FAIRY TAIL〜魔龍の滅竜魔導士   作:長之助

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良い区切り探してたら長くなりました


黒月山

『━━━なんだ…?妙に、心地いい熱さが…』

 

意識が朦朧とする中で、マルクは何とか覚醒していた。だが、直前の記憶が朧気で思い出しづらい。更に体が妙に圧迫されるような感覚と、それと同時に心地よい熱さが存在していた。何とか目を開けると、そこには満点の星空と一際輝く大きな月が存在していた。

 

『あぁ…この感じ…もしかして露天風呂に入ってたのか…?それで心地よくて寝て……大きな月…月…?確か━━━』

 

ゆっくりと、マルクの意識は覚醒していく。そして、次第に直前に何があったかを思い出していく。そして、最後に見たのは……月神竜セレーネのドラゴンの姿に、自分が敗北した、ということである。

 

「━━━━って温泉入ってる場合じゃねぇ!?え、温泉!?」

 

「いきなり起きるなり、騒がしい……湯船には静かに浸かっているものだろう?」

 

起き上がるマルク。それと共に大きな水音が鳴り、改めて現実として露天風呂に浸かっていたというのを認識する。だが、あの状況からなぜ自分が露天風呂に浸かっているか理解できない。セレーネから逃げられたとも思っていない。それとも、誰かが連れ出してくれたのか?それを考える前に目の前から声がした。湯けむりでよく見えないが、誰かがいるのを間違いがない…そして、同時にその魔力の感じから目の前に誰がいるのかを理解する。

 

「お前!!何のつもりだセレー……ネェ!!!?」

 

「…?いきなり素っ頓狂な声を上げて、一体どうした?」

 

そう、目の前にはセレーネがいた。そしてこの場は湯船……そう、セレーネは入浴していたのだ。勿論、着衣ということは決してない。ちなみに、マルクは下半身はノータッチだが上半身は脱がされて半裸になっていた。

 

「何で脱いでんだー!!!!」

 

「人間は、風呂では脱ぐものだろう?もしや、脱がずに入浴する文化が?」

 

「違っ、そういうこと聞きたいんじゃなくて…あれ?!俺何が言いたかったんだっけ!?」

 

風呂の熱、恥ずかしさによる熱、それによりマルクの顔は真っ赤に染まり手で顔を覆っていた。そして、手で覆った際にマルクはその違和感に気づく。手首に拘束がされていたのだ。縄のようなもので拘束されており、両手が離そうにも離せない状態となっていた。

 

「な、これ…」

 

「魔力、呪力、霊力…その他諸々を封じる縄だ。結ばねば効力を発揮しないが…気絶していれば、楽なもの…力が発揮出来ぬだろう?」

 

「れ、霊力が何かは知らないが!!何のつもりだ!殺すなり食うなりすれば良かっただろう!!」

 

「少し余興をしたくてな……お前の仲間も全員捕らえた。準備が整ったので、起きるまで待っていた、という訳だ」

 

その言葉に、マルクは一気に冷静になる。仲間達が捕まっているとなると、マルクは今ここで下手な抵抗はできない状態である。つまり、言うことを聞かざるを得ないという訳だ。

 

「……余興って、なんだ」

 

「ひとまず、顔はそのままでいい。湯船に浸かれ」

 

「………」

 

言われた通り、顔は隠したままマルクは湯船へと浸かる。そこで改めて気づく、湯船にはセレーネの魔力が宿っていることに。そして、自分の中にも吸収したセレーネの魔力が溜まっていることに。

 

「さて、余興の内容だが…すぐに明かしては面白みがない…その時が来れば説明しよう」

 

「…説明する気は、ないと?」

 

「受けるのは貴様ら全員、ということは伝えておこう」

 

「…みんなはどこにいるんだ」

 

「男二人はそこだ」

 

「そこって…うおおおおおお!?」

 

セレーネの魔力のせいなのか、マルクは急に腕を何かに持ち上げられたような感覚になりそのまま浮遊する。そして、どこかへと無理やり移動させられたかと思えば…まるで宴会会場のような大広間に連れていかれ、手を上にしたまま身動きが取れなくなってしまう。そこで気づいた、両脇にナツとグレイがいた事を

 

「……って、ナツさんにグレイさん…こんな所に」

 

「オメー……今のウェンディに言っとくわ」

 

「はい!?」

 

「他の女と混浴してた、か……」

 

「やめてくださいよマジで!!」

 

