エレフセリアの元へと
ギルティナ大陸、ドラミールの街。
「よくぞ戻ってきた」
「おかえりなさい」
皆、心配こそしていたが…途中何があったかなどは獅子宮のレオ…つまりはロキが事情を説明してくれていたそう。
「ただいまー!!」
「みんな久しぶり〜!」
暖かく出迎えられ、和気藹々と楽しむ一同。エレンティアで起こったこともそうだが、エドラスに行った事もロキは説明してくれておりある程度の事情は説明しないで済むようになっていた。
「そういえばエドラスにも行ったんだろ?」
「エドラスの皆元気だった?」
「はい!全員にあった訳じゃないんですけど…元気そうでした!魔力が無いなりに皆知恵を絞って生きてる感じで……」
「王子…ミストガンは?」
「立派な王になっていたわよ」
「それより聞いてよ、あのエルザがね?」
「
「くぷぷ……メイドさんに……」
「…………」
マルクは一同の話をじっと眺めていた。眺めていて、色々と気づいたことがあったのだ。そう、マルクはこの話に入り込む余地がない…つまり
「何で俺だけいつもエドラスの時はぐれるんだろ……」
「あぁ…マルクが遠い顔してる…!」
「ん?マルクも一緒ではなかったのか?」
「一回目の時も今回も…誰とも会わずにはぐれてたから…顔見知りが全くと言っていいほど居ない……」
マルクの呟きに、リリーが顔を背けていた。1度目のエドラスの際は、エドラスのマルク…マルク・オーグライと勘違いされて王都へと向かった。そしてその後ナツ達と合流できたが…すぐにはぐれ、きちんと合流できた時には、既にエドラスに帰るまで残り数時間程度だった。
「…な、ナイトウォーカーとは…?」
「初めて顔を合わせたのはエルザさんが変装していた時くらいですよ…」
ルーシィが気を利かせて王国側…エルザ・ナイトウォーカーの話をするが、これも空振りに終わる。そう、エドラスの妖精の尻尾メンバーの事はマルクは伝聞でしか知らないのだ。
「それはなんとも言えんな…」
「あ、でもエドラスのウェンディには会ったな…」
「っ!!」
マルクの言葉にウェンディが反応していた。エドラスのウェンディはアースランドのウェンディよりも色々と成長している。いわゆる『ナイスバディ』なので…ウェンディとしては気になってしまっているのだ。
「そういえば見つけたのエドラスのウェンディだったものね……で、感想は?」
「感想って何のですか……いや、別に…ウェンディはウェンディだなぁって思ったくらいですよ。20歳くらいだとああかなぁって感じの」
「感想が簡素ね〜」
「……ルーシィ、それって親父ギャグ〜?」
「違うわよ!?」
ハッピーとの漫才をしているルーシィ。周りはそのやり取りに笑っているが、ふと思い出したようにマルクが辺りを見回していた。
「そう言えばエルザさんは?」
「…ふふ、ジェラールと一緒にいるわよ?邪魔したらダメだと思うわ」
「ミラさんなんかすごい楽しそうですね…」
「ふふ、そうかしら?」
いつもと同じ笑顔のはずなのだが、いつも以上にテンションが上がっているように感じたマルク。だが、確かに邪魔するものでも無いししばらく2人きりにさせておくのが正解だろうと思い、そのまま皆と談笑をし始めるのであった。
.
