!!」
だが、これだけでは終わらなかった。突如として地面が大きく揺れ始める。全員まともに立っていられないほどの大きな地震……だと思われていたが、それが地震でないとすぐに体感で気がついた。何故ならば、
「いや、これは…!」
「地面がせり上って…!」
「何なんだこの街はー!!」
「てか…街の人みんな平気なの〜!?」
「平気と言う割には、座ったり寝転んだりで異常っちゃ異常ですよこれ!!」
だが、ドラシールの街の人々は地面に座ったり寝転んだりはしているものの…皆平然とした顔をしていた。まるで、これが日常であるかのように。
「あらあら旅の人かい?何の前情報もなくドラシールに?」
「何なんですかこれはー!!」
「私達は毎日同じ時間にこれだから時報みたいに扱ってるけど、初めてじゃビックリするわよね」
「ま、毎日同じ時間ですか!?」
声をかけてきた住人。その人物が言うには、この振動を時報のように扱っているとの事だが……それならば、とマルクは納得していた。この振動自体は異常な事そのものだが。
「大丈夫よ、直ぐに止まるから。それより座った方がいいわよ?………大地に……いいえ、大いなる木々に祈りを込めて……」
「木々…!?きゃんっ!!」
一同は尻もちを着く形で座り込む。その際、ルーシィが持っていた地図が、彼女が尻もちを着いた瞬間に手を離れ空中に舞った。その際に見えた地図の形……それが、ルーシィに閃きを与えた。
「あ…!マルクの、言った通り…手だ…!この街、土地…手なんだ…!」
「手!?」
「え…る、ルーシィさんそれって…!」
「まさか、私達がいる場所は……!?」
そして、地震が起こったまま…街に影が入る。雲で太陽が隠れた…などというものでは無い。何かが完全に日光をシャットアウトしたのだ。
「そうよ……『手』。ドラシールの右手……いいえ、
「アルドロン…!?」
「手の上に、街が…!?」
「てか、あたし達…」
「アルドロンの上にいるんですか…!?」
「っ…!だから、ここら辺の魔力が変な感じだったのか…!?アルドロンの魔力が、そこらから感じ取れちゃうから…!?」
「でけぇとは聞いてたけど………デカすぎだろ……」
ドラシール……それは、木神竜アルドロンの右手の甲の上にできた街。その大きさだけでクロッカス並を誇る。木神竜アルドロン……山数個分、街数個分等では収まりきらないほどの大きさ。このドラゴンの大きさを何かで比較するのであれば……大陸と比べねば、話にならない。
「……ど、どうするよ……やるか?」
「やめとけ……お前の全力どころか、俺達の全身全霊の一撃をぶつけたとしても右手にかすり傷がいいとこだろ…」
「デカすぎて……硬いとかいう次元じゃないですからね…」
アルドロンはでかい、それはもうでかい。比較したとしても、今のナツ達ではノミ以下のサイズ比だろう。そうなれば、ただ闇雲に攻撃するだけじゃあ通じない可能性の方が遥かに大きい。
「……一旦、宿に帰りましょう。ジュビアもいるし」
「…だな」
「宿で話し合いだな…」
1度、全員で宿に戻り話し合いをすることに。ジュビアの事もそうだが、アルドロンの対策も考えねばならないためである。頭を一旦冷静にしていかないと、できるものもできなくなってしまう可能性が大きいのだ。そうして、宿に戻った一同は改めて腰を落ち着けて話し始めていく。
「ジュビア…大丈夫かなぁ」
「ずっと眠っているな…」
「なんか様子がおかしかったんだ……話してる時に、ギルドの様子を聞いて…そこから頭抱えだしてよ。そしたら、『白魔導士に気をつけろ』みてーなことを言って……」
「白魔導士?」
「どこかで聞いたような…」
「カラミールさんから聞いた話に出てきた人物です」
「…水神竜の魔力の制御権を奪って、暴走させた人物ですよ。相手の魔力の制御権を奪う力がある……」
「なんでジュビアの口からその白魔導士が…」
「まさか、ギルドに何かあったのか?」
ジュビアの口から出された『白魔導士』の単語。メルクフォビアを暴走させ、ナツ達と戦闘をさせたという事でナツ達も無関係な話ではない。だが、その無関係では無い存在がどうしてジュビアの口から語られたのかは…分からないのである。
「とにかく、ジュビアの事はしばらく様子を見よう。目を覚ませばまた何かわかるかもしれねぇ」
「私達はアルドロンのことを考えねば」
「ここがアルドロンの上なんだよな?」
「まさか探してたドラゴンの上に街があるなんてね……しかもここと同じ規模の街が左手、両肩、それに背中…合計5つ……スケールが大きすぎて訳が分からないわね」
「……けど、どちらにせよ…『倒していいのか』って問題はありますよね。アルドロンと5つの街は共生してる…アルドロンを倒したら、街がどうなるか全く分からない」