3人が言い合っている中で、湯煙の中から一糸まとわぬセレーネが姿を現す。そして、侍女の様な者達に体を拭かせ…自らの衣服に手足を通していく。

 

「さて、待たせたな…日に3度の湯は欠かせなくてな。少し気に入ったので、一緒に入ってもらっていた」

 

「気に入られたってよ」

 

「嬉しくねー……」

 

「…にしても、男の前で堂々と風呂とは変態かよ」

 

「オイ!!これ、ほどきやがれ!!」

 

ナツが吠え、グレイが煽るがセレーネは意に介さない。話が通じそうな雰囲気を出しているが、何をしたところで彼女が意見を変えることは無いという事だけが3人に理解出来た。

 

「ドラゴンには元々衣服を着る習慣が無くてな、まぁ…この姿でいる時は人間の習慣に合わせた方がよかろう?」

 

「随分と人間に合わせてくれるんだな?」

 

「つーかここはどこなんだ!!」

 

「俺達は確か凍らされて…!」

 

「え、凍らされてたんですか…?」

 

マルクは驚いた。グレイとナツが居て凍らされるのは、有り得ないと感じたからだ。唯一可能性があるとすれば、スプリガン12(トゥエルブ)の一人のインベルだけ。つまるところ、そのクラスの者にナツとグレイは負けたということになる。その事実に、マルクは少し驚いていた。

 

「ここは黒月山(こくげつやま)、エレンティアで最も月が美しく…そして不気味に見える場所。エレンティアの月には満ち欠けがないのだ、私がこの世界を気に入った理由の一つ…」

 

「いいから勝負しろ!!」

 

「それが目的だろ!」

 

「それは少し違うぞ?私の目的は『楽しむ』事だ。人間を喰らいたいわけでも、世界を手に入れたい訳でもない……優雅な月を見ながら酒を飲み宴を開く……」

 

楽しむこと。その言葉自体に嘘が無いことをマルクは感じ取っていた。だが、人間にもドラゴンにも様々な者がいる。性格、思考、能力や体付き…多種多様である。そして、善もいれば悪がいるのも事実。善人の『楽しむ事』と悪人の『楽しむ事』には大きな隔たりがある…というのも、マルクはわかっていた。

 

「…………」

 

「お前…もしかして良い奴なのか?」

 

「私が楽しむためなら、世界の一つや二つどれだけ汚れて歪んでいっても構わないの」

 

「やっぱ悪いやつかー!」

 

「ファリスに対する対応でわかってるでしょ、そんなの…」

 

セレーネを睨みつけるマルク。だが、セレーネは相変わらず意に介さない。人間をそもそも悪い意味で敵視してないのだ。言い換えれば、相手にしていない。今言っていることも、せいぜいがペットに語るくらいの感覚だろう。

 

「私…この魔力で溢れたエレンティアをもっともっと魔力で溢れさせて、そしたらどうなるか見てみたいの」

 

「爆発しちまうって言ってたぞ」

 

「でも、その前に……貴方達と遊びたくて招待したのよ。黒月山に」

 

「…ってことは、あの『手』はお前の仕業か?」

 

「さて、どうかしらね……さぁ!宴の時間よ!」

 

マルクの言葉も適当にはぐらかし、セレーネは手を叩いて合図を出す。すると料理や食器などを持ち込んでくる侍女で辺りは囲まれ、一気に騒がしくなり始める。

女達は料理を食べ、酒を飲み、舞を踊り、音楽を奏でる。その中心にいるのは囚われたナツ、グレイ、マルクの3人。だが、それは決して主役ということではなく…寧ろ、酒の『ツマ』なのである。

 

「何なんだこれは…!」

 

「くそー!いい匂いさせやがって…!」

 

「たべる?」

 

「いるかー!!」

 

「狂ってやがる…」

 

ワイワイと騒ぐ女達。その内の一人が、グレイに近づき…抱きついてその身体を確かめるように触っていく。

 

「あぁ…いい体…!」

 

「触んな!冷た!!」

 

「グレイさん後でジュビアさんに報告しときますね」

 

「やめろ!!悪かった!!」

 

「ウム…3人とも引き締まったいいボディだ」

 

異様なこの光景、混乱しているのは変わらないが…マルクはそれとなく周りを観察し恐らくナツとグレイ、そして他の者を捕まえたであろう人物を少なくとも3人は確認した。1人は今グレイに触っている人物。冷気慣れしているはずのグレイが『冷たい』と認識する異常事態、恐らく凍らせたのはこの人物なのだろうと推測していた。

 

