「━━━━ッ……ってウェンッ…いない…シャルルも……」
突如として体が光り始め、宿から姿を消してしまったマルク。彼が消えた後、彼自身は外へと移動していた。無論、移動した記憶は無いので、転移や転送の類の魔法だということを直感で理解する。
だが、問題が幾つか起こっていた。1つはウェンディとシャルルが移動する前には居たはずなのに、今は傍に居ないこと。
「…場所が分からない…それに、魔法が…」
そして2つ目は現在地が全く掴めないこと、3つ目は魔法が一切作用しないこと。色々考えられる線はあるが、いずれにせよ何者かの攻撃というのが今のマルクの考えられる線最も有力な候補だった。
「クソッ…そうなると下手に移動できないか…?呪力は…使えそうか…なら傲慢か暴食で…いや、飛んだ方が…あぁもうめんどくさい!モード悪魔龍!
マルクは体を肥大化させ、翼を生やして空を飛んだ。だがあまり高く飛びすぎるともしはぐれたウェンディやシャルルがいた場合気づけない可能性があるので、そこまで高くは飛べないが。
だが……10分ほど飛んだ後でふと、嗅いだことのある誰かの匂い…そして気配を感じ取るマルク。その匂いが強い場所に着地し悪魔龍を解除する。そこにいたのは白い髪を携えた少女…白魔導士がいたのだ。
「ッ……」
「白魔導士…!まさか俺たちを分断して………」
マルクは即座に、目の前の白魔導士が起こした異常事態だと考えた。故に即座に短剣を構え戦闘態勢へと移る……だが、彼女の様子をよく見てみると明らかに怯えと不安が混ざったような表情となっていた。これが演技だとは、マルクは思えなかった。
「ごめん、なさい…私…気が動転して…とんでもないことを…」
「…?この異常事態、起こしたのはお前でいいんだよな?」
「……」
白魔導士は、怯えながらもこくりと頷く。少し考え、マルクはある推測を立てる。何かしらの方法までは、白魔導士が考えていたこと。しかしこうなった結果に対しては、白魔導士の計算外だったということである。
「…何でこんなことを?」
「私の……私の世界、エレンティアに戻ろうとしていたのです。その時に…アルドロンを倒した貴方々を連れていこうとして…」
「…エレンティア?それに、何でアルドロンを倒した話が出てくる?説明しろ…けど、嘘は吐くなよ?」
再び頷く白魔導士。警戒は少し緩めているが、それでもアルドロンを巡ったイザコザの1部を起こした元凶に、マルクはいつでも攻撃できるよう心構えをしていた。
「…まず、私の名前はファリス。こことも…アースランドとも違う世界、臨界魔法世界エレンティア出身です」
「…エドラスとも、アースランドとも違う世界…」
エドラス……魔力が有限でありマルク達が関わった事件によって、完全に魔力が失われた世界である。だが、そことも違う世界の出身というのを白魔導士…ファリスはそう言った。
「私は数年前に、ある目的のためにアースランドにやって来ました」
「数年前…?白魔術教団はもっと昔からあるはずだ」
マルクはここで警戒を高める。ファリスの言ったことを、嘘だと思ったからだ。何故なら、白魔導士という名前も元々はそれを崇める白魔術教団があったからこそなのだから。
「白魔術教団自体は…元々あった組織です。けれどそこのトップが行方不明なことをいい事に、私は成り代わったのです」
「確かリベリアス…だったか…」
成り代わったと言っても、弁が立つようにはとても見えない。
「……何となくわかったぞ、アンタがテイクオーバーしていた猫……エクシードのトウカ…そのエレンティアって世界のエクシードだな?そのトウカには、世界を渡る魔法がある…違うか?」
「ッ…!?どうして、お分かりに……」
「俺の友達にもエクシードが居てな…その子が言ってたんだよ、見たことないエクシードだってな。そしてあんたは世界を渡る魔法を使ったにしては、どうにも力を使いこなしてないように思える…なら考えられる線としては…アンタがトウカを取り込み、何度か使った世界を渡る魔法を見様見真似でやって失敗した……だろ」
マルクの推測が当たっていたのか、ファリスはこくりと頷いた。だが、世界に渡った方法とマルク達を移動させた方法、トウカとの関係性はある程度は解明できた。だが、なぜそんなことをしたのか?という話になっていく。
「…それで?何でこっちの世界に?」
「エレンティアを救うために…アースランドの魔力を白く…無にするという使命の為です」
「…エレンティアを救う?」
「…エレンティアは滅びるのです、月神竜セレーネの手によって」
「ッ!!」
突如として出てきた五神竜の名。まさか、別世界の人物がその世界を五神竜の手から救うためにやってきたとは、思わなかったからだ。
「…どういう風に滅ぼされるんだ?」
「…その為にも、まずはエレンティアが抱える問題から説明します。エレンティアはここ、エドラスとは別の…ある意味では真逆の問題を抱えています」