「もう出発するのか…」
「いやー、だってここギルドみてぇだし」
しばらくして、ナツ達は再び旅立つ事にした。未だ100年クエストは途中であること、それを成し遂げるためには居心地がいいとはいえ皆の傍にいることはあまり得策では無いと判断したためである。
「長居すれば別れが惜しくなる」
「だよね…この酒場、すっかりホームみたい」
「私達ももう少し観光したらマグノリアに帰らなきゃね…」
「結構長い間滞在してますよね…」
アルドロン後に4日、その後エレンティアで過ごした約3日、合計約1週間ギルドのメンバーはこの街に滞在していることになる。そろそろ戻らねば、依頼が滞ってしまうのは目に見えているのだ。
「ウェンディちょっと見ない間に大きくなったよな」
「成長期って奴かな」
「いえ変わってないです……あ、でも…ほんの少しだけ」
「ほんとに大きくなってたというか一時的にウェンディが大人になったって話あるんですけど小一時間程喋っていいなら話していいですか話しま」
「マルクストップ!!」
「ほら行くわよウェンディ、それと
「何故かすごい罵倒をされた気がする……」
本気の目だったマルクの首根っこをシャルルが掴み、引っ張っていく。語れないことがそんなにも残念なのか、目で見てわかるほどのしょぼんとした顔をしながら、マルクはナツ達の所まで行く……のだが、マホーグが近寄ってくる。
「まッ……マル、ク…」
「…?どした?」
「…気を、付けて…ね?嫌な予感、ちょっとするから…」
「……おう、わかった。ありがとうな」
マホーグの警告に対し、マルクは笑顔で答えていた。マホーグの未来予知が可能な『眼』はそこまで先のを見通せる訳では無い、そして今の言動からそもそも魔法で何かが見えた訳でもない。だが、『予感』がした。その忠告は決して軽んじてはいけないものだろう。そう認識したマルクはできうる限りの注意をしていくことをきめたのであった。
「そーゆー訳だからまたな皆!」
「今度はギルドで会おうね!」
「頑張れよ〜!」
「気をつけてな〜!」
「早く帰ってこいよ〜!」
「ばいばぁい!!」
こうして、ギルドメンバーの応援を受けて酒場を後にし…そしてドラミールも後にする一同。そして、歩きながら今後の話し合いを進めていく。そう……当てがあって動いている訳では無かったのだ。
「……と旅立ったものの…」
「アテ…無いですよね」
「セレーネは行方不明、他の竜の場所も分からん」
「メルクフォビアに聞いたら炎神竜の場所くらいは分かりそうな気はしますけど……他が結局分かりませんもんね…」
「どーすんだよ!」
「……私に考えがある、1度エレフセリアの元に戻ってみないか?これまでの報告と手がかりを得るために」
エルザの提案により、一旦の行き先が決まった一同。こうしてギルティナ大陸…100年クエストが始まった場所、最古の魔導士ギルド
.
「相変わらずエーテルナノ濃度が高いわねぇ…」
「雪みたいです」
「今じゃ貰った布無しでも、何ともないのがちょっと感動的ですよ俺は…」
「酔ってたもんねあんた……」
「そういやあのじーさん、普段は何してんだろうな」
「うむ…案外だらしない生活をしていたりしてな…」
「案外ってことも無いでしょ…そもそもここも片付いてないのに」
エレフセリアの元へと訪れた一同。ギルティナ大陸はエーテルナノ濃度が高く、そしてさらに魔陣の竜周辺、そして内部は更に濃くなっておりまるで雪の様に結晶化し固まったエーテルナノが漂っていた。その中で、エレフセリアは扉に背を向けて1人佇んでいた。
「よっ!久しぶり!」
「………ん?」
「…………どうした?じーさん」
「具合でも悪いの?」
ナツの呼び声に返事をしない…どころか一同の声かけにも反応しないまま佇んでいるエレフセリア。だが、静寂は彼自身の言葉と動きで破られる。
「━━━見よ、これは五神竜を象った石碑。水神竜メルクフォビア、木神竜アルドロンは封じられた」
「知っていたのか?」
「この石碑が教えてくれてたんですね……」
一同…そしてエレフセリアの前にあるのは五神竜の象った石碑。エレフセリアが指さしたメルクフォビア、アルドロンの場所はまるで色が失われたかのような状態であった。
「この100年で初めて五神竜を打ち破る者達が現れた…それも、二頭も」
「だから言ったでしょ!オイラ達に任せておけって!」
「言ったかしら…?」
「実際にはメルクフォビアはいい人…?だったし!」
「アルドロンもギルドの総力で勝てたものだ」
「如何なる理由があろうとも、二頭を封じた実績は評価に値する……君たちに任せてよかった」
そう言ったエレフセリアの顔は、安堵に満ちた笑顔だった。それだけ、倒されたことにほっとしているのだろう。この100年クエストを、初めて討伐できる可能性がある人物達が現れたのだから。
「さて…ここに来たのは話を聞くためだろう?ならば、話を聞く、聞かせてもらうのついでに食事を出そう」
その言葉と共に、1度エレフセリアの案内の元一同は食卓に着いていた。そして今まで起きたことを改めて説明し、その上で残った五神竜の場所を知らないかどうかを尋ねる事になった。
「……なるほど、ではセレーネもあと一歩の所まで追い込んだというのか」
「そうだ!マルクが追い込んだんだ!あとなんか変な侍!」
「それはどうかはわかんないですけどね……セレーネはドラゴンの姿にならなかった。それで本気を出していた、と言われても俺は首を傾げますよ……それに、2人がかりでしたしね」
「悔しいな…あの時私とナツがあの侍に斬られていなければ、参戦出来ていたのだが…」
「…侍?」
「えっと確か……スザクって名前の魔導士でしたね…赤い髪で着物を着た…ディアボロスってギルドの」
「…そうか、いたのか…ディアボロスのスザクが」
エレフセリアのその言葉に、全員の視線が集まる。無論ギルティナ大陸にいる以上、ドラゴン狩りであるディアボロスの事を完全に知らない…という事も考えづらいが、言葉を聞く限り個人単位で知ってそうな言葉であった。
「知っているんですか?」
「そりゃ今やギルティナ1の魔導士ギルドじゃからなディアボロスは」
「ひぇー…そんな有名なギルドだったの?」
「……ギルティナ1〜!?あの闇ギルドが〜!?」
「マルクが凄い不服そうな顔をしてるよ…」
「でもいいたいことも分かるわよ、ウェンディを…私達を問答無用で攻撃してきてる様なギルドよ?」
「いいや、ディアボロスはれっきとした正規ギルドじゃよ」
ディアボロスの話題が出たことで機嫌を悪くし、そしてそれを顔に出しているマルク。だが、ディアボロスが正規ギルドだと言われて余計に顔に不服を出していたが…そのままエレフセリアは話を続けていく。
「確かにマスターゲオルグの素行の悪さはよく耳にするが…法に触れるような仕事はしていなかったはず…」
「……でも変ね、あいつらは竜を狩るのが仕事みたいな奴らでしょ?ギルティナにいるドラゴンを狩るギルド…この100年クエストを遂行するために存在するようなギルドじゃない」
「情報漏洩とかで依頼の権利を破棄したとかだろ、あの素行の悪さだ…仕事のために竜を狩ってない…竜を狩る事その物が生き甲斐なんだ……で、実際はどうなんだ」
シャルルの疑問に、マルクが答える。そして、視線をエレフセリアに向けて正答を求める。ディアボロスに関しては個人的に嫌っているというのもあるが、そもそも依頼をこなしているのかどうかも怪しいのだ。マルクとしては、正規ギルドにしてもディアボロスはかなり異質なギルドだと判断していた。
「………一部は正解じゃ、正確には…現マスターであるゲオルグに依頼を出していた…だがその時にはディアボロスというギルドは存在していなかった」
「どういう事だ」
「ディアボロスは、100年クエストをきっかけに生まれたギルドなんじゃ。ゲオルグは五神竜以外にも、生き残っているドラゴンの地肉を喰らい、やがてドラゴンイーターと呼ばれるようになった。
そして奴の周りに人が集まり…魔導士ギルドディアボロスが誕生した」
「……そうか、だからあいつらは五神竜の事を知っていたのか」
「それに…マルクの言ったことが一部正解…っていうのも理解できたわね。100年クエストの制約、『誰にも口外してはならない』に反してる…ってことよね」
「その通り…故に依頼は破棄、その権利は別のギルドへと渡っていった」
つまりは、元々100年クエスト…五神竜の討伐という依頼はディアボロスではなくゲオルグ個人が請け負った依頼だった。だが制約である口外不可を破り、ゲオルグはディアボロスを成立…ドラゴン退治にもってこいのギルドが、皮肉にもそれを受けることは禁じられているのである。しかし、口外不可による権利破棄とは別に…問題が発生している事にエルザが気づく。
「ならば、奴らが五神竜を狙うのは立派な違法行為では無いか」
「うむ…それが悩ましいところでな……現在正式な権利は君達にある、だが依頼主としては達成できるのなら誰でも良いというのが本音じゃ。君達には申し訳ないが、五神竜を封じる為ならば我はこの
ディアボロスを放っておくという判断をした」
エレフセリア個人の気持ちを考えれば、理解はしやすいものだろう。しかしこれは依頼を通した立派な『仕事』なのだ。規範を破り好き勝手しているところが勝手に依頼を達成し、正式に受けた側が受けただけ損…などと言う形になる事は本来避けるべきなのである。100年誰もクリアしていないこのクエストなら余計に、である。
「なんだよそれ!」
「二重規範って事!?」
「舐められたもんだなぁ!!」
「落ち着け…依頼主の気持ちになれば理解を示すべきだ」
「エルザさん……」
「災厄級の竜を封じる目的が同じなのは致し方無し、だが我がギルドと敵対するつもりならば話は別だ。私は仲間の身を脅かす者には容赦はしない」
エルザから完全な敵対心が漏れ出ていた。その勢いに一同は乗り気だが、唯一エレフセリア1人がなだめようと消極的にエルザに意見を申し始める。
「あ、あの…君達ね…魔法界にはギルド間抗争禁止条約というものがあってだね……っ!!」
そのエレフセリアの言葉に我慢が効かなくなったのか、マルクがテーブルを強く叩く。出された料理をこぼさないために魔力は抑えたが、それでもマルクの体からは完全に敵を目の前にしてる時と同様の魔力が溢れてていた。
「……言っとくがな、先に手を出したのはあっちだ。ギルド間抗争禁止条約を持ち出すのなら、先にディアボロスにそれを言って制裁を与えるべきだろう」
「う……」
「それにあんた言ったよな、1番初めに━━━」
『よかろう……では先に、この書類にサインをしてもらおう。100年クエストの依頼を決して他言しないこと、そしてこのクエスト中に依頼主及び魔法評議員は一切責任を取らないということ』
これは依頼を受ける前、エレフセリアに制約として課された話である。マルクはこれを持ち出して、話を進めていく。
「俺も了承した、皆も了承した…けどそれは100年クエストの内容に、だ。ディアボロスとの戦いは100年クエストに含まれていない。含まれていないことで命を落として、その上で責任を取らないだァ?」
「うぐ……」
「事実上の依頼の二重規範!!更には条約を破ったディアボロスへの制裁なし!その上でこの制約!!言っとくが、あいつらは
そして残った皆も殺るつもりだった!!あれが単なるドラゴンを狙うあんたも知らない闇ギルドならば目を瞑る!!だがよりにもよって制約を破り条約も破ったギルドを野放しにしている事が問題だ!!」
マルクの剣幕に押されているエレフセリア。その圧倒的な魔力の『圧』と完全にその雰囲気に飲まれてしまっていた……が、エレフセリアの自業自得なところはあるので一同は傍観していた。マルクがやりすぎるようなら、止める準備自体はしていたがそこまではいかないだろうとも思っていた。
「受けた依頼は制約に則り完遂する!だが、ディアボロスはどうにかしてもらうぞ!条約を持ち出すのならギルティナの評議会も連れてこい!アルドロンの一件で全員とは言わないが、評議会にも五神竜の事情を知ってる人物がいるのは凡そ理解できた!!ならその中の誰かにアンタの事を知ってるやつもいるんじゃないか!?えぇ!?それが出来ないならあいつらは俺らが対処する!それしかない!違うか!?エレフセリア!!!」
「ご…ご尤も……わかった…そこには目を瞑ろう…仲良くすればいいのに…」
「聞こえてんぞエレフセリアァァァァァ!!!!!!!」
マルクが大声をはりあげたその瞬間、時計の鐘がなり始める。その時計の鐘で少しだけ冷静になったマルクは、ウェンディになだめられてきた。
「も、もうこんな時間か……そろそろヒカゲが戻ってくる頃じゃ」
「ヒカゲ?」
「老人の一人暮らしは何かと大変での、我の身の回りを世話をしてくれる者じゃ…今は街に買い出しに行っているが、いつもこの時間に戻ってくる。君達にも紹介しよう」
その言葉と共に、入口から聞こえてくる忙しない羽ばたき音。皆がその音の先を視線で追うと同時に、その羽ばたき音の主から慌ただしい声が響き渡る。
「てーへんだてーへんだ!!」
「おおヒカゲよ、丁度お主の噂をしとったところじゃ」
「カラス!?」
「喋ってるよー!?」
「いやもう喋るくらいじゃ驚ける気がしない……」
現れた『ヒカゲ』という存在は、カラスであった。しかし、そのヒカゲ本人は一同に気がつくことなく忙しなく飛びながら叫び続けていた。
「てーへんだてーへんだ!!エレフセリア様!てーへんでがすよ!!大迷宮に侵入者でがす!!」
「ッ!!!」
『大迷宮』、そう言われたエレフセリアの顔は焦りに満ちていた。まるでその大迷宮に何かあると言わんばかりの焦りようであった。だが、聞きなれない単語に一同は困惑するだけであった。
「大迷宮!?」
「なんだそりゃ」
「おっと客人ですかい?挨拶が遅れ申した、あっしは旅カラスのヒカゲと申す者。金品求め東へ西へ旅する中、エレフセリア様に出会ったのが5年前…」
「ヒカゲ!今は昔話はよい!一体何者が大迷宮に!?」
「……ディアボロスでがす…それも黒滅竜騎団を連れて、ほぼ全力でがす!!」
ディアボロスの黒滅竜騎団、これまた聞き慣れない単語だが…話から察するにディアボロスの中でも上澄みの存在だということはなんとなく一同は理解出来た。だからこそ、疑問なのだ。聞いただけで焦るほどの存在、大迷宮。ディアボロスと来れば、無関係というわけにもいかない。故にエレフセリアに問いただす。
「大迷宮とは何なのだ!何故そこにディアボロスが!!」
「竜狩りギルドが聞く限りじゃ全力出して向かう場所!何があるか教えろエレフセリア!!」
「マズイ…マズイぞ…!あそこには…
エレフセリアから放たれる衝撃の言葉、そして大迷宮とやらに侵入したディアボロス。全力を出しているとされるディアボロスとの決戦が、近くなっている……ナツ達はそう感じるのであった。
ディアボロスの存在くらいは教えても良かったんじゃないでしょうかエレフセリア