「……なんだあの人…すげぇでけぇんだけど…」

 

そしてもう1人。3人の筋肉を褒めた図体のでかい女性。座に直接座っているだけなのに、それでも今拘束されて立っている3人とほぼ同じくらいの身長である。

 

「ヨウコ様〜!」

 

「今日も可愛い〜!」

 

そして三人目、先程から侍女に頭や顔を撫でられながらちびちびと酒を煽る女性。ヨウコと呼ばれているようだが、マルクはじっと観察しその者からただならぬオーラを感じていた。魔力や呪力とも違う、また別の気配である。

 

「こいつら…何が目的なんだ…!」

 

「囚われた男を肴に、女が酒を飲む。実に愉快ではないか」

 

「悪趣味だな…!」

 

「ホレ!皆の者歌えや踊れ!月夜に狂え、宴じゃ宴!」

 

その狂乱の熱は、更に高まっていく。女達は酒に酔い踊り狂い、段々と過激な事を行っていく。ナツは拘束されたまま、その様子を絵に描かれている。そしてグレイは相変わらず体を触られている。マルクは衣服をはだけ…場合によっては脱ぎ去っている女性に囲まれて顔を真っ赤にするどころか、意識を飛ばしていた。

 

「さて、そろそろ頃合か……ヨウコ、例の物は?」

 

「は、準備できておりますれば」

 

「女体の天国から鬼女の地獄へ」

 

セレーネがその言葉を発した瞬間、見えていた月が輝き始める。そして大きくなっていき、辺りを飲み込むほどに輝き大きくなりナツ達を飲み込み始める。

 

「なんだ!?」

 

「月がでかく…!」

 

「まさかまた転移…!?」

 

「「「なぁ…!?うああああああああああ!!!!」」」

 

そうして、3人は宴の会場から姿を消すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あだっ!!く、くそっ…洞窟…?けどさっきよりはマシか…!2人は…別の場所を飛ばされたのか…?」

 

『そこは黒月山の最下層、魑魅魍魎の妖怪共が跋扈する場所……鬼々月(オニガツキ)。そなた達は別々の場所にいる、妖怪共を撃破してここまで登ってこれるかな?私達はそこで藻掻くそなた達の様子を肴に、宴を楽しむの!あはははははは!!』

 

「……ちっ、趣味が悪い事で…まあいいか…とりあえず進もう」

 

マルクは辺りを見回しながら、誰もいないのと特に目立った箇所がないのを確認する。魔力感知に少しだけ集中して、ナツがグレイが近くにいればその場所に向かおうと考えたのだ。

 

「……グレイさんが近いな…道繋がってるといいけど…ま、最悪ぶち破るか……にしても、この気配…」

 

そう言って、マルクは走り始める。だが、感知したモノはナツとグレイだけのものでは無い。ウェンディ、シャルル、ハッピー、エルザ、ルーシィの5人の気配と…よく分からない小さな気配を大量に感じていた。恐らく、この大量の気配が『妖怪』というものだろうと言うのはすぐに理解ができた。

 

「…でも、微妙にいつもと違う…みんな何もされてないといいけど」

 

だが、同時に感じ取れた他の仲間達の気配。それがどこかおかしいものとなっていた。口では説明が難しいが、敢えて言うのであれば……推定妖怪だと思われる存在に、近しい気配。それが間違いであって欲しいと思っていても、自身の魔力感知のせいで『何か』されたと感じてしまう。

 

「あぁもう…!全部、ぶち抜いていくか!!」

 

幸いにもエレンティアには魔力が満ちている。満ち満ちている為に加減なく吸い込んでいく。存分に使える魔力に、マルクは遠慮なく全てを使い果たさんとする勢いで洞窟の壁をぶち抜いていって、最短距離を稼いでいく。

そして、あまりにも最短過ぎるがために……すぐにグレイのいる場所にたどり着いた。

 

「グレイさん!大丈……」

 

「にゃん?マルクだにゃん!」

 

「ま、マルク……いや、これは違くて……ウェンディが気づいたらこうなってて……」

 

突破したマルクの目の前に広がる光景。妙に顔を青くし、焦っているグレイ。そして猫耳と猫ひげを生やし、猫っぽい衣装に身を包んだウェンディ。

 

「……」

 

「今日から化け猫になったにゃん!」

 

「………」

 

「マルク、大好きだにゃん!殺したいくらいに!!」

 

「…………………」

 