「え、ここエド…いや、それよりも…真逆の問題?」
魔法が使えない、という所がようやく納得出来たマルク。しかし、話の腰を折りそうになったのを感じ取り、即座に頭の中を切り替え話を進めていく。
「魔力が多すぎるのです…それにより、世界が膨張し…破裂しかけています…まるで、噴火直前の火山のように…私の家系は代々、エレンティアの多すぎる魔力を消している巫女をしています…」
「…そうか、白滅は本来そういう使い方か」
「はい…そうしないと、エレンティアは大爆発を起こすと言われています」
「…だが、それがどうしてアースランドと…セレーネと繋がる?」
エレンティアの問題はエレンティアで、エドラスの問題はエドラスで…世界が連結している訳では無いのだ。現に、エドラスの魔力が消えてからアースランドは9年経過しているが、魔力が消える気配は一向にない。
「…ある時に、セレーネが来たのです。アースランドの魔力…五神竜の魔力を消して欲しい、と」
「…さしずめ、他の奴らを出し抜くためか。仲良い訳じゃなさそうだもんな…」
「はい…その為に様々な世界を渡り歩いたらしく…辿り着いたのが、私のところでした。そして、彼女は…他の四竜を消さねば…この世界を貰う、と」
「…脅してきたわけか。世界を渡れるドラゴンだ、魔力も相当だろうし……」
急に世界を滅ぼせる可能性があるドラゴンに、脅されたのだ。『従わねば世界を支配する』と。ならば従うのも、理解はできる。だがマルクは解せ無かった。結果として水神竜メルクフォビアを白滅出来たとはいえ、数年かけてようやく1頭…そしてマルク達が着いた頃にアルドロンとは随分とスローペースだからだ。
「……どうして今更
「それは…力をつけろ、とセレーネから指示されてたのです。単にそのまま白滅すればいい…というものでは無かったので…けれど、白魔術教団に白滅をして白の教義を取り込み…私は暴走してしまっていた。メルクフォビアを白滅させていたのに、単に暴れさせただけで…」
マルクはひとまずの理解を示していた。要するに、ファリス自身すら予期していない暴走はあったものの、いきなり白滅するのは出来ないという事である。そして、更にある程度の予測を立てる。
「…あんた、トウカを取り込んだ影響で精神的に不安定になってたな?」
「え…それも、なんで分かって…」
「白の教義を大量に取り込んだからといって、白滅って魔法が使用しただけで人格が変わる魔法って訳でも無さそうだ。そりゃそうだ、対象で人格が変わる魔法なら扱いはかなり気をつけないといけない……けど、それを気にせずしたってことは本来そういったことも起こりづらい魔法の筈だ…なら考えられるのは、取り込んだトウカの影響で人格が混ざりあって不安定になった……そう思っただけだ」
「凄い、ですね…そこまで分かるなんて……」
「冷静になれてるからこそ、だからな…それよりも…誰か近づいてきてる」
「え…」
マルクは近づいてくる人の匂いを感じ取っていた。故にファリスから目を逸らし、向かってくるであろう方向に目線を移す。匂いはウェンディとそっくりのものであり、てっきりマルクはウェンディが1人で近づいて来ていると思ったのだが……その答えは正解でもあり、ハズレでもあった。
「あ!いたいた!マルクってのは貴方ね?」
「え…ウェンディ…いや、でも全然違っ…」
「あー…私は
その言葉で全てを察するマルク。実体験でもあるが、エドラスの人間は見た目はそっくりだが性格が違ったり、そもそも体型が違ったり、種族が違ったり、人間関係が違ったりと様々である。
「お、OK…」
「……にしても、これがアースランドの私の彼氏君か〜」
「ぎゃぴっ!?」
そう言いながら、まるで幼子を可愛がるかのようにマルクを抱きしめるエドラスのウェンディ。 ウェンディと一緒なのは髪色と匂いくらいである。体型も、性格も、声のトーンもまるで違う。抱きしめられたマルクは、2つの塊に顔を埋める羽目になっていた。
「わ゙ー!!ストップストップ!!」
「きゃっ…恥ずかしがり屋?」
「誰だってびっくりする!!それに一応、アースランドのウェンディがいるから……ダメ」
何とかすり抜けて、エドラスウェンディと距離をとるマルク。顔を真っ赤にするが、抱きしめるのはNGと意志を示す。少し残念そうにするエドラスウェンディだったが、すぐに切り替えて信号弾を放つ。
「……今のは?」
「君の仲間が、君と…そこの彼女を探してるって話でね」
「…なるほど、そういう…」
少なくともウェンディやシャルルは、確実にエドラス飛ばされているのは分かったマルク。そして放たれた信号弾は、探していた人物を見つかったという合図だろう。
「少しだけ待っておくといいよ」
「…分かりました…ファリスもいいな?」
その言葉に、今まで黙っていたファリスは頷く。こうして、2人は仲間達に無事発見されることとなったのだった。
.
