「どういう、事だよ……」
「今言った通りです。私は
「………俺の体質は、魔法を吸収する…だけど、魔法に完全な耐性を持つわけじゃない。多少の影響は…受けるけど…こんな事、今まで1度も…」
「しかし、現実に起きている…妖精の球は絶対防御…その魔力が今も貴方の体に残っていた…というのが事実です」
目の前のメイビスの様な少女から伝えられた言葉。その事を、マルクは懐疑的に見ていた。唯でさえ、虚像とはいえスプリガン
「……それで…一体、なんの用なんですか…」
「言ったでしょう『逃げるのですか』と」
「逃げ………じゃあ、どうすればいいんだよ!!敵を倒そうとしたら仲間を殺して!!反撃できなかったら敵からも味方からも殺される!!そんな状況で…一体、どうしたらいいんだよ…」
マルクは吼える。心の底から、溜まっているのを吐き出すかのように叫ぶ。事実、この現状からの打開策をマルクは全く思いつかないでいた。現実では4分ほどだが…体感時間を弄られているために、彼は約6年半ぶっ通しで殺し、殺され続けている。
「はぁはぁ……嫌、なんだよ…夢の中だって…分かってるのに……手に血が着いた感覚があって、味方が冷たくなってるのが感じとれて、ヌメっとしてる感覚が…離れなくて……………」
「では…諦めているのですか?」
「わかんねぇんだよ…何も思いつかなくて、どうしようもなくて……こんなの、諦めるしか………」
「ではなぜまだ頑張っているのですか?数年分……貴方はずっと同じことを繰り返している」
悲観していたマルクの肩が、一瞬震える。そう、まともな人間であれば1年も休まずに殺し殺されを続けていれば、精神がおかしくなるだろう。だが、マルクは諦めずにまだ心を保てていた。
「それ、は……」
「敵に殺されることより、味方を殺してしまう事より…嫌な事があるから……まだ、諦めきれてないんじゃないですか?」
「…………………」
マルクの唇が震える。言葉を紡ごうとしても、息と発声しようとする意思が噛み合わない。諦めきれてないと言われたが、今までの恐怖が彼を壊していってるのも…事実なのだ。
「……安心してください」
「ぁ…」
「貴方は強い。実力としての意味じゃない…心がとても強い子。だから、思い出して……貴方が大切な人は…誰?」
「ぉ………俺、の…大切な人……」
仲間達の顔が浮かぶ。浮かんで、浮かんで……最後に浮かんできたのが……ウェンディの顔だった。
「……ウェンディ……ウェンディ…!!」
「そう、その調子……貴方は、その子のことを…どう思ってるの?どう思ってるか、改めて…ちゃんと考えて?」
マルクは言われるがままに…ゆっくりと考えていく。家族?確かに昔から一緒にいたから間違ってはいない、しっくりも来る。しかし、妹と言われるほどの関係では無いし、姉と思うほどに彼女に甘えることもない。故に違う。親友?これも間違いではない、事実ウェンディの事に関してはシャルル並に知っている自信があるからだ。しかし、それもしっくり来るが何かが違うと直感が囁く。
では、何なのか。マルクは考える。考えて考えて……1つの、きちんとした答えにたどり着く。
「━━━好…き………」
「……その好きは、どういう好き?」
「………家族とか、親友みたいにずっと一緒で…けど…守ってやりたいとも思ってて…家族なら…多分…親とかが、守るのかも…しれない…」
「親友とか、仲間なら……互いに信頼して…守って…守られて、で……」
ナツ、グレイ、エルザ、ルーシィ…仲間と戦う時は信頼し、背中を預けて助け合いながら戦っていた。
「……けど、その…俺がウェンディに感じてる……好きっていうのは……」
ウェンディが傷つけば怒る、それはおそらく仲間という観点で見ても同じだろう。しかし、違うと確信していた。
一緒にいて居心地がよく安心する、それは恐らく家族という観点で見ても同じだろう。しかし、それも違うと確信していた。