青くもなく赤くもなく。マルクは固まっていた。あまりの情報量に彼の脳が耐えきれなかったのだ。現実逃避をしたい訳では無い、最早どう思考すればいいのかさえも彼は分からなかった。

 

「つーかどうしたウェンディ!奴らに何かされたのか!?シャルルはどうした!!」

 

「奴ら……」

 

マルクが呆けている間に、大きな地響きが鳴り始める。そして、ウェンディの後ろから大きな獣が2匹現れる。片方は水色、もう片方は白色の巨大な虎であった。

 

「ウェンディを傷つける奴は許さないわ」

 

()()

 

「ッ…!!!?!?!まさか、お前ら…!?」

 

「ハッピー!シャルル!!やっちゃってにゃん!!」

 

「どうなってんだこりゃ!!おいマルク!お前も手伝……」

 

「…グレイさん、2人をお願いします。俺はウェンディと…」

 

「………わ、分かった!やられんなよ!!」

 

グレイは2匹の虎…恐らくはハッピーとシャルルだった虎を相手取り始める。そして、先程よりもマシとはいえ未だ呆けているマルクが、ウェンディの前に立つ。

 

「にゃん?マルクが相手してくれるにゃん?」

 

「……も…」

 

「にゃっ?」

 

「……くも……」

 

「にゃ、にゃっ…!?」

 

マルクの体から凄まじい魔力が溢れ出る。その凄まじさにウェンディは顔を青くして1歩引いていた。この時の様子を覗いていたセレーネ達でさえ、何人かは恐れてしまっていた。

 

「手出してくれやがったな…!」

 

「お、怒っても怖くないにゃん!」

 

「ウェンディ…絶対に元に戻してやる…!」

 

マルクはようやく怒り始めていた。情報を整理し、事実を認識し、そして『ウェンディに何かをされた』という事実と『守れなかった』という事実に自分にも相手にも怒っていた。そして、その怒りに合わせて仲間に手を出された怒りもさらに上乗せされそれが魔力となって溢れていた。

 

「……」

 

「私は化け猫にゃん!これからそうやって生きていくにゃん!!」

 

ウェンディを見ながら、マルクはどうやって元に戻すかを考えていた。どういう魔法なのか、そもそも魔法なのかさえも怪しいところだが幾つか戻す方法はマルクは考えていた。

 

①魔力を流し込み原因となっている魔法の除去。

→魔法では無い何かによるものだった場合、意味が無いどころかウェンディの魔力を削るだけとなり魔力欠乏症を引き起こす可能性がある。

②気絶させる。

→論外、壊れた機械じゃないので戻らなかったら色々まずい。

③ウェンディが自分に状態異常回復レーゼをかける。

 

「……よし、③でいくか。これ、あんまり使うことがないんだけど……」

 

「準備できたにゃん?」

 

「おう、今すぐ目を覚まさせてやっからな!」

 

準備運動のような動きをしながら、マルクは笑みを浮かべる。同じようにウェンディも不吉な笑みを浮かべながら、マルクに向かい突撃をする。今のウェンディは今までの記憶はきちんとあり、その上で思考や種族などを変更されているのだ。故に、マルクが自分に暴力を振るえないことはわかっていた。だからこそ、懐に入って八つ裂きにするつもりで突撃しているのだ。

 

「天(びょう)の砕牙!」

 

「━━━━モード悪魔龍色欲艶やか(グローシーラスト)

 

ウェンディが猫の様な手になった自らの腕を振るいながら、マルクに向かう。それに合わせて、マルクの体に呪力が体に満ちる。この力は単独で使用することがあまりない。マルクの体は段々と変化していく。呪力を帯びた体は段々と丸みを帯びていき、繭のような姿になる。そして、そこから何本も触手が生え……大きな単眼を持つ球体のイソギンチャクの様な見た目になっていた。

 

「ん゙に゙ゃ゙!?」

 

「色欲龍の…色欲咆哮(ラストミラージュ)

 

「うにゃ!!」

 

触手から大量の煙が吹かれる。ウェンディはガッツリとその煙を浴びてしまい、魔法も途中で切りあげて必死に手で振り払おうとする。だが、すぐに元に戻ったマルクは不敵な笑みを浮かべていた。

 

「今の煙…いい夢を見られる煙だ、正気に戻るまで寝てな」

 

「にゃっ……マルク、忘れたにゃ?私の魔法…状態異常回復レーゼ!」

 

ウェンディの体が輝き始める。状態異常回復レーゼ、これはあらゆる状態異常を回復させるウェンディの魔法。一種の賭けだったが…魔法はきちんと作用しているようで、ウェンディの体は格好を含め元に戻っていた。