「━━━とにかく、セレーネの計画は『まずは力をつけアルドロンを白滅させ』て、その『アルドロンを操り他のドラゴンと戦わせる』という物でした」
マルク達の元に、ナツ達が駆け寄る。エドラスに来ていたのはナツ、ルーシィ、ハッピー、グレイ、エルザ、シャルル、ウェンディだった。
その後、ファリスは改めて一同に説明をし…その上でセレーネに話されていた計画を伝えていた。
「アルドロンを操ろうとしたんですか?」
「えぇ…しかし知っての通り失敗しました。セレーネの言う通り、全てのオーブを壊した…アルドロンは力を失うと聞いていた」
「逆に復活したよね」
「セレーネはどうしてそんな嘘を…」
ファリスはセレーネから『オーブを破壊しアルドロンの無力化と白滅』を指示されていた。だが、現実はアルドロンは復活したのだ。他の五神竜を倒したいにも関わらず、これは妙な話なのである。
「わかりません…でも、騙されたのは…事実です」
「つまりまとめると━━━」
①セレーネは他の五神竜が邪魔で、ファリスに白滅を依頼した。
②けど、セレーネの計画通りにアルドロンを白滅しようとしたら逆に復活。
「そもそも…考えてみれば、ファリスの一族全員に頼めばよかったはず。ファリス1人に頼んでる上に、移動の手伝いとかをしないってなると…」
「セレーネっつー姉ちゃんは何がしてーんだ!!」
「あたしに言わないでよ…ってか姉ちゃん…?」
『セレーネは何がしたいのか』という1番大きな問題。わざわざ数年かけてファリスだけを使う必要が無く、五神竜を倒したいと言う割にはファリスの動向をあまり気にしている訳でもない。そしてファリスには嘘をつく。あまりにも、矛盾している行動を取っているのだ。故に、そこが大きな引っかかりとなっていた。
「分からぬな…そもそもの本当の目的がなんなのか…」
「あんたはそれでセレーネにエレンティアが壊されると思ってビビってるって事か?」
「交渉の余地は無いのですか?貴方は計画に従った…失敗したけど、結果的にアルドロンを倒したんだし」
「━━━ないわ」
突如として聞こえてくるこの場にいない者の声。全員が声をした方向へと向け、一気に警戒度を高めていく。視線を向けた先は…空中、そしてそこに水の丸い入口のようなものが出来上がっており、そのフチに腰掛けた女性から聞こえてきたものだった。
「私…初めからアースランドもアルドちゃんもどうでもいいし……あははは!」
「ッ…!セレーネ…!」
「こいつが!?」
「空中に穴が…!?何あれ、アニマなの!?」
「
世界を超える魔法、アクアエーラ。それを魔法の使えないはずのエドラスで開き、そのフチに座り込むのが…五神竜の1人である月神竜セレーネであった。そして、セレーネの放った言葉に…ファリスが顔を青くしながら叫ぶ。
「ど、どういうことですか!?」
「私…エレンティア気に入っちゃったのよ。あそこに住むことに決めたのよ。毎日毎日ちょっとずつ、人間を殺していくの……ホラ、そうすれば魔力多すぎ問題もどうにかなるでしょ?」
「私はなんの為に…アルドロンを…!」
「アルドちゃん復活させたら退屈なアースランドも少しは面白くなるかなって!」
「初めから…アルドロンを復活させるつもりで…!?」
「そうよ?でも、まさかやられちゃうなんて予想外…相当弱ってたのね」
あまりにも身勝手な言い分、自分本位な考え。ファリスはあまりのことに絶望し、この場にいるメンバーは総じて怒りを露わにしていく。
「お前……」
「駄目なの私…世界が醜く歪んでないと……
「やめてください…」
「どう掻き乱してやろうか、楽しみで仕方がない」