「そうよね…アタシもそこが気になってるの」
マルクの言葉に、ルーシィが同意する。この街…ドラシールの街達は、アルドロンの上に成り立っている。つまり、アルドロンを倒してしまった場合インフラは愚か下手をすればギルティナが誇る大きな街が消えてしまう可能性があるということである。そして、そこに住む人々にも大きな影響が出てしまう。マルクとルーシィは、それを危惧しているのだ。
「今回もアレか!?悪いドラゴンじゃない系か!?」
「無い系みたいだね」
「そうとも限らねぇ、まだ情報が無さすぎる」
「そうね…今後どうするにしても、まずは情報を集めないとね」
「よし、情報を集めに行くぞ!」
「俺ァジュビアを見てる 」
「私も一応残ります」
「念の為に俺も…」
こうして、情報を集めることになった一同。だが、倒れているジュビアもいるためにチーム分けで3:3で別れることとなった。情報集めチームとしてナツ、ルーシィ、エルザ、ハッピー。ジュビアを見るチームとしてグレイ、ウェンディ、マルク、シャルル。情報集めチームの4人は一旦外に出て、残りの4人はジュビアの様子を見ながら少し話をすることとなった。
「……グレイさん、1ついいですか」
「……なんだ」
「ジュビアさんは…いえ、多分ですけど…ギルドの皆は恐らく白魔導士に操られています」
「そんな…!?」
「ちょっと、あんた何を根拠にそれを…」
マルクの言葉に驚くウェンディとシャルル。グレイはあまり驚いていなかったが、それでもショックがあったのか、強く、拳が握られていた。
「……ジュビアさんの様子がおかしいことと、『白魔導士に気をつけろ』という言葉。そして白魔導士の…魔力を奪った相手を操る力…それを考えたら…もしかしたら、ジュビアさんは操られて━━━」
「━━━ジュビアは、操られてはいません」
「「「っ!!」」」
マルクの言葉の途中で起き上がったジュビア。そして、操られていないという言葉にマルクは少し警戒を強める。はっきり言えば、操られているかもしれない相手からの『操られていない』という言葉はあまり信用出来ないからだ。
「白魔導士には…2つ、人格があって…もう1つの人格…トウカさんの力によって、解放されています。それで、皆に伝言を…」
「どうも信じられねぇ話だが……」
「今は何故か皆生かされてるけど…彼女の気分次第でいつ殺されてもおかしくない状況にいるの…早く、みんなを助けないと…多分、みんなこの街に…!」
「…行きましょう!!ナツさん達と一旦合流しないと…!」
「おう!!」
何とか起き上がったジュビアを連れて、待機メンバー達も外へと出る。ウェンディの鼻とマルクの魔力探知を使ってナツたちが使った場所を探していく。
「あ…!あそこの教会からナツさん達の匂いが…!」
「うしっ!!」
「…!この感じ!!ギルドのみんなが中にいます!」
「なら、危ねぇかもしれねぇな…!一気に入るぞ!!」
「「「はい!!!」」」
グレイの掛け声とともに、全員教会内に突撃する。そこでは、一同には見慣れない人物…白魔導士トウカが立っており、その後ろには謎のローブを羽織ったギルドのメンバーが立っていた。だが、トウカが手をかざしているせいかナツ達は具合が悪そうになっていた。
「ナツさん達の様子がおかしい…!」
「なら私が…!状態異常無効化!レーゼ!!」
「ッ!!!ウェンディ!!」
ウェンディの魔法により、ナツ、ルーシィ、エルザ、ハッピーはトウカの魔法から解き放たれたのか立ち上がり構えをとる。それに合わせて、グレイとマルクが飛び出して魔力を込めていく。
「アイスメイク
「滅竜奥義!!
グレイが氷の壁を造形し、マルクがそれを媒介に魔力を吸収する壁を生み出す。エルミナでもやった防壁コンボだが、ここまでのものを作りあげれば大抵の魔導士は破壊することは難しくなる。
「グレイ!!マルク!!」
「一旦引いてください!!」
「皆操られてるのよ!!」
「ジュビア!シャルルも!!」
「これだけ念入りに壁を作ったんだ…!」
「魔導士である以上、破壊は難しい…!けど何でかな、嫌な予感が…」
マルクの予感は、的中していた。トウカは焦った様子も無く。淡々とラクサスとギルダーツに視線を向けて、同時に指示も出していく。
「……ラクサス、ギルダーツ」
「おう」
「任せろ」
その短い返事の次の瞬間には、
「マジかーッ!!!??」
「おかしいでしょどう考えてもーッ!!!」
「逃げてください!」
「退却よーッ!!」
「くっそォーっ…!!」
後ろ髪引かれる思い、全員を残したまま一同は退却するしか術がなかった。逃げる最中、マルクが追ってが来ないことを不思議に思ったが…恐らく別の目的があるのかもしれないと考えて、一旦逃げることに集中するのであった。