 

「……あ、あれ…?私…あれ、マルク?」

 

「よし、戻ったなウェンディ。後で説明するからとりあえずハッピーとシャルルを元に戻し━━━」

 

「大丈夫かグレーイ!!」

 

突如として聞こえてきたナツの声。瞬間的に嫌な予感がして振り返ると、ナツが虎のハッピーとシャルルを蹴り飛ばしていた。そう、蹴り飛ばしてしまっていた。

 

「ナツさん「それハッピーとシャルルだー!」ですけどー!?」

 

「何ーッ!?」

 

絶妙なタイミングで被るマルクとグレイ。ナツはその言葉に驚いていたが、時すでに遅し。ナツに直接蹴られたハッピーと、ハッピーに巻き込まれた形で吹き飛ばされたシャルルは一撃で気絶してしまっていた。

 

「ハッピーとシャルル!?」

 

「どう見ても虎だろ」

 

「ってルーシィさんと…えっ!?」

 

ナツを追いかける形で現れたのは、ルーシィと星霊のアクエリアス。そう、本来冥府の門(タルタロス)戦で鍵が無くなっているはずのアクエリアスがいたのだ。

 

「な、なんで!?鍵新しく見つかったんですか!?」

 

「え、えっと…ここは鍵がなくても星霊呼べるみたいで…!」

 

「と、とりあえずハッピーとシャルル元に戻します!!」

 

色々情報が錯綜する中で、ウェンディはシャルルとハッピーを元に戻すために行動していた。そして、元に戻した上で…一旦一同は落ち着きを取り戻していた。

 

「……えっと、つまり…私達操られていたって訳?」

 

「オイラが虎に…!?」

 

「私…何か恥ずかしいことをしていたような…」

 

「可愛かったぞ、それはそれとして…あんなことした奴は許さん」

 

「お前最近そればっかりじゃないか…?」

 

「安心しろ、こいつ(ルーシィ)はチチ丸出しでイキってたんだ」

 

「え……嘘…!?」

 

「俺の顔に胸を押し付けてきた」

 

「きゃああああああ!!!」

 

顔を真っ赤にするルーシィ。そんなこんなありながらも、一同は情報と現在の状態の確認を行い終える。そして、この場に居ないメンバーのことを考える。

 

「後はエルザとトウカ達か…」

 

「トウカとファリスの魔力は感知できません…多分、ここに来てないと思います」

 

「エルザさんは私とシャルルといたんです」

 

ウェンディの報告により、一同に嫌な予感がよぎる。現状ハッピーは兎も角として、女性陣は全員妖怪にされていた。そして、ウェンディが妖怪にされていたのなら一緒にいたエルザがされてない理由は無いので……

 

「もしかして…エルザも妖怪に?」

 

「ちょっと、嫌なこと言わないでよ……ってなんか…」

 

「…足音が聞こえてくるな、嫌な予感がする…」

 

響き渡る足音。おおよそ人間の音ではないその重い音の響きに、全員が嫌な予感を決意する。

 

「な…」

 

「これは……」

 

そして、一同の前に現れたのは…エルザであった。但し、下半身は蜘蛛となり、その上半身は一糸まとわぬ花魁といった風な見た目となっていた。

 

「ウェンディ!素早くお願い!」

 

「うん!任せて!!レーゼ!!」

 

一糸まとわぬ状態なのでマルクは目を隠し、ウェンディに託していた。というよりも、ウェンディが正気に戻った以上妖怪にされた程度は最早問題では無いのだ。ある意味今の見た目は恐怖でしかないので問題ではあるが…それはまた別の問題である。

 

「お…おぉ…!?い、一体、何が…?」

 

「「「戻ったー!」」」

 

「やった!」

 

「壮絶な出落ち!」

 

「まぁ、ウェンディの力があればこんなものよ」

 

そして、レーゼの力で元に戻ったエルザ。ちゃっかり蜘蛛のエルザにビビっていたナツとグレイは心底ほっとしていた。そして、混乱しているエルザに事情を話すが……少し恥ずかしそうにエルザは顔を染めていた。

 

「く、蜘蛛だと!?私がか!?」

 

「私は猫のお化けで…」

 

「正直可愛かった」

 

「オイラとシャルルは虎だよ!」

 

「何で嬉しそうに言うのよ…」

 

「コイツなんかチチ丸出しで…」

 

「その話はもーいーから!!」

 

一同の報告を聞き、何とか納得するエルザ。そして、そのままナツ、グレイ、マルクの姿を見て考え込み…ポツリと呟く。

 

「ふむ…ナツ達のも見てみたかったな」

 

「俺だったら妖怪ドラゴン蝋燭だ!」

 

「ダサ!!」

 

「兎に角ここはセレーネの住処らしい…山の麓みてぇだな…どうする?」

 

グレイの疑問。ここでセレーネを倒しに向かうか、それとも一旦退却し態勢を立て直すか。セレーネを倒しに行くにしても、少し疲弊している今はあまり好ましいとも思えないのが実情。しかし、退却するにしてもどこに退却するか、という話である。

 

「そんなの上まで昇ってやっつけてやる!」

 

「俺がここからブレスで全部消し飛ばしますけど」

 

「いや…ここの連中は妙な術を使う。魔法とも違うな」

 

「無策で戦っても勝ち目が無いかもしれません…」

 

セレーネを含み、他の者にも一同は負けてしまっている。何か対策を立てなければいけない…と考えるのは当たり前の話である。そして、アクエリアスの言った『妙な術』。これは霊術と呼ばれる存在であり、皆これに負けてしまっているのだ。

 

「一旦ここを離れて態勢を建て直しましょ」

 

「あい!」

 

「ッ…!誰だ!!」

 

何かの気配を察したマルク。振り向き、上を見上げると…そこには先程見た『ヨウコ』という女性が浮いていた。

 

「気がつくか…しかし逃げられると思いか?月下美神(げっかびじん)ヨウコ、次はもっと醜い妖怪に変えてやろうぞ」

 

「…!」

 

「あいつは…!」

 

「二度と同じ轍は踏まんぞ!」

 

ヨウコの言葉に反応するマルク。だが、その様子の変化にヨウコも一同も気づかない。気づかないままに、話は進んでいく。

 

「あいつが皆を妖怪にしたのか」

 

「せめて服きてる妖怪にしてよね!!」

 

「コイツの魔力…」

 

「あの雪女みてーに異様だ…!」

 

「これは『霊力』です!魔法とは異なる力!!全員の魔力にスピリアを付加(エンチャント)……って、マルク!?」

 

「は…!?」

 

スピリア。魔力におけるエーテルナノと似たような関係を持つもの。魔力に対してのエーテルナノであれば、霊力に対してのスピリア。霊力を使ったモノに対してはスピリアが無ければ、ダメージは通りづらいのである。

そして、それをエンチャントした時には…既にマルクは越魔龍となっており、ヨウコの目の前で魔力を貯めていた。

 

「皆を妖怪に変えてくれた…礼だ!!」

 

「早━━━」

 

ヨウコはマルクのブレスの直撃を受けていた。一気に圧縮されていたマルクのブレスはヨウコを巻き込んで直撃した地面に、綺麗にくり抜いたと感じてしまうほどの穴を作ってしまう。

 

「い、一撃…」

 

「マルク、凄い…」

 

「━━━━そこか」

 

「ぎゃっ!!」

 

何かを感じとったのか、マルクはあらぬ方向を向いて再び同じ強さのブレスを放つ。その瞬間聞こえる、誰かの声。というよりは、先程まで聞いていた声が聞こえてくる。

そうして、一同がブレスが放たれた方向に目を向けると…マルクの一撃によって倒されたヨウコが、そこにいた。当然ながら、先程開けた穴の位置とは…全く別の位置である。

 

「まさか…先程のは分身!?」

 

「…えぇ、この洞窟内にも魔力が大量に感じられるせいで分かりづらかったですが…大方セレーネに怒られでもしたんでしょうね。けど、分身体を倒したおかげで本体の気配もきちんと追えました…さ、皆さん…一旦山から離れましょうか」

 

本来であれば、人を妖怪へと変化させたり妖怪を生み出すことで戦う術者であったヨウコ。彼女が一切の活躍の場をセレーネに見せられずに敗北した理由は、ただ一つ。

 

「……今回は、これで許してやる…今はそれどころじゃないからな」

 

仲間に手を出し、それ以上に大切な存在であった…ウェンディに手を出したのが、彼女の敗北した理由なのであった。




最初王子様のキスで目覚める云々書こうかと思いましたが「おるやん幻覚付与出来るやつ」ってことで色欲の力です。

ちなみに風呂はいってたせいでマルクのズボンはびしょびしょだし洞窟の砂埃とか土で思ってた以上に汚れてます。セレーネの魔力があれば乾かせますが、おもしがって乾かしてません
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