「なん、ていうか…えっと……一緒に、ずっといたくて…けど、触れ合うのも難しいくらい…熱くなって……俺にとって、絶対に必要だって…感じさせてくれるくらいの…気持ち…!」
マルクの吐露。それを聞いた少女はゆっくりと微笑み、満足そうに一旦マルクと距離を置く。
「……ふふ、よく言えました。なら…その好きな相手が…傷つくのは?」
「ッ…!」
マルクは考えてしまった。今こうしている間にも、もしかしたら自分が相手していた敵がウェンディに向かっているかもしれない、と。ならこの夢でやってしまったように……相手が、ウェンディを殺してしまうかもしれない、と。
「……今、貴方がこうやって無事でいるのは…妖精の球によって精神を隔離したから……そして、残っている妖精の球の魔力と…もうひとつ別の魔力を使って…貴方の今ある限界を…突破させる」
「限界を、突破…?それに、もう1つ別の魔力って…」
「━━━それに関しては我から説明を行おう」
「っ!?アクノロギア!?……いや、さっき言った魔力か…」
そこに現れたのは褐色の肌に青い髪…約1年前に戦った竜王アクノロギア。それの人間としての姿であった。だが、メイビスに似た少女と同じように…その輪郭はぼやけており……即座にマルクはその存在がどういう存在なのかを、認識していた。
「そう、我は竜王にあらず……貴様がアクノロギアと戦った空間…あそこに溜まっていた、時の狭間の魔力だ」
「確か…アンナ先生が言ってた…無の魔力ってやつ…?」
「そうだ」
アクノロギアとの最終決戦。アクノロギアが食らった無の魔力。それは、マルクも同じように体内に蓄積されていたのだ。しかし、それをマルクは認識していなかった。
「……けど、妖精の球と無の魔力をどうやって使えば…」
「……私たち2つは、言えば外的要因。けれど貴方の中には覚醒しきれていない力があります……そう、
「……………あ!!!」
大魔闘演武直前、ナツ達はとある事情で直前まで魔力を跳ね上げることができなかった。だが、ウルティアの時のアークの力により新たな可能性…第二魔力源を解放することでそれを解決したのだが……マルクだけはそれを解放できていなかった。故に、彼の潜在能力は未だ隠れたままである。
「第二魔力源を媒介に…妖精の球を貴方の体の中に作ります…そしてその妖精の球を核として━━━」
「無の魔力を全て注ぎ込み…時の狭間…のようなものを作る。アクノロギアと対峙した時のような、触れたら終わり…などと言う程のものでは無いが…例えて言えば魔力だけ出入り可能な異空間という所か」
「……それを、作って?」
「貴方がこの大陸に来た時から…エレフセリアに布を貰うまでの間に体調を崩していたのは、魔力がオーバーフローしたから。ですがその出入口があれば…魔力のオーバーフローは事実上無くなります、それどころか貴方のエーテルナノの吸収速度を考えれば……」
「……擬似的な無限の魔力となる」
「無限の魔力…」
説明されても、あまりのことに実感が湧かないマルク。理解出来ている範囲だけで言えば、エレフセリアの布がなくても問題がない…ということである。
「……ですが、それだけではおそらくあの人数に勝つには難しいでしょう…唯でさえ貴方の体は今ボロボロなのだから」
「だから……先程言った出入口に…あるものを入れて…ありったけの魔力で膨らませ…吐き出させる、それで力が手に入る…けどそれは安定しない。安定するためには…まぁこれは後で説明しよう」
「……あるものって?」
「あぁ…まずはそれの説明だ……出入口に入れるあるもの、それは━━━━」
,
「……やけに揺れているな」
「オーブが壊れたんじゃないのかい?」
ドラシールの街、マルクを倒した魔導士ギルドディアボロスのドラゴンイーターの2人…レークとダーツの2人。そしてその2人によって生み出されたスプリガン12とネバルが、いまだ眠るマルクを囲っていた。
「にしてはやけに………ぐううぅ!!?」
「うるさ…!?」
「ッ…!!竜巻に天下五剣をエンチャント!さらにワールの体質も使わせてもらう!!
突如として響き渡る轟音。何かの叫び声のようにも思えたが、それを気にする余裕もなく咄嗟に防音策に走るアイリーン。竜巻を発生させ、音を斬り裂く為に天下五剣を…そして相手に合わせて進化、強化を行うワールの体質とコピーし、適応するオーガストの魔法を魔力を借りてエンチャントを行う。これにより、ようやく凄まじい轟音から耳を守ることができるようになった。
「ッ……!なんだよ、今の轟音!!つか、なんか地面傾いてねぇか!?」
「……アルドロンが目覚めたのか!!」
「何でだ!!オーブが壊れてるから壊さないように暴れてんのか!?」
「そこまでは分からないが…!現に動いている!!」
突如として傾いていく地面。流石の事態に一同は困惑し、焦り始めていた。幾ら強者であるスプリガン12もここまで巨大なドラゴンを相手にするのは初めてだからである。
だが、困惑の中で……レークは見た。目の前で夢を見ているはずのマルクが、目を開けているどころか……拘束を解き、レークの付けた魔力吸収抑制の布を外しているところを。
「なっ!?貴様なぜ目覚めて…!?」
「……お前ら、ウェンディを傷つけやがって…!」
「ウェンディ…?あぁ、あの女か。ネバルが食おうとしてたな!!なんだ、その女を守りてぇから目覚めたってことか?」
「……」
マルクはケラケラと笑うダーツを睨みつける。笑うダーツに対して、レークはすっかり困惑していた。内蔵を破壊され、心も折れているはず…なのに、どうして?と。
「おい、応えろよ」
「……あぁ、そうだ。守りたい、好きだから…!守りたい!!てめぇら!人が好きになった女に手を出しといて、無事で帰れると思うなよ!!」
一気に魔力が噴出するマルク。その異様さに、先程まで笑っていたダーツも何事かと目を丸くしていた。先程までボコボコにされ、そしてレークが心を折ろうとしていた人物がこちらを睨みつけているのだから。
「……今からやるのは!!ウェンディを傷つけたてめぇらに与える…制裁だ!!!」
マルクの腕に、鱗の模様が浮び上がる。その様子を見て…レークもダーツも、少し安堵していた。面倒だが、今マルクが行っているのはドラゴンフォースだと感じたのだ。
「人であり、悪魔でもあり━━━」
腕の鱗の模様が…黒く変色していく。そして、鱗は顔にまで拡がっていき…段々と牙が伸びていく。
「……なんか、様子がおかしくねぇか」
黒くなった腕に藍色の紋様が描かれていく。そして、爪が伸びていき…太く、硬くなっていく。獲物を切り裂く、爪である。
「ドラゴンフォース…じゃないのか……?」
髪の色が、真っ黒に染まり…
「
そして、魔力によって…まるで翼のようなものが形成される。さらに今度は、
「貴様らを滅竜する!!」
マルクは大きく吼える。その『圧』はこの場にいた者全てを圧倒し…畏怖させる。そう、マルクは唯のドラゴンフォースでは収まらず。その変身によって与えられたインパクトはまるで………
「ど、ドラゴン……!?」
「ば、ばかな…なんで、こいつがここまでの圧を……!」
『ドラゴン』
この一言に尽きるだろう。ドラゴンから感じるプレッシャー、今2人は、それをマルクたった一人に植え付けられてしまったのだった。
『……安定しないままに使える時間は3分だ』
マルクは、目覚める直前に教えられたことを再度頭の中に繰り返す。許された時間は3分。それまでに、安定させる為の『材料』を集めていかねばならない。
『この力を使う為には…貴方の中の滅竜因子を使わねばなりません…そして、それに大量の魔力を当て肥大化させ…力に変える』
メイビスの様な少女が言っていた言葉、しかしこの力…今この間、安定していない今の間だけはマルクにとっての諸刃の剣となっていた。
『貴方を倒したスプリガン12…虚像とはいえ、魔法や魔力は本物…3分以内に全て取り込み安定させる材料としてください』
『さもなくば……肥大化した滅竜因子が、一度は耐性のついた『竜化』を進行させるだろう』
そう、この力は…安定しなければかなり危ない時限性……3分を超えた途端、マルクは完全なドラゴンとなってしまう。だが、ヤケクソになっている訳では無い。好きだとはっきり認識したウェンディのためにも、無事に帰るためにも、3分で全てやり遂げる……それがマルクの覚悟である。
「3分ありゃ充分だ!!これが、これが俺の新たなる力!!その名も━━━━」
━━━モード越魔龍━━━