「やめて…私たちの世界を壊さ━━━」
その瞬間、セレーネの指から一切の予兆なく放たれる魔力の光線。その狙いは、ファリスの腹部だった。貫かれれば瀕死なのは明確な程に込められた魔力は凄まじい。
だが、その魔力の『揺らぎ』を見逃すほどマルクは甘くなかった。一瞬で悪魔龍の力を使いながら、ファリスとセレーネの間へと入り込む。
「だらぁ!!」
「え…!?」
「ほう……」
「ッ…!」
傲慢の鎧。如何なる魔法も受け付けなくする呪力の鎧をまとい、セレーネの攻撃を弾き飛ばす。しかし、込められた魔力があまりにも重かったのか弾いた拳の鎧は砕け散ってしまい、腕は少し焼けたのか赤くなっていた。
「マルク!」
「大丈夫だ!それよりナツさん!多分セレーネの周り…!魔法が使える!!」
「わかった!!!」
「くく…しかし…あの世界にあれだけ固執するとは……エレンティアは、とっくに壊れておるというのに」
「てめぇ…!ふざけんなよ!!」
そして、ナツはセレーネに突っ込んでいく。マルクは、セレーネの周りは凄まじい魔力の濃さだと認識していた。故に、エドラスであっても魔法が使えるのではないか…そう読んでナツに声をかけた。
案の定、魔法が使えるようでナツの拳には炎が宿り始める。
「アルドロンを倒したイグニールの子…イグニアの弟なのね?特別よ、少し遊んであげる」
そう言いながら、セレーネはナツの拳を受け止める。即座に出せるできうる限りの本気をぶつけたが、それを難なくセレーネは受け止めてしまう。
そして、受け止めた瞬間にその姿は徐々に肥大化していく。長く、大きくなっていくその姿は……正しく、ドラゴンであった。
「ドラゴンの姿に!?」
「てゆーか……えっ…!?」
「当たりが暗く…!!夜になってる!!?」
そして、これが月神竜の力だとでも言うのか周り一体が夜へと変貌していた。セレーネの背後には大きな月が登っており、正しくセレーネがこの空間を支配していると言ってもいい状況となっていた。
「…まだ動く…!」
「ナツ!テメェ1人にやらせねぇぞ!」
「アタシ達もいるんだからね!」
グレイは滅悪の力を纏い、マルクは悪魔龍となり体を肥大化させる。各人それぞれも戦闘の構えを取ることで、その場でセレーネとの決着をつける気満々であった。しかし━━━
「くくっ…この場で付けてもいいのだけれど…後のお楽しみ、いらっしゃい…エレンティアへ」
「一体何をするつもりだ!」
エルザが叫ぶが……その言葉に代わりに返事をさせるかのように、セレーネの後ろの月が大きく、強く輝き始める。あまりの眩しさに全員が目を瞑るが、マルクはそれを物理的な攻撃だと判断し、目を瞑りながらも一同の前へ出ようとする。
「なんだよあれ!?」
「月が…!?」
「近づいてくる!?」
「そんなはずない!!」
「くそっ!セレーネ!一体何を…!」
「なんだこれは…!」
「ひえーっ!!」
そして大きくなった月は一同を飲み込み…大きな爆発を起こす。そして、最後に一際大きく輝いた頃には…エドラスウェンディを除いて、全員が居なくなっていた。
「うぅ…!皆!大丈……ぶ…?え…?」
そして、セレーネが居なくなったせいか…再び昼に戻り爆発後で焼けただけの大地が残されていた。だが、エドラスウェンディはそれで皆が死んだとは思っていなかった。
「急に夜になったと思ったら…また昼になって…皆、消えちゃった…だ…大丈夫よね、彼らなら……ふー…色々頑張れ、ちっちゃい私!」
こうして……再度訪れたエドラスから、一同はセレーネによって新たな未知の世界へと連れていかれるのであった。場所は、臨海魔法世界…エレンティア。その世界が、彼らに牙を